第一線で活躍するクリエーターのインタビューやコラムなど、音楽と真摯に向き合う作り手の姿があなたの創作意欲を刺激します!
もし自由に使えるバジェットがあったら、あのクリエイターなら何を手に入れるのか?
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Profile
飛澤正人
Dragon Ash や 三浦涼介 などを手掛ける。 1980年代後半にフリーのレコーディングエンジニアとなって以降、日本の最先端の音楽シーンに関わり作品を作り続けてきた。イコライジングによる音の整理や奥行きの表現に定評があり、レコーディング誌へのレビューやセミナーも多数行っている。近年はアーティストへの楽曲提供やアレンジなどもこなし、より理想に近い音楽制作環境を構築すべく2017年5月、市ヶ谷から渋谷にスタジオを移転。VRやサラウンドに対応した “PENTANGLE STUDIO” を設立し、これまでの2MIX サウンドでは表現しきれなかった360°定位のバーチャル空間をイメージした3Dミックスを提唱している。
もし予算の制限がないとしたら、ストリングのセクションが録れるぐらいのスタジオを想定したマイクを揃えたいと思います。欲しいと思うマイクは実は“ビンテージもの”が多かったりするので、現行のものと2パターン考えてみることにします。
基本のボーカル用のマイクには実際に所有しているFlamingo Standardを一番に挙げます。これは発売されて間もない頃レビューしていて「本気で返したくない」って思ったマイクなのですが、何といっても素晴らしいのは“空気感が録れる”こと。マイクを使ったエアーレコーディングで一番大切なところはこの部分なのですが、息遣いや空気が揺れる感じがそのまま伝えられるマイクはなかなか存在しないんですよね。ボーカルは男女共にこのマイク1本で行けてしまうことが多いです。
ビンテージでもし手に入るならNEUMANN M49BかM49Cをセレクトします。M49Bは真空管がもう手に入らないのでM49Cの方が現実的でしょうか。いわゆる「ヨンキュー」は昔からお気に入りで、サチュレーション具合が艶っぽいというか、一言でいうと「説得力のある音」がします。この“説得力”は総じてビンテージマイクの醍醐味になる部分かもしれませんね。
あとボーカル、楽器用としてAEA R44Cも手に入れたいマイクです。これはリボンマイクですが、先に挙げたFlamingo(真空管)と同様、空気が揺れる感じが分かるほどに繊細な感度を持ったマイクで、17〜8年前に一度試しただけなのですがその感触が忘れられず、今一番欲しいマイクかもしれません。ボーカルはもちろん、バイオリンのソロ等では最高のパフォーマンスを示してくれると思います。
次に楽器用として揃えるとしたらストリングスのセクションを録れるようにNEUMANN M149 Tubeを4本揃えたいです。こちらは先日ロックオンさんの恒例企画でマイクの聴き比べを数十本したのですが、その時にやはり他のマイクとは別格の存在感を示していました。バランス感、質感、繊細さ、許容量の多さ、どれをとってもまさに“王様”の貫禄で、大好きなビンテージのM49を引き継ぐ後継機としてというより、“弦はこれで録ってみたい”と思える素晴らしい質感を持ったマイクです。もしビンテージでストリングス用に4本揃えるならNEUMANN U67ですね。やはり原音の「存在感」をしっかり出してくれるので、「これを立てておけば間違いない」っていう安心感があるマイクです。
あとステレオで揃えたいマイクとしてDPA ST4006Aを挙げます。これは無指向のマイクで、元はB&K 4006で有名でしたが、マイク部門が独立してできた会社がDPAです。私はB&K時代の4006の方が馴染み深いのですが、ABステレオで立ててこれほど空間を見事に再現できるマイクはなかなか存在しないと思います。同様にビンテージで揃えるならAKG C12Aですね。このマイクの空間キャプチャー具合も最高なのですが、最近ほとんどお目にかかっていません。
限られた予算で現実的なマイクセレクトをするならば、ボーカル/楽器用としてキャラクターの違うものを3本、ステレオで使えるマイクを1セット揃えます。
まずボーカル用として押さえておきたいのがLEWITT LCT940。これは真空管とFETをブレントできるのが最大の特徴で、色付けのない少ないピュアな質感から真空管でドライブさせた温か味のある音までカバーすることが可能です。ボーカリストの声質や楽曲に合わせてキャラクターを変えられるので、これ1本あれば大概の楽器録音はできてしまうというハイコストパフォーマンスモデルですね。指向性も9段階切り替えられるので、さらに用途が広がりますし、レコーディング時に「どう録るか」という部分でのイマジネーションを与えてくれるので、ぜひ持っておきたいマイクです。
真空管とFETをカバーできるLCT940があればあとマストで用意しておきたいのがリボン系のマイク。リボンマイクのいいところはダイナミックマイクのようにアタックの早い音に対応する一方でとても繊細な感度で音を捉えられるところです。手頃な価格で1本買うならAEA N22を選びます。こちらもマイク比較で試聴したのですが、ボーカルでもアコギでも素晴らしいパフォーマンスをしていたので、その後すぐに購入しました。リボンの特徴とも言える“ハイ落ち”がまったくないので「ものすごく感度がいいコンデンサーマイクを使っている」ような印象があります。またアクティブなためゲインも高くとても扱いやすいです。
「リボンマイクは扱いにくい」または「どう使っていいか分からない」というイメージを持っている方がいると思いますが、このAEA N22はそういった心配がまったく必要のないマイクです。ただ1点、指向特性が「双指向」という部分を考慮してマイキングしなければなりませんが、程よくアタック感を吸収してくれますからパーカッションや三味線などの和楽器がきてもこれがあれば怖くないですね。
さらにもう1本キャラの違うコンデンサーマイクとしてaudio-technica AT5045をセレクトします。こちらはこの3本の中では唯一単一指向性で、とても小型軽量のマイクです。その分PADやフィルターも付いていないとてもシンプルな構造のマイクですが、見た目の軽量感とは反対に低域から高域までとてもバランス良く空間をキャプチャーしてくれます。すごく澄んだハイファイなキャラクターをしているので、バイオリンなどの弦楽器やフルート、クラリネットなどの木管楽器、女性ボーカルにもいいと思います。アコギならばストロークを録るよりもアルペジオ系の方が良さが出ると思いますので、どちらかと言えば繊細な楽器が来た時に使うマイクになると思います。
あと、このaudio-technica AT5045は2本揃えてぜひステレオで音源を拾う場合に使いたいですね。空間をとても良くキャプチャーすることができますから、オフマイクでも素晴らしいパフォーマンスをしてくれます。個人的にはAKG 414 XLS を2本所有していますが、単一指向で比べた場合これを越えられるマイクは同価格帯ではこのAT5045でしょう。
上記で紹介された製品、後継機種等
NEUMANN
M149 Tube
伝説的なU47とM49マイクロフォンでよく知られているK49カプセルを搭載した、可変デュアルダイヤフラムマイクロフォンです。パワーサプライとのバンドルセット。
DPA
ST4006A
ナチュラルなサウンド、高感度、低ノイズフロア、10Hz〜20kHz(±2dB)間の真にフラットな音響特性。ST4006AはABステレオレコーディングに完璧にフィットするマイクです。
記事内に掲載されている価格は 2017年12月14日 時点での価格となります。
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