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head-love Created with Sketch. CREATOR

Rock oN AWARD 2016 座談会

2015年も沢山のプロダクトが生まれました。

革新的技術を持ったプロダクトが新たなジャンルを切り開くことに力を貸し、また、多くのユーザー支持のもと市場に普及した製品があなたの楽曲誕生の一端を担った。そんな場面も少なからずあったのではないでしょうか? なぜなら、今年、Rock oN AWARDは過去最大の得票を記録。多くのユーザーがプロダクトの存在に関し多大な関心を寄せ、ご自身のクリエイティブシーンの1年をプロダクトとともに振り返ってくれたことが伺えました。

Rock oN AWARDでは、私たちRock oNスタッフがプランニングを通してクリエーターの皆様と接する貴重な機会を頂いたことに対し感謝の念をお伝えするとともに、皆様からフィードバックとして頂いた要望を、今後のプロダクト開発に向け各メーカーさまに届ける重要なトリガーにもなっています。皆様から頂いたフィードバックは間もなく開催されるNAMM2016にて、世界中のメーカーとダイレクトにコミュニケーションをとり、貴重なメッセージとして伝えます。

あなたが今年出会った製品は、受賞リストにあったでしょうか? 受賞製品を審議するスタッフ座談会、今回も大いに盛りあがりました。その模様をお伝えします!

BN1

最新が最良を実現する実力で奪い取ったTOP3!

竹本(竹):今年は『豊作年』と言っていいほど各社新製品が相次いだわけですが、ユーザー投票の面でも圧倒的な支持でGoldを勝ち取ったのはSpectrasonics Omnisphere2でした!


SpectrasonicsOmnisphere2

阪田(阪):Eric Percing氏が実に7年の歳月をかけた待望の後継機種。氏に「”使い尽くすには一生かかる” と言ったけど、あれは冗談ではなく、本気なんだ」と言わしめた怒涛の12000 Overサウンド、100倍以上に増量されたDSPオシレーターは『無限』の言葉が本当にふさわしい。

洋介(洋):特にVersion2から搭載された『Sound Match』と『Sound Lock』の発想は今後のサウンドブラウジングの基礎になりそうな新機能でした。Sound Matchは従来のように『Bright』『Dark』等の形容詞タグで音を探すのではなく、今聴いてる音に『聴感的に近い』と思われる音を『近い順』で探してきてくれる。形容詞タグだと意味合いは合っていても、サウンドは全く別のものが多数含まれてしまうから画期的でしたね。

阪:気に入った音から、任意のパラメータ(変調等)を固定して、オシレータだけを差し替えられる『Sound Lock』も、決して偶発的な音作りではなく、欲しいサウンドの動きのイメージがある中で音を追い込んでいくようで、楽曲制作上強力なサポート機能になっている。偶然見つけたアルペジエーターのフレーズが好き、でも音だけはBellのこのサンプルに差し替えたいとか。

洋:その差し替えるサウンドだけでも1万を超えているわけだから、エフェクト、ユーザーサンプルのインポートまで考えたら『無限』としか言いようがない。NAMM2015期間中に、Native Instrumentsのダニエルハーバー氏自らが「Winter NAMMのBest Productだ」と言ってたのも頷けますね。

佐々木(佐):もちろんV1から続いて、膨大なサンプルが『いい意味で天才と馬鹿の紙一重なぐらい(笑)』遊んで作られてるのも忘れちゃいけない。物干し竿をバイオリンの弓で弾くとかピアノを燃やしながら弾くとか(笑)

阪:サンプル、ファンクション、他社製品と比べても特に『イノベーティブ』な面で一線を画していた。文句無しのGold Awardでしょう!Rock oNスタッフと一緒に立つと肉食まるでテラノザウルスのエリック、授与式にお会いしたいですね。でもちょっと気まぐれなので心配。


iZotopeOzone 7 , RX 5

竹:続いてSilver AwardはiZotopeのW新製品が揃って受賞となりました。

阪:圧倒的な人気とセールスを誇る同社の2枚看板ですからね。Rock oNもこのタイミングでBOSTONへiZotope代表のマークさんへ直接インタビューを行ってきました。社員数が今年100名を超えたそうですが、なぜこれだけの急成長を遂げることができたのか。インタビュー記事はぜひご覧いただきたいですね。

洋:プロダクトの革新的なファンクションもその理由ですよね。かつてRXが初めてリリースされた時は、10万円を超えるレストレーションプラグイン市場に風穴をあける価格設定とクオリティが話題になりました。さらにスペクトラム表示での直感的なEDITにとどまらず、『EQ MATCH』など編集箇所の前後を予測し自然に接続してくれるインテリジェントな機能を持ったV4で、その人気を不動のものとしましたよね。

20151224_izotope_632_252b阪:この瞬間に、ポスプロ関連の業務ツールではなく、音楽制作市場においても定番のレストレーションに登りつめました。

洋:最新V5自体は破裂音など特定のニーズ対応やPro Toolsとの連携などユーザビリティの強化がメインでしたが、ユーザー人気はOmnisphereに次いで圧倒的でした。

阪:その点では同賞のOzoneも似ていますね。プロセッシングの全てが入ったお得なパッケージ、V4〜5の頃にはコンシューマー市場で人気が爆発、V6でGUIがスタイリッシュかつ効率的に修正されてからPROの制作シーンでも個人やスタジオ業務で圧倒的な導入率。彼らは、新社屋のど真ん中にマスタリングエンジニアの大御所ジョナサン引きいるマスタリングスタジオとレコーディングスタジオまでも持っています。リアルな提案力が生まれる土壌は圧倒的です。

竹:V6までAdvancedの特権と言われた『アナライズしながらEQとダイナミクスを同時調整できる』視覚的なDynamic EQが7からスタンダード版でも使えるようになったのは大きいですよね。V7 Advancedではさらに各モジュールが個別プラグインとして動作するようになったのも魅力、ただMaximizerのCPU負荷がもうちょっとでも下がるといいけど。

阪:V7自体でのファンクション的なイノベーションは少なかったけど着実な進化と人気のSilver Awardと言えますね。

竹:そしてBronce Award、こちらも高い得票数でRME Babyface Proが受賞。


RME AudioBabyface Pro

阪:発売以降品薄状態が続く圧倒的なセールスが印象的です。Max氏並びにマティアス氏の両名にインタビューをさせていただいたんですが、Steady Clockをはじめとしたハードウェアコンポーネントからデザイン、それこそ塗装素材に至るまで一新された完璧な進化を遂げています。『Reengineered,not remastered』のコンセプト通り。

洋:デジタルPLLとアナログPLLのハイブリッドというSteady Clock1と同等の構成で、Steady Clock1を上回るジッター抑制を可能にした『Steady Clock3』の新搭載は内に秘めた革新的進化の一つですよね。

佐:さらに旧Babyfaceで指摘されていた『弱点』をしっかり補強してきたこともユーザー評価のポイントでしょう。ファンタム電源供給時の電源不足によるサウンド変化などを、コンポーネントの消費電力から見直し、Babyface Proでは完全に発生しないよう設計されています。

竹:その点では塗装の強度もポイントで、旧Babyfaceはミニカーとか金物の玩具にも使われている焼き付け塗装で、それなりにハードに扱うと半年ぐらいでも多少剥がれてしまった。今回Proでは飛行機の機体などに採用されているスティール・ボール・ブラストという塗装に変更されており、圧倒的に傷がつきにくい。Max氏が冗談で言っていたけど、本当に流行のサブスクリプションにしても良かったんじゃないかと(笑)

阪:10年使える信頼性をソフトウェアアップデートだけでなくハードウェアでも体現したということだね。

洋:そうですね、ただイノベーションというより、ハードウェアとしての質実剛健さ、機能的な部分のアップデートが中心だったように思います。

竹:業務に欠かせない信頼性はRMEの変わらぬ魅力。マティアス氏やMax氏ら開発エンジニア達の圧倒的なエネルギーをもってすれば、2016年さらに進化したニュープロダクトの登場にも期待大です。

洋:今年のトップ3つは、開発者自らが高みへの挑戦によって生まれた未来への提案ツールだと思います!

竹:正に、輝かしいプロダクトですね。


Sound を発するInstrumentsたち

竹:Omnisphere2のようなイノベーションもあったけど、かつて開発されたレガシーライブラリーを活用したReProductの発展系も話題を集めましたね。

阪:国産メーカー3社だけを見ても、NAMMから始まったKORG ARP ODYSSEY、そしてYAMAHA Reface、Roland Boutiqueなど。


KORGARP ODYSSEY


YAMAHAreface


RolandBoutique

洋:NAMM 2015開催前日の坂巻さんのインタビューが全ての始まりだったんじゃないかと思う。ARP Instruments社共同創業者であり、AdvisorのDavid Friend氏が当時の回路とサウンドを監修/再現しながら、坂巻さんがユーザーの声を直接拾って、コンパクトかつ機能的に仕上げてる。玩具にしないけど高すぎない価格設定もポイントだったよね。

★NAMM 2015直前 KORG坂巻氏ムービーインタビュー>>

阪:この『本物志向』はリバイバルをする上でもヒットの分かれ道になったよね。Instruments Awardを受賞したYAMAHAのRefaceは、発表当初こそ昔を懐かしむ50歳以上の世代以外の評価が得られるのか懐疑的だった。

洋:でも蓋を開けてみれば、旧機種を知らない若年層や、リバイバルで実機を知った30〜40歳前後にまで広がっていった。そのポイントはズバリ『サウンド』だった。


阪:デジタルといえど、フラッグシップ機と同じモデリングエンジン、内部AD/DAの解像度、コンパクトといえどReface用に完全新規開発したHQ mini鍵盤の弾き心地。やはり楽器として一体感や気持ち良さはYAMAHAのアドバンテージだよね。

洋:単に『コンパクトであること』から盲目的に玩具のように錯覚していたユーザー達が、触れた瞬間に驚いた。

阪:ユーザーボイスを見てもサウンドを評価するコメントが多くて、YCなんて実機に触れたことのない10代や20代の世代が、二段鍵盤とかのセカンドキーボードに配置して活躍させてる。『本物の音』であることはリバイバルの懐古的なイメージすら突き抜けるんだなと実感させられました。

★Yamaha reface 開発者インタビュー>>

竹:リバイバルといえばもう一つ忘れてはいけないのがSEQUENTIAL PROPHET-6。


SEQUENTIALPROPHET-6

阪:SEQUENTIAL CIRCUITという社名だけで感慨深いですよね。梯氏の働きかけもありYAMAHAが所有権をDave Smith史に譲ったという復活ストーリーは泣けます。

洋:実機の方もオシレーター、フィルター、アンプにフルディクリートアナログ回路。正真正銘のVCO、VCF、VCA構成でモジュールも含めてInstruments Awardを最後まで争っていました。

阪:Dave Smith氏らしい64stepシーケンサーや24bitのデジタルエフェクトなど現代的なアプローチは弊社SYNTH HEAVENコーナーでも確かな魅力を放ってますので是非一度触って確かめて欲しい。

竹:これかの時代に、ある意味レガシーな起点を持つサウンドからどんな音楽が生まれていくのか楽しみですね

音の入り口 〜堅実なファンクションの進化

竹:そしてリバイバルというキーワードでは、昨年AESからの流れでU47FETが見事Input & Output Awardに輝きました。今回のAward2016では過去最多得票かつ新製品ラッシュということで4つの賞が新設されました。さて、こちらU47FETは完全なる『復刻』がポイント。


NEUMANNU47 FET

阪:U47といえば先代のVF 14 M真空管回路をFET式に変えたモデルでしたが、ボーカル、ソロ楽器、またPADを用いキックなどドラム録りに最適で、由緒あるレコーディングスタジオは複数本所有してますよね。

洋:今回はオリジナルの設計図や回路図からの完全復刻で、各個体には旧生産シリアルから続く番号が記載された個別の証明書もつくというこだわりよう。

佐:中古市場でも40万の価格で取引されているプロダクトだけにこの復刻はレコーディングエンジニアを熱くさせましたよね。


竹EAN22

竹:マイクロフォンの中ではAEA NUVOシリーズも新しい波になりつつありますね。

阪:RC44から80年以上続くBig Ribbon技術を、ハンドリングしやすいサイズとアクティブリボン仕様でリリースしたことで、リボンマイクがグッと身近になった。

洋:セミナーでWesさんも自ら実践していたけど、双指向性で角度の変化による周波数の影響が抑えられてるのもリボンマイクのイメージを一新した扱いやすさだった。シールドと近接効果は好みがでそうだけど…。

佐:そう。N22を推すユーザーさん多いけど、私は断然シールドなしのN8のが好みで、Vocalでも弦楽器でも、生々しい息遣いのような空気感がソースを妖艶に仕上げてくれる。安価なリボンマイクは他にもあるけど、こんな艶かしく繊細に収録できるのはBig Ribbonならでは。プロセッシングなしで収録された公式のチェロ演奏動画を見てもらえればわかると思う。来年AEAブームが来ると思います。


竹EAN8

阪:このマイクロフォンの世界には、デジタル化の波も押し迫っています。果たしてこの部分のフュージョンがいつブレイクするのか興味深い部分ですね。


Universal AudioAPOLLO8 Quad

竹:当時のサウンドがどれだけ今後の若い世代に影響を与え、新しい歴史を築くかというのもメーカーとして描くビジョンですね。思い起こせばPOPULAR AWARDを受賞したAPOLLO8のノブ、このUREIノブも言わばリバイバルの1つでした。

阪:そうですね、実際のところ若い世代はこのAPOLLOのノブをどう思ってるのか聞いてみたい。

洋:普通に格好良いと思ってますよ。LEDのメータリングも含めて旧機種のイメージは言われるまで全く持ってなかった。


Urei 1178のノブ

竹:この流れでインターフェースに話を移すと、APOLLO8は先ほどのBabyface Proと同じくAD/DAからハードウェアとして根本的に改善されたのがポイントでしたね。

洋:そう、見た目上は色とファンクションの差しか見えなかったけど、蓋を開けてみればAPOLLOの認知度と人気は圧倒的でした。

佐:結局APOLLOを買おうと思っていた相当数のユーザーが発表前に既にいて、APOLLO8は背中を押す形になったんじゃないかな。

竹:UAD-2プラグインの人気も売れた理由の一つ。

阪:そうですね、エンジニアの方に話を聞いても、実機に肉薄するプラグインはと聞くと、多くの方が決まってUADと答える。回路設計からのコンポーネントモデリングだけでない、UAエンジニアの技を来年取材してみたいね。これからもハードとソフトの融合が各社プロダクトの基本になるんですね。

竹:他のモデルに目を移してもファンクションの強化など堅実な進化が目立ちますね。一昨年のようなネットワークなどの革新が今年は少なかった。

阪:そうですね、価格帯問わず、従来モデルのアップデートや兄弟機といった印象が強い。その分来年の各社動向はNAMM以降要チェックだと思います。間違いなく2016年はネットワークの質、利便性、パワーシェアをクラウド的に実現する製品へ移行していくと思いますから。

レガシーのシュミレートだけでは未来へのテクノロジーは、枯渇する訳でどこかに大きな変化があるのかも知れませね。

音の出口 〜音楽自体を身体で体感すること〜

竹:続いて音の出口についても。今年は市場的にはモニターが高い注目度を浴びて。全体的に堅調でした。ある意味ヘッドフォンで鍛えたリスニング能力が、音楽を聴く本来の姿であるエアボリュームある空間から伝わるモニターへより波及した結果かもしれません。この先目の前は、このスピーカーは大きなテーマとして広がって行くような気がします。パーソナルでは共感出来ない、音楽は全身で感じるここは、本質的で外せない概念です。中でも際立ったのはGENELECのSAMシリーズとEVE AUDIO SC203。


GENELEC8320

阪:多分来年にはGenelecのベースモデルは長らく君臨した80シリーズから8320などの『SAMシリーズ』に移行してるんじゃないかな。それぐらいの成長率。

洋:GLM2.0のセットアップが驚くほど簡単になったのも大きい。モニターをつないだGLMインターフェースをPCにUSBでつなぐだけ。リスニングポイントにマイクを置いて接続すればあとはGLMソフトウェアが設定してくれる。

阪:解説動画を見て買ったというユーザーもいたほど。サウンド面は8000シリーズで確立しているMDE&DCWのWテクノロジーをそのまま引き継いでますから。

竹:AESではSAMテクノロジーを搭載したGENELEC 1236Aというフラッグシップも発表しましたね。


GENELEC1236A

阪:1236Aは会場で試聴したけれど音を空気で感じられるスピーカーの重要性を改めて感じました。18インチダブルをウーハーがなぜ存在するのか?それは音楽のためだったですね。『音楽自体が本来身体で体感すること』を体現させるモニターは最近なかった。このスピーカー以外で再現できないリアルな世界があります。そしてEVE AUDIO SC203が大ヒットしている点も見逃せません。このモニターにはサイズから感じさせる再生限界をいろんな意味で越えた部分を内在します。裏面パッシブラジエータによる低音再生能力の拡大。DPSテクノロジーにおけるセッティングアレンジとアングル月のスピーカーベース『FlexiPad』。更にハイレゾにをダイレクトに再生出来るUSB接続。まさにこれは盆栽の世界では。サプライズでした。詳しくは後ほど・・・


Trinnov AudioD-Mon Series

竹:音場補正という意味ではTech Awardを受賞したフランス Trinovもそうですね。このブランドは、制作サイドとリスニングサイド両方において最高かつ高級なプロダクトを供給している点です。

阪:まさに奇抜な独自設計の3Dマイクを使用した音響補正技術は目を見張るところがありますよ。周波数特性だけでなくて位相特性の改善もできる。本当の意味での理想的な音響空間を作るには欠かせない。

洋:D-MONは深い技術による音響補正で、3Dというフューチャーを身近にしました。まさに次世代を感じます。製品価格は高いものの、それに見合った確実な性能を持っていると言い切れます!今後のスタジオ設計などにも影響を及ぼすかもしれないと思えるほどの実力ですの、ぜひ店頭で体感してほしい。この世界の製品は、日進月歩でまだまだ先へ進むと思います。

竹:モニター環境を改善するアクセサリーも目立ちましたね。

WellFloatBW001 A4

洋:はい、中でもジークレフ音響による『WellFloat BW001 A4』はリスニング市場だけでなく制作市場に切れ込んできましたね。

佐:Welllfloatは振り子運動によるひずみ抑制を応用した、ステンレス製の内部フローティング構造を持ってますが、ユーザーとしては単に敷くだけで理想的な天吊構造と同じ効果を再現できるのは最大の特徴ですね。

阪:天吊構造自体は大掛かりだし、厳密には吊る素材とか長さの影響も出てしまうから。

洋:単純に難波発、国産モデルというだけでも応援したい!

YAXIstpad-DX

阪:アクセサリーではヘッドフォンの話題になるけど、YAXIイヤーパッドは2015年を通じてヒットしましたね。製品付属のイヤーパッドを取り外して交換するだけなのですが、単なるパッドを超えて低反発素材による音漏れ防止によるモニタリング性能向上、耐久性アップもヘビーに使うユーザーには好評でした。

洋:MDR-CD900STだけでなくて、YAMAHA HPH-MT220やaudio-technica ATH-SX1aなどにも対応してるんだよね。今後もラインナップは増えそう。

佐:特に制作ヘッドフォン市場はセールスを見ても、MDR-CD900STが定番とは言えなくなりつつあるように思う。モニターの堅調なセールスに加え、制作用ヘッドフォン市場は来年群雄割拠の戦国時代になるだろうね。個人的にはモニタースピーカーと良い共存、使い分けを行ってくと考えています。

ワークフローを加速、革新する新たなプラットホーム

竹vidPro Tools | Dock

竹:市場の変化が最も顕著といえば、常に最新のワークフローやDAWとの親和性を要求されるコントローラですよね。Control Awardでは直前に発表されたAvid Pro Tools | Dockが見事受賞!

阪:これまで革新的なモジュール設計提案を行ってきたAvid S6、その発想をクオリティそのままにパーソナルに落とし込んで来たのが評価のポイントでした。しばらく停滞を感じていたパーソナルでも活用出来るAVIDプロダクトの登場ですね。

洋:そもそもEUCON規格自体がMIDIの250倍のスピード、8倍の解像度を持っており、優れた追従性を誇っていて、パーソナルのハイエンドコントローラーはすでにAvidの独壇場になりつつあります。

阪:ええ、その中でもPro Tools | Dockはトランスポート、フェーダー、カスタムソフトキーといったArtistシリーズの基本構成に加えて、iPadアプリケーションによるダイレクトなフェーダーアクセスや、さらなるカスタムソフトキーを自由に追加できる。さらにAppsのアップデートで随時発展できることも重要ですね。

竹:Pro Toolsソフトウェア自体もV12以降短期アップデートを繰り返すなど、機能追加が印象的ですね。年間アップグレードする意義を感じさせてくれます。

阪:最新の12.4で搭載されたフリーズトラック。正直機能自体は他社Native DAWでは5年以上前からあった機能なんですが、12.3で搭載のコミットトラックと組み合わせると編集作業の中でかなりCPU負荷を追い込むことが可能になりますし、何よりPro Tools HD環境でフリーズできることの意義も大きい。

洋:サブスクリプションで加速するソフトウェア開発が、ハードウェアに束縛されることなく進化していることの象徴だと思う。今後のオーディオ面のアップデートは目が離せないね。

竹:同じくPro Tools | Dockの発売も待ち遠しいですね。コントローラーに話を戻すとNative Instrumentsが新たに今年『NKS』フォーマットも発表しました。

阪:プラグインのパラメータをコントローラーへオートアサインすること自体は過去からあったけれど、KOMPLETE KONTROL Sというハードウェア自体の先進性が相まって、今後新たなサウンド表現が生まれそうだよね。

Native InstrumentsKOMPLETE KONTROL S88 & NKS

洋:ノートのスケール指定やLEDタッチスライダー、そして最も目を引くライトガイドなど、NKSソフトウェアがどう連携するのか。かつてのKOREのように複数のプラグインを掌握する新たなプラットホームになれるか、今後の展開に期待です。

竹:フォーマットといえば同じNative Instruents社からもう一つ出ましたね。

阪:新設のPlathome Awardに輝いた『STEMS』ですね。全く異なるテクノロジーですが、Elektron Music Machine社の『OverBridge』と票を二分していました。

Native InstrumentsTRAKTOR KONTROLER & STEMS

洋:まず『STEMS』ですが レコーディング業界では一般的だったステムの概念をDJ(プレイヤー)側に持ち込んだ発想がすごい。2mix1本と任意にグルーピングされた4本のMP4データの集合体。アカペラを残して完全にトラックを入れ替えたり、キックだけを抜いたりなど、従来のデッキスタイルでは考えられなかったDJプレイができる。バンドやプロデューサーがライブを行うきっかけにもなる。またSTEMは販売もできるため、ミキシングエンジニアにSTEM書き出しに特化したビジネスが生まれる可能性も。

佐:2016年以降はメーカー主体によるコンテストもあるらしいから、我こそはというユーザーは今のうちにSTEMSフォーマットをマスターしておかないとね。

ElektronOverbridge

竹:そして惜しくも受賞を逃したのはElektron Overbridge。得票の差はほとんどなかった。

阪:ハードウェア音源がオーディオインターフェースやプラグイン音源を兼ねるスタイルは、VIRUS TIを始め過去からあったんだけど、OberbridgeはUSB接続でありながら初めて「他社製オーディオI/Fと共存」を可能としたのが革新的でした。

洋:本当にそこがすごい。Babyface Proとかと併用ができてしまう。楽器とI/Fを内蔵させるスタイルはElektronに限らず「楽器であることが主眼」だから、オーディオインターフェイスとしての性能や入出力は単体機のようにはいかない。その常識を打ち破ったOverbridgeの共存技術で、Elektronの使い勝手が大幅に向上した。

佐:もちろんプラグインとしても動作するから、アナログシンセでありながらトータルリコール出来てしまうところも見逃せません。

洋:これだけの先進的な技術とアナログ回路の音源部。このギャップが本当に格好いい。NIもElektronも欧州からダンスミュージックシーンをリードする2大メーカーだけに、2016年は予想を超えたプロダクトをリリースしてくることは間違いないでしょう。NAMM&MESSEから早速注目です。

エポックメイキングへの挑戦

竹:予想を超えた独創的、野心的プロダクトというテーマでも語ってみましょう。まずはInnovator Awardを受賞したEVE AUDIO SC203から。

EVE AUDIOSC203

阪:何といって背面にパッシブ・ラジエーターを持ってきた発想の勝利ですよね。62Hzまでこのサイズで再現する。伝統的なテクノロジーですが、このサイズに搭載することでまさに、コロンブスの卵的な設計だと思います。筐体の共振とユニット実行面積の拡大が、こと低音再生能力をここまで引き上げたケースは見たことがありません。もちろん音量も。

洋:専用設計のµA.M.T.もイノベーションだった。最小204の半分サイズなのに従来機よりも広いスイートスポットが構築できてる。この高域再現力も今のヒットの要因ですね。

背面。パッシブラジエーター

佐: 当然のようにEVE AUDIO最大の特徴である24/192のADコンバータや、DSPコントロールもしっかり継承してる。このサイズでDSPによるセッティング補正を搭載しているです。
裏面パッシブですので、セッティングによるサウンドの変化が大きく現れると思われますが、ここは逆手にとっていろいろなチューニングを楽しむといいかと思います。

竹:すでに多くのユーザーを魅了している2016年には個人ユースの新たな決定版になるかもしれませんね。技術だけでなく音楽スタイルという点でも話してみると、Teenage EngineeringのPocket Operatorシリーズも1年を通じて話題でしたね。

阪:もうOP-1の頃からセンス抜群のスウェーディッシュデザインなんだけど、今回はメディアやファッションブランドCheap Mondayとのコラボレーションもあって若いクリエイターのハートをがっちりつかんだ。それでいてゲームウォッチっぽいレトロな表現は40歳以上にも響きました。

Teenage EngineeringPocket Operator

洋:アクセサリーも豊富だからついついスタイルの話しがちだけど、価格と機能のバランスもいい。Rythm1つをとっても16STEP×16パターン(チェイン 可)のシーケンスに、シンセ&サンプリングそれぞれのサウンド。エフェクトも16種類。3.5mmだけど、スタジオモニターで鳴らせば各社オーディオインターフェースにも採用されてるcirrus logic DAコンバータであることを再認識させてくれるサウンドクオリティ。

佐:それらを表現する独創的なLCDグラフィックがとにかく『楽しい』ことも重要だよね。クリスマスのプレゼントに買った人も相当多かったんじゃないかな。

ZOOMF8

竹:コンパクトな筐体に多機能というポイントではこちらも忘れてはならない。審査員特別賞を勝ち取ったZOOM F8。

阪:ポストプロからの注目度の高さを考えると個人的にBronzeにも推したかった製品です。定番SoundDevicesの1/10くらいの価格で、必要とされている機能を盛り込んだこの一台は、映像業界におけるBlack Magic Designのようなインパクトがあります。

洋:24/192kHzのサポートや、低ノイズフロア(-127dBu EIN)&ハイゲイン(最大75dB)のマイクプリ8ch全てに独立型リミッター(10dBのヘッドマージン)など音周りの仕様はさすが。0.2ppm(24 時間で誤差 0.5 フレーム以内)の正確なタイムコードやファイルフォーマットの幅広さや3電源対応などは現場の声を形にしてます。

佐:8ch XLRとは思えないほどコンパクトなのも単純にすごい。(178.2mm(W)x140.3mm(D)x54.3mm(H))本体のみなら1kgを切る(930g)重量ですからね。

ZOOMDA-6400

竹:開発チームの情熱と挑戦を感じますよね。サイズと機能の良いギャップという点ではTASCAM DA-6400も選考に残りました。

阪:こちらは1Uに64chという時点でもう凄いのですが、接続性の高さがポイントですよね。PCとは直接USB3.0で接続できるし、2種類のインターフェースカードスロットによりMADIやDanteなど業務シーンに応じた接続性も確保できる。DA-3000同様のDSD対応、他にもPro Toolsとの同期連携やBWFでのDAW展開、マルチ再生など、大ヒットしたDA-3000を全てで上回る完全な業務プロダクトに仕上がってる。

洋:受賞は単純に発表〜発売時期の問題だったと思いますが、Rock oN Award 2017でも賞を取るとすでに思ってます。

竹:同じく審査員票が圧倒的だったと言えばLine6 Helixもそうですね。

Line6Helix

阪:NAMM2015のインタビューで、『Fractal Audio Systems Axe-Fx IIやKemperなど20万円以上のプロセッサーがリードしている市場に切り込むフラッグシッププロダクトを出してくれないか』とマーカスさん直接に伝えた時、すでに従来機を大きく超える次世代のモデリング技術を開発中だから期待してくれと言われたんですが、それが文字通りに『Helix』という形になってる。先ほどの2ブランドがこれまでリードしていた歪み表現に対するHXモデリング・エンジン、他機種の開発技術をさらに高めたDAWとの親和性、123dB ダイナミック・レンジのギター・インプットを備えた多彩なオーディオI/F入出力(ダイレクトモニタリング搭載+最小バッファー64sample) 全てが単体機として贅を尽くした仕様で、かつそれが連携したソリューションになってる。

WesAudio_MIMAS

洋:HELIX1台で冷蔵庫大のラックを1つ無くすことが本当にできる。アンプまで含めた中央制御システムとして、2016年の同市場に風穴をあけるんじゃないかな。今は品薄状態でユーザーへの供給がほとんど追いついてないけど、次回の強力なAward候補だと思う。Rock oN Company渋谷店頭の防音ブースでじっくり試聴&録音できるから年末年始絶対に遊びに来て欲しいね。

竹:ほかにも500シリーズのWES Audio MIMASとか、エポックメイキングテーマならまだ話し足りないプロダクトがいろいろあるけど、来年はアナログ回路のEuroRackシンセがMIMASのようにPlug-Inになってたりするかもしれない。『PC接続でアナログ回路プロセッシング』これはネットワーク接続と同じくらい2016年に期待するテーマの一つですね。

総評

今年もまさに群雄割拠。注目すべきイノベイティブな製品、また、ユーザーに支持され多くのセールス結果を残した製品が各賞ごとに多数存在。受賞を争ってしのぎを削り、製品決定は困難を極めました。とはいえ、トップ3賞のSpectrasonics Omnisphere2、iZotope RX5/Ozone7、RME Babyface Proは、これまで重ねてきた人気に安住せず、さらに高度な技術を投入し製品の価値を高める探求的な姿勢と、それに加え、セールスに関しても圧倒的な結果を残したことで、納得の獲得と言えます。

ここで、各賞を獲得した製品たちから見えてくるキーワードを抽出してみましょう。そこから、今年の流れの総括、さらに来年へとつながるトレンドが見えてくるかもしれません。

リバイバル

KORG ARP ODYSSEY、YAMAHA Reface、Roland Boutiqueといったレガシーシンセを現代に甦らせた動きが、偶然にも国内3大メーカーでありました。「最新技術が支える復刻」という意味で、単なる懐古的趣味に閉じることなく、現在のPlug-inを通過した耳にもアピールするサウンドで過去を塗り替えたことが素晴らしい動きでした。来年、この動きがさらに活発化し、シンセ以外の分野でも起こって、プロダクト設計思想の幅がもっと多様化すれば面白そうです。

ヘッドフォンからエアーへ

最近のヘッドフォン分野の加熱的な盛り上がりは、同時にリスニング環境のパーソナル化を意味してますが、GENELEC SAMシリーズが目指すのはスピーカー再生による音楽リスニングの質向上。身体で体感し他者と共有する音楽の喜びを、改めて思い出させるような重要な動向ではないでしょうか。

プラットフォーム

Native Instrumentsの「NKS」や「STEMS」、Elektron Music Machine社の「OverBridge」といったプラットフォーム創出は同時に、既にある技術を組み合わせ、音楽制作スタイルの幅を広げてくれるメーカーからの提案です。

新製品開発にあたって、先進性一方向だけを目指すものと違い「過去の見直し」「新旧の組み合わせ」「再定義」といった横の流れから生み出されたトレンド。上記3つのキーワードの背後から、そんな動きが読み取れそうです。そのどれもが音楽体験の豊かさに繋がる重要な流れになっている気がしてやみません。来年早々1月、NAMM2016で発表される各社の動向に、その流れがさらに加わることを期待します。

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