明鳥
前回フジテレビのドラマ「心がポキッとね」のサントラ制作の話を書きましたけど、時期的にはその前に映画「ビリギャル」と映画「明烏」のサントラ制作が既に終わっていました。「明烏」は、僕が「変態仮面」や「勇者ヨシヒコ」等でよくご一緒している福田雄一監督の映画でコメディーです。菅田将暉さん主演で、福田組レギュラーの佐藤二朗さん(今回も飛ばしてます!)&ムロツヨシ君も出演しています。「ビリギャル」は土井裕泰監督、有村架純さん主演で、1年で偏差値を40上げて慶應大学に合格した女の子の物語。
今振り返ると、結果的にですが今年に入って制作したこの3つのどれも女性アーティストとコラボしてたんですね。時期的一番早かったのは「明烏」で、もらった台本が写真1のようなデザインだったし、「明烏」って元は落語の演目でもあるし、話の設定が北品川、東海道五十三次の最初の宿場だって事もあってオープニング曲に「和」のテイストを入れたいなと思ってたんですよ。
それで楽器だけではなくて声の要素を入れたいなと(だってインストよりキャッチーでしょ)。誰にしようかなと(アーティスト系の人がいいな)。それで「東京ボーイズ」というグループがいらっしゃいますが、「東京ガールズ」もいらっしゃるのかなと思って調べたら、いらっしゃったんです!
このホームページの入り口を見て「これだ!」と思ったんですね。東京ガールズはお二人で三味線を弾きながらの演芸ユニット。正式には「音曲師」という肩書きもあるんですね。勉強不足でその辺の事はよく存じませんが、お手合わせ願いますかと打診した所快諾していただきました。歌詞は福田さんにLINE経由でお願いしたんです。が、ま〜しばらく待っても返事が来ないし、オフライン観てたら、台本上では「3人でドンペリが入った時の歌とダンス」と書いてある部分で「♪ペリドン、ペリドン、明烏〜」って歌ってるから、あ〜福田さんが歌詞書いたんだろうなと思ってそこのセリフを歌詞に頂きました。でも実は楽曲登録する時に知ったんですが、ここの歌詞は現場で即興でアオイ役の城田優さんが思いついたそうです。
というわけで、作詞:城田優 作曲:瀬川英史になってるってわけ。結果的には多分2度とない貴重なコラボ!東京ガールズの録音は僕がLAから離れる事ができない時期だったので、LAと東京をリモートで繋いでレコーディング。東京ガールズのお二人ともリズム感も最高だし、飲み込みも早いし、レコーディング自体はあっという間に終わってしまいました。今回は三味線は演奏してもらってませんが、レコーディングの時に三味線の奏法の事で幾つかアイディアをもらったのでまた近いうちに是非お手合わせ願いたいですね。映画「明烏」は5月16日より公開中です。福田組のレギュラー、佐藤二朗さんの演技は最高です!菅田将暉さんも他の作品では見られないキャラ全開!
オープニングテーマはこのリンク>>で聞く事ができます。
「なんでも」がいいとは限らない
さて、時期的に次に書いたのが、映画「ビリギャル」のサントラ。打ち合わせをしたのは昨年11月。土井裕泰監督は初めてご一緒しましたので、最初の打ち合わせの時に「なんで僕なんですか?」って聞いたら「『アオイホノオ』と『最高の離婚』を観ててなんでも書けそうでいいかなと思って。」って言われたんですよ。そう、僕なんでも書けるんですよ、ビッグバンドからEDMまで。ただ日本で仕事してる時は「なんでも書ける」は評価の対象になるんですけど、海外に出ると意外とそうでもなくて、「オマエハナニガシタイノ?」的な反応になる事も良くあるんですよね。10年くらい前にNYのCM音楽プロダクションと作家契約の話があって、日本のCM作品集を携えて会いに行ったら「スゴイね!何人のチームなの?え?1人で書いてるの?で、本当は何が得意なの?何がやりたいの?人よりも圧倒的なジャンルは何?」と聞かれて、「あ〜そうか海外ってそうなんだ⁈」と気づいた次第。なので、最近は作品集を提出する時も的を絞って送るようにしています。とは言え、なんでも書けるおかげで舞い込んできた「ビリギャル」なわけで、日本で劇伴の仕事をしようと思ったらやっぱりなんでも書けた方がいいと思いますよ。
アメリカはCMも予算が大きいものが多いんですが、その反面放送使用料は日本よりも安かったりするので、アーティスト系の楽曲でも意外とCMに使えちゃうんですよね。先月参加したコンペでも、テンプレートとして送られてきた楽曲を結局オンエアでも使う事になったりしたケースもあります。日本は逆で予算は少なくて、放送使用料は高いので、アーティスト◯◯さんっぽい感じの音楽が必要な場合は、作曲家にそれ風のものを頼むわけです。そういう流れで日本の作曲家はなんでも書ける必要が出て来るわけですね(特にCMはね)。
ビリギャル
さて「ビリギャル」ですけど、台本を読んでインスト曲よりも歌ものがバックに流れる方がしっくりきそうなシーンがいくつかあったんです。セリフは勿論日本語なので、歌詞は英語にした方が噛み合わせはいいだろうな〜と。土井監督に相談したら、それは面白いかもね〜みたいな反応だったので、じゃあ作っちゃおうかなと。アメリカの映画では既存楽曲を映画に使うなんて良くある事で、その手のライセンスをクリアする仕事をしてるMusic Supervisorという役職もあるんです。日本のクレジットで「なんでこの人がスーパーバイザーなのかな〜?」的な事も時々あるんですが、ま、それは置いといて(笑)。日本の映画でああいう色々なアーティストの楽曲を映画の中で使えないのは日本とアメリカでは出版の扱いの違いがあったり、予算の規模が違ったりと理由はいくつかあるんですが、条件をクリアしていけば決して無理な事ではないし、あ〜彼女が手伝ってくれればいい仕上がりになるな!と思ったアーティストがEmi Meyerでした。
Emi Meyer
Emi Meyer公式サイトへ>>
EmiとはCMの仕事を一緒にした事があって、その時は僕が彼女の楽曲をアレンジしました。英語の歌詞を書ける人は何人もいるんですが、Emiは日本のCMの仕事をたくさんしてるので、日本の映像にも馴染みがあるし、歌詞の事でもしプロデューサーや監督からリクエストが出た場合もそれを理解してくれると思ったからです。
日本のやり取りって「雰囲気」を掴むのが大事な局面が良くあるんで、日本語の台本を読めて、なおかつ英語の歌詞を書けるかどうか、、、ここは大事ポイントなんですよ。それと歌詞もそのシーンを説明するような歌詞を書くんではなくて、シーンの流れとは微妙に距離を取った歌詞にしたかったので、その辺を汲み取ってもらうのもEmiが最適だろうなと思いました。Emiもなかなか忙しいので、直接会ったのはレコーディング当日。それまで彼女は東京に行ったりシアトルに行ったりNYに行ったりでやり取りは数回のFace Time Audioで後は全部メール(最近Skype使う事がめっきり減ったなあ)。英歌詞の曲を4曲、1曲は男性ボーカルが必要だったんですが、それはEmiの紹介でLA在中のAlbert Chiangにお願いできる事になりました。歌詞の事も曲の事も映像サイドからは特に注文がなかったので、僕とEmiとAlbertがちょうどLAに居るタイミングでレコーディング。スタジオはエンジニアの宮沢伸之助君がやっと捕まったのでビレッジスタジオでレコーディングする事になりました。
ビレッジは本当に良い雰囲気のスタジオ。基本的に僕はNEVEのサウンドもデザイン(?)も好きだし、ビレッジもそうだし多くのLAのスタジオがそうなんだけど、ウッディーなルームの響きが長すぎず、短すぎず本当に丁度いいんです。二人ともパフォーマンスバッチリなんで、特にトラブルもなくこのレコーディングもあっという間に終了。なんかね、もうちょっと読んでくれてる人の為になるような事書けるといいんだけど、どの仕事もそうだけど人選終わった時点でだいたい見えるてるというかね。歌ものはLAでストリングス等のスコアリング部分は東京で録音。
映画は基本的には映像がロックしてから書く事にしてるんだけど、最初に送られてきた編集がほぼ完尺で、編集の仕方も初版とは思えないほど完璧だったんでスコア書きもスラスラと書けました。土井監督とは初めての仕事だったので、音楽を付けられそうなシーンには僕の方で全部音楽を付けて、後で音楽のスタートポジションや、それこそそこに音楽が必要かどうかを決める作業は土井さんと選曲の藤村義孝さんで相談して決めてもらう〜という流れにしました。
結果的に日本語の歌詞の曲と英語の歌詞の曲のコントラストが上手くついて良かったなと思いっています。劇中歌にSakuさんの曲「Start Me Up」、エンディングロールにサンボマスターの曲「可能性」が使われているんだけど、こちらも映画に良くフィットしてました。成績の悪い高校生が頑張って大学に入るという、特に大どんでん返しとかはない映画ですけど、ほんとうに良い映画ですので皆さんも是非劇場で鑑賞してくださいね!
映画「ビリギャル」オリジナル・サウンドトラック iTunesページはこちら>>
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