第一線で活躍するクリエーターのインタビューやコラムなど、音楽と真摯に向き合う作り手の姿があなたの創作意欲を刺激します!
2018年8月29日に日本と台湾で同時リリースされた11thアルバム『ELEVEN PIECE(イレブン・ピース)』が話題のORANGE RANGE。夏フェスや2019年2月まで続くレコ発ツアー「ORANGE RANGE LIVE TOUR 018-019 〜ELEVEN PIECE〜」で多忙な中ORANGE RANGEサウンドの要を担うNAOTO氏(ギター、プログラミング、ほぼ全ての作曲/編曲)にインタビューを行なった。新譜ELEVEN PIECEのを通してクリエイターとしての素顔を垣間見てみたい。
R: まず新作「ELEVEN PIECE」についてお伺いしたいのですが、タイトルにはどういう意味が込められていますか?
NAOTO: まず、アルバムタイトルはいつもシンプルで何にでも捉えられるようなものにしているんです。このアルバムに限らず細かいニュアンスや統一性をなくして、一つ一つをピースに見立てて11個のピースっていうことで、深い意味はなくて(アルバムの収録数は11曲)。今回も僕がいくつか候補を持っていって、最終的に多数決で決まりました。
R: 他にはどんなタイトルがあったのですか?
NAOTO: 「ELEVEN SCENE」とか「ELEVEN PHASE」だったりとか、5文字の何かがELEVENの後ろに入て11文字になるように、メンバーで多数決を取って決めました。
R: ORANGE RANGEといえばいろんな曲の幅の広さがあると思うんですけど、今回も前半は元気なロックものが多く、後半は進んでいくにつれてエレクトロやテクノの要素が増えて行くイメージですが、曲順はどのように決めているのでしょうか?
NAOTO: 曲順は結構悩みますね。曲が揃った後に僕が大まかに並び変えるんですけど、秒数とかをマスタリング前にちゃんとシミュレーションしたりとか。曲順が一つ変わると全体の印象が大きく変わるのでいつも迷いますね。その時点ではあまりライブの構成とかも考えませんし。
R: 今回のアルバムでは全部で何曲作ったのでしょうか?
NAOTO: 14~15曲くらいですね。
R: アルバムの制作期間はどれくらいになりましたか?
NAOTO: トータルで2年くらいですが、その間にEPを作ったりツアーをしたりと休み休みやったので実質の制作時間は少なかったんです。締め切りが近くなってからペースを上げて、何曲か平行して作っていった感じです。
R: ブックレットを読むと曲によってエンジニアさんが違うのですが、どのような理由があったのでしょうか?
NAOTO: 永井はじめさんはいつもやってもらっていて、お願いした2曲はこれまでのORANGE RANGEらしい曲だったのでお願いしました。その方がORANGE RANGEらしさが出ると思ったので。ミックス途中の段階を送ってもらって意見しながら作っていく感じです。
R: ELEVEN PIECEは日本と台湾の同時発売ですが、これはどういう意味があったのでしょうか?
NAOTO: 台湾はライブでよく行ってて、現地のレーベルとも付き合いもあり作品のリリースもしていました。沖縄とも地理的に近いですし、いつか同時リリースができればと思っていました。
R: よく行っているということで、NAOTOさんから見た台湾の音楽事情はどうですか?
NAOTO: バンドものならポストロックとかEMO系が流行っていると思います。メインストリームで売れているバンドでも、ポップスよりマニアックで内向的なイメージのものが人気な印象です。インスト系もいればパンクとかもいます。フェスに出た時も日本からは残響系が出たりとか他にもMercury Revが出ていたりとか。そしてクラブ系ならEDM系が流行っていますね。
R: 音源制作のお話を伺いたいのですが、今回のアルバムではこれまでと違った事はありましたか?
NAOTO: 以前は曲作り・アレンジ・録音・ミックスと別々に進めていたんですが、今回は意図的に同時進行させました。だからプリプロのテイクが使われたり最後のレコーディングのテイクが使われたりしています。
R: 自宅のプライベートスタジオで収録するのですか?
NAOTO: ドラム録り以外はそうですね。ある程度ミックスの締め切りは設定しておいてメンバーには歌を録りたいので体調がいい時に来てってLINEして、それを期日までに繰り返す感じです。それによってメンバーも曲を聴き込んだりコンディションを整えたり録音の心構えができるみたいです。
R: ボーカルのテイクの判断はNAOTOさんがしているのですか?
NAOTO: そうですね。僕が繋いだものをメンバーに聞いてもらう感じです。どう思う?って意見をもらいます。やはりコンディションが揃わないのが大変ですけど。
R: マイクは何を使っていますか?
NAOTO: マイクはNEUMANN M149 TUBEとか、SHURE SM57もたまに使います。マイクプリはMANLEY SLAM!を当てます。後のミックスで何もしなくていいようにコンプやリミッターにも使いますね。Opt Compが使いやすいです。
R: メンバーや機材が決まっていれば録りも早そうですね。
NAOTO: そうですね、声量もそれぞれ違いますけど、その辺も把握してるのでセッティングも早いです。
R: レコーディングの1日のリミットが決まっていると伺いました。
NAOTO: 僕の場合、作業は17時までって決めてるんです。深夜までやるのと違って心に余裕がありますね。週末もしないんですよ、仕事は。
R: 創作活動に心の余裕を持つことは大事ですね。ところで、新作を作るにあたって導入した機材はありますか?
NAOTO: 買った訳じゃないけど久々に引っ張り出したのはコンプのdbx 160ですね。あるスタジオの録音で使ってるのを聴いたらとても良かったので。今回使ったのはラップとカッティングギターですね。音がカチカチするというか滑舌が良くなるっていう感じです。ちょっと歪み感が入るのもカッコいいです。ただ使い方は限られてますね。新しいプラグインとかは導入しなかったです。WavesのHORIZONを持っているんですけどだいたいそれで事が足りますね。リバーブはTrueverbやNative Instrumentsのものとかを使っています。
R: 次に何か欲しい機材はありますか?
NAOTO: 音に色が付かないやつでスッキリ系、ハイファイ系のマイクプリが欲しいです。Sym・ProceedとかMillenniaやFocusriteとかもいいですね。
R: Sym・Proceedはどこかで使っているのを聴いたんですか?
NAOTO: あるエンジニアさんが使っているのを聴いて、こういうのが一個あるとバリエーションが出ていいなと思って。音が速いし人のキャラもわかりやすいし。MANLEYもハイファイ系だけどあれは結構個性が強いので。
R: ミックスはご自身で手がけていらっしゃいますが、リファレンスとなる曲はあるのでしょうか?
NAOTO: トレンドではないですけどミックスの前に聞くのはMassive AttackのHeligolandです。Tim Youngがマスタリングした作品で曲自体は暗いですけど、レンジがしっかり並んでるので。パワーポップ系ではAslynのLemon Love。Tom Lord-AlgeとTed Jensenがやっていて、王道のザ・ポップスっていう感じです。
R: EDMを意識した曲もありましたが、そういう楽曲のミックスはトレンドを意識されましたか?
NAOTO: 曲自体はそういうのがあってもいいかなと思って作りましたけど、ミックスの時とかは特に意識していませんでした。
R: 元々ミックスをされた時に師匠となったエンジニアはいらっしゃるのですか?
NAOTO: 上原キコウさんですね。教えるというよりもミックスをやっているのを見たり、セッションファイルを開いて聴いてみるって感じです。
R: ミックスで一番大事にしている部分は?
NAOTO: 楽器同士の帯域が重ならないことですね。あとは最近の哲学では「ミックスでは何もしない」です。昔はミックスで個性を出そうとしてたんですけど、今はその前のアレンジや音色選びの段階で特別なエフェクトも施して、ミックスは微調整だけで最低限の普通のことしかやりません。ダブっぽいディレイもハードウェアでミックスでやる前にかけますね。
R: ドラムは外でレコーディングされたそうですけど、どちらで収録しましたか?
NAOTO: SOUNDCREW STUDIOですね。だいたいいつもそこの根元さんっていう方がエンジニアを担当してくれて。マイクはいっぱい立ててくれって言いますね。キックも3本、スネアも2本、それ以外にアンビも4セットとか立てて、録音してそこから選びます。ドラムは何もしないで素に近い状態ですね。モノラルのアンビとかはめちゃくちゃ潰したやつを録ってくれってオーダーしますけどそれ以外は普通でお願いしました。
R: CD以外の配信やYouTubeを意識してしていることはありますか?
NAOTO: ミックス違いは作らず、マスタリングで配信用に違うバージョンを作ります。配信は結構精力的にやっていて今後も実験的なことをやる予定です。
R: 今回マスタリングはどちらで行われたのですか?
NAOTO: ロンドンです。Amy WinehouseやMassive Attackを手がけたStuart Hawkesっていうエンジニアと一緒にやりました。最終段階だけFabfilter Pro-Lでしたが、それ以外は最近話題のUTA UnFairchildとかのアナログを使ってましたね。EQはSontecとかGMLとかを曲によって変えていました。
R: たしかにちょっと音に湿り気がありますよね、ゴリゴリにしていないというか。
NAOTO: そうですね、最初結構音が入ってたのでもう少し控えてほしいってお願いして。作業が早いですね、1日で終わりました。キックを聴いて曲の半分まで聴いたらもう作業に入って。1曲が終わって、それからもう一回通しで聞いたら「どうだい?」って確認に入る感じです。その感じで次々進んでいきました。
R: 年齢が経つに連れて耳の聞こえ方が変わることはありますか?
NAOTO: 変わりますね。ちゃんとやらないといけない時は3日くらい前から準備しますよ。
R: 今夏もフェスにたくさん出演されていましたね。
NAOTO: そうですね、暴飲暴食しちゃいます。でも美味しいんですよ、昼間から炎天下で飲むビールは(笑)。
R: ツアー移動の時間などに音楽制作で何かされていますか?
NAOTO: ないですね。宮部みゆきさんや百田尚樹さんのようなヒット小説を読んでいます。それか寝てます。
R: 映画などは?
NAOTO: 映画は移動中ではなくて映画館によく観に行きます。そこから曲作りのインスピレーションを受けたりしますね。「シン・ゴジラ」とか「ジュラシックワールド」や「ミッション・インポッシブル」などのアクション系が好きなんです。サラウンドとか音もすごいのでテーマパークにいるような気分になれるので。
R: 長いお時間、インタビューに応じてくださってありがとうございました。最後にメッセージをお願いできますか。
NAOTO: 最近フェスでいろんなバンドを見るんですけど、やっぱ自分達は特殊なバンドだなって思って。そういう意味ではわかりやすくて他と差別化できて楽しいんじゃないかなと思うんで、ぜひ色んな人にORANGE RANGEを聴いてライブにも遊びに来てもらいたいです。
ORANGE RANGEは現在レコ発ツアーの直前。2019年2月まで続いていく。ロックやEDM、レゲエに沖縄民謡。そのほか様々な音楽の要素を飲み込んで生まれた11つのピース。それらがどう作られミックスされマスタリングで一つになっているのか。エンジニアリングの観点からいっても興味深い作品になっているので、ぜひ新譜ELEVEN PIECEを手にとって聴いてみてほしい。きっと新しい発見があるはずだ。
記事内に掲載されている価格は 2018年9月27日 時点での価格となります。
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