ユーザー投票
竹:ではいってみましょうか。ユーザー投票はどうでした?
富:得票数のトップはNative Instrument Komplete 9でしたね、はい。やっぱりこれだけボリュームがあると『助かる』という意見が多かったです。
富:2位は同票数でいくつかが争っています。まずKAWAI VPC1、当然ながらProTools 11、Cubase 7.5、あとMICROBRUTEです。
白:AWARD 2013ではMINIBRUTEが受賞してましたね。
富:「アナログでこの小型化はすごい」っていう感じの投票理由が多いね。
竹:3位はMASCHINE STUDIOとMS-20 mini、AT5040。これは「メイド・イン・ジャパンの精神」みたいなコメントが印象的ですね。MASCHINE STUDIOはもっと票があってもいいと僕は思ったんですが。
白:まあ、Komplete 9にこれだけ票が来ちゃいましたからね。
竹:そしてここからが大体同じくらいの得票数になっていくのですが、Fireface UCX、Ableton Push。
富:これって製品は自由に選んでいいってことになってるんですよね?
竹:そうですよ。だから、MergingのHorusに一票入れた人がいました
一同:「おおおーー」
赤:Rock oNセミナーの講師をしてくれている方からも来てますね。
洋:あ、ほんとだ。○○さんだ。
竹:プロの方からもいくつか票が来てますよ。
富:BassStation IIの人はすごく熱い長文を書いてくれていますね。
恒:じゃあ総評にいきましょうか。ユーザー投票はどういう印象でした?
竹:まあ言い出すとキリが無いですが、全体的に割と定番で王道なものが選ばれていますが、エンジニアリングよりも制作寄りの製品が多い。必然的にデジタルものの製品に人気が集まりました。
KOMPLETE9
竹:では続いて、Rock oNスタッフに聞きましょうか。ズバリ、みなさん2013年で一番印象に残ったものは?
恒:ユーザー票も多かったKomplete 9は外せないですね。発売された直後、知り合いのミュージシャン、クリエーターが、いい意味でインストール作業に巻き込まれてたんです。Twitter上でも沢山、「ただいまkomplete9インストール中」ってつぶやかれてました。ここまで行くとクリエータの1日までも変えてしまう製品で、大きな力を持った製品ですね。計画的に製品リリースが行われて行く事自体、すごいことだと思うんですが、毎回、前回以上のボリュームアップを果たすので驚かされます。Komplete 9 Ultimateは370GB。専用のHDDで販売したのはKompleteシリーズで今回が初めてですよね。
赤:そう、毎回ボリュームが増えていきますよね。こんなにてんこ盛りで、なおかつお値段はそのまま、ということに大きなバリューを感じます。
富:意外と知られてませんけど、SSLやMANLEY MASSIVE PASSIVEをモデリングしたプラグインはSoftubeが作っていて、量だけでなくクオリティーにも大きな裏付けがあるんです。
竹:もう1つ、昨年のNative Instrumentsの新製品で大きな動きだったのがMASCHINE STUDIOです。Komplete 9が発売され一段落した頃にMASCHINE STUDIOが出てきた。発売タイミングについて、市場の流れを切らないような工夫を感じました。MASCHINE STUDIOは、操作時にPCをまったく見なくても作業が出来るようになったというところが大きいです。
TRAKTORとの連動性がもっとできたら完璧だなとは思いますけど、ビートマシンとして考えられる機能が全て入ってます。CEOのDaniel Haverさんへの取材時に聞いた話ですが、Komplete 9-MASCHINE-TRAKTORの連携をさらに密にしていくことがテーマだと言っていました。今後は、そこの部分がどういうふうに進化して行き、僕らユーザーを驚かしてくれるか楽しみです。
富:そう、Danielさんは「『KOMPLETE』『MASCHINE』『TRAKTOR』が一つになる」って言ってましたよね。あの言葉の真意が完成するような製品がもっと出てくるんじゃないかと楽しみでしょうがないです。
VPC1
恒:僕がシルバーあたりに推したいのはVPC1ですね。KAWAIはピアノとか他の楽器分野では信頼されたブランドですけど、それがコンピューターの音楽制作シーンにやってきた!っていう感じ。マーケティングが上手かったんだと思いますけど。VPC1が全面に出してるのはやっぱり鍵盤の良さっていうところです。その打ち出し方がうまくてすごい。製品のコンセプトも含めて、完成形が高かったと思います。
白:長年ピアノに注力して製品開発を行ってきたKAWAIだったから鍵盤には期待していましたけど、これは予想以上のデキでした。それに鍵盤のタッチだけじゃなくて、圧倒的に他と違うのはPianoteqやIvory IIみたいなピアノ音源固有のヴェロシティカーブをプリセットとして搭載しているところです。
たしかにちゃんとピアノ音源に合わせてあげるとレスポンスが全然違う。メゾフォルテとメゾピアノの表現が他の鍵盤とは格段の差。そこに惚れ込んで買って行くお客様がとても多いよ。ツマミとかベンドバーが付いてないのも潔いね。
竹:開発担当スタッフが企画から考えてやったっていう、KAWAIという会社を動かしたプロダクトなので、評価したいと思います。実際に物の良さが今のセールスに繋がっていると思います。
AT5040
赤:あれ?AT5040って前回のAWARD取ってないんでしたっけ?
竹:取ってないですよ。実物が公開されたのがAWARD 2013の発表が終わってからだったので時期的にしょうがなかったんですよ。惜しかった。
ユーザー投票に「メイド・イン・ジャパンの精神」みたいなコメントが来ていたのが印象的でした。Proceed Magazine 2013 Summer号では(audio-technica社の)成瀬事業所にインタビューにも行ったんですけど、audio-technica製品は、最新の技術と蓄積された研究結果のデータベースが、最新鋭工業マシンと職人さん達の手作業で形になる。そんな印象でした。新しいものと伝統的なものの両方から成り立った製品作りが日本的だと思いました。
白:開発者の沖田さんには何度もお世話になりましたね。
竹:AT4050に続くフラッグシップの開発は相当な苦労があったようですよ。結果的に従来製品以上のS/N比とダイナミクスレンジを稼ぐために、「長方形ダイヤフラム」と「ダイヤフラム4枚使い」っていう違うラインで進んでいた研究が一つになった。
富:どうしてそうなったんでしたっけ?
白:通常の丸い大型ダイヤフラムのさらに上をいく性能を出したかったんだけど、単純にそれを大きくしただけだとカプセルに収まりきらなかった。だから長方形に。
そしてただ大きいだけだとレスポンスが悪いので小さいサイズを4枚使うことになった。AT5040に限らず他の製品(縦型コンデンサーマイク)にも表面積を稼ぐために波形の凸凹が折り込まれてるんですよね。
竹:ウェーブ加工だね。ちなみにAT5040はさらにこのウェーブの数を2倍にふやした「ダブルウェーブ加工」がされてる。
白: U87から続くコンデンサーマイクのダイヤフラムの系譜を断ち切って新たな方向性を見出したというのは歴史的にも意味のあることですね。
MS-20 mini
富:僕の印象に残ったのはアナログシンセ。これまで以上に大きな収穫となりました。その中でもイチオシなのはMS-20mini。それからvolcaシリーズは熱かったです。KORGのこの辺の話題性は2013年を印象付けた。
製品発表の時、元祖MS-2000の開発者の西島さんにインタビューさせてもらいましたし、MS-20miniのハンズオンレビューもやりました。だからって訳ではないんですが、これにはとても思い入れがあります。MS-20miniってプリセットが無いんですよね。当たり前ですけど。だからセッティング次第でまともに音が出なかったりするし、逆に音が止まらなくなったりする。ソフトシンセ世代にはめんどくさいかもしれないけど、そういう状態から音を作っていくためにアナログシンセの構造を理解して、チャレンジしていくことって大事だと思うんですよ。
あるプロ作家さんは「自分で作った音は大切に使う」って言ってました。似たような音はソフトシンセにもあると思うんですけど、自分で作った音には思いが入るから、楽曲のデキを左右すると思います。シンセのフレーズ一つじゃなくて、それをどう使うかっていう楽曲全体という意味で。
白:店頭で若いお客様が口を揃えて「これがアナログサウンドかあ」って。言うんです。MOOGとかとも違って価格も手頃だからここからアナログシンセを始めるのもいい。
富:MS-20を復刻させるのに一番問題になったのが、当時と変わらないパーツの調達だったそうです。開発者の西島さんがサウンドの肝になる「JRCのNJM4558(オペアンプ)」やフィルター段に入る「KORG35チップ」をかき集めてようやく製品化が実現したとおっしゃてました。これも受賞させてあげたい!
Prophet 12
白:シンセといえばDSIのProphet 12は店頭にやってきた時は沢山のお客様が触りにいらしてました。話題といえばあれも話題。
恒:Prophetシリーズとはいえデジタルオシレーターということであまり期待はしてなかったんですよ。正直なところ。でも実際に音を聴いてみて、やっぱりDSIだな、と思った。もちろんProphet 5と比べるものじゃないんだけど、さすがはフラッグシップだというか、MOOGやKORGとはちがうアナログシンセのオイシイサウンドをたっぷり聴かせてくれる。
IsoAcorstics
恒:それから予想を上回る大ヒット製品がこれ。次から次に新しいサイズがリリースされて、いろんな大きさのスピーカーで使える。市場ニーズに非常にマッチしてます。
それにデスクトップ専用スタンドっていうところが日本のホームスタジオの環境にフィットしたという気がします。公式Webサイトに(この製品の)使用前/使用後の音が聴き比べられる動画なんかもあって、これまでのスピーカースタンドとは違う売り方をしていうのも印象的です。
白:スピーカースタンドなのにあえて軽量というのは新発想。かつてないかもしれない。スピーカーとほぼ同じ設置面積でデスクトップに置ける。
パっと見た目は「これで大丈夫かな?」って思うんだけど、デスクの天板に反射したり共振してブーミーになる中低域をスッキリさせる。これすごいよ。動画で見てその変化が分かるくらいだから。
竹:簡単な構造に見えますけど、あの4本足がスピーカーユニットの動きに対して真逆方向に動くキャビネットの動きを吸収するんですよ。そのおかげでいらない共振を抑えることができている、と。
MADIface XT
竹:MS-20miniが大きな収穫だったら、昨年豊作だったオーディオI/Fで印象的だったのは?
白:RME MADIface XTでしょ。やっぱり。MADIと言えば…のテクノロジーファーストRMEから遂に出た!っていう。RMEは長くMADI製品を開発してきて、USB3.0っていう一般的に親しみやすいフォーマットにつなげて来た。
(I/Oさえ用意すれば)最大196in / 198 out。あのサイズで、USB3.0で、超大規模な同時録音ができる。これは驚きですよ。TECH AWARDで決まりですね。
竹:昨年からの流れで今年さらに一般的に広まって行くネットワークオーディオを助長する製品になるんじゃないかな。ネットワークオーディオ、これは今年のキーワードになる。
ショーレポートでもおなじみ、プロダクトマネージャーのMaxさんにまた今年もトロフィーを渡すことになりそうですね。昨年Fireface UCXへ贈ったTECH AWARDを連続受賞する感想を聞いてみたいね。
赤:RMEならMADIface USBも現場で話題にはなってますよ。業販だと現場で収録するような人たちってMADIのトラブルが起きると結構手一杯になっちゃって、64回線全部がお手上げになることがあるんですけど、これはそのままスタンドアロンで使えるので、そのリクロックに使えるというところがすごい助かる、と皆さんおっしゃってます。同期ずれとか、機器の相性の問題がこれ一個でかなり減ります。オーディオI/Fではないですが、私はこれを推したいです。
BFD3
恒:2013年は例年になくRock oNセミナーを開催したよね。Ustream生放送のこともだいぶ広めていただいて、毎回大好評です。この場を通じて視聴してくださっている皆さんにお礼を言いたいな、と思います(笑)
富:V-Drumsを使ったセミナーが大好評でしたね。
恒:あれは面白かったね。BFD3は生(?)で叩いてもクオリティに遜色ない。
富:とはいえやっぱり使うのはDAWで打ち込んで行くスタイルだと思いますけど、BFDシリーズって初代から徹底的にドラムサウンドをエディットして追い込めるところが評価され続けてますよね。他にはないというか。もちろんサクサクと簡単にドラムを作りたいなら他の音源でも事足りるんだけれど、ドラムサウンドが曲の世界観を作っているような最近の曲だとBF3の多様さは武器になりますね。
恒:BFD3はタムの共鳴とかとハットのスウェル奏法とか、また一層の表現力アップをさせてきたね。あそこはセミナーで(V-Drumsを叩いていた)PD安田も感心してた。ああいうところで全然リアリティが変わる。嬉しいのが、この2つの表現をこれまで発売されていたBFD拡張音源でも使えるっていうところ。
富:あとメモリの最大使用量を2G/4G/フルで使い分けられるんですよね。書き出しはもちろんフル設定でサンプルレイヤーを全部活かすけど、作曲中は2Gにして軽快さを重視。そんな使い方ができるようになったことも大きいです。
DA-3000
富:それから、KORG MR-2000Sから始まったDSDレコーダーの流れをTASCAM DA-3000が盛り上げてくれましたね。テープベースのDS-D98に始まり前進のDSDレコーダー DV-RA1000HDを経て、このDA-3000ってところが感慨深い。
でも圧倒的なのは圧倒的な多機能高性能を持っているのにコストパフォーマンスが高いところ。最大PCM 192kHz/DSD5.6MHz 録音で、DSD5.6MHzのネイティブ再生。マスター以上のマスタリングクオリティで録って残せる。
そしてDAコンバーターとしても使えて、TCXOジェネレーターでマスタークロックアウトできるからスタジオ全体のサウンドクオリティの向上や、モニタリング環境の大幅なレベルアップが期待できる。これで¥99,800ですもんね。「レコーダー買ったらシステム全体の音質が上がりました」っていう。これはユーザーにとっては嬉しい。
ハードウェアのマスターレコーダーって業務レベルだと必須になりますけど、これはいまのDAW環境で制作を行っている人達みんなに効果的なものだと思います。こんなマスターレコーダーを待ってました!
恒:これ複数台つないで同期させたらマルチトラックのDSDレコーダーとして使えるんだよね。一回やってみたいなあ。
富:開発秘話や製品コンセプトをProceed Magazine2013-2014号で特集してるので、多くの人に読んでもらいたいです。
Pro Tools 11 & S6
洋:みんな大事なやつを忘れてるんじゃない?僕はGoldはやっぱりProTools 11かなと。AvidのHDI/Oから始まった機材更新の総仕上げって意味で、すべての仕上げが終わったって感じがしますね、64bit化に向けて。HD I/Oが出てHDXが出て、そしてソフトウェアが出て。
それから、最近のAvidに感じることは、これまでのAvidはあまりにもちょっとブロードキャスト寄りにいきすぎていたように思います。でもまたいま少しミュージックマーケット向けにも、舵を戻しつつ有るかという感じ。
赤:私もProTools 11を挙げたいです。64bitに対応したのもそうなんですけれども、本当にユーザーさんが待望のオフラインバウンスができるようになったというのが、非常に大きなポイントだなと思っています。
洋:そして2013年Avid最大の新製品がS6。IBC2013で登場してからAES2013でもたっぷりとレポートをしてきたけど、やっぱりS6の注目度は高いよ。S6はまさしく現代のニーズに合わせたイノベーションあるプロダクト。スケーラブルなモジュール構成をとっているので、幅広い層に受け入れられると思います。
各モジュールがブロック構造になっているからユーザー本意のカスタマイズが可能になった(上位機種M40のみ。M10は構成が予め固定されています)。System5とおなじ東京光音製のフェーダーとか、視野性の高いOLED(有機EL)を採用したりとか、パーツ一つをとっても高いクオリティとして仕上がってる。
それから、オペレーションするモジュール側に多くの情報表示が可能なように考えられている、これもフィジカルな導線を徹底的に考えた結果。集中ディスプレイだと、目線をそちらに持って行ったり、手元に戻したり作業に集中できない環境。それをS6は最小限の目の動き、そして身体の動きで作業できるように、デザイン段階から徹底したこだわりを持って察慶されている。
あとこれは秘密情報だったんだけど…。近々S6を渋谷店で展示します!本物に触れてS6の魅力に迫りましょう!
僕はこのPro Tools 11とS6をセットで、表彰してあげるといいかなって思う。ソリューションとしてね。希望があるとすれば、ミュージシャンの手に届くような製品、プライスもサイズももっとダウンしたやつを早めにリリースしてほしいかなというのもありますよね。
もう一つテクニカルなトレンドして忘れてはならないのがネットワークオーディオ。さっきも誰かが言ってたけど、今年はネットワークオーディオが「来る」と思うんですよ。ひろく広まるという意味で。さっきのRME はMADIなので、多チャンネルという部分は同じだけれども、それよりもう一歩先を行くAoIP(Audio over IP)の技術が製品としてリリースされた年でもあったと思います。Focusrite RedNetシリーズやMERGING HORUS、YAMAHA CLシリーズはもう現場で稼働中。そしていよいよ今年出てくるSoundGrid Serverにも期待。製品が色々と登場することで、USB,FWに変わる次の世代のソリューションとして今年はEthernet接続のAudio I/Fに注目しています。
MADIはPtoPでの64ch接続なんですが、ネットワークオーディオ系の『Dante』『Ravenna』などはether ケーブル1本で256chの同時入出力に対応できたり、オプティカル(光-LC)ファイバーケーブルで最大1kmまで引き回せたりとスペックが向上しています。ネットワークオーディオ化の最大のメリットは、従来のPtoPの接続ではなく機材同士を1対多で接続できるということ。複数のI/Oからの信号を自由に分配もできる。もしもこれからネットワークオーディオに対応したスピーカーやマイクが登場したら、それら機材を繋ぎ直したりすることもなくEthernet Switchに接続するだけで自由自在なルーティングでスタジオをフレキシブルに構築できる。これにはGENELECやSCHOEPSも賛同しているし、SHUREからはすでにワイヤレスマイクのレシーバーが発売済み、夢の様なシステムが既に現実になっています。