皆さんこんばんは。RED先生です。さて、今回も恐縮ながらハイレゾ収録現場潜入記第二弾、綴らせていただきます。
前回では、収録のコンセプト、レコーディングシステムの概要をご説明させていただきました。今回は、ホール内でのマイクとセッティングについてご説明させていただきます。
まず始めに、軽く大賀ホールのご紹介をさせていただきます。2005年4月29日に長野県軽井沢町に開館した大賀ホール。名前の由来はソニー名誉会長である大賀典雄氏から寄贈された資金等によって建設されたからだそうです。
世界でも類を見ない5角形サラウンドホールということもあり、ご存知の方も多いのではないでしょうか?残響時間が1.6秒〜1.8秒と、サントリーホールやすみだトリフォニーホールなどの2000人収容クラスのホールと比べて、少し短いのも特徴です。木材をふんだんに使用したクラシック音楽のコンサートに多く利用されておりますが、JAZZのコンサートも多く開催されており、東京から1時間というロケーションもあってか、夏は毎日といっていい程コンサートが開催されております。
前回でもご紹介させてもらいましたが、今回はアナログコンデンサーマイク、リボンマイク、デジタルマイクという3種類の異なるマイクを用意されておりました。
今回の収録は、まず1日目に4人でのアンサンブルパートの収録。そして、2日目には、各ソロパートの収録というスケジュールでした。まずはアンサンブルパートのマイクセッティングについてご紹介します。バイオリン、ビオラにはサイドアドレス型リボンマイクのAT4081を。チェロには同じくサイドアドレス型リボンマイクの低域弦用としてAT4080を。そしてそれぞれにSHOEPSのCMC6とMK4の組み合わせのコンデンサーマイクという組み合わせ。それぞれのダイアフラムを演奏者に向ける様にセッティングされております。距離は約1.8m。まさにUNAMASサウンドを生み出す組み合わせですね。
ここで、リボンマイクについて少し解説させていただきます。通常、マイクはダイアフラムがフラットな形状をしていることがほとんどですが、リボンマイクでは細かい織り目がつけられたいわゆる蛇腹の様な形状をしております。リボンマイクのダイアフラムは非常に軽く、かつ蛇腹のおかげで緩く張られております。当然、吹かれなどの影響をもろに受けるのですが、ピアノやバイオリンなどの弦楽器の様な音源に対しては非常に繊細に反応しますので、コンデンサマイクよりもボディーのしっかりとしたふくよかな音質となるのが特徴です。低音域から高音域まで幅広い周波数帯域を持つため、弦楽器だけでなく様々な楽器の録音に使われています。私が実際体験した話ではありませんが、邦楽の録音の際に、三味線にコンデンサーマイクとリボンマイクを使用して比較したそうですが、コンデンサーでは撥がボディを叩く音ばかりが目立ったのに比べ、リボンマイクでは、ちゃんと弦の響きを録音出来たという話を聞いた事があります。
そして、写真のように演奏者を取り囲む様に配置されたコンデンサーマイク。全指向のマイクを天井に向けて3mの高さでセッティングされております。こちら、ステージ前方(左側)はDPAの4006、ステージ後方(右側)はSANKENのCO-100K。これらはサラウンドのアンビエント用としてセッティングされました。
そして、注目のデジタルマイクです。今回はNEUMANNのKM183DとD-01をセッティング。D-01は指向性を全指向にしてダイアフラムを水平にする様にセッティング。そしてKM183Dですが、こちらは床から焼く4mの高さにセッティング。最初lは3mでセッティングされていたそうですが、デジタルマイクの音の解像度がとても高く、音源に対して近すぎるということで今回はさらに高さを稼いだそうです。
オーバーダビングの際のソロパートのマイクセッティングは若干変更となります。バイオリン、ビオラにはAT4081、チェロにはAT-4080を再び選択。すべての楽器でSHOEPSに替わりましてNEUMANNのM-149に変更、そしてSANNKENのCO-100Kを追加し、それぞれスポットマイクとして今度はプレイヤーから近めにセッティング。音の立ち上がりがさらに際立つセッティングでした。この3種類のマイクを平行して録音し、後でアンサンブルパートとのMIXでソロがうまく融合する音色を選ぶための選択肢とするそうです。
これらのセッティングがされた状態で、録音ブースでリハーサルを聞いた瞬間、正直言って鳥肌が立ちました。「この解像度の高さはなに!?」とびっくりして、しばらく言葉が出ませんでした。今回、チェリストのみ平台の上で演奏していたのですが、チェロの魅力であるふくよかな中低音の伸びが特にすばらしく印象的で、未だに耳に残っています。
そして、これらのマイクを取りまとめるのが、RME製品群です。今回、マイクプリとして使用されたRME Micstasy、DME842と、トークバック・モニターとして使用されたOctamic XTC。MADI出力もさることながら、ファンレスということで、ステージ上に置いてもOKな設計と、MADI信号内にMIDI信号を伝送出来るため、遠隔操作によるコントロールが可能です。
ということで、今回はここまで。 次回はいよいよ最後となります。各レコーディングシステムと今回初の試みとなります、4K映像による192kHz24bitハイレゾ音源によるプロモーションビデオに関してご紹介したいと思います。 皆さんお楽しみに!!
RED先生 (赤尾 真由美) プロフィール
ROCK ON PRO プロダクトスペシャリスト
JAPRS Pro Tools資格認定委員としても活躍するPro Toolsのスペシャリストでもある。クラシック系音楽大学出身というバックグラウンドを持ち、確かな聴感とDAW / デジタル・ドメインの豊富な知識を活かし、ミュージックマーケットからブロードキャストまで幅広い層へ提案を行っている。WAVESプロダクト担当としても、コラム執筆や店頭デモ及び販売を行っている。