音をクリエイトし、活躍している人をご紹介するコーナー「People of Sound」。このコーナーでは、制作者の人柄が、サウンドにどうつながっていくのかに注目。機材中心のレポートから少し離れ、楽しんでお読み下さい。第12回目は、レコーディングエンジニア・ミックスエンジニア 吉田保さんです。

本コーナーをご覧になっている多くの方がご存知かと思いますが、吉田保さんといえば山下達郎、大滝詠一をはじめとするジャパニーズポップスの歴史の中で名盤と呼ばれる作品を手がけてこられた一流エンジニアのお一人。サウンド&レコーディングマガジンのPro Toolsに関する連載では、ベテランならではの視点で具体的な手法を紹介されていましたが、今回の取材でも、2チャンネル同録から現在のDAWまでの流れを体験されてきた吉田さんしか持ち得ない貴重なお話をお伺いできました。

2008年5月20日取材

父を通じて出会ったアメリカンポップス

Rock oN:音楽に出会った頃のお話からお伺いできますか?

吉田保氏(以下 吉田):米軍に勤めていた親父がオーディオ好きだったので、アメリカのSP盤やLP盤を貰ってきて、小学校に入った頃からフランク・シナトラ、ディーン・マーティン、サミーデーヴィスJr.とかをよく聴いてたね。昭和28年頃かな? FEN放送も父親が聴いてたので僕も聴いてたね。

意識して聴いてたわけじゃなくて、環境に音楽があったので自然と聴いてた感じだね。小学校5〜6年から中学校にかけては、プレスリーが大好きで結構ハマってたね〜。英語で歌ってるので何を言ってるのかは分からなかったけど、とにかくエモーショナルな感じがしたよね!あとはニール・セダカやポール・アンカも好きだったね。

Rock oN:リアルタイムでプレスリーを体験されてるんですね!

吉田:そうだね。レコードはほとんど親父が持って来てくれた輸入盤を聴いてたので、自分ではあまり買ったことはなかったけど、当時はRCAの国内盤もあったかな〜。高校に入ったらブラスバンド部に入って、僕はサキソフォンをやったんだけど、全国大会で優勝するくらいレベルの高い高校で、結構有名だったんだよ。

Rock oN:当時、楽器は高かったんじゃないですか?

高かった、高かった! ちゃんとしたもの買おうとしたら、当時の値段で30万とかしてたから自分では買えなかったよね〜。クラブが楽器を持っていて、僕は日管(日本管楽器株式会社、現ヤマハ)のテナーサックスを使ってたけど、ボロボロすぎて、ちゃんとした音が出る押え方が僕しかわからなくてね〜。他の奴が吹くと「ピー」とか「ヒャー」しか音が出ない。3年生になるとリード楽器になり、「セルマー製のアルトサックスが使える!」と思ってたんだけど、後輩が、僕が使ってたそのテナーサックスでうまく音を出せないんだよ。それで「まいったなぁ〜。いいや、俺、またテナー吹くわ。」と言って、またテナーになっちゃった。でも、3〜4年前にあったOBの集まりで聞いた話なんだけど、僕が卒業した翌年にセルマーのテナーサックス買ったんだってさ(笑)!

エンジアとしてのキャリアスタート 〜東芝入社、ビートルズのマスターにもいち早く触れる!

吉田:小さい頃からピアノもやってたので「音楽大学でも行こうかな」と思って勉強したんだけど2浪してだめでさ。あきらめちゃった!(笑)。その間、日音(日本音楽出版)に2年くらい勤めて原盤制作をしてたんだけど、高校は工業高校の電気科で、電気と音楽ということで東芝録音部の試験を受けて受かったんだよ。

Rock oN:試験はどんな内容だったんですか?

吉田:筆記試験は「オームの法則」とかさ。。。実技テストで「2つのフェーダーに1KHzの正弦波を通してステレオ信号にしたものを、スピーカーのセンターになるように出せ」ってのもやらされて、「センター、どうやって合わせるか分かるかよ〜」とか思いながらやったんだけど。。。一応、電気は学校で習ってたからね。

Rock oN:日音時代の原盤制作の仕事より、技術的な方に惹かれたんですか?

吉田:そうだね。日音じゃ半分ディレクターのような仕事も生意気にやってたんだけど、ディレクターは自分の気質に合わないなと思って。ラジオやアンプも組み立てたりしてたしね。

Rock oN:東芝に入って仕事は何から始まったんですか?

吉田:午前中は外国から送ってくる6mmのマスターテープを編集するんだよ。カッティングにまわす資料を書く。「ここにノイズがありますよ」とか、「この曲は基準レベルに対してLが+1dBです」とかね。左右のバランスが違う結構いい加減なマスターもあったんだよ。当時、ビートルズの「ホワイトアルバム」とかビーチボーイズとかカラヤン ベルリンフィルとか、マスターテープがいっぱい来るわけさ。

Rock oN:東芝ですもんねー!

吉田:そうそう。結構、黄金時代だね。そういうのを聴くのが勉強になったよね。向うの音をね!1つのアルバムとしての流れってあるじゃない。そういうのをいち早く聞けたというのがすごくよかったね。それで、午後からはレコーディングというのが日課だったね。レコーディングはほとんど毎日やってた。入社して3ヶ月したら、もう、「お前、卓の前に座れ!」と言われてね。

当時は同時録音だから、大きなスタジオの中にミュージシャンを全員集めて、2チャンで録って、エコーやEQも全部その場でつけて。だから4、5分の曲なら1回目の演奏でバランスを取らなきゃいけない。1回目でテスト録音。で、3回目にはOKテイクを録る。だから1曲、30分もあればカラオケが録れちゃう。今はマルチトラック相手にミックスしてるけど、昔は人間相手にミキシングをしてたということだね。演奏者の立ち位置とかマイクの位置の調整とかを含めてね。ミュージシャンの位置は、弦なんかは後ろに下げて、ブラスなどは前に出す。クラシックのコンサート本来の立ち位置とはまるで違うね。強音楽器は全部前に出してあげて単一指向で録るから後ろの楽器に対して回り込みが少なくなってちゃんと録れるんだよ。昔は響きがライブのスタジオはほとんどなく、デットだったしね。

Rock oN:たった3ヶ月でやれるもんなんですか?

吉田:見よう見まねだよね〜。俺は教わったことはなかったよ〜(笑)。だから、やっぱり「盗む」ということだよね。誰一人として「こうだから、こうだよ。」とは、僕には教えてくれなかったよ。

Rock oN:吉田さんの上の世代の方々も含めて、当時、海外からのレコーディング技術の情報は入手したりしてなかったんですか?

吉田:いや〜、全然ないよ。僕はクラシックも好きだったから、洋楽部のクラシックの担当者に頼んで、例えばイギリスのアビー・ロードでレコーディングしたやつとか、フランスのパテマルコーニのレコーディング風景の写真をね。

Rock oN:写真?

吉田:うん、マイクが写ってる写真をね。「悪いけどさぁ、向うから送ってもらうように頼んでもらえないかなぁ。」と洋楽部にお願いして随分送ってもらったよ。すると、マイクポジションが分かるじゃん。写真を見ながら試行錯誤だよね。まぁ、写真見たってさぁ、よくは分かんないわけだけどね(笑)。「このマイクは、どこ狙ってんだろうな〜?」ってね。

最初の頃は登竜門として、子供が出るような学芸ものから入っていくんだよ。あまりフェーダーを動かさなくて済むしね。でも歌謡曲はそうはいかないよね。筒美京平先生の曲とか、まるでパズルだからね。1コーラス目のここは左手はこれだけ上げて、次に右手をこれだけ上げて。。。という感じで、1曲の中で手順を覚え込まなければいけない。筒美先生の曲なんか複雑なので、そのパターンを1つでも間違えちゃうと、めちゃくちゃになっちゃうわけ。譜面は配られるけど見る暇なんかない。アシスタントなんかもいなかったしね。

Rock oN:その時のメインのシステムは?

吉田:東芝のオリジナルかな。ランゲビンのEQとHAが付いていて、フェーダーはフェアチャイルドだったかな?光学式でグループが組めたんだよ。当時では画期的だったね!光量で制御してるんだけど、グループが赤、青、黄色、緑と色分けされてて、 

Rock oN:色ですか。。。全く想像がつかない。。。(笑)

吉田:つかないでしょ!(笑)接触不良でグループがふっといなくなっちゃう時もあったんだよ。弦なんかをグループに組んでおくと、録ってる最中に「いなくなったー!!」と叫んじゃう(笑)。なので対策として、その日の前の時間にやってたエンジニアに「今日は何色が調子いい?」と聞いておいてね。「黄色か。わかった!」と言って、急遽差し替えたりしてね(笑)。

当時の課長の竹内さんが作ったんだよ。卓は4チャンネルに対応していて、L-M-R-Xとあってね。4チャンネルがXだったんだけど、なんでXなのかな?(笑)そういえば、4チャンネルが出る前にハーフインチの3チャンネルもあったんだよ!L-Rにカラオケ録って、センターに歌を入れてた。リールがすごくでかいんだよ。AMPEXの300タイプだね。テープマシーンにサーボが付いてないから、巻き始めと巻き終わりのテープスピードが違がっちゃってるのよ。巻き終わりの方はトルクが少なくなるからテープスピードが遅くなるので、普通に再生するとピッチが上がっちゃう。だからそこでは繋げられないから大変だった。AMPEXのMR-70はサーボが付いてたかもしれない。

Rock oN:サーボが付いてないマシンの場合は、どうやってテープスピードが合ってるかを確認したんですか?

吉田:ストロボみたいなのが付いてるわけ。今のターンテーブルと一緒だよ。そして、1973、4年かなぁ、A-80がやっと出て来たという感じだね。その時の東芝の卓はAPIの16アウトモデルになってた。マルチレコーダーはStuderやAMPEX MM1000を使ってたね。MM1000はVTRを改造したやつで、AG-440のアンプが付いてた。シンクヘッドの音が悪くてさ〜。録音ヘッドで再生しなくちゃならないのでね。

Rock oN:当時の東芝の機器の選択は、どなたがやってたんですか?

吉田:メンテナンス部の人がやってたね。録音部の意見も聞いてくれた上で。当然、まだSSLなんてない時代だから、マルチのコンソールはAPIとハリソンがあったね。ニーヴも当然あったけどね。

Rock oN:他のレコード会社のシステムはどうだったんですか?

吉田:マルチの卓なら、ハリソンが入ってたのは葵スタジオだったかな? ポリドールはノイマンの卓も使ってたから結構艶っぽい音がしてたね。でも、ノイマンの卓はフェーダーが重くてね〜。「あーっ、動かせねぇー!」って感じだったよ。(一同笑)アメリカのコンソールは、軽くて動かしやすいように作ってあったね。独立系のスタジオは葵スタジオ、KRS、国際ラジオセンター、後に音響ハウスとサウンドシティに分かれた飛行館スタジオとかあったね。飛行館スタジオはNHKが借りてたんだよね。

Rock oN:トラック数が2、3、4、8、16と増えてきて、ミュージシャンのレコーディングに対する変化ってありましたか?

吉田:オーバーダビングになってから、緊張感はなくなちゃったよね。同時録音の時は、一人が間違っちゃうと他のみんなに迷惑をかけることになるので、緊張感が常にあったよね。それが音楽のパッションに繋がってたんじゃないかなぁ。あと、音場に関して言えば、マルチになったら音が全部前に出てくるようになったけど、反面、空間合成がないので音圧感がなくなったかな。

でも、技術が変化したとはいえ、音楽自体に関しては昔も今も基本的には変わってないと思うよ。もちろん、機材の使い方は沢山変わったけど、僕自身の音楽対する姿勢はおんなじだね。僕はそんなに器用じゃじゃないからね。デッドなスタジオで楽器の配置なども含めて昔のレコーディングスタイルを再現すれば、昔みたいな音も、今、再現出来ると思うよ。プロデューサーが当時の音を知らない世代が第一線になっちゃったから、必要としていないだけだろうし、そういう発想をすること自体が現場にないからね。

Rock oN:今、アナログのラージコンソールじゃないと出来ないことって残ってないですか?

吉田:ないよ!でも、いいモニターだけは欲しけどね。スタジオに置いてあるラージモニターも、最近あまり使われてないからチューニングされてない場合が多いので、いい音で鳴らないしね。エンジニアが持ってる音の個性を作品に出すという意味でも、ローエンドとハイエンドを作り込みたいからね。僕らの世代のエンジニアの考えとしては、「最高のスピーカーで聴いて、最高の音がするように作れば、ラジカセなどの小さなスピーカーで聴いても大丈夫だ。」というのがあるよね。でなかったら、あれだけ何億とかけて作るスタジオへの投資の意味がないじゃない?プロの仕事場として、そういう場所でちゃんと音作りをするのが本来のスタイルじゃないかなとは思うけどね。今はプレイバックで「ラジカセで聴かせてくれ。」って言うディレクターばかりだからねぇ。ラジカセでは出せない帯域があるのにねぇ。彼らは「慣れてますから。」って言うんだけどさ〜。

東芝に入ってから3、4年経った頃にCBSソニーが出来たんだよね。CBSソニーに移ろうかな〜と思ったけど、給料が安かったしね(笑)。まあ、後で俺が引っ張られることになるんだけどさー(笑)。8年東芝にいて、RVC(現在BMGビクター)に移ったんだけど、どうも僕はRVCでは契約社員の扱いだったみたいでね。最初、知らなかったんだよ。

Rock oN:えっ、ご自分のことでしょ?

吉田:そう。それで、一度ストライキがあって残業分は俺がみんなの分まで仕事をやらなくちゃいけないの。「なんで俺がやるの?」ってなって初めて、「あっ、俺、正社員じゃないんだ。」とわかったんだよね。契約書も何もなかったしね。(一同笑)

スタジオの雰囲気は、スタジオごとにそれぞれ違って個性があったんだけど、自由な感じは東芝にもRVCにもあったよ。朝、タイムカードを押して、午後からレコーディングがない日はバイトに行くわけ。コマーシャルの仕事が多かったんだけど、おいしかったよね〜。1日、3本とか4本の日もあったしね。本当はいけないんだけど。

(一同笑)

吉田:バイトをやって腕を磨くということもあったよ。特に当時のコマーシャルはモノラルだから、1つのチャンネルのなかで前後の立体感を出さなきゃいけない。難しいんだよ。その後、ソニーの人から「今度、六本木スタジオを改装するからチーフエンジニアをやってくれないか?」と誘われて移ったんだ。それからは立場上アルバイトはやらなくなった。当時、六本木スタジオで録音したCBSソニー以外のアーティストは給料の内でやっていて、決してアルバイトではなかったんだけど。アルバイトでやっていたと思っている人が沢山居て困った事があった。

今回、他ではなかなかお伺いできない、日本のスタジオが歩んで来た過程や機材の進歩のお話。取材陣にとってはお宝のようなお話が続きます。そしてお話はあのレコードへ。。

あの名盤の秘密 〜美しいエコーサウンド

Rock oN:山下達郎さんの作品を手がけられていくわけですよね。興味本位な質問ですけど、有名なあのサウンドを今のDAWで作ることも出来るんですか?

吉田:うん。まあ、同じレコーディングスタイルでやれば出来るよ。多少、音圧感は違ってくるかもしれないけどね。当時、エコーはEMTだけで作ったんだけど、エコーの長さは3、4秒ある。そんなに難しいことをやってるわけじゃないんだよ。

Rock oN:エコーが長いのに、余韻の音にピークが出たりせず、奇麗なサウンドですね。

吉田:それはエコー成分にEQして、おいしいところだけ引っぱり出してるからね。まあ、EMTで4.5秒のエコーを作っても、EQでロールオフさせると、聞いた感じは3秒半くらいのエコーの感覚になって、そっちの方が奇麗なサウンドになるしね。それに、EMTは量子化ノイズないしね!

(一同笑)

吉田:まあ、達郎は声がいいし、良い音になるには元の音がちゃんとしてないとだめなんだよね。そしてちゃんとしたスタジオで適正なボリュームで歌わないとだめ。ギターもそうだね。マーシャルでちゃんとした音を出すには、ある程度音量を出さないと、マーシャルの音にならないしね。でも、ドラムの場合は、広すぎるスタジオで録ると音が逃げちゃうから音圧感がなくなるので注意がいるね。昔、ソニーにいた頃、タムの上から顔の高さくらいまで空いているドラムブースがあって、タムを叩いたら「ド〜ン」と響きがあって音が拡散せずに音圧ある音で録れたんだよ。今はスタジオの真ん中にドラムキットを置いて録る場合もあるけど、適度な囲いがあった方がいい場合もあるよ。反射音による位相の問題も出るけど、それはマイキングをしっかりやってね。位相差を利用して、もっと音を厚くすることも出来るしね。

Rock oN:デジタルレコーディングに対してはいかがでしたか?

吉田:3324が出て悩み出したねぇ。解像度がよくなったから自分の粗がよくわかるようになったわけ。「デジタルだから音が冷たい」とかっていうのは、録り方次第。テクニックで解決できる問題だよ。そのためにEQがあるわけだし。EQってのは音を作る装置だからね。でも3324はインプットモニターとアウトプットモニターの音があまり変わらなかったから、アナログから比べれば好きだった。アナログは1分経った音、10分経った音、1時間経った音、次の日聴く音が全部違うわけよ。それがすごく嫌だったよね。デジタルはいつ聞いても変わんないじゃない。それにデータドロップしたら音が出なくなるので、結果がはっきりしてる。

Rock oN:Pro Toolsは?

吉田:使い出したのは早かったよ。俺がオペレートしてたわけじゃないけどね!音作りをした後に、単にレコーダーとして使ってたね。今でも録る時は、コンソールで音を作って、Pro Toolsの中では極力いじらないというのが僕の基本だよ。リカバーできない部分はプラグインで補正するという感じだよね。そういった意味でPro Toolsでは、オーバーEQはアナログに比べてしなくなったよね。

なぜアナログ時代にオーバーEQしてたかというと、さっき言った時間経過で音がなまってくるということもあったしね。先を見越して計算してEQをしてたよ。でも、デジタルはその計算しなくて済むからいいよね。今はPro Tools内部でミックスもやってるよ。再現性があるから、翌日「あそこを直したい。」と言われたらすぐ直るじゃない。便利だよね!パッチングもしなくていいしさ、バンタムも苦労して挿さなくていいし、接触不良もないしさ(笑)。

Rock oN:いいなと思うプラグインはありますか?

吉田:コンプやEQで、動作が軽くていいのはSonnox Oxfordだね。Waves SSL 4000 Collectionもよく出来てるよ。その判断は、アナログの音を知ってる人しかわからないかもしれないけど。アナログの音を聞いたことがない人でも、効果を分析してよく聞き比べれば、耳がいい人ならわかるようになるとは思うよ。むやみにそういうプラグインを使ったからといって、アナログの音になるもんじゃないと思うけど、使い方次第だろうねぇ。だから、アナログの音を知ってた人の方が歩があるとは思うな。

最近の若いアシスタントなんかは、Pro Toolsのオペレートに忙しくて、まあ、彼らはそれが精一杯ではないんだとは思うんだけど、単なるオペレートが彼らの仕事になっちゃってるってことが問題だよねぇ。アシスタントの職種がある意味、「オペレーター」として確立さてしまった。その次のフェーズの「エンジニアとしてどうなのか?」という問題は、別の職種になるという意味になっている。今はオペレーターとしてやることが多すぎるよね。

DAW時代への展望 〜本当の生音へのこだわり

吉田:SONY六本木スタジオのチーフエンジニアを経て、1989年に自分の会社、サウンド・マジック・コーポレーションを設立し、エンジニアの仕事と経営もやったんだ。フリーとして活動するにしても会社組織としての方が色々都合がいいからね。会社は19年間続けたんだけど、やってる事はSONY時代から地続きで、SONYでの仕事も引き続きやったし、他のレコード会社のアーティストとも仕事ができて、さらに自由にやることができたね。

Rock oN:最近、大きいスタジオでも閉鎖されたりとかしてますが、これからどんなアプローチをしていけばいいんでしょうか?

吉田:音楽業界が、普通に利益を得て働く側も給料としてやった分だけお金を貰える、という業界ではなくなりつつあるということは確かだよね。残念だけど。。。大きいスタジオを守るためにも、生楽器のアレンジャーが復活して欲しいし、生楽器のいい音を若い人にもっと聞かせてあげて、耳を肥やしてもらわなきゃだめだろうね。「生音だけはちゃんとしたスタジオで録ろうよ。」と啓蒙しないといけないかもね。Pro Toolsでやった若い人たちの音を聞くと、ライブハウスの音がしてる。あれはかなり影響強いよ。あの音の妙な硬さってPAの音だよね。でも、日本だけの現象だからね。聞いてて疲れる。

Rock oN:確かに、アメリカの方が音が大きくても疲れはしないですよね。なんででしょうね?

吉田:そりゃ、エンジニアのせいですよ。歴史も少ないしね。まあ、逆に言ったら、日本独自の新しいカルチャーなのかもしれないけどさ(笑)。

Rock oN:今後の予定や目標はありますか?

吉田:そうだねー、色んなメーカーのDAW環境を試してみて良い部分を取り入れていきたいね。今はNuendoも試してるしね。

Rock oN:最後にですが、吉田さんにとって音楽とは何でしょうか?

吉田:う〜ん、何だろうな。空気みたいなもので、もう逃げられないものだよね。こうなっちゃうとノイズだって「これはどうなんだろう?」って思っちゃったりするから、体の一部分になってるね。職業病だから仕方がないけど。消防車が通ると、「あー、あのサイレンは歪んでないなぁ。」とか思うからさ(笑)。救急車がうるさく通ると、「なんだよ、この歪みは!」とか思っちゃうね(笑)。救急車は電子音(=人口音)だからね。わざと作った人工的な歪みに対して、自然界にある純粋な音というものはどれだけ歪みがないのか。。。とかさ、若い人には聞き分けてもらいたいなぁとは思うね。本当のクラシックの生演奏を聴いてみるとかさ、色々機会はあるしね。

CDから出てくる音が生音だとは思えないけど、今の進歩した技術なら、アナログの時代よりも、よりリアルな生音に近い音を作ることが可能だと思うんだよね。作られた音ではあるけど、バイオリンならさらにバイオリンらしい良い音、惹き付ける音を作って欲しいと思う。そのためにも、本当の生音を知らないといけないよね。昔のアナログ時代よりも、むしろ今のPro Toolsの方がそういうことは出来ると思いますよ!

さすがに沢山の修羅場をくぐり抜けてこられた吉田さんならではの貴重なお話が沢山出てくる、出てくる!現在に比べ、当時はさらに厳しい現場だったはずなのですが、ユーモアを交えつつ優しい口調で話して頂き、とても楽しいインタビューとなりました。マルチトラック・レコーディングが開始される前の2チャンネル同録レコーディングについてのエピソードは、同じレコーディング作業といっても、今のDAW時代とまったく別物のような印象を受けました。マルチトラック・レコーディングを前後して、「録音スタイルのみならずミュージシャンの演奏にかける情熱にも変化があった」というお話がありましたが、昔の名盤と呼ばれるジャズなどのレコードに込められた、あのパワーやマジックの秘密はその辺りにあるのでしょうか?

現在、吉田さんはご自宅のPro Toolsシステムでもトラックダウンをされていますが、「今のDAWの方が、音作りにおいて、本当の生の音に迫ることができる」と、DAWの今後の展望についてさらに開かれた可能性があるとお考えです。本当の生のいい音へたくさん接し、理解を深めることがキーになってくるのでしょう。

このコーナーでは、音を作り出す活動をされている方の出演を募集しています。ミュージシャン、サウンドエンジニア、作曲家、アレンジャー、はたまた音効さんや声優さんなどなど。音楽機材に興味を持っているかたなら、なおOKです。お気軽に、下アドレスまでご連絡下さい。また、ご感想、ご希望等もお待ちしております。連絡先アドレス : store-support@miroc.co.jp

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