AES 2012で、長方形型のダイヤフラムを4枚組み合わせた同社の新フラッグシップマイクロフォン「AT5040」で、これまでのマイク開発の歴史を変えるほどのイノベーションを表したaudio-technica。
そのAT5040の開発者であるaudio-technicaの沖田 氏を迎え、Rock oNでAT5040についての勉強会が開かれました。なぜ4枚ダイヤフラムという常識を覆すマイクを開発するに至ったのか。開発者でしか語れない、リアルをお伝えしましょう。
沖田 氏:
これまでaudio-technicaのフラッグシップモデルだったAT4050は、数値やスペックは他社のハイエンドモデルに限りなく近い製品でしたが、価格はミドルクラスでした。2006年頃、さらにこの上のクラスの製品の開発を海外の販売会社からの要望され、このAT5040の開発に着手することになりました。
とはいえ当時のフラッグシップAT4050は、限界までダイナミクスレンジやS/N比を稼いだ高いスペックをすでに実現した上に、これまでのaudio-technicaが持っていたダイヤフラム(振動板)では望む性能のものを作ることができなかったので、実質2年間も試行錯誤を繰り返すことになりました。
内部の開発に着手している間、先にデザインが決まったのですがちょうどその頃、AT5040とは違う別プロジェクトで長方形ダイヤフラムの研究がされていました。
それと時同じく、audio-technicaは4つのダイヤフラムを組み合わせた研究成果の特許出願しました。
この同時期に開発された研究成果を組み合わせることで、AT5040開発というミッションを達成できると考え、製品開発に取り組むことになりました。そこから約1年間が経ち、今こうやってみなさんに完成形を見ていただています。
Q.なぜ長方形ダイヤフラムなのでしょうか?
従来の丸形ダイヤフラムで大きな面積を稼ごうとすると、マイク本体の胴回りが大きくなってしまいます。しかし長方形であれば、限られたスペースの中で、横幅は変えずに上に伸ばすことで面積を稼ぐことができます。
始めは1枚の長方形ダイヤフラムで、丸形と比べて遜色ないものを作る研究が行われていて、成果も出てはいたのですが「audio-technicaの新フラッグシップ」という品質に達するほどの結果は得られていませんでした。しかしそこから1年かけて、今の形になることができたんです。
Q.具体的に、4枚のダイヤフラムはどう機能しているのでしょうか?
まず、左右片側 上1枚のダイヤフラムの出力がバッファーに入り、続いて下のダイヤフラムに信号を返します(原理的には下のダイヤフラムを駆動させる形)。もちろんその時、下ダイヤフラムも同じ音を受けていて、受け取った信号が回路最終段のヘッドアンプを通り、マイクから出力されます。この方法によって「感度が倍」になるというわけです。
左縦1列、右縦1列の信号はそれぞれ位相がちがいます(片側【+】 、もう片側は【-】)。これが2番と3番に出力され、マイクプリアンプ上でアースと組み合わされることで一つの音声信号とになります。
Q.ダイヤフラムの形以外にaudio-technicaの特許が採用されているとうかがったのですが?
4050を筆頭とする40シリーズのダイヤフラムには「ウェーブ」という特許加工がほどこされています(ウェーブダイヤフラム)。これはダイヤフラムに立体の波を成形つけるもので、表面積が増えることによってダイヤフラムが大きくなったのと同じ効果を生みます。その利点はS/Nが良くなりf0が低く取れる事です。
AT5040ではその次世代版となる「ダブルウェーブ」加工(特許申請中)を採用しました。従来の小さいウェーブ成形の中に、大きなハニカム型の成形を2重に施すことで、さらに表面積を増やすことに成功しています。この「ウェーブ」加工は他にも利点があるんですよ。
振動板は薄いプラスティックフィルムに金を蒸着してできているのですが、このプラスチックフィルムの素材がロール状であるため、微妙に縦方向と横方向で違うクセがついているんです。ウェーブ加工を施す際にこのクセを消せるため、縦横どの方向でも均一な機会特性になり、さらに精度の高いダイヤフラムユニットを作ることができるんです。
ちなみにAT5040のダイヤフラムの薄さは2ミクロンです。audio-technicaには1ミクロンのダイヤフラムを持つ製品もあるんですよ。
Q.他社よりもS/Nへのこだわりが強いように感じますが
マイクというものは「変換効率」が性能の指標となります。変換効率が高いほど収音性能が高いということです。そして、この変換効率を上げるということはS/Nを上げるということになるんです。
Q.ダイヤフラムが4枚ということで気になる、位相差は?
それは製造技術によってクリアしています。極めて近い特性のもの4枚をくみあわせているので、位相差による問題はありません。
ダイヤフラム4枚というのは指向性に対してもメリットがあるんですよ。原理的に、正面から来る音は4枚のダイヤフラムに同時に到達しますが、横からの音は左右ダイヤフラムの距離の関係で位相差が生まれます。しかしこの距離は17mm程度。20kHzの1波長くらいの距離なので、可聴帯域にはほとんど影響を及ぼしません。
この特性から、AT5040は高域の指向特性がするどく切れています。高域の指向性が高いということでハウリングマージンをとても高くとることができているんですよ。
※AT5040に仕様された最新技術にもっと触れたい方は、Rock oNがホワイトペーパー(技術資料)から読み解いた、AES2012レポート記事をごらんください!>
Q.専用ショックマウントも美しいデザインですね
AT5040の引っかかりの無い円筒ボディを保持するために、8パターンほど試作品を作りましたよ。最終的にこのC型にしました。しかし単純なC型のままでは、ショックマウントが音叉のように働き、特定の共振が起きてしまうんです。それをスリットを入れることによって解消しています。
実はAT5040用のポップフィルターも考えているんですよ。楽しみにしていてください。
Q.新しい技術が惜しげも無く投入されていますが、苦労した点はありますか?
ほとんどが手作りによるAT5040の品質を保ったまま量産をするためには、優れた生産設備を整えることが必要となりますが、これが一番難しい点でした。生産体制を整えるために2年ほどかけて、ようやく去年から量産することが可能になったんですよ。
どんな製品でも同じ事が言えますが、高品質なものを量産しようとすると、目標品質ぎりぎりの非常にシビアな追い込みが必要なために、不良品が出やすくなります。
しかしaudio-technicaは設計部署と工場が同じ建屋にあるため、設計担当が量産現場に立ち会って生産することができるんです。これで精度を限界まで追い込めるために、品質を下げないまま価格を下げることができるんです。これがaudio-technicaの強みなんです!
Q.AT5040の開発で培った経験と技術は今後、どう活用されていくのでしょうか?
今後この技術はaudio-technicaのフラッグシップライン「AT50シリーズ」としてシリーズ化しようと思っています。長方形4枚ダイヤフラムを使った無指向性マイクやますます注目度が上がっているデジタルワイヤレス、そして可聴帯域を超えるようなハイディフィニションマイクにも興味があります。今後もaudio-technicaに期待していてくださいね。
「プロジェクト発足」「長方形ダイヤフラムの開発」「4枚ダイヤフラムの特許出願」という3つの事象が数奇な運命で結ばれて生まれたことも非常に興味深いエピソードでした。
文中、沖田 氏の言葉にあるように今後様々なAT50シリーズの開発も進んでいるということですが、まずはその第一弾として1月31日にデビューするAT5040。この革新性はマイクの歴史の1ページとなることができるのか。見守っていきたいところです。
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