
2025年11月6日、渋谷にて「ドラムの打ち込み方とアイデアを生み出すコツ」と題したセミナーが開催されました 。本レポートでは、ドラムの打ち込みにおいて、単なるパターンを配置するだけでなく、いかに人間的でグルーヴィなサウンドを作り出すかに焦点を当てた、実践的なテクニックとドラマーならではの思考法を、Rock oN渋谷のPD安田が解説しました。
講師:Rock oN渋谷 PD安田
1. 良いドラム演奏の基礎:テンポキープは右足(キック)が担う
ドラムの打ち込みにおいて、まず最も基礎的かつ重要な考え方として「キック(右足)」の重要性が強調されました
右足がリズムの要!
• うまいドラマーは足がうまい
両手両足のパートの中で、右足のキックを踏むタイミングの良し悪しが、そのドラマーの巧拙を分けます。
• テンポキープの基準
右足をテンポキープの基準とし、例えば四分音符(120BPMなど)で打ち込んだキックが絶対にずれないようにすることが肝心。キックが正確であれば、他のパート(スネアや両手)はそれに対して進行させていく意識が重要です。
• 体幹の安定
右足を動かすと体勢が崩れやすいため、体幹を安定させ、腰を座らせて動かさないようにし、足だけが正確にテンポを取れる状態が理想です。
キックの連打テクニック(スライド)
速いテンポでキックを連続で踏む(連打する)場合、ドラマーは以下のような物理的なテクニックを使用しています。これを打ち込みにも応用することで、よりリアルなサウンドになります!
1回目
足全体をドスンと踏み下ろす。
2回目
ペダルを踏み込んだ後、足を前にスライドさせるように軽く踏み、次に深く踏み込む。
音量差
足は一振りで2打を処理していますが、結果的に2打目の方が大きく聞こえる傾向があります。これは打ち込みでも意識すべき点です。

2. グルーヴを生み出すためのダイナミクス処理
手数の多いハイハットやフィルインを打ち込む際には、単調なベロシティを避けることで、より人間的なグルーヴが生まれます。ハイハットを刻む際も、物理的な演奏方法を打ち込みに反映させるとリアルに近づけることができます。
腕と手首の役割
ドラマーは腕の振り(一振り)で四分音符を取り、手首を使って八分音符を刻んでいます。
音量差の法則
腕を下ろす1打目(表拍)の方が必然的に音が大きくなり、2打目(裏拍)は浮かせているため軽い音になります。 打ち込みでは、八分音符の裏拍(2打目)のベロシティを下げることで、無理なく刻んでいるように聞こえ、音量バランスが整い、うまく聞こえます。

打ち込みにおけるシンバルの工夫
• ハイハットの省略
クラッシュシンバルを叩く瞬間やその直後の八分音符のハイハットは、物理的に叩けないため、省略して問題ありません。

• シンバルの多重使用
音源において、音色やピッチの違う複数のシンバル(例:16インチと18インチ)を同時に鳴らすことで、音の広がりや迫力が増し、美しく聞こえます。パン(定位)に関しても、ハイハット、スネア、キックはセンター寄りが基本ですが、シンバルはLRで分け、ステレオ感を出せるように工夫すると良いでしょう。
3. タイミングの微調整で人間味を出す
ドラムをベタ打ち(スクエア)するだけでなく、キックやスネアのタイミングをグリッドから微調整することで、人間らしいグルーヴ(前ノリ・後ノリ)を表現できます。
前ノリ・後ノリのメカニズム
• テンポの感じ方
人は、キック(1打目)に対して、その次に鳴るスネアがどのタイミングで鳴るかによってテンポの印象を感じます。
• タイミング操作
スネアやハイハットのタイミングを少し前(グリッドより早め)にすると、ビートが速く(前のめりに)聞こえます。逆に少し後ろ(グリッドより遅め)にすると、遅く聞こえます。
• あくまでもキックは固定!
これらのタイミング調整を行う際も、あくまでキック(右足)はピンポイントでテンポに揃っていることが、曲を成立させるための鍵となります。この間のバランス感覚(キックに対するスネアの繋がり)を保つことで、部分的に自然にテンポが早くなったり遅くなったりする人間味(人間身)を出すことができます。

4. フィルインとリズムのアイデア
フィルインのパターンは複雑に見えても、その多くは基本的なリズムの組み合わせで構成されています。
フィルインの基本要素
フィルインの多くは16分音符を基本とし、以下の5つの要素の組み合わせで構成されます。
1. 交互(RL)
2. ダブルストローク(RRLL)
3. パラディドル(RL+RR or LR+LL)
4. フラム(LR or RL)
5. アクセント(強弱)
アクセントとオープニングショット
• アクセントの応用
アクセントの位置を変える(1打目、2打目、3打目など)ことでフィルインに変化をつけ、シンバルやハイハットとの組み合わせも有効です。
• オープニングショット
スネアのリムとヘッドを同時に叩く「オープニングショット」をアクセントとして活用することで、音色的なバリエーションを追加できます。例えば、特に音の短いピッコロスネアで不安感なくリズムをキープしたい場合、ゴーストノート(16分音符の裏拍などに配置される小さな音)が有効になります。
• ゴーストノートの役割
ゴーストノートは本来聞こえていなくて良い音ですが、これを細かく刻むことでドラマーはテンポキープがしやすくなり、結果としてリズムが安定します。また、ゴーストノートを控えめにしたり、ハイハットを細かく刻んだりすることで、リズムの軽快さがより映えるようになります。
まとめ
ドラムの打ち込みにおいて、単にリズムパターンを組むだけでなく、ドラマーの身体的動作(キックのスライド、ハイハットの腕と手首の動き)と、それによって生まれる微妙なダイナミクス(強弱)とタイミングのズレを再現することが、グルーヴを生み出す鍵となります。特に、キックを基準点としてテンポを安定させつつ、他の楽器のタイミングを微調整することで、人間味のある演奏をシミュレートできます。

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