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様々なアーティストのアレンジャーやサウンドプロデューサーを経て、いまやAKB48グループや乃木坂46、EXOやSHINee、AAA、初音ミクなどのライブマニピュレーター、音楽監督として最先端のエンタテインメントをクリエイトする鈴木 啓 氏。彼が代表を務める株式会社シンクライヴ・ジャパンの本拠地となるスタジオ『SYNC LIVE STUDIO M』のラウンジ部分が完成したということで訪問した。
都内某所。ガラス張りの廊下の袋小路にSYNCLIVEのロゴが浮かび上がる。「PLEASE TOUCH」に従うと異世界への扉が開かれた。
鈴木 啓
・株式会社シンクライヴ・ジャパン代表取締役
・サウンドプロデューサー・マニピュレーター・アレンジャー・コンポーザー
TMネットワーク、倖田來未、宇多田ヒカルなどのアーティストのマニピュレーターを経て、現在は若手マニピュレーターチームを率いて、AKB48や乃木坂46、SHINee、AAAなど多方面にわたるアーティストを手がけ、初音ミクなどのライブサウンドプロデューサーとしても手腕を発揮している。
ライブコンサートにおいては常に最新の機材を駆使したシステムを構築し、ライブアレンジや音楽監督からマニピュレート、レコーディング、ミックス、配信まで担当する。
SYNC LIVE JAPAN HP
Contact
このレポートを始める前にまず大前提を再度お伝えしておこう。私たち取材陣が訪問したここは鈴木 啓 氏のスタジオ『SYNC LIVE STUDIO M』のラウンジである。ここは一般には貸し出しはしておらず、鈴木氏が仕事において繋がりのある方の案件のみを引き受けるスタイルで運営されている隠れ家のようなスタジオだ。
私たちが何をしに来たのかというと、ここに秘められた鈴木 氏の画期的な発想と未来への情熱の片鱗を探しに来たのである。このスタジオ、タダモノではないのだ。
(※2017年4月現在、2Fにあるコントロールルームは未完成のため、今回は1Fのラウンジを中心のレポートとなります)
ガラスに囲まれた自動ドアが開くとそこには一面ビロードのゴージャスなラウンジが広がる。空間には甘美なアロマが満ちており、足を踏み入れた途端に非日常に誘われる。
スタジオの内装は鈴木氏自らが様々なアイデアを出し、デザインされている。雰囲気や色、家具や生地まで。来客者が「また来たい」と思えるような高揚感を作るために、様々なマテリアルの中からベストなものがチョイスされた。豪華絢爛な雰囲気作りは過ぎると下品になってしまうが、ここは鈴木氏のデザインセンスで上品なラグジュアリー感が保たれている。
壁面のマジックミラーの奥に隠された85インチの大型モニター画面にはApple TVが繋がっており、MacBookやiPhoneなどの画面を簡単に映すことができる。では音は?
驚くべきことに格子天井の張布の奥にGENELEC 8340Aと7350Aの5.1chサラウンドシステムがセットされているのである。スピーカー部にだけ天板が無く、透過率の高い特製の布が貼られている状態になっている。実際に音を聴かせてもらったが、8340AのSAMシステムが効いているのだろう。クラブ級の大音量でもタイトで滲みない優れた音響で感心した。なにより、言われないとどこから音が出ているのか分からない仕掛けに驚いた。
このモニターを背にするとラウンジはこのように見える。実に広々としている。
続いては、上質なソファの前に置かれたオーダーメイドのローテーブルに注目してほしい。
この世に同じものがあるのなら教えて欲しい。テーブルに2in 2outのネットワークオーディオI/F DiGiGrid Mが2基内蔵されている。SYNC LIVE STUDIOにはこれとコントロールルームも含めて合計8台のDiGiGrid I/F製品が導入され、その全てがネットワークで一つに繋がっている。
1台のPCに接続できる最大数(8台)のDiGiGrid I/Fがどのようにして使われるのかは、スタジオのコンセプトを鈴木氏の言葉で語っていただいた後で説明しよう。
Rock oN (以下略 R): 本日はお招きいただきありがとうございます。これまでに見たことがないスタジオで驚いています。ここを作ることになったきっかけやコンセプトを教えてください。
ソファーの後ろ側にあるDJブース。MacBook Proに立ち上がったDJソフトをRELOOP MIXON 4でコントロール。4in 6outのDiGiGrid Dにこの周辺のオーディオが集約されている。
SYNC LIVE STUDIO MのセッションにはAbletonの技術 Ableton Link が利用されている。これはローカル・ネットワーク経由でデバイス間のタイミングを合わせるテクノロジーで、Abletonはもちろん対応する3rdパーティー製品Appを使い、別々の端末でビートを作ったとしても自動でシンクさせることができる。ここではみな思い思いのiPhone Appを使うそうだ。
しかしただiPhoneから音を出すだけでは面白くない。鈴木氏はiPhoneのオーディオインターフェースとして3台のAppleTVを用意。音声はHDMI経由でミキサーに集約され、D/A変換されたオーディオ信号がDJミキサーに繋がり、最大11.2ch対応のAVアンプ marantz AV8802Aを経由して天井裏のGENELEが再生される。HDMIを通ることでレイテンシーが生じるが、全てのAppleTVが同じレイテンシーのため、アプリの同期は保たれるという仕組みだ。
セッションで生まれたトラックにDJで参加する人、ギターを弾き出す人(DiGiGrid経由のMacがアンプシミュレーターになる)が参加していく。それがフロアのBGMとなり、バーカウンターで酒に酔いしれる人を楽しませる。もちろんこのセッションはDiGiGrid経由でスタジオ中に繋がっていて、MacBook Proやコントロールルームですぐ録音ができる。
話を少し前に戻そう。先述したDiGiGrid内蔵のローテーブルもこのセッションのために作られたものだったのだ。このテーブルには将来的な発展も考慮してモニター画面が入るスペースが空けてある。いつかタッチパネルを入れて、それを使ったセッションを考えているということ。その際はぜひ参加してみたいものだ。
R:トラックベースのセッションができるスタジオ。セッションを楽しんでいる人が遊びに没頭できるように、様々な技術が使われているのですね。
R:わ!これは実物そのものですね!
R:このスタジオを作ることで鈴木さんも成長したということなんですね。本当に素晴らしいコラボレーションです。
続いてはこのスタジオのボーカルブースをご覧に入れよう。下の画像にブースの入り口が映っているのだが、分かるだろうか。
なんと!
本棚を押すとボーカルブースへの入り口が開くのだ。
忍者屋敷 !?
R:あ、あのう、なぜブースを隠したのですか…?
R:恐れ入りました!(笑)
ここでもDiGiGrid Dがインターフェスとして使われ、全ての部屋とネットワークで繋がっているのだ。BRAUNAR VM1に入った歌声は2FのコントロールルームやラウンジのMacBook Proで録音できる。トークバックはもちろんラウンジで始まったセッションの音も自在にモニタリングできるので参加することも可能だ。DiGiGridネットワークオーディオのメリットを最大限に利用することでこのように自由極まりないコネクティビティが実現する。
螺旋階段で2Fにあるコントロールルームへ移動しよう。ここは稼働中ではあるがまだ未完成なので今回は非公開。取材時は2017年3月4日、5日 NHKホールで行われた『初音ミク×鼓童 スペシャルライブ ~ジャパンコンテンツのミライ~』のTV放送のTD及びMA作業が行われていた。
稼働中の機材の一部。この部屋も階下のラウンジ以上の『驚くべきコンセプト』で最先端技術が投入されるということで、これら機材は一新される可能性が高い。
コントロールルームの奥には100TB近い容量のサーバーが用意されている。シーケンスベースのライブではデータが命。SYNCLIVEでは携わった案件ほぼ全てのデータを3重の冗長性を持たせて管理・保全している。
冗長性といえば、SYNCLIVEではワークフローも冗長化している。機材はもちろんのこと、システムやデータをスタッフの誰もが即座に内容を理解しオペレーション出来るように共有されており、例えだれかが不慮の病気や事故に巻き込まれたとしても、他の誰かがその業務をそっくりそのまま代行できるという準備がなされている。そのために常にスタッフが数名待機しているという周到さだ。
R:驚きと感動の連続ですね。まるでこのスタジオ自体がエンターテイメントのようです。
R:このスタジオには利用する”顧客の未来”への思いも込められているのですね。他に気遣ったことはありますか?
R:USBの給電口のアイディアは嬉しいです!それから、高級ホテル級の磨かれたトイレも素敵です。
R:このアイディアやホスピタリティを提供されると、顧客としてはSYNCLIVEさんに頼りたくなります。どんなに困ったことがあってもいつでも望みを叶えてもらえそうです。
R:では最後に、これから自分のスタジオを作ろうとしている人や、いつかは作ってみたいと思っている人に向けてメッセージをお願いします。
R:その集大成がこのスタジオなんですね。
R:今日は素敵なスタジオをたっぷり見せていただきました。鈴木 啓さん、本当にありがとうございました!
記事内に掲載されている価格は 2017年6月9日 時点での価格となります。
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