【3】長野県軽井沢町 大賀ホール 潜入レポート!第三弾

さて、全3回の予定でお送りして参りましたRED先生の軽井沢紀行もとい、ハイレゾ収録現場潜入記ですが、今回でいよいよラストです。今回はそれぞれ収録されていたシステムや、注目の4KPV撮影などについてご説明させていただきます。

まずメインDAWとして使用されていたPyramix。クラシック録音では欠かせない機材ですね。今回、インターフェイスはMADI インターフェイスを標準で搭載されているMergingのHorus。こちらはオーディオネットワーク規格であるRavennaで接続です。そう、LANケーブルでPyramixと接続されているんですよ。こちらで録音された音がハイレゾでサラウンドミックスされる訳ですね。

上からRME MADIface XT、Merging Horus、Merging Pyramix
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そして、セカンダリDAWとして用意されたのがRME MADIface XTをインターフェイスとしたMAGIXのSequoia。クラシック録音の本場ヨーロッパではPyramixと並んで定番のアプリケーションです。オペレートをされていたトーンマイスターである長江氏に操作性を見せていただきましたが、なんとも動作が軽い!!私自身ProToolsが得意なので、どうしても他の製品を比べる時に基準としてしまうのですが、オーバーダビングした際のクロスフェードを掛ける作業の時、ProToolsではどうしても片方のクリップがもう片方のクリップの上に重なってしまうので、クリップ同士の波形を同時に確認する事は難しいんですが、Sequoiaはこういう時、個々の波形が上下2段に分かれて表示されるため、両方を同時に目で見て確認する事が出来るんです。この機能ProToolsにも付けて欲しいです!!お願いします、Avidさん!

レコーディングシステム概要図
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また、今回使用されていたRMEのMADIface XT。ホールのマイクプリからのMADI回線を最初に受けるのがこのインターフェイスでした。Total Mix上でパラアウトされSequoiaとHorusに信号を分岐します。このインターフェイス、実はスタンドアローンでも動作するので、万が一コンピューターがフリーズしてしまったりしても、ホールからPyramixへの回線は途切れる事がありません!収録現場ではうってつけの機能というわけですね!! また、今回のマスタークロックは当初Pyramixの予定でしたが、現場に同席されておりましたDSP Japanの柳瀬さんのアドバイスで、信号の一番上流をマスターにした方が安定しているという事を反映したセッティングに変更されたそうです。

収録中、譜面を追う長江氏
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トーンマイスターである長江氏は、Tutti、ソロパート収録中譜面を追っておりました。音程やアーティキュレーションなどをチェックし、テイクごとに譜面にメモしていらっしゃいました。さらに音程という点でも難関が。ソロパートを収録中はどうしても会場の空調を止めるので、室温が下がるとともに楽器のチューニングも下がってしまい、調整が大変そうでした。真冬の軽井沢、恐るべしです。

録音されたテイクを演奏者とともに視聴
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ここで録音された音源は、さらにResonetzのEther MADI 64を使用し、MADI信号をL3・インターネット回線を使用して京都までの伝送が行われていました。京都でも同じくEther MADI 64を用意して信号を受け取り、さらに録音をしていたそうです。回線の調整は必要ですが一般回線でMADIを伝送できる魅力的なシステムです。

実際に京都まで転送テストがされていた
Ether MADI 64
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そして、私が密かに大注目していたのは4KでのPV撮影!!担当されていたのはマリモレコーズの方々でした。マリモレコーズでは2009年から4Kの映像制作を行っているそうです。ご兄弟で会社を経営されているマリモレコーズ代表の江夏 正晃氏はトラックメーカーとしても有名ですね。また、江夏 由洋氏はInterBEEなどの展示会でクリエイターとして4K映像制作のプレゼンをされていらっしゃるのでご存知の方も多いと思います。 今回はおなじみ4KカメラREDに変わりまして、BlackMagic designから発売されているBlackmagic Production Camera 4Kを撮影に使用されておりました。なんとこのカメラ、日本1号機だそうですよ!!

当日、メイキングやPV撮影に使用されたBlackMagic Design Production Camera 4K
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メイキング収録の様子
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メーカーサイトで本体の写真を見ていただけると「あれ?こんなに小さいの?」とお思いかもしれませんが、リグをつけたり、バッテリーを外付けにしたり、ショルダーマウントさせたり、・・・とするとこの大きさになってしまうそうです。それでもこれだけ小型にできるんですから、すごいですね。SSDに直接書き込めるのも魅力です。映像処理はAdobe Premiereを使用して行われるそうで、YouTubeに公開される予定だそうです。個人的にも楽しみでなりません!!

今回、初めてハイレゾ収録現場に潜入させていただいたのですが、この企画でハイレゾのコンテンツの将来性というのを垣間みれた気がします。空間の広がり・空気感などはもちろん、音のみずみずしさなど、あたかも自分がホールの中に居るかのような再現性の高い音をたっぷり味わえるのがハイレゾコンテンツではないでしょうか?現場でモニタリングされていたのはステレオ環境でしたが、これがサラウンドとなるともっとどっぷりと会場の雰囲気に浸かれるわけです。これは圧縮された音では味わえない体験です。販売されるコンテンツもサラウンドフォーマットがリリースされる予定だそうですので、皆さんもぜひ体験してください!ちなみに今回のコンテンツは、UNAMASレーベルより夏頃リリース予定。フォーマットは192kHz-24bit サラウンド・と同じく192kHz-24bit ステレオだそうです!!要チェックですよ!!

私個人としても、MADIでシステムを構築したり、デジタルマイクを使用したり、4Kで収録されたり・・・。仕事を忘れそうなくらいワクワクする収録現場でホント楽しかったです。私にとってなじみ深いProToolsが一切無いシステムというのも新鮮でしたね。あまりにはしゃぎすぎて、取材の帰り道に2回ほど派手に転んでしまいました。軽井沢を甘く見ていましたね。

演奏者の皆様とミック沢口氏率いる制作に関わられた皆様 お疲れさまでした!!
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最後になりましたが、この収録現場で大変お世話になりましたミック沢口氏、長江氏、マリモレコーズの皆様、演奏者の皆様、そしてシンタックスジャパンの皆様にお礼を申し上げまして、今回のコラムのまとめとさせていただきます。皆様、本当にありがとうございました。そして、最後までお読みいただきました皆様、つたない文章で多々読みにくい点が多々あったと思いますが、お付き合い頂きまして誠にありがとうございました!


RED先生 (赤尾 真由美) プロフィール

ROCK ON PRO プロダクトスペシャリスト

JAPRS Pro Tools資格認定委員としても活躍するPro Toolsのスペシャリストでもある。クラシック系音楽大学出身というバックグラウンドを持ち、確かな聴感とDAW / デジタル・ドメインの豊富な知識を活かし、ミュージックマーケットからブロードキャストまで幅広い層へ提案を行っている。WAVESプロダクト担当としても、コラム執筆や店頭デモ及び販売を行っている。