第一線で活躍するクリエーターのインタビューやコラムなど、音楽と真摯に向き合う作り手の姿があなたの創作意欲を刺激します!
サウンドエンジニア
バズーカスタジオの前身であるスタジオ450でエンジニアとしての基礎を学び、フリーランスを経て、湾岸音響に参加。同スタジオが2012年に閉鎖して以降は再びフリーランスとなる。the band apart、たをやめオルケスタ、Sunaga t Experienceなど、ジャズやレゲエ、奄美島唄から河内音頭まで幅広いジャンルを手掛けている。
twitter : https://twitter.com/naoki_hayami
Rock oN : 速水さんは、これまでどんなモニタースピーカーを使ってきましたか?
速水直樹 氏 : 所属してきたスタジオが使っていたスピーカーの変遷を話しますと、まず、社会人になって最初に入ったスタジオが高井戸にあったんですけど、そこのハウスモニターはラージのUREI 813CとニアフィールドのYAMAH NS-10Mの組み合わせでした。UREI 813Cは同軸 2Wayの構成で、15インチのツインサブウーファーと下部に中高域ユニットが配置されています。
その後移ったBAZOOKA STUDIOでは、2つのルームがあって、メインルームのラージはTANNOY System 215でした。もう1つのルームには、ジャマイカに行った時に聞いた音があまりにもかっこよくて、お願いして購入してもらったElectroVoice SENTRY500をラージとして使っていました。その次ですが、立ち上げから参加した湾岸音響ではmusikelectronic geithain RL-900とBlue Sky sky system one SAT6.5とSUB12を2.1ch構成で使っていました。
Rock oN : スタジオが変わるごとにモニターシステムが変化したんですね。色んな製品を使ってこられましたね!
速水直樹 氏 : そうですね。湾岸音響が2012年に閉鎖になった後は、個人でスピーカーを所有するようになりましたが、傍らにYAMAHA NS-10Mを置きながら、いくつかの製品を使ってきました。先輩が持っていたKRK V8を勝手に(笑)使っていた時期もありました。現在、このスタジオを拠点に個人で活動していますが、某雑誌のスピーカー聞き比べ企画に参加した時、TASCAM VL-S5とGENELEC 8010が良かったので、5年頃前に購入しました。それ以降、TASCAM VL-S5、GENELEC 8010、そして現在も使っているJBL MODEL 4312の3つを並行して使う時期が5年ほど続きました。TASCAM VL-S5はこのスタジオのサイズ感にとても合って良かったんですが、「もう少しパワーが欲しい」と思い、一回り大きなサイズの製品を探していました。そこで出会ったのがNEUMANN KH 310なんです。
Rock oN : ここで少し補足すると、現在、NEUMANNはSennheiser社の配下にありますが、同じくSennheiser社の配下にあるKlein + Hummel社のスピーカープロダクトの資産を受け継ぐ形で、NEUMANNがスピーカーの販売を開始したのが2009年頃です。ご存知の通り、NEUMANNはU87を始めとしてマイクのブランドとして確立されているわけですが、NEUMANN製のスピーカーに対して先入観みたいなものはなかったですか?
速水直樹 氏 : NEUMANN製のスピーカーを導入していた他のスタジオの方から評判や噂みたいなものは聞いていましたが、実際にこのスタジオでデモをして頂き、すぐに自分の好みのサウンドだと思いました。
Rock oN : 先ほど言われていた「もう少しパワーが欲しい」という問題は解決したんですね?
速水直樹 氏 : はい。でも決定までに少し経緯があって、KH 310の前にKH 80を試したんですよ。それは求めていたサイズより小さかったんです。音量を上げると、振動で本体の位置が動いていく。
Rock oN : えっ、そんなにデカい音を出すんですか!?(笑)
速水直樹 氏 : そんなことないと思うけど(笑)。昔、ジャマイカのサウンドにかぶれていたので、昔は大きかったと思いますが、、、 当時、「顔で音聞いてますよね?」と言われたことがあります(笑)。ミックスの仕上がりを「大きい音で気持ちよく聞きたい」というのもありますが、ミックスだけでなくレコーディングでも、例えばキックのマイキング時に低域の確認をしたいので、少し無理しても大きい音を出せる製品が必要なんです。KH 310を試してみて「これだな!」と思いました。3WAYのクロスオーバー部分もすごく自然で気にならなかったし、高域は過剰にしゃりしゃりと強調している感じもない。
低域は、純粋に音楽をやろうと思うのであればここまでの低音はいらないかな、と思うくらいの量を出せる能力を備えていて、今は背面のEQで少しカットしています。時々、「こんなに低音が出ていたのか!」とびっくりすることもありますが、この部屋との兼ね合いでさらにチューニングが必要だと感じていますので、もっと追い込んでいきたいと思っています。例えば、バスレフ構造で出している低音だと、どこか作られている成分が混在してる気がして、それを信じて該当部分をカットしてしまうと、他のシステムで聞いた時に軽くなってしまうことがあるんですが、密閉型のKH 310ではそんなことはありません。KH 310の低域に対する信頼性はかなり高いですね。
Rock oN : 密閉型だとレスポンスの良さもありますよね? 速水さんがスピーカーに求めることは何ですか?
速水直樹 氏 : まずは立ち上がりの速さですね。個人的に音が飛んでくるスピード感を重視しているので、KH 310の立ち上がりの速さは、他社製品より軍配があがると思います。次は音圧感。「今、この音量で聞きたい」とう要望に応える能力を持った製品ですね。そうでないと困ります。音作りのEQで、僕はブーストする方向でいらないところを見つけるんですが、ブーストした時に音が歪んでしまうとだめなんです。EQポイントを探している時に、緻密に伝わってくるレスポンスの良さがあり、かつ歪まない。それに耐えうるパフォーマンス性を備えたスピーカーが必要ですね。
Rock oN : 逆にダメなスピーカーは?
速水直樹 氏 : スピーカー自体に過度に味付けがあるのはダメですね。パッと聞き、いい感じに聞こえるかもしれませんが、原音にない高域を作り出す製品で仕上げると、別のシステムで聞いたら寂しく聞こえてしまうことになります。そういった意味で、KH 310は過剰な飾り付けがなくフラットな製品です。今まで手がけてきた作品を聞いてみて、嫌な感じはせず、「俺は間違ってなかった」と感じました(笑)。リファレンスとしてよく聞くCDも、イメージを壊わすことなく再現し、「KH 310はずっと使っていける製品だな」と思っています。逆にこれだけ正確に聞こえると、音作りで逆に悩みどころが増えるということもあるかもしれませんね。でも、そこをさらに自分の武器になるべく使いこなしていきたいですね。
Rock oN : KH 310をどういう方にお勧めしますか?
速水直樹 氏 : これだけの正確な低音再生があるので、ある程度の大きさの空間でミキシングやレコーディングのができる人です。我々のような、スタジオで作業するエンジニアが使うべきだと思います。ラージモニターを置けない環境でも、低域再現能力はラージにに匹敵する性能をもった製品です。半ばSEに近いような低音を処理する必要があるポスプロの現場にもいいかもしれません。
メーカーHP
NEUMANN
http://neumannjapan.com/
記事内に掲載されている価格は 2020年2月17日 時点での価格となります。
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