• 2015.04.28

進化を続けるクラフトマンシップとポリシー 〜 Rupert Neve 氏とその足跡を辿る


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音楽制作に携わる者であれば必ずそのサウンドの魅力に心を奪われることになる。それほどにNEVEという4文字は我々に深く刻まれた燦然たるクラフトマンシップの証である。今回はRupert Neve 氏がプロダクト開発に携わるようになったブランド黎明期からRupert Neve Designsに至る現在までそのヒストリーとポリシーをインタビューで辿って行く。

まずお聞きしますが、なぜ機器の設計を始めようと思ったのですか?

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Rupert Neve 氏:1958年にロンドンにあるスタジオで、ハイクォリティーなチューブミキサーを設計する機会があったんです。当時はまだスタジオ録音の黎明期であり、競合する機器もあまりありませんでした。当時大きなメーカーからそのようなコンソール自体は販売されていて高性能なものでしたが、あまり使いやすいものでなく、しかも高価でした。それまでの私自身の経験としては限られたもので、聖歌隊や教会音楽を録音するための自分用の機材を設計していたんですよ。

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イギリスでの初期時代を支えたNeve Labとその後の工場

今まで多くの機材を設計されていますが、どのようなポリシーで行ってきたんですか?

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Shelfordシリーズのマイクプリ5052

RN:1950年代から1960年代はロンドンではポップミュージックが全盛なころで、機材にも新たな柔軟性が求められてのです。例えばイコライジングを施すとか、マルチトラック録音そのものが始まるとかですね。大きなメーカーではそういった要望にはなかなか応えられず、私のように柔軟に対応できる人間が求められるようになってきました。つまりスタジオがこのような機材が欲しいといった要望に対して、短時間で納品するといったことです。しかも要望はスタジオによって様々でした。

なるほど、これまでの長きに渡って関わったブランドも数多くありますが、それぞれ異なるコンセプトがありましたか?

RN:1975年に私が元々持っていた会社、Rupert Neve and Company Ltd.を売却しました。事業拡張があまりにも速くて、資金が追いつかないというような状況もありましたね。そして1980年にFocusriteと私が名付けた会社を始めました。ここでは新たにモジュール構造という仕様の製品で、また高品位な回路にトロイダルコアトランスを組み合わせるという方法を採用しました。この方法はとても効率がよく、素晴らしいサウンドを生み出しました。ただし高価格になってしまうことと、コンソールそのものが必要という難点があったのです。新たにそのようなコンソールを設計し生産するには多くの資金が必要です、そこまでの資金は当時はありませんでした。

その後私は1989年にAMEKの設計コンサルタントになります。この仕事はとても素晴らしく、会社も大変ハイクォリティーなコンソールを生産していしました。ここでは数多くのモジュラー仕様製品の設計をしましたね。それにあの有名なAMEK 9098といった大きなフラグシップコンソールも設計しました。

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RNDを共に支えるJosh Thomas氏

AMEKの製品は技術的にも音響的にも最高のものだったと思いますね。彼らは高品位なトロイダルトランスを採用していましたし、トランジスターを使ったディスクリート回路を採用していました。これは集積回路使うよりもずっとよい結果を得られるのです。AMEK “Pure Path” シリーズのモジュールなどは、ほとんど測定できないくらいの歪みととても低いノイズを誇る素晴らしい性能でしたね。

1994年に夫婦で米国テキサス州にあるWimberley(ウィンベリー)という、とても小さな街に移り住みます。その間、2001年にAMEKが営業を停止するまで引き続きAMEKの仕事は続けていました。その後、Josh Thomas(ジョシュ・トーマス)と一緒に新しい会社、そう今のRupert Neve Designs, LLCをスタートしました。

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作業中のNeve氏、その手から歴史が紡がれていった

 

Rupert Neve Designs社では、今まであなたが関わったブランドと異なるポリシーの製品開発を行っていますか?

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RN:実際に私の設計哲学は進化していますし、より拡張しています。それは人間の耳によりよい音を届けるためです。我々人間は20kHz以上の音を聴いています。例えばフィルターや設計の悪さ、またはデジタル処理のためにそういった高い周波数成分が削られてしまったらどうでしょうか。人間の脳にはフラストレーション、苦痛、ましては怒りに近い感情が生まれるのです。ほとんどの場合、そういったことの原因を意識してないのですが。

こういったことを学んでいくうちに、日本のメディア教育開発センター(当時あった文部科学省所管の独立行政法人)の大橋教授の研究結果も知り、私は確信したのです。Rupert Neve Designsでのすべての製品設計で、20kHz以上、100kHzまではちゃんと対応するようにしようと。そして高調波歪み成分をなくし、元々のサウンドに影響を与えるような成分を発生させないようにと。

このポリシーで設計と生産をする結果、とてもよい製品づくりをすることができました。現在ではたいへん高い評価もいただいていますし、この業界でもベストなアナログ機器のひとつとして認知されるようになりました。

各製品は今までPorticoシリーズとして展開されていましたが、 新たにShelfordシリーズがリリースされました。これにはどのような理由があるのですか?

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RN:我々は常にダイナミックでアーティスティックに、そして想像力豊かな仕事をしたいと考えています。つまり、お客さまからの要望や必要性に応えるということをたいへん重要なことだと確信しています。Porticoシリーズは我々の5088コンソールにも採用されている、ファーストクラスのモジュール製品です。これらの製品によって、サウンドエンジニアが素晴らしい結果を生むためのツールとして好評をいただいています。

1960年代の話しに戻りますが、あるタイプのイコライザーを開発したことによって当時の私の評判が決定づけられました。その当時住んでいて働いていた村が”Little Shelford”という名前だったんです。今回、当時の独自の技術を使ったモジュール、ただしより高品位のものをリリースしようと考えました。この新しいShelfordシリーズを使ったサウンドエンジニアやアーティスト達は、この設計は素晴らしく性能についても高い評価をしてくれています。私の目標は常に、素晴らしいアーティストへそういった機器を届けるということです。このようなコンセプトは、創造的なアーティストの創造的な作業によって我々の中につくられるといってもよいでしょう。

あなたの開発する製品の中でもEQにとても個性を感じます。特にHF/LFのシェルビングに特長があるように思うのですが、どういったこだわりを持って設計されているのでしょうか?

RN:EQのカーブをなぜそのようにしたとかなどを説明するには多くのスペースが必要です。とても簡単には説明できませんが、どのような楽器でもその基本的な高調波を持っているということ を忘れてはいけません。EQを調整して、例えばその2次高調波や3次高調波を増減させると、そのサウンドキャラクターが大きく変化します。ですからEQのカーブというのは、こういったことを理解しているサウンドエンジニアにとってとても重要なのです。

Rupert Neve Designs社ではどのようなワークフローで、製品開発が進められているのでしょうか?

常に始まりは、お客様とのちょっとした会話から得られるインスピレーションからです。そしてそのコンセプトが実現可能なものならば、我々の設計担当者達とディスカッションするわけです。そしてブレッドボード(仮の回路を組み立てる治具の一種)を設計ベンチ上に展開して、その音を注意深く聴きます。その後、設計担当者により手直しがされ試作基板をつくります(たいてい何種類もつくります)。それをサンプルとして何人かのお客様へ渡し、コメントを聞いてフィードバックします。それからプロトタイプをつくり、それが最終的な製品の形状となるわけです。同時にそれらの部品が入手可能で、適正な価格と品質かどうかもチェックします。

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多くのステップを経て開発される訳ですが、現在進行している開発プロジェクトはありますか?

実は10モデルほどの新製品が、様々な設計段階で同時進行してますよ。いくつかは全く新しいコンセプトのものですし、いくつかは既にある製品のバリエーションともいえます。

それは楽しみですね、近い将来出てきそうな製品など教えていただけませんか?

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そうですね、我々は常に新しいアイディアを温めていますが、最も可能性があるものは既に好評をいただいている製品カテゴリーをよりよくしたものといえるでしょう。例えばモニタリングをより改良する方法とかEQのタイプを変更して革新的なサウンドにするとか。これらは我々の今までの歴史に基づいたコンセプトともいえるでしょう。現時点で言えることは、多くのシークレットな製品が設計段階だということでしょう。しかし、我々の設計チームの実績と最高のクォリティーを維持しながら楽器の音を調整するツールだということはぜひ覚えておいてください。

以前、sE Electronics社とコラボしてマイクロフォンの開発をされましたが、また行う予定はありますか?

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sE Electronics社の創設者 Siwei Zou氏との1枚
各メーカーとのコラボレーションも進む。

はい、我々はsE Electronics社とは深い関係を維持しています。マイクの設計に関しては今も一緒に仕事をしていますよ。マイクはエレクトロ・アコースティックトランスデューサーと電子回路が一体となって動作するものです。我々は電子回路の設計技術としてはトップクラスです。その結果として素晴らしいマイクを期待していただいてもいいかもしれません。

進化を続けるDAWなどといったデジタル技術との融合は、どのようなビジョンで考えていますか?

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我々はアナログ回路の設計が主な仕事であり、つまりレコーディングの場合でも可能な限りベストなアナログサウンドをレコーディング機器や信号経路、そしてプロセッシング段階へ送り届けることが使命だと考えています。

現在の音楽制作における理想のワークフローをどのように考えていますか?

うまく答えられないのが申し訳ないのですが。なぜなら私はレコーディングエンジニアではないからです。トップエンジニアに対しよりベストな機材を提供する設計者ですから。ベストなレコーディングそのものは、ベストなシステムだからできるわけではありません。それでもベストなエンジニアやアーティストは、ベストな機材の使い方を知っているのは確かですね。

接続チェーンにおけるすべての機材は、その目的のために可能な限りベストなものが選ばれなくてなりません。例えば“ベスト”なマイクとは、とても広い周波数特性を持ち、最小限の歪みと目的に最適な指向特性を持っているものであるといえます。しかし、たいていは1種類だけを使うということはないでしょう。さらにプリアンプ、ミキシングコンソール、そしてそういった接続チェーン全体が一体となって動作して、初めてそれが評価されるのです。

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もし今まで設計した機種の中で、ベストといえる機器があれば教えていただけませんか?

現時点でのベストな機器を挙げるならばそれは、Shelfordシリーズを5088コンソールと一緒に使った状態でしょうか。もしくは5059や5060といった5088のジュニア版ともいえる機種と一緒に使った状態も同様かもしれません。これらの機器は永年に渡る設計と実際にサウンドを聴いてきた経験が具現化されたものです。経験豊富なエンジニア、ミュージシャンやプロデューサーの手によって使われることで、最終的に素晴らしい結果がずっと得られるはずです。

貴重なお話を伺えました、ありがとうございました!

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以前本誌でもレポートしたサンフランシスコのマスタリングスタジオ Michael Romanowski Masteringでも
導入されていたコンソール5088、スティービー・ワンダーとオーダーが重なったとのエピソードもあった。
グローバルな人気を博すNeve氏の最新コンソールだ。>

( Proceed Magazine 2014 – 2015 より抜粋)


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