2025年10月2日(木)にRock oN 渋谷で開催されたワンコインワークショップ「即効性抜群!コンプをちゃんと理解できるようになる30分!Vol.1」の模様をレポートします。講師にRock oN渋谷の「あの澤田」を迎え、多くの初心者が悩む「コンプレッサー」について、その基本的な役割から、感覚ではなく理論に基づいた設定方法、さらにはタイプ別の使い分けまで、即効性のある知識が凝縮された30分となりました。
すべてはここから!コンプレッサーの3つの基本的な役割
セミナーの冒頭、コンプレッサーを使いこなすための大前提として、3つの基本的な役割を理解することの重要性を説明。
1. 飛び出た音量を抑える
2. 聞きづらい音を大きくする
3. グルーブを変える
多くの人が1と2の役割は認識していますが、特に3の「グルーブを変える」という点は、言葉としては知っていても深く理解されていないことが多いと指摘。この3つの目的意識を持つことが、パラメータを操作する上での確かな指針になるとのことです。
もう「勘」に頼らない!パラメータ設定の極意
「コンプレッサーの設定は、なんとなく勘でやってしまう」という方も多いのではないでしょうか。本セミナーでは、そんな「勘」を「理論」に変えるための具体的な設定方法が解説されました。
音のキャラクターを掴む「極端設定」
澤田が推奨するのは、まずスレッショルドを極端な設定にしてみるという方法です。この状態で音を聴きながらパラメータを動かすことで、以下のようなポイントが見つけやすくなります。
• 音の始まりが潰れる箇所
• 言葉や楽器のエッジが出てくる箇所
このように、一度極端にかけることで素材の音のキャラクターを正確に把握でき、そこから適切な設定値へと追い込んでいくことができるのです。
主要パラメータの役割と設定のヒント
• アタック: 早い設定では音の頭が潰れてレベルが揃いやすくなります。逆に遅くすると、アタック音をコンプから逃がしてエッジを強調することができます。
• リリース: 早いとコンプがすぐに外れるため音がハキハキし、遅いとコンプがかかり続けるため、音が繋がり滑らかで「ペタッ」とした質感になります。ベースのように音圧を一定に保ちたい場合は、リリースを遅めに設定するのが効果的です。
• レシオ: 「3:1」や「4:1」がよく使われますが、3:1より上に設定していくと音が前に張り付いてくるような効果が得られます。
• スレッショルド: 聞き取りづらい小さな音を持ち上げたい場合は、その一番聞こえづらい部分にスレッショルドを合わせるのが目安になります。これにより、その部分より大きい音を圧縮し、結果的に全体の音量を持ち上げやすくなります。コンプレッサーでダイナミクスを適切に整えることで、フェーダー操作に余裕が生まれ、オートメーションなどでより音楽的な表現を加える余白が生まれるというメリットも語られました。
録音レベルの1176系プラグイン活用術
適正な録音レベルを判断するユニークな方法として、1176系プラグインの活用法が紹介されました。アタックとリリースを「5」に設定し、インプットとアウトプットを10時と2時の位置にした状態で、メーターの針が大きく振れすぎるなら素材の音が大きすぎ、反応しないなら小さすぎと判断できます。この方法は、録音された素材が後段のプラグインでどう扱われるかを予測する上で、非常に有効な指標となります。各トラックのレベルが大きすぎると、マスターバスでのクリップや飽和に繋がりやすくなるため、録音段階でのレベル管理が極めて重要です。
プラグイン処理を楽にする「粗熱を取る」かけ録り
澤田が特に強調したのが、録音前にコンプレッサーで「粗熱を取る」ことの重要性です。録音時にある程度ダイナミクスを整えておくことで、クリップのリスクを減らせるだけでなく、演奏者も演奏しやすくなり、後のミックスやプラグインのかかり方が劇的に良くなると語ります。これは録音後にプラグインで処理するのとは根本的に異なる、非常に重要なプロセスです。
キャラクターで使い分ける!5つのコンプレッサータイプ徹底解説
セミナーの後半では、コンプレッサーの主要な5つの回路方式について、それぞれの特性と得意な用途が、ユニークなキャラクターの例えと共に解説されました。
キャラクターで使い分ける!5つのコンプレッサータイプ徹底解説
• FET (1176系): 例えるなら体育会系のお兄ちゃん
動作が速く、倍音が付加される「味」のあるサウンドが特徴。エッジを強調するのが得意で、ロックやラップのボーカル、ギター、ドラムの単発音など、アタック感を際立たせたい音源に最適です。
• VCA (SSL, DBX系): 例えるなら文系の弟
非常に速く、音質変化が少ないクリーンなサウンド。レベルを正確に揃えることに長けており、SSLのバスコンプのように、ミックス全体の色付けを抑えながら一体感を出すのに向いています。
• Opto (LA-2A系): 例えるならおっとりした長女
光学素子を使った緩やかな動作が特徴。アタックもリリースも遅いため、ボーカルやベースのサウンドを滑らかに、長く繋げるのに適しています。真空管回路による温かみのある「味」も魅力です。
• Variable Mu (Fairchild系): 例えるならお母さん
非常に動作が遅く、音量変化が少ないまま優しく音をまとめてくれます。元の音の印象を大きく変えずにまとまり感を出すため、マスターバスでの使用に定評があります。
• Diode Bridge (Neve系): 例えるならお父さん
Variable Muと同様に音をまとめますが、柔らかくなりすぎずパンチ感を維持できるのが大きな違いです。そのため、ロック系のトラックで力強さを失わずにダイナミクスをコントロールしたい場合によく使われます。
これらの特性を理解し、「こうしたいから、このタイプのコンプを選ぶ」という思考を持つことで、プラグイン選びの迷いがなくなり、作業効率が格段に上がるとのことです。
まとめ
今回のセミナーは、コンプレッサーという複雑なツールを、「目的意識」「理論的な設定」「録音段階からの活用」「タイプの使い分け」という4つの明確な切り口で解き明かす、非常に実践的な内容でした。特に、録音時に適切なレベルで収録し、コンプレッサーで「粗熱を取る」ことが、その後の全工程をスムーズにするというメッセージは、多くの参加者にとって大きな収穫となったのではないでしょうか。
1コインワークショップは毎週木曜開催中!
https://www.miroc.co.jp/rock-on/1coin_workshop_schedule/
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記事内に掲載されている価格は 2025年10月3日 時点での価格となります。
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