2015年2月28日、NATIVE INSTRUMENTS KOMPLETE と、その専用キーボードコントローラーKOMPLETE KONTROL S シリーズに焦点を当てたワークショップが、30名限定の完全予約制で開催されました。
その会場となったのは、Red Bull Studios Tokyo ( http://www.redbullstudios.com/tokyo )。
今回のワークショップは、Red Bull Studios Tokyoのオープニングを記念したイベントの1つとして開催され、また、DE DE MOUSE、CHIP TANAKAというアーティストの登場もあり、ワークショップ後に行われたライブイベントまで含め、大きな賑わいを見せた1日になりました。
※ Red Bull Studios Tokyoにつきましては、別途取材/ レポート予定です。ご期待ください!
では、当日の模様をお伝えしましょう!
IGO MASCHINEでサウンド対局!
まずロビーに入り、目に飛び込んできたのは囲碁で対局中の二人。どうやら、ロビーのスピーカーから出ている音がこの二人の動きに関係ありそうです。このユニークな装置は、囲碁(IGO)とNI社 MASCHINEを融合させた、その名もIGO MASCHINE。
スクリーンに碁盤の目が映し出されていますが、16 x 16のマス目のシーケンサーになっており、碁盤を見下ろすように上部にセットされたカメラが碁石の位置を画像認識し、その情報をMASCHINEに伝え発音します。
碁盤上では、リズム系と上物系を鳴らすポジションが区別されているため、プレーヤーは、あたかもステップシーケンサーでプログラムを組むような感覚でトラックを作っていくことができますが、実際の囲碁の勝負の攻防に沿って紡ぎ出されるサウンドには予想がつかない楽しさがあり、1局の勝敗結果よりも、どんなトラックが出来たかで盛り上がってしまいそうです!
STUDIO SPECIAL スタート講師はSleepfreaks。
ワークショップは完全予約制というこもあり、既に会場のRed Bull Studiosのブースは受講者に埋め尽くされていました。講師はオンラインの音楽制作スクールを展開するSleepfreaks ( http://sleepfreaks-dtm.com ) から、代表の金谷氏が登場。リアルな場所での講師経験は今回が初めて、ということでしたが、要点をまとめた明確な解説とテンポよい進行で、限られた時間の中、KOMPLETEとKOMPLETE KONTROL S シリーズの魅力が最大限に伝えられた、わかりやすい解説でした。
では、解説の中身を項目に分け、ダイジェストで紹介しましょう!
1. KOMPLETE プロダクトラインナップ
まず、今日の主役プロダクトであるKOMPLETEシリーズのラインナップが紹介されました。
ご存知 KOMPLETE 10。今やほとんど、と言っていいくらい、世界中のサウンドクリエータが、トラックメイキングにKOMPLETEの膨大なサウンドライブラリをチョイスしているインスツルメント&エフェクトの一大パッケージ。
ラインナップは『KOMPLETE 10』と『KOMPLETE 10 ULTIMATE』の2機種。
また、もう1つの本日の主役プロダクトはKOMPLETE KONTROL Sシリーズ。KOMPLETEのポテンシャルをフルに活用するために作られた入力デバイスとして、ただの鍵盤に収まらない多くに優れた機能を備えます。
この日のワークショップでは61鍵盤モデルを使い、KOMPLETE~KOMPLETE KONTROL S61の連携による、クリエイティブなサウンドメイキング手法が披露されました。
2.リズムプログラミング
ワークショップは、金谷氏が事前に用意したトラックを素材として進行。まずはリズムトラックの構築から解説が始まりました。
ここで用いられたのは、8パート構成のドラムサンプラーインストゥルメント POLYPLEX。トラックをループで鳴らしながら、どんどんサウンドを切り替えていき、「これは」というプリセットを探していきます。もちろん、ブラウジングはKOMPLETE KONTROLの操作から。従来のマウス操作を超えた選択スピードで、直感を損なうことなく音を選んでいくことができます。
3.コードモード
ダイアトニックコードを始め、キー内で使用できるコードを指1本の鍵盤演奏でサポートするコードモード。
理論の知識に乏しくても、また、ありきたりのコード進行に飽きてしまっても、KOMPLETE KONTROLがコードワークに関するクリエイティビティをサポートしてくれます。トラックを再生しながら、次々にコードを当てはめて行き直感的にリハーモナイズすれば、楽曲のカラーをもっと豊かに、創意工夫していくことがスピーディーに可能になる機能です。
4.スケール・マッピング
KOMPLETE KONTROLで「SCALE」機能をONにし、キーを「C」、スケールを「ブルース」に設定すると、鍵盤のLight Guideが点灯し、スケール内の音を示します。点灯した鍵盤を自由に押さえていけば、音を外すことなくフレーズを紡いでいくことができる便利な機能です。
この日、金谷氏はオルガンのサウンドを立ち上げ、ブルージーなフレーズを実演。といっても、金谷氏はギタリスト。鍵盤奏者でなくても、KOMPLETE KONTROLがスピーディーなフレーズ作りをサポートしてくれることを示してくれました。もし、スケール外の鍵盤を押してしまっても、隣接するスケール音にリマップされ発音するのでOK。些細なミスタッチを気にすることなく、自由にフレージングに臨むことができます。
5.リアルなギタープログラミング
最後はアコースティックギターを楽曲に加えます。用いられたインスツルメントはSESSION GUITARIST – STRUMMED ACOUSTIC。上述したコードモードを使い、スムーズにアコースティックのストロークプレイが重ねられていきます。コードを鳴らす、といってもローポジション、ハイポジションによる鳴り方の違い、リズムによるアクセントの違いなど、ギターをギターらしい音にするための細かな表現をも取り込む豊富な機能。
さらには、スライド奏法やボディを叩いたり、などのトリッキーも加え、細かなアーティキュレーションが再現され、リアルさを突き詰めたギタートラックが完成します。ギタリストである金谷氏も、「弾く必要ないんじゃないか。」とこぼす程のクオリティ高いギタートラックが完成しました。
6. DE DE MOUSE, CHIP TANAKA氏登場!
Sleepfreaks 金谷氏による前半戦が終了し後半戦開始。DE DE MOUSEさんと CHIP TANAKA氏が登場し、この日のためにエクスクルーシブで制作されたという曲が披露されました。
「この曲のテーマは?」という問いに対して、ゲームミュージックの大御所プロデューサーであるCHIP TANAKA氏との共作ということもあり、ゲームのオープニングやエンディングで流れることをイメージして作ってみたというDE DE MOUSEさん。まず、8小節のモチーフをDE DE MOUSEさんが作り、CHIP TANAKA氏に送ったとこ、丸々1曲になって戻ってきた、というユニークなエピソードも交えながら、曲作りに関するトークがユニークなジョークを交えながら展開。
その後、受講生との質疑応答では、曲中で使われたNative Instruments FM8やなどといったトラックメーキングに関する話から、両氏の音楽制作に対する姿勢といった部分までにも話しは広がり、音楽制作を実践している受講生は熱心に耳を傾けていました。
インタビュー
ワークショップ終了後、場所をRed Bull Studios Tokyo B1FにあるDDD AOYAMA CROSS THEATER( http://www.ddd-hall.com )に移し、『Red Bull Studios Tokyo × NATIVE INSTRUMENTS present LIVE DE DE MOUSE + CHIP TANAKA』が開催され、DE DE MOUSE氏とCHIP TANAKA氏は、圧倒的なライブパフォーマンスで満員の会場を沸かせました。
後日、お二人のご厚意によりインタビューする機会を頂き、制作方法からライブパフォーマンス、そして昨今のシーンの動向についてなど、お二人の鋭く的確なか答えに要注目です!
Rock oN:LIVEパフォーマンスにおいて、お二人の息がぴったりで驚きましたが、共演/共作は今回が初めてですか?
DE DE MOUSE:今回が初お披露目です。もちろん、僕は先生(CHIP TANAKA氏)のことは存じ上げており、知人を通じて知り合っていましたが、一緒にやったのは初めてです。たまたまNative Instrumentsさんから話があり、今回のRed Bull Studios Tokyoとのイベントのことを伺ったのですが、ゲストとして先生の名前を見て驚きました。ではやりましょうということになり、ライブの準備、楽曲制作はスムーズでしたよ。
Rock oN:ワークショップやライブで披露されていた共作楽曲はどのようにして進められたのでしょうか?
DE DE MOUSE:今回、Red Bullさん主催のイベントということでRed Bull社のテーマである「翼を授ける」というのを意識しつつ、せっかく先生との共作であり、また自分自身もゲームなどストーリー性を持ったものは好きなので、RPGのオープニングやエンディングの雰囲気を持ったものにしようということで始めました。まずはお互いにモチーフを出し合うところからスタートしたんですが、最初に僕が先生に曲のモチーフを投げたら、先生から完成曲が返ってきたんです(笑)
CHIP TANAKA:はははは。そういう事じゃないってね(笑)
DE DE MOUSE:仕事が早すぎるだろうと(笑)。まぁ僕も間違ったファイルを送ってしまったりしましたが(笑)。基本はファイル交換で仕上げていきました。僕はSteinberg Cubaseを、先生はApple Logicを使ってそれぞれ制作していきました。
Rock oN:今回のライブのセットアップは?
DE DE MOUSE:DAWはAbleton Liveを使用しています。今回はNative Instrumentsさんに機材面で沢山ご協力頂きましたのでKOMPLETE KONTROL S61やMASCHINE STUDIO、TRAKTOR KONTROL Z2、KOMPLETE AUDIO 6をセットアップしました。自分の持ち込みではNovation Nocturnをコントローラーとして使用しました。
Rock oN:ライブを拝見して、DJ的な構成力など感じました。バック2バックでやっているのかなと思いましたが?
CHIP TANAKA:あらかじめDE DEくんのアイディアで、お互いの曲を交互にプレイしてB2B的なパフォーマンスにしよう、とざっくり決めていました。素材をDE DEくんに渡してライブっぽいアレンジを加えてもらったりもしています。マスターはDE DEくんでした。
Rock oN:CHIP TANAKAさんは割とミニマルなトラックで、DE DE MOUSEさんは破天荒なリズムとメロディの組み合わせで、不思議と相性が良いなと印象を受けました。またお二人ともエフェクトが上手いなとも感じました。
CHIP TANAKA:そうです?ありがとうございます。元々シンプルなトラックが好きなのですが、音数が多くなりがちでどうしたものか、といつもミックスで悩みます。僕は元々Basic Channel以降のミニマル・ダブテクノが好きで、今回もダブっぽい飛ばしのエフェクトをリアルタイムで多用しました。卓でやるようなことをMIDIコントローラーでやってました。
Rock oN:ディレイの処理が印象的でしたが、お気に入りのディレイはありますか?
CHIP TANAKA:プラグインのソフトでは特にないです。自宅ではRoland Space Echoとか古いハードウエアタイプのデジタルディレイも時々使っています。けれど、特にこだわりはありません。使いやすいもの、その時気に入ったものを使っています。
DE DE MOUSE:僕はテンポとかも気分でガンガン変えますね。エフェクトはよく使う物をAbleton Live内でパッチを組んで、コントローラーにアサインしています。全体の流れはかなり意識しました。僕がリズムで引っ張った後に、先生のアンセムをかけ、直後に一気に雰囲気を変えたりしたり、いかにお客さんを飽きさせないかにこだわりました。
僕らのライブに来てくれるお客さん、というか最近のお客さんは、「このアーティストのこの曲が聴きたい。」って感じなんですよね。僕はなるべく自分の有名曲をプレイしたくないと思っています。でもお客さんはそれを求めて来ている。そういう状況の中で2時間というプレイタイムの中で、いかにパッケージングするかはとても重要だと感じています。
Rock oN:それは昨今のクラブシーンや大型フェスなどにも言える事ですね。聴いた事がない音楽を求めて現場に行くというよりは、聴きたい曲や見たいアーティストを見に行く感じですね。EDMにおけるDJのスター化など、それが顕著でしたね。
DE DE MOUSE:そう。だからDJでもお客さんの聴きたいものだけをかける人も少なからず出てきましたよね。ただ、ミックスが上手くて選曲が良いだけでは人が集まらなくなってきた。だから僕はあくまでライブにこだわっています。その時によって一人で演ったり、今日みたいに二人で演ったり、はたまたバンド編成で演ったりしていますが、必ず自分で音楽を演奏するようにしています。僕のお客さんにはクラブシーンと繋がらない方も大勢いらっしゃいますので、音楽として楽しめるようにしています。今回もその辺の構成にこだわりました。キラキラとしたメロディで会場を満たした直後にQuothのゴリゴリの1小節をプレイしたりして、お客さんが全然知らない曲でも踊れる感じにしました。
Rock oN:クラウドが求めるものの変化で言えば、YouTubeやFacebookのシェアカルチャーについてはどう思いますか?近年は若いユーザーが有名曲のシンセフレーズの作り方などを披露している動画が多数ありますよね。しかもすごい再生数です。
DE DE MOUSE:それに関して言うと昔、僕らが色んなレーベルにデモテープをばら撒いていたのと同じ感覚だと思います。「とにかく誰かに聴いてほしい。」「自分の技を見てほしい。」という。僕もとにかく自分の音楽を皆に聴いてもらいからこうして音楽をやっているんです。彼らもきっと、次の段階でアーティストとしての表現が出てくるんだと思いますね。
あと、音楽制作の敷居が良い意味で下がったのもありますね。誰でもそれなりのソフトウェアや機材を簡単に手に入れることができるようになった。自分が発信者として人に見てもらうこともできるようになった。それはとても良いことだと思います。勝負はそこからですね。
Rock oN:そこから個性が芽生えたり、もっと良い機材が欲しくなったりと。
DE DE MOUSE:はい。でも一方で機材やテクノロジーは注意しなくてはいけないと思います。音質や性能に気を取られて自分の表現がおろそかになっては意味がないですからね。実際にいいアーティストでも音質や音色を追求するあまり、音楽自体がつまらなくなってしまった人も沢山います。僕は音楽を聴いた時、「うわ~、この曲めっちゃいいなぁ、ミックスが良ければもっと良くなるのになぁ~!」という方が、救いようがあると思うんです。「音は良いけど曲が全然響かない」というよりはね。
Rock oN:なるほど!ではお二人の制作環境を教えてください。
DE DE MOUSE:僕はずっとSteinberg Cubaseを使っています。21歳でデビューの話があった時にCubase VST5.1を買ってもらったのがきっかけですね。一時期、Propellerhead REASONを使ったこともありましたが、自分には合わないと感じたため、Cubaseを使い続けています。実際オーディオインターフェースの音の違いなどは意識していません。制作の時にはMacにUSBでMIDIキーボードをつないで、オーディオはMacのアウトをそのまま使っています。機材よりも音楽を重視したいと考えています。
CHIP TANAKA:私は基本的にLogic Pro Xを使用しています。私も特に機材にこだわりはありません。以前はDigital Performerを使っていましたが、自分にとっての扱い易さからLogicを選びました。ライブではAbleton Live を使っています。
Rock oN:制作の際に、必ず立ち上げるソフトや決まった手順などはありますか?パッドや鍵盤など、コントローラーにこだわりなどありますか?
DE DE MOUSE:僕はまずテーマを決めます。テーマなりアイディアなしで作業に入ることはないですね。最近はピアノ音源から作曲しています。ピアノで曲を作り、ピアノでアレンジをし、そして楽曲としてシンセなりで本チャンのアレンジをするという流れなので、実質2回アレンジするような感じですね。コントローラーについては基本的には鍵盤しか使いません。ライブでやったようなパッドは使いません。実のところリズムに執着がなくなってきたんです。
Rock oN:ブロークンビーツなどリズムに非常に個性があるDE DE MOUSEさんから驚きの発言ですね?
DE DE MOUSE:テクノ黎明期などはいわゆるベッドルーム・スタジオの最小限の機材で「こんな面白い音楽ができるんだ!」って胸が躍りましたが、最近は結局ベッドルームスタジオでもプロ機と同じものが揃えられ、一般的な音楽が生み出されてしまってますよね。だからもう、そういったサウンドにインスパイアされなくなってきたんです。それよりももっと音楽的でアカデミックなものに興味があります。ワーグナーの譜面を読んだりするとやっぱり凄いんですよね。僕は譜面は書かずピアノロールで作業をしますが、ピアノロールって長くなると鍵盤が見えなくなるじゃないですか。なので僕はCの音は青、Dは水色など色分けして使っています。ピアノ音源はNative InstrumentsのTHE GIANTを使用しています。KONTAKT音源は結構使いますね。
CHIP TANAKA:私は、特に決まった制作プロセスはなく、歌物の仕事の時は譜面を書いて渡したりしますし。トラックメイクの場合はループ素材から始めることもありますし、YouTubeを見てインスパイアされたりもします。時間がある時は自作のオリジナルサウンドを貯めたりもします。鍵盤を弾く時はスタジオにあるKORG TRITONを使用しています。リズム音源は、まずはガイドとして置いてみるところから始めるので、最初から音色を作り込むことはあまりありません。シンセ音源について言えば、Native Instruments MASSIVEやFM8などをよく使いますね。FM8は音の存在感があって派手だし、フローも明快なのでアイディアスケッチの段階から活躍しています。そうそう、古いキーボードに入っているデモのリズムの音質が面白いので使うこともあります。
DE DE MOUSE:機材固有のサウンドは面白いものがありますよね。ぼくも最初に買ったRoland XP-50のサウンドはサンプラーに取り込んでたまに使っていますよ。当時の事も思い出すし、味があるので。
Rock oN:なるほど、お二人とも、特に制約のないフリーフォームな環境だからこそ、自由な音楽が生まれるんですね。では最後にRock oN ユーザーに向けてメッセージをお願いします。
DE DE MOUSE:テクノロジーに溺れないで下さい。一般的に言われる音質よりも、自分がいかに気持ち良い音で録音できるかを重視すること!その上で必要なものは手に入れてください。
CHIP TANAKA:出音が全て。音で人を動かしてなんぼです。自分の好きな音楽を沢山聴いて感動したら、なぜ感動したのかをとことん探ってみてください。
Rock oN:ありがとうございました!
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