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su-kei氏と言えば…「理想を求めてゼロから作り上げてしまう」音楽に対しての製作スタイルを具現化するだけではなく、理想とするシステムの構築も確かなる分析を基に、実現してしまう天才です。昨年でも紹介したスタジオでは
Build Up Your Studio 2016 登場時のShimokitazawa Studio はこちら
今回新しくなったsu-kei氏のスタジオは「大作映画の世界観に合わせる」をコンセプトに、新システムでもあるYAMAHA NUAGEを導入。前回のクリエイターの環境からさらにベクトルを変えた、まさにsu-kei氏らしい情熱をご紹介していきたいと思います。
スタジオ入ってすぐに驚くところは、目の前にYAMAHA NUAGEの卓をベースとしたシステムがすでに完成されている事です。これはCMや映画制作に向けてのMAスタジオを目指し、常に最先端のシステムがこのスタジオで再現され、su-kei氏が他の現場でもこのシステムが実践使用できるよう、実験的に組まれている点も大きな特徴と言えます。この下北沢のスタジオを皮切りに、実際にアフレコ用のレコーディング、MA作業からミックス、レンダリングなど現場でもすぐに活用できるアイデアが詰まっていました。NUAGEのカラーに合わせた壁の色や、敷き詰められたレンガブロックなど、このスタジオに足を踏み入れた瞬間、その完成度に感嘆の声を上げるでしょう。そして細部を見ていくともっと凄い発見で驚く事になります。
もともとは白を基調としたパネルが貼られていましたが、今回Nuageのシックな感じとマッチさせるため、パネルを剥がし、レンガを敷き詰めています。この思いっきりの良さは是非見習いたい点ですね!
新OMマシンはコンパクトに見えながらもしっかりUAD-2 OCTO COREがバッチリジャストに搭載されています。8CoreのDSP処理で、UADプラグインがそこそこフルパワーで稼動できるのも魅力的な部分です。これだけコンパクトなら持ち運びも検討できますね。
前述のYAMAHA NUAGEとの接続は、検証中でもあるOM FACTORYの次世代マシンを中心にThunerboltでハブを経由し、LANケーブルで接続されています。具体的には検証中のOM FACTORYマシンからcaldigit「ThunderBolt 3 Dock」に接続されています。まずこのThunderBolt 3 Dockの凄いところはディスプレイ、LAN ハブ等が共有化されており、もし誰かが自分のMacを持ってきてもTB2からTB3への変換等ですぐに繋げる事ができ、ディスプレイ、Nuage、外部ストレージといった別個のツールも一気に共有する事が可能です。
そしてこのスタジオのユニークなところは、まずメインではNuendo 7を始めとし、さらにはスタジオ正面左側にMac miniで立ち上がっているAvid Pro Toolsとも連携がされており、さらにはクライアント席に設置されているMacBook Proの”CUBASE Pro 9”の3つのシステム全てをNuage側の切り替えで”3DAWを卓1つでコントロールできる”システムが実現されています。
しかもそれらのサウンドの出力もメインの1つのモニターで再生する事ができるのです。これの種明かしをすると3システムはDiGiGridサーバー「DLS」にまとめられており、3つの信号をSoundGird Studio上のミキサーで管理する事によって、3つの独立したマシン達を束ねてしまう事が出来ています。もちろんMIDI同期も可能です。DLSはつまり「本機の中にDAWマシンがそのまま詰まっている様なもの」との事。ここに他のスタジオには無い、まさに多くの方が羨むノウハウが詰まっているのではないでしょうか。
メインモニターコントローラーとしてGrace Design m905が設置されていますが、この本機のトークバック機能を拡張/改良し、足元ではダンパーペダルをトークバックに、そしてクライアント席には自作のトークバックスイッチが仕掛けられています。なぜメインの席のトークバックスイッチはペダルになっているか伺ったところ「足でのスイッチング操作にする事で手をフル活用する事が出来、スムーズにオペレーションできる」との応え。
su-kei氏のシステムに対する取り組みは「全ての作業において、究極に無駄を省く事で時間を有効に活用する」事に重点が置かれています。先述のダンパーペダルもそうですが、取材時ではNuendoを使用して、実際のアフレコやボーカルレコーディングをどんなオペレートで収録しているかを実演してくれました。
メイン機ではNuendoが立ち上がっていますが、その後ろではなんとCUBASEが同時に立ち上がっています。あくまでもテストではありますが、Nuendoで映像付きのセッションの作業をし、完成後にレンダリングをすると、そのレンダリングの時間がどうしても掛かってしまいます。そこで、その間でCUBASEを立ち上げ、通常のMix作業ができないだろうかと考え、立ち上げてみたところ…なんと、両方同時の立ち上げが出来、さらにUADプラグイン等も問題なく使用できています。DSP使用率を見てみると、うまく分散がされている様で、コア数は多ければ完全に余裕のある作業ができる事は間違いないでしょう。もちろんブツブツと言ってしまいがちなCPUのスパイクノイズなども鳴る事なく、作業ができてしまいます。
su-kei氏曰く「PCは早くする必要はない?それは違います。2台分のスペックがあれば、2台分の作業を一気にできます。さらにヒューマンスキルが上がっていく事で、機械が追いつかないトラブルを極力減らし、いかに早くトータルクオリティを上げるかに拘る事ができます」。書き出しの時間も惜しま無く別作業ができる、正に究極のマシンを追い求めるsu-kei氏らしいこだわりを見る事が出来ました。
メインのNuendoではAPOLLO 8が核になっており、ボーカルへリバーブ有りでの信号をリアルタイムでプレイバックできる点も注目です。APOLLOの利点を有効活用し、さらにはセッションでのUADプラグインを駆使する事で、仮歌録り、さらにはMix、アレンジにおいても「完成したサウンドを確認しながら作業をする」環境が整えられています。そしてこのスタジオはDLSも構ているので、贅沢にもWavesのSSL E Channelのモデリングプラグインを通すのか、またはUADのSSLを通すのか…といった使い分けも可能です。その中でアレンジの作業ではストリングスの音源を使用した場合でも、プラグインで完成したサウンドの中で、ベロシティ、エクスプレッション、そしてコンソールのフェーダーレベルで微調整する事で、音の一つ一つに至るまで思う存分追い込む事ができます。
「音源を使用する環境は皆一緒です。ただ、そこからどう使うかは個々のアイデア勝負になります。そのためにはメインPCのパワーを上げるのは必要不可欠です。」
以上の点を踏まえて、MA作業の仕事が来た事をきっかけにYAMAHA Nuageの導入、そのスタイルに合わせた内装の設計、システムの改良と有効活用の流れで出来上がったスタジオですが、最後にアーティストがこのスタジオを訪れて、全てにおいて良いと思えるスタジオを目指されています。もちろんどこを見ても驚くほど無駄のないシステム構成となっていますが、それでもスタジオの内装が優先的に考えられているとの事。「一番居たい場所作りを常に心がけ、アーティストが快適に過ごせるスタジオ」を目指し、究極のこだわりが発揮されています。
ここまでのスタジオを作り上げたsu-kei氏ですが、まだまだ現状に満足はしておらず、さらなる次世代に向けたスタジオ作るを早くも模索しています。次回はサラウンドのダビングステージを作ってみたいとの事。昨年のスタジオ取材ではネットワークオーディオの導入中でしたが、1年経って今回の取材を迎えましたが、毎回有言実行のsu-kei氏は、我々も常に興味が尽きないアーティストです。
Build Up Your Studio 2017 記事一覧
記事内に掲載されている価格は 2017年5月9日 時点での価格となります。
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