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イギリス発、オーケストラ音源を中心にリリースするSPITFIRE AUDIO社。日本においても、映像音楽作曲家、ゲームミュージック作曲家など、高品位なオーケストラ・サウンドを必要とするクリエーターの間で評判を呼び、シェアを広げています。SPITFIRE AUDIOプロダクトが評価される理由の1つに「音楽的なサウンドがする」ことが挙げられますが、この秘密はどこにあるのか? 創立者の一人、クリスチャン・ヘンソン 氏 来日のタイミングでインタビューを敢行。クリスチャン氏のキャリアや考え方から、SPITFIRE AUDIOブレークの秘密が垣間見れた貴重なインタビューになりました。
二人の創立者のバックグラウンド
Rock oN : まずクリスチャンさんのバックグラウンドからお聞きかせください。
SPITFIRE AUDIO クリスチャン・ヘンソン 氏(以下クリスチャン氏) : 私は5歳からピアノを習い、フィルム・コンポーザーになるのが夢でした。通っていた学校ではアヴァン・ギャルドな音楽を中心に教えていたのですが、私はそっちの方向でなく、正統派な作曲家になりたいと思っていました。それで、学校で音楽教育を受ける代わりに、サンプリング・ライブラリー、バーチャル・インスツルメンツといったテクノロジーを使いながら、独学で作曲を学ぶことにしたんです。ラッキーなことに、アート・オブ・ノイズのアン・ダドリーのそばで3年間、彼女がどういう仕事をしているのか観察し、研究する機会があったので、エレクトロニックなサウンドメイキングやリズムプラミングなども、たくさん経験しました。フィルム・コンポーザーに関して言うと、やらなければいけない仕事が2つあります。1つは、作曲をして音楽を作ること。もう1つは現場を指揮し、組織で音楽を作り上げていくことです。ステージ上に関連する色んな仕事は、アン・ダドリーの仕事ぶりを見習い、自分で研究を重ねました。
Rock oN : SPITFIRE AUDIO社の創立者にはクリスチャンさんと、もう一人いらっしゃいますね。その方についても教えていただけませんか?
クリスチャン氏 : はい、もう1人の創立者 ポール・トンプソンは、学校で航空力学を勉強してた人物なのですが、その後、仕事でCM音楽をやっていました。私は映画音楽をやってましたが、ポールと私の2人とも、低予算な環境で仕事をしていたこともあり、サウンド・サンプルのクオリティーが重要なポイントでした。でも、当時使っていたサウンド・サンプルのクオリティーに満足していなかったんです。そこで、自分たちが生楽器をレコーディングする時と同じような感覚で使えるサウンド・サンプルを作ろうと考えました。「作曲家としての自分たちが必要としているサンプルを作りたい」。そういうスタンスを大事にしたんです。
Rock oN : お二人はどうやって知り合ったんですか?
クリスチャン氏 : よく通うパブで出会ったんですが、そこで将来の夢を語り合うような仲だったんです。私が、さっき言ったようなことをやりたいと自分の夢を語ると、ポールはすぐに行動に移したんです。
作曲家である自分たちが必要とするもの作る
Rock oN : その頃、最初に作ったプロダクトは何でしたか?
クリスチャン氏 : 「CHAMBER STRINGS」が最初のライブラリーです。当時の作曲家仲間で、イギリスではAリストに入る作曲家が集まった30人くらいのグループがあり、そのグループ内だけに「CHAMBER STRINGS」、「SYMPHONICS STRINGS」、「BRASS」、「WOODWINDS」の4つのライブラリーを販売しました。フォーマットはGIGA STUDIOです。でも、Aリストの作曲家ですから、サンプリングを使うよりも生でレコーディングできる人が多く、グループの中で買ってくれる人がそんなにいた訳じゃありませんでした。じゃあ、「世の中にもっと売り出していこう」ということでスタートしたのが会社のスタートです。
Rock oN : ビジネスとしてやって行こうと思った時、「SPITFIRE AUDIOをこうしたい!」みたいなビジョンはありましたか?
クリスチャン氏 : 実はなかったんですよ(笑)。ビジネスプランも考えていないし、どれだけ利益を得るべきか、みたいなことも考えていませんでした。でも「作曲家である自分たちが必要とするもの作る」という、一番大事な部分から会社をスタートしたというのが、成功したポイントになっているのではないでしょうか。そのスピリットは今でも変わりなく、究極にこだわり抜いて作っています。例えば、品質テストを行う部署で仮にOKが出ても、私とポールが満足しなければ全てやり直します。発売日直前まで、SPITFIRE AUDIOのメンバー総動員で製品のブラッシュアップを行うこともたまに起こるんですよ(笑)。
Rock oN : サンプル音源のマーケットについてお聞きしたいのですが、これからの可能性をどのようにお考えですか?
クリスチャン氏 : アレンジ面で、オーケストレーションはポップス、ロック、EDMといった多くのジャンルで登場するし、そういったアレンジをデスクトップ環境で行っているクリエーターは世界中に多く存在します。これから先10年間、そういったクリエーターの間で、SPITFIRE AUDIOがオーケストラ・バーチャル・インストゥルメンツの世代を築いていきたいです。オーケストレーションが好きなDTM層はミドルクラスの白人男性というイメージが大きいですが、そうした保守的なグループ内だけでなく、それ以外の人達にも、よりリベラルな感じで広がってくれればいいなと思っています。
オーケストレーションを多ジャンルのクリエーターへ
Rock oN : SPITFIRE AUDIOを取り巻く日本国内の状況に関した質問をしたいのですが、日本ではゲーム・ミュージック・クリエイターの間で知名度が上がっている印象を受けます。北米などの国ではいかがでしょうか?
クリスチャン氏 : ゲーム・ミュージック分野に多いというのは、日本だけ特別な状況かもしれません。日本のゲーム産業はすごいですからね! でも、今の若い世代の人たちは、カテゴリーにこだわっている訳ではないと思います。例えば「ビヨンセの去年発売されたアルバムのジャンルは何?」と聞かれると、ちょっとあいまいだったりします。そんな感覚の延長で、ポップス、ロック、EDMのクリエーターがジャンルに囚われることなく、オーケストラ・サウンドに興味を持ったら面白いんじゃないかと思っています。ヒップホップのコンポーザーでも、「SPITFIRE AUDIOのALBION ONEを使えばオーケストラ・サウンドが作れる!」って感じてくれたら最高ですね。
Rock oN : 人気のALBIONについてお伺いしますが、開発に辺り、大切にした部分など教えて頂けませんか?
クリスチャン氏 : 最初のALBIONを発売したのが5年前で、以降、進化してリリースを続けていますが、ALBIONシリーズを作る時に一番大事にしたことは、「どんな人でも、すぐにシネマティックなサウンドが作れる」ということです。私たちが作曲家として活動していた約15年の間、現場で使ってきたサウンドをリスト化し、それを全部収めたのがALBIONなんです。ALBIONは小さい規模ながらも、言うなら高級ブティックという感じです。その「SYMPHONY ORCHESTRA」(BML)は、例えるなら大きなスーパーマーケット。色んなものを選べるような製品ですね。ALBIONシリーズは、プロフェッショナルなクリエーターにとっては、自分達の仕事をスピーディーに終わらせられるということが大きな利点ですし、一方、プロフェッショナルではないコンポーザーにとっては、オーケストレーションを学ぶいいスタートポイントになるんじゃないかと思います。製品開発にあたり、レコーディングした時間、そして注いだ情熱は膨大です。ALBIONシリーズ、BMLシリーズを中心として、私たちにとって「ファミリー」と呼べる製品ばかりです。
Rock oN : オーケストラのサンプル音源は、他ブランドでも多く発売されていますが、他社製品との違いは何でしょうか?
クリスチャン氏 : 私たちは生で演奏した時のちょっとしたズレなどもレコーディングしているので、現場のリアルさを大事にしています。「サンプルするためにレコーディングする」という姿勢でなく、プレーヤーが弾いた1つ1つの音のフィーリングも含めてレコーディングするようにしています。SPITFIRE AUDIOのチームには、若い世代の作曲家スタッフもいて、クオリティーチェックをしていますが、やはり、約15年に渡りサンプリングをしてきた私とポールの経験に勝るものはないので、必ず最終チェックを二人で行います。先ほども言いましたが、「優れたプレーヤーが弾いた音のそのままを、どれだけリアルにレコーディングしてサンプリングするか」を理念にしているので、そのこだわりが、会社の他部署の業務進行に迷惑をかけてしまうこともよくありますよ(笑)。
SPITFIRE AUDIOの将来像は?
Rock oN : お話を伺ってみて、クリスチャンさんとポールさんお二人の人柄や経験がSPITFIRE AUDIOブランドのポリシーや個性に直結し、それが世界中で受け入れられてる理由なんだなと感じました! SPITFIRE AUDIOの今後の展開について教えて下さい。
クリスチャン氏 : 近い予定では、2年間かけてレコーディングしてきた製品を今年8月にリリースする予定です。クワイヤ・コンポーザーのエリック・ウィテカー氏とコラボレートしたライブラリーもリリースします。もちろんSPITFIRE AUDIO流のクワイヤ音源になるので、楽しみにしてて下さい! また、SPITFIRE AUDIOの将来としては、新しいオーケストレーション・ツールをもっと世の中に浸透させていきたいと思っています。私たちが作った音源が、若い世代のクリエーターがオーケストレーションを学ぶきっかけになるような、そんなツールを作っていきたいです。
Rock oN : 最後にRock oNのユーザーへメッセージをお願いします!
クリスチャン氏 : 日本に初めてきて、色んなことが私の国と違うことを実感しました。ですが、日本のSPITFIRE AUDIOユーザーに会ってみて、自分たちのライブラリーのコンセプトや使い方の真髄を深く理解してくれていることに驚き、大変光栄に感じています!
製品情報
ALBIONシリーズ
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musikmesse 2016 レポート/SPITFIRE AUDIO
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メーカーHP
SPITFIRE AUDIO
http://sonicwire.com/spitfire
記事内に掲載されている価格は 2017年7月5日 時点での価格となります。
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