脚本が読めるレベルの英語力
前回書いた通りベースはLAですが、日本の仕事がまだまだメインです。僕の場合やっぱり一番のネックは「英語」ですね。それも”仕事レベル”ともなるとかなりハードルは高いです。レコーディング中のやり取りは、こちらも勝ってが分かってるのでまだなんとかなるんですが、例えばクリスマスの時期にスーパーのレジのおばさんにいきなりツリーの飾り付けの話をされたりするともうチンプンカンプン。何か質問されてるならまだいいんですが、単におばさんの家の飾り付けの話を向こうが勝手に説明してるだけ(笑)。そういう場面でのコミュニケーションがまだまだ苦手ですね。だいたい僕自身ツリーを買って来たりとか飾り付けしたりした経験まるでないですからね。こちらでは街のあちこちでハロウィン前にはあの大きいカボチャが、それが終わると家庭用の1.5メートルくらいの本物のツリー用のもみ木が売られていて、それをみんな買って帰って、それぞれの家で飾り付けするわけです。車に入らないので車の屋根に縛り付けて帰るんですね。あれはLAらしい光景で好きですね。”脚本が読める”レベルの英語を話すという事は、そういったこちらの文化や習慣、季節の行事なんかも理解できないとこの国の人々が1年を通じて何をどう感じるのかが分からないとも言えるので、スーパーのおばさんの会話について行けないようじゃまだまだって事ですね。
劇伴の作り方の違い
アメリカのドラマ、英語ではTV Seriesと言いますが、それらの劇伴は毎週作曲家が書いてるんですよ。ちなみに日本のドラマの劇伴の場合は放送が始まる前の月の終わりまでに、30曲~40曲を予め作曲家が書いて、それを選曲屋さんが毎週編集済みの映像を観ながらそれらの音楽をはめて行くというスタイルが一般的。だからアメリカではTV Series用の録音が毎週毎週行われていて、それだけミュージシャンの仕事も増えるという事ですね。これはユニオン(後半で説明します)の規定で決まっている事で昔からずっとそうなんですね。国が違うので二つのやり方があってもいいわけでどっちが正しいというような事ではないんですが、実は同じ劇伴にしても結構作り方が違います。
こちらの作曲家から「映像を観てないのにシーンに合った音楽をどうやって書くの?」と質問されますけど、日本のドラマは毎週録音するような予算はないし、編集もオンエアの3日前までやってたりするからそこから音楽を書くのは難しいよ、と答えています。ここでちょっと問題なのは日本の予算の規模をアメリカ人は全然知らないんですね(というか興味がないw)。でも日本の経済規模とか、CDが未だにすごい売れてるとか、東京は人口が1千万人以上のメトロポリスだというイメージは例え日本に来た事がないアメリカ人でも持っているので、そこからエンタメ業界の大きさも勝手に想像してるようなんですw。日本の説明をパーティーの席で何度かしてるんですけど、なかなか信じてもらえないですね。発音ワリ~のかなとか桁間違えたかな~とか心配になりますけど、毎回向こうの先入観と、僕が説明する東京の現状とがなかなか擦り合わないんですね。
ユニオンとは、
さて日本のCMの仕事も時々してます。先ほどのユニオンの説明をするのに分かりやすい案件が昨年12月にありました。キューピーマヨネーズのCMです。
楽器の編成はビッグバンド。僕らが打ち合わせで「今回は4-4-5(ヨンヨンゴ)でレコーディングしましょう。」と言えば、Trumpet 4、Trombone 4、Sax 5、ドラム、ベース、ピアノの編成の事を指します。ユニオン、というのは簡単に言えば労働組合の事。ここで書くのはミュージシャンの労働組合の事ですね。日本にはこれと同じ組織はないです。ユニオンに加入しているミュージシャンは主にクラシック系の楽器を演奏するミュージシャンで、ストリングスとか木管の人達はかなりの割合で加入してますね。ユニオンに入ってないとユニオンセッション、つまりワーナーとかフォックスの映画のスコアリングセッションに参加できない仕組みになっています。スタジオに関しても「ユニオンのスタジオ」と呼ばれるスタジオがあって、今回レコーディングしたハリウッドにあるキャピトルレスタジオもその一つ。他に先に上げた映画会社のスコアリングステージ(映画スコア録音用の体育館のような天井と広さのスタジオ)も勿論ユニオンのレコーディングしかできないスタジオです。ミュージシャンがユニオンに加盟すると、ギャラの最低料金が決まっていて、さらに(僕も詳しい条件は分かりませんが)老後に年金がもらえるんだそうです。そういう年金をユニオンが積み立ててるわけですけど、その資金は”年金費用”の項目があって、各レコーディングから徴収しているわけですね。それから全世界のDVDやブルーレイの売り上げからも決まったパーセンテージが徴収されて、ユニオンに入る仕組みになっています。大リーグ選手が条件を満たすと年金がもらえるようになってるのと同じですね。
他にも次の仕事の人達がユニオンに加入していないとユニオンセッションの仕事を受ける事ができない決まりになっています。まずはオーケストレーター。文字通りオーケストレーションする人。LAの場合、DAWからSMFを書き出してオーケストレーターに送るとアーティキュレーションの書き込みから、必要があればより込み入ったオーケストレーションまでしてくれます。現在は1ページ70ドル以上が相場らしいです。1ページと言ってもオケの編成が大きくなると1ページに3小節~せいぜい5小節しか入らないので、実はかなり予算が必要なんです。それからコピーイスト、オーケストレーターがまとめたスコアを実際に譜面レイアウトする専門職ですね。日本だと写譜屋さんですね。それから場合によってはライブラリアンという仕事の人がいて、各パート譜を整理して管理する仕事ですね。
東京とLAで予算について話す時に何が一番違うかって、東京ではドラマでも映画でも「何曲書くの?」という言い方でやり取りする事が多いですけど、LAだと100%「何分書くの?」と聞かれます。1セッション(3時間で各1時間に付き最低10分の休憩が必要)で録音可能な分数がユニオンの規定で厳格に15分まで、つまり1曲3分だとすると、3時間で5曲までしか録音できないという事。しかし、なんと、さらに、現実的には10分以上録音する事はほぼないという現実(汗)。そんな条件が結構厳しいので皆普段から「何分書くの?」という言い方でやり取りするんですね。気心知れたゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンドのメンバー達
今回のようなユニオンセッションの場合は「日本のCMに限定して使用する音楽」という条件が当てはまるので、コントラクター(日本の業界でいうインペグさん)にそういう契約書を用意してもらって、レコーディング終了時にミュージシャンの人にサインしてもらいます。レコーディングではBPM=260と280の2タイプを録音しました。メンバーの多くは普段「ゴードン・グッドウィンズ・ビッグ・ファット・バンド」のメンバーです。CMで使われてるイントロ部分もドラムのバーニー・ドレセルらしいフレーズですね!バーニーは昨年日本でも公開された映画「ジャージーボーイズ」にもドラマー役で出演しているし、ブライアン・セッツァーオーケストラのメンバーとしても何度か来日してるので、ご存知の読者も多いと思います。僕は過去に何度かバーニーとは仕事してし、細かい事指示するようりも、彼に任せた方が絶対に良いあがりになるので、僕のデモを一度聞いてもらった後はバーニーにお任せですね。他のミュージシャンもみんな上手いので実際の録音は1時間もかからずに終わってしまいましたw。ビッグバンドはその名の通り「バンド」なんです。やっぱり今回のように気心のしれてるミュージシャンに集まってもらうとアンサンブルもセッションミュージシャンの集まり以上の結果が得られて最高ですね!
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