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古く1976年に設立されたFREEDOM STUDIOは、多くの名盤を生み出してきた老舗スタジオの一つでしたが、諸事情で多くの業界関係者に惜しまれつつもクローズした経緯があります。その後、2017年7月に運営会社を変え、「FREEDOM STUDIO INFINITY」として再始動。もしかしたら再始動のことを知らない音楽業界関係者の方もいらっしゃるかもしれません。。。
今回、「FREEDOM STUDIO INFINITY」の取材をご了承いただき、スタジオを細かく案内していただきましたが、特筆すべきなのは「配信」に注力した体制を整えていらっしゃること。映像系の機材は、Rock oNサイトでも度々紹介しているBlackmagic Design社の製品を豊富に準備している部分が、一般的なレコーディングスタジオと一線を画する印象を受けました。
今回は3人の方々にお集まりいただきましたが、まずは、代表である児玉洋子さんに再始動の経緯からお伺いしました。
伝統あるスタジオ、再始動の経緯
Rock oN : 今日はありがとうございます!まずはFREEDOM STUDIO INFINITYとして再始動された経緯についてお話いただけませんか?
児玉 洋子氏 : はい。実は、私はTHE ALFEEの大ファンなのですが、そのことも大きく関係してるんですよ。。。笑
Rock oN : いわゆる「アル中(=アルフィー中毒)」ってやつですね?(笑) 詳しくお聞かせください!
児玉 洋子 氏 : 私は、以前、レコード会社でディレクター職をしていて、とある作曲家&ピアニストのマネージメントをしていたのですが、「そろそろ自分たちのスタジオが欲しいよね」という話をしたことがあったんです。その1週間後、その話の場にいた方から連絡があり、「FREEDOM STUDIOが売りに出てる」とて教えてくれたんです。
私はその日の夜に新大久保まで見に行ったのですが、見覚えある場所だったんです。私が中2の時にアルフィーを見に来たことのある場所だったのでびっくりしました。(笑) 「そんな大切な場所を無くしてはいけない」という思いも重なり、半ば衝動的に気持ちが動きました。今、こうやってFREEDOM STUDIO INFINITYの運営をしているのは、もしかしたら、宿命だったのかなとも思っています。(笑)
もちろん購入には大きな予算が必要ですが、弊社では不動産業も営んでおり、不動産業としての視点から物件としての価値を精査することもできました。よって購入からその後のスタジオの運営までを見据えた計画を立て、購入を決断することにしました。ただ、その時点で既に他の会社が買うことに決まっており、更地にして家が10軒ほど建つ予定になっていたのですが、私たちの話も聞いていただけることになり、売り手側の判断プロセスの中身まではわかりませんが、幸運なことに私たちが購入出来ることになったんです。
Rock oN : なるほど!それはエモーショナルなストーリーですね。日本のレコーディングスタジオの歴史を引き継ぐ意義、みたいな意味合いも感じてしまいます。再始動にあたって、内装をはじめとして、各種、手を入れられたんですよね?
児玉 洋子 氏 : はい。その部分は、レコード会社での経験をもとに、主にディレクター目線で改修を行いました。ディレクターにとって大切な仕事の一つは、アーティストが安心して録音に集中できる空気を作ることだったので、スタジオの綺麗さ、居住性の良さはもちろんのこと、ケータリングの質といったところまで含め大事にしました。絨毯や壁紙はリズムを感じるものを選び(写真参照)、化粧室もほっと一息つける空間にすることを心掛けました。以前よく使用していたクレセントスタジオ(現サウンドシティ世田谷)の化粧室にさりげなく飾ってあった、きれいな緑の葉の写真にいつも癒されていたんです。それがとても印象に残っていて、ハンドソープやディフューザー等の香りや、洗面を流線形にしてみたり、生花を飾ったり、レコーディングの緊張を少しでも和らげられる場になるようにという思いで、注意を払っています。ディレクターさんの手間を少しでも減らし、ご利用いただく方の心を癒やせるよう、ちょっとしたお菓子と飲み物を常備し、糖分補給のための小さめのアイスも準備しています。コーヒーマシンの選定にもこだわりました。でもロビーのカウンター等、前のFREEDOM STUDIO時代からの伝説的な存在だった部分はそのまま残しています。
Rock oN : ホスピタリティということを大事にしてるんですね。そういった部分は、昨今、真っ先に削減されてしまう部分なので大変貴重ですね。
児玉 洋子 氏 : イメージしているのは、「小さな高級旅館」なんです。スタッフは毎日、日報を書くようにしているのですが、お客様から頂いた声や、起きてしまったトラブルは、できるだけ次の日までに改善するように心がけています。そういう日々の積み重ねを社員全員で協力しあいながら、ある程度落ち着くまでには2年かかりました。
配信系はBlackmagic Designで統一
Rock oN : 次は機材面について伺いたいと思います。現在、このようなコロナの状況下ですが、配信に力を入れられているとお聞きしました。先ほどスタジオを案内していただいたんですが、映像系はBlackmagic Design社の製品で統一されていますね。その経緯を教えていただけますか?
スタジオ配信機材のご案内
HP https://freedomstudioinfinity.wisteriaproject.com/video
生駒 龍之介 氏 : 僕が以前からBlackmagic Designの製品を使っていたことが一番の決め手です。Blackmagic Designが再現する色が、僕が好きな海外アーティストのMVに使われている色合いのような、シネマライクな感じで好きだったんです。また、製品自体のトラブルも少なく信頼感があったんですよね。
ここにきて配信の需要が大きくなったわけですが、僕自身は10年ぐらい前からツイキャスをはじめとして配信に取り組んでいて、音をやりながら複数のカメラをスイッチングしたりしていました。現場によっては予算がない時もあったりして、使えるカメラが1台だけの時もあったんですが、そういう状況が個人的に許せなくなり(笑)。 それで、僕自身で機材を揃えて「配信手伝うよ!」というスタンスで始めたんです。仕事にしたいとかではなく。あくまで趣味的に。その後いろいろ経緯はありましたが、最終的にBlackmagic Designに落ち着きました。ある時、あるアーティストのバースデーライブを配信でやりたいという話がクライアントからでてきて、いつもレコーディングで行ってたので「FREEDOM STUDIO INFINITYで配信をさせてもらえないか」という相談を児玉さんにしてみたんですよ。そしたらオッケーをもらえて。配信当日に僕が所有しているBlackmagic Designの製品を持ち込んで配信したわけです。そしたらその放送を見た児玉さんが「このクオリティをFREEDOM STUDIO INFINITYでも出来たら嬉しい!!今後絶対くるはず!!」と言いだして、翌日には機材導入も決定し、何を用意するかということになって僕がアドバイザーとして配信業務に関わることになったんです。(笑) 児玉さんの決断の早さにはただただ驚きましたが。(笑)
Rock oN : それはいつのお話ですか?
生駒 龍之介 氏 : ちょうどコロナ禍が始まる直前、2019年12月くらいでした。FREEDOM STUDIO INFINITYが、配信に注力するという決断タイミングは、実は、コロナとは関係ないんですね。
児玉 洋子 氏 : 2019年12月に発注して、工事が完了したのが2020年4月でした。だから、コロナのステイホームの時期と重なったのはたまたまなんです。これもディレクター的発想になりますが、レコーディング風景をCDなどの特典映像として録画するには結構予算が必要になるんです。でもスタジオに収録機材とスタッフを常設して提供し、より少ない予算で映像製作が出来たらアーティストもディレクターも喜ぶはずだと思っていたんです。でも、ご存知の通り、コロナ禍となり、ライブ配信の需要とたまたま重なりました。映像収録するにあたって、配信機材を持ち込むと、機材セッティングに3時間、撤収に2時間、、、といった具合に膨大な時間がかかってしまうのですが、備え付けの環境を用意しておけば、大幅な時間と手間の短縮にもつながります。
生駒 龍之介 氏 : 僕の友人の映像監督にも、「こんなにたくさんのSDIケーブルが敷かれているレコーディングスタジオはここしかないよ」と言われました。(笑)
スイッチャーに関しては、ATEM 1 M/E Production Studio 4Kを導入しています。もともと個人的に、持ち運びできるBlackmagic Design製 ATEM Television Studio Pro 4Kを所有していたんですが、それをFREEDOM STUDIO INFINITYに導入すると、スイッチャーにSDIケーブルをそのまま直結しなければならないし、送りと帰りの2本を10系統で合計20本のSDIケーブルをコントロールルームに引き回すことになり現実的ではありませんでした。そんな数の映像系のケーブルはレコーディング現場にとって絶対邪魔に感じます。そこで、ラックインできる機能はほぼ一緒で、ケーブルを裏側に全部逃げさせることができることを条件に選んだのがATEM 1 M/E Production Studio 4Kです。当初、ATEM 1 M/E Production Studio 4Kを含む配信系の機材を入れたラックは(写真参照)コントロールルーム内に置いていたんですが、機材自体の音が発生するので、エアロックスペースのほうに移動させ、扉を閉めることで機材の音を遮断しています。
また、LANケーブル1本で増設できる物理コントローラー ATEM 1 M/E Advanced Panelを導入しています。物理コントローラーを導入する前はMacのキーボードでスイッチング操作をしていたんですが、まあ、慣れてしまうと出来るんですが、スイッチング以外の操作、例えばチャットやSNSへの対応が同時に出来ないんですよ。やっぱり、物理コントローラーがあった方が操作ミスは無くなります。
宮田 昂輝氏 : あと、外部からスイッチャー担当の方がいらっしゃった場合も、キーボードでのスイッチング操作に慣れていない方がいらっしゃることもあるので、物理コントローラーを用意しておこうと話し、導入することにしました。プロのスイッチャーほど、キーボードでスイッチングする人は少ないような気がします。
児玉 洋子 氏 : 各ブースにカメラを設置していますが、これは配信のためだけではなく、レコーディング時もプレーヤーさんのモニタリングとして使っていますし、配信の時は、各ブースのカメラを壁から外して三脚に立て、メインフロアーに移動して集約するんです。こうすることで、配信時に作れる絵の自由度が大きくアップします。
生駒 龍之介 氏 : レコーディングしている時はかなりの数のマイクスタンドが立つわけですが、それに加えてカメラ用の三脚が立ってると邪魔なので、通常のレコーディング時はカメラは壁に設置しているんです。
Rock oN : なかなか工夫が凝らされていますね。サウンドエンジニアである宮田さんも、映像系機材のオペレーションをされてますし、トータルとして、サービス体制が整っていますよね!
児玉 洋子 氏 : そうなんです。サウンドエンジニアがカメラ周りのオペレーションもマスターすることで、「できるだけコストを抑えてお客様にご利用いただく」ということも一つの目標だったんです。実際にサウンドエンジニアにカメラ操作をしてもらったら、もともと音に関するセンスがあるので、絵の方も、音楽に寄り添ったいいものが撮れることに気づいたのは大きな収穫でした!
宮田 昂輝氏 : 今「どの音を聴かせるべきなのか?」という判断はミックスで実践しているので、そういう感覚で映像スイッチングもしているんだと思います。
児玉 洋子 氏 : 照明機器の強化も行いました。レコーディングで煮詰まった時に照明を変えると気分が変わって、いい録音ができることもあり、アーティストさんに喜んでいただけています。また、照明のバリエーションが増えるので、外部のスチールカメラマンさんも喜んで下さいます。海外のスタジオでは、照明にこだわった場所が少なくないんですが、これまた生駒さんがいい製品を見つけてくれたんですよ!
生駒 龍之介 氏 : SALIOT(サリオ)という製品なのですが、長野を拠点とするミネベアミツミという、小径・ミニチュアサイズのボールベアリングで、世界首位のシェアを持つ会社が作った製品なんです。iPhone、iPadのアプリから遠隔操作できます。
★SALIOTを動画で解説!
配信音質はスタジオクオリティ
Rock oN : 配信業務について色々お話を伺ってきました。もちろんFREEDOM STUDIO INFINITYはレコーディングスタジオなので、音を生み出す場所なわけですが、現在、世の中で行われている配信の音質に関して言えば、そのクオリティはピンからキリまでありますよね? そんな中でFREEDOM STUDIO INFINITYの優位性は何でしょうか?
児玉 洋子 氏 : 配信でFREEDOM STUDIO INFINITYを使っていただくお客様の一番のご希望は、「レコーディングと同じクオリティの音質で配信すること」なんですね。やはり音にこだわりがある方が、弊社の強みを理解した上で、使っていただいています。
生駒 龍之介 氏 : ドラムを含め、生音で演奏できる空間があること。あと、アウトボードやコンソールといったアナログ機材を豊富に揃えた音質にこだわり抜いた設備。この両方を備えた配信ができる場所となると、他にはないんじゃないかなと思います。もちろん生配信の音もProToolsで録るので、後で編集して再度ミックスをすることも可能です。アナログとデジタルのハイブリッドが融合したサービスをご提供できるスタジオです。
宮田 昂輝氏 : 配信音声のケースで言えば、「収録したものを流す」場合と、「生配信」の2通りがあると思いますが、特に「生配信」において大きな差が生まれますね。収録の場合、Pro ToolsなどのDAW上でプラグインをメインに使って、時間を取ってしっかりとミックスして仕上げることができますが、生配信の場合はリアルタイムの操作性が重要ですから、アウトボードを使った音作りを行うことになります。生演奏の緊張感に合わせた即時レスポンスが要求される現場では、やはりプラグインでの対応は難しいです。
Rock oN : 単にマイクを立ててオーディオインターフェースやミキサーに繋げただけのシステムと、ここのように高音質なマイク、アウトボードをふんだんに使った音作りでは、同じ配信という形式でも格段に音のクオリティが違うでしょうね?
児玉 洋子 氏 : そうですね。使っていただいたアーティストさんからは「今までの配信と音質がぜんぜん違う!」と驚かれます。また、いい音で録った上に、モニター音もしっかり作って返すので「演奏がしやすい」とおっしゃいます。
Rock oN : 現在、配信をやっているアーティストで、音質アップのために色々試行錯誤してる人も多いと思いますが、色んな問題にぶつかっている人が多いでしょうね。。。
児玉 洋子 氏 : FREEDOM STUDIO INFINITYの場合は、本番に向け、リハーサルでの音作りにも時間を充分取ってサウンドチェックをさせていただくよう心がけていますし、YouTube上での配信音質もしっかりチェックしてます。
生駒 龍之介 氏 : 配信中、社内のLINEグループを使って、児玉さんからの指示がよく飛んでくるんですよ(笑)
児玉 洋子 氏 : ディレクター時も感じていたんですが、楽曲がヒットする時って、何か決まった法則があるわけではなくて、何かしら、「奇跡」としか呼べないようなことが起こるんですよね。FREEDOM STUDIO INFINITYは、そういった「なぜか奇跡が起きる空間」でありたいと思っています。照明や機材へのこだわりも、ちょっとしたおもてなしも、ふとしたひらめきや、何かの奇跡につながれば、という思いを込めて行っています。スタジオの伝統を引き継ぎつつも進化し続けて、残っていくことが、私たちFREEDOM STUDIO INFINITYの使命だと思いますので、今後も、お客様の為に精進していきたいと思っています。
記事内に掲載されている価格は 2021年10月29日 時点での価格となります。
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