こんにちは。スリープリークス 金谷です。半年に渡りお届けしてきた当コーナーも今回が最終回となります。前回のMS処理に続いて、マスタートラックにおけるエフェクト処理へ入っていきましょう。
現在のマスタートラックは、前回のMS処理後の状態です。
そこへ幾つかのインサートエフェクトを適用していきます。
前回と同様に、1つのプラグインで大きく変化させるというより、
1つ1つを少しずつかけるイメージで適用していきます。
微細な変化を聴き逃さないよう、バイパスと比較しながら慎重に進めて下さい。
また、今回はマスタートラックでよく使われるものを広くご紹介しています。
常に全て適用する必要はありませんので、色々と試して好みの仕上がりとなるものを
組み合わせて下さい。
現状のサウンド
※ 初回再生時の音量にご注意ください。
「テープシミュレーター」
サウンドにアナログの質感と温かみを加えることを目的として使用します。
適度なコンプレッションも加わるため、後の処理がまとまりやすいという利点もあります。
ここでは「Kramer Master Tape」を適用しています。
様々なパラメーターがありますが、まずは「Record Level」を上げることで効果の量を調整をしてみましょう。
この値が高すぎると歪んでしまいますので、少し変化がついたかな?と
思ったところで止めるのがコツです。
詳細のパラメーターは弊社記事でも解説していますので、ご参照ください。
Sleep freaks「Waves Kramer Master Tape デジタル臭さを解消!!テープシミュレーター」はこちら>>
適用後
※ 初回再生時の音量にご注意ください。
「コンプレッサー」
コンプレッサーを薄めにかけることで、全体のまとまり感を出していきます。
以前に、ドラム全体に対してまとめてコンプレッサーを適用したのと同様の目的です。
また、ここである程度ダイナミクスを整えておくと、後のマキシマイザーの効率もよくなります。
トータルに適用するものですので、あくまでナチュラルな効果を狙います。
アタックは残すよう比較的遅めに設定し、リリースは早めとします。
レシオは1.5~2くらいで良いでしょう。
そして、スレッショルドでGRを1~1.5くらいになるよう調整し、その分をGainで持ち上げます。
適用後
※ 初回再生時の音量にご注意ください。
「マルチバンドコンプレッサー」
マルチバンドコンプレッサーは通常のコンプレッサーと異なり、
帯域別に個別にコンプレッションを適用することができます。
・低音域のみコンプレッションを行い、全体の印象を引き締めたい。
・高音域にバラツキがあり耳障りなので、まとまりを与えたい。
などといった場合に、より細かな調整が可能です。
その分「これで正解」と言える万能な設定はないので、
楽曲に合わせてしっかりと設定する必要があります。
ここではWaves C4を使用していきます。
C4はその名の通り、4つの帯域別にコンプレッションを行うことができます。
画面上部では、3つのクロスオーバーで仕切られた4つの帯域が表示されています。
各クロスオーバーを左右に動かすことにより、それぞれの担当する帯域を調整することが出来ます。
もちろん、画面下部の4つ並んだコンプレッサーは上記の帯域に対応します。
それぞれの特徴に応じて設定していきましょう。
全体の傾向として、低域から高域へ向かうにつれ、アタック・リリースともに早めに設定します。
これは、各トラックのアタック成分の帯域は中域から高域にかけて存在するためです。
各帯域をソロにして聴くとよくわかるのですが、低域にはあまり明確なアタック成分がありません。
そのため、低域では各設定も遅めとし、高域にいくにつれ、鋭い立ち上がりの音が多くなりますので、
コンプが機敏に反応するように設定していきます。ただしこれはあくまで傾向ですので、楽曲や目的によって柔軟に変えていきます。
一例として、今回の楽曲についての設定の狙いを示しておきます。
まず、各帯域の区分けは以下の通りです。
0~60Hz | キックの低音感 |
60~250Hz | ベースの音程感 |
250Hz~2kHz | 人間の耳に一番聞こえやすい中音域 |
2kHz~20kHz | 空気感や抜けの高品質感 |
高域部分はもう1段ほしい感じがしましたが、このように設定しました。
そして、各スレッショルド値を下げていき、
0~60Hz キックが入った瞬間に-2dbのGR値
60~250Hz ベースを聴きつつ-1.5dbのGR値
250Hz~2kHz 常に-3dbのGR値 特に楽器が密集する帯域ですので、少し強めに落としています。
2kHz~20kHz を1dbのGR値へ設定しました。
適用後
※ 初回再生時の音量にご注意ください。
その後、画像赤囲みのGainをご確認ください。
抑えたことにより不足したと感じた帯域をゲインで少し持ち上げる方法をとりました。
一度圧縮した後、音量を持ち上げるのと、ただ音量を持ち上げるのは聴こえ方がかなり変わります。
ぜひ、ここを意識してトライしていただきたく思います。
この処理により全体の音量が少し落ち着いたので、L2でスレッショルド値を適度に調整しました。
「リニアフェイズイコライザー」
最後に微妙な音質補正を行うため、リニアフェイズEQを適用しました。
低域をほんの少し補強し、かさばってしまう500Hz付近の中域を少しだけカットしました。
4kHz付近は耳触りな箇所があったため、Qを狭くした後、カットしています。
ボーカル等に使用するディエッサーを使って、この箇所を抑える手法も良いと思います。
音抜けを狙い、若干だけ8kHz付近をブーストしています。
このイコライジングの際に、こだわって欲しい点は「Q幅」です。
ポイントを指定した後、広く~狭くを聴き比べ、いい感じの部分を探します。
ここまで行った上で、最終的にマキシマイザーの設定を確定します。
単純に音圧を上げただけの状態よりも数段聴きやすくなり、また迫力がも増していることと思います。
記事冒頭のサウンド
※ 初回再生時の音量にご注意ください。
上記工程を全て適用後
※ 初回再生時の音量にご注意ください。
以上、マスタートラックでの処理をもって、本メルマガも終了となります。
あっと言う間の半年間でしたが、お楽しみいただけましたでしょうか?
ミキシングは楽器と同じで反復練習がとても大切です。
バックナンバーも残っていますので、迷った際はもう一度記事を読みなおしていただけると、新たな発見があるかもしれません。
よりよいミックスを目指して、楽しみながらがんばって下さい。
半年間に渡るお付き合い、誠にありがとうございました。
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金谷 樹 プロフィール
2001年 : 頭の中のサウンドを形にすべくDTMを始める。
2005年 : DTMの経験を活かしサウンドクリエイターとして活動する。
MIDIプログラム、アミューズメント楽曲やSEの作成、その他楽曲提供を行う。
2008年 : クリエイターの活動と並行し、個人でDTMスクール運営する。
2009年 : スクールを法人化し、株式会社スリープフリークスを設立。
「とにかくわかりやすく伝える」ことをモットーとし、現在まで500名を超えるDTMユーザーのレッスンを担当する。
2012年 : YoutubeにてDTMノウハウの公開を開始、16,000人を超えるチャンネル登録者数を獲得している。
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