第一線で活躍するクリエーターのインタビューやコラムなど、音楽と真摯に向き合う作り手の姿があなたの創作意欲を刺激します!
第20回目は、スーパーヴァイジングサウンドエディター勝俣まさとしさん。2009年10月公開の常磐貴子主演映画「引き出しの中のラブレター」、玉木宏主演の「MW」、大友克洋監督の「STEAMBOY」等、多数の映像作品でサウンドエディターとして活躍されています。映画作りにおけるサウンドエディット、音響効果とは何をする仕事なのか? これまでお話を聞ける機会がなかったので、大変興味深い取材となりました。また、「フォーリー」という聞き慣れない単語。勝俣さんは、フォーリー・ミキサーということで、その辺りも含め、ミディアルタ内のスタジオにお邪魔して、お話をお伺いました。
2009年11月2日取材
最初に音楽に触れた時のお話をお聞かせ頂けますか?
5歳の頃、何故かリズムに興味を持った子供で、お茶碗や机など周りの色んなものを叩くので親が見兼ねてドラムセットを買い与えてくれたんですよ。
そのドラムセットで演奏を始めたんですか?
もう、単に叩くだけですよ。そのうち、「ドラムセットはどうやって組み立てられているんだろう?」という興味が湧いて分解し始めるんです。結局組み立て直すことが出来なくてそのままに、となったんですが。子供にとってはおもちゃという感覚だったのかもしれません。小学高学年になるとラジオのエアチェックを始めて、歌ものの他にサントラもよく聞いてました。
当時のFMでは番組の時間いっぱいに1つのアーティストだけをかけたり、LP1枚をそのままかけたりしていました。子供のお小遣いではレコードはそんなに買えなかったので、当時の雑誌のFMレコパルの番組表とにらめっこしながら、ひたすらエアチェックしてました。週末は友達と録音会と称して集まり、レコードを持ち合ってダビングしあってました。
ドラム以降、楽器のほうは?
小学6年生頃の時、チューリップや甲斐バンドなどに触発されてアコースティックギターを始めました。SUZUKIというメーカーなんですが、そのギターは今でも持っています(笑)。
中学生になると雑誌に載ってる歌本を見ながら歌って、それでコードを覚えましたが、紙面には押さえるポジションしか書いてないので、Fのコードはセーハ(人差し指を寝かせて全部の弦を押さえる)しない押さえ方で覚えてしまったんですが、後になって周りの友達がやってるのを見てセーハという技を知ったんです。
独学ならではのエピソードですね。
学校に行くまでの1時間にDeep Purpleなどのレコードを1枚かけてギターで耳コピーして、それから学校に行って部活を終えて、帰って来たらまたギターの練習という感じで相当のめり込んでいました。バンドは高校に入って始めました。地元は河口湖なんですが、地元で活動するセミプロレベルのミュージシャンが結構いて、生の演奏を目にする機会が沢山あったんですよ。ジャンルはカントリーが多かったですね。
河口湖はカントリーなんですか!
(笑)。音楽好きの大人が沢山いる場所で、僕らがロックを演奏してても不良だとかそういう目では見られることはなかったです。高校3年の時、いつも聞いてたNHK FMのリクエストアワーというラジオ番組に勝手に自分の作った曲を録音したカセットテープを送ったんですが、その番組のディレクターから「番組に出てくれませんか。」という電話がかかって来たんです。その番組に出演するスターダストレビューの前座として歌ってくれと。それもいきなり公開番組で(笑)。
おっ〜、高校生にしてみたらいきなり大抜擢じゃないですか!
でも、「僕はそんなこと出来ません。」と怖じ気づいて断ってしまったんです。そしたら、「じゃあ、番組内で歌って下さい。」ということになったんですが、「それも出来ません。」と僕は断ってしまったんです(笑)。結局、番組内に詞のコーナーというのがあって、そこで3曲くらい歌いました。ディレクターが「君の詞はいいね。」と褒めてくれたんです。人前で歌ったのはそれが初めてだったんですよ。
上手くいったんですか?
いや〜(笑)。友達が放送を録音してたんですが、全部、僕が回収しました(笑)。すごく恥ずかしかったので(笑)。
でも、学校に行ったら話題になったでしょう?
凄かったですよ!「お前、歌手になるのかよ?」みたいな感じで笑われました。
えっ、笑われちゃったんですか? 女の子にもてちゃったりとかは?
いえ〜、みんなに笑われました(笑)。でも、いずれミュージシャンになりたいと思うようになってたので、「放送局の人に聞いてもらえば何かあるのかな?」と考えてテープを送ったんです。進路を決める時期になり、先生に「お前どうすんの?」と聞かれるわけですが、「僕は歌手になります。」と答えました。「なにふざけてんだ!」と笑われましたが(笑)。でも、その屈辱感が自分の中の決心を固めるきかっけになり、勢いづいた感じはあります。その後、あるオーディションにギター1本で歌って応募したら全国1位に選ばれたんです。東京に呼ばれて、デビューへ向けての育成期間として色んなコンサートを勉強のため、ただで見せてもらったり、曲が出来たらそこのプロデューサー持って行ってアドバイスしてもらったりとバイトしながら1年間過ごしましたが、残念ながら、その会社の状態が悪くなってしまって、僕の担当者が別の会社に移っていったんです。
大人の事情に巻き込まれた訳ですか?
でも、そうは言ってられず下積みからということで、ある事務所でローディーの仕事を4年間やりました。大御所の方々が所属していた音楽事務所で、怖くて厳しい方々もいらっしゃったのでかなり鍛えられましたね〜。当時、現場によっては食事が出なかったので、余り物を食べたり、コーヒーの飲み残しを1つに集めて飲んだりも(笑)。今思えばよくやったなと思いますが、20歳前後でしたが、当時は不思議なことにそれほど苦じゃなかったんですね。その会社では尊敬できる人物との出会いがあり、「プロの裏方に徹しよう!」と決意したんです。4年後、その会社の満期終了時に、その人から「もうお前はどこに行っても大丈夫だ。」と言われたことが大きな自信になり、その後進んで行く道への大きな起点になりました。
その間、ご自分の音楽活動はどうされてたんですか?
やってましたよ。自分のバンドを持って、メンバーに聞かせるデモを作るためにFOSTEXのカセット4トラックMTR、RolandのリバーブSRV-2000、YAMAHAのドラムマシン RX-7、シンセのKORG DW-6000などを買いました。当時としては、給料は結構よかったので全部キャッシュで支払ったんです。けっこうな金額を投資しました。繰り返しますが、支払いは全部キャッシュでね(笑)!!
(笑)。自宅録音は今の仕事に繋がる部分もありますね?
そうですね。でも、今でもそうですが、僕は音楽を作るにあたって機材に依存しないことを自分の中で失いないたくない大切な部分として信条にしてるんです。機材を選ぶ際には、値段やまわりの評判などは気にせず、自分が欲しい音は何なのかということだけを第一に考えます。今だとコンピューターは仕事になくてはならないものですが、依存してしまうことに対して注意し、レコーダーとマイクを自分で持ち出してマニュアルで録ることも大切にしてます。また、僕の仕事は、監督をはじめとして、人とのコミュニケーションが大切です。「ソフトは何を使う」といった技術的なことよりも、その人が何を表現したいのか、作品について相手としっかりコミュニケーションして理解することが大切です。
どうやればサウンドエディターという職業に就き、第一線で活躍できるようになれるのか? 読者の方の中には、目指されている若い方もいらっしゃるかと思います。今であれば、専門学校に通ったり、映画会社に就職するということになりそうですが、勝俣さんはミュージシャンを目指していました。この事実が、後に勝俣さんが、独自の考えや発想をもったサウンドエディターへの道を辿ることになる伏線となります。
元々バンドをやられてた訳ですが、今のサウンドエディターの仕事と共通していることってありますか?
僕はグルーブを大切にしてるんです。背景音にしても気持ちいい流れが出来てると、映画のストーリーに気持ちよく入っていけるし、逆に間合いが悪いと、気持ち悪く感じて映画に入れないんです。音楽と同じで、ベースやドラムが重要なように背景音が大事なんです。フェードの掛け方や倍音の調整を行うことによって、背景音でリズムを作ることが出来るんですよ。空気ってずっと一定じゃなく流れてますよね?
あまり気にしたことないんですが(笑)、そうですよね。
いかに空気の流れを作るかということです。例えば、ストーリーの流れによって背景音の音圧を変化させることによって流れを作り、グルーブを作るんです。僕はスライ&ザ・ファミリー・ストーンが好きなんですが、影響してるのかもしれません(笑)。僕が付けた音って映像に合ってない場合もありますよ(笑)。若干タイミングをずらすことによって、動きを表現したりするんです。サウンドエディットはフレームを追う緻密な作業ですが、忘れてはいけないのは、映像が流れてストーリーが流れているということ。劇場に足を運んでくれるお客さんは、止まっていたりコマ送りの映像は見ないという事です。
面白いですね(笑)。スライ同様、アフタービートということですね。
そう、僕は後ノリが好きなんです(笑)。だから僕がやってると同業者にバレますよ。
サラウンドに対してはどうですか? 映画の場合だと演出の要素が大きくありそうですが。
ステレオに比べると、音響演出の要素が大きくストーリーに影響する場合もあるので気を付けなければらないですね。それと、映画館のスピーカーが増えた分、位相についてはさらに気を付けるようになりました。位相が悪いと映画館で見てる人が眠くなったり、人間、閉じてしまうんです。音って画より分かりずらくて、なかなか原因が探せない場合があったりするんで、かなり慎重に気を使います。
うーん、難しいですね。
ええ。移動音に関してもそうで、背景音と同じ考えを持って構築しますし、またきちんと背景音を作ってない状態で動かすと、観客が映像とずれた方向に目線を向けてしまうんです。そうなると、観客はストーリーから離れてしまいますよね。
サラウンドになって良かったですか?
そうですね。僕はサラウンドの方が合いますね。
確かに立体で見てない状態で音を付けちゃうとずれが生じますよね。
そうですね。僕は音を付ける場合、自分を映像の中に持っていくんですよ。そこでどんな音が聞こえてくるのか想像し、元の現実に戻って編集作業をするんです。そういう変な訓練をしてます(笑)。サラウンドの場合でも、背景音は全部のスピーカーから出てるんですが、逆に切っちゃうと、観客が現実に引き戻されて「あ、俺、映画館にいるんだ」となるんです。常に映画の場面の中に居る感覚にしてないといけないんです。耳というより、体で音圧を感じる部分の話ですね。
これからの展望や今後のご予定をお聞かせ下さい。
サウンドエディターという仕事を次の世代に繋げて行くために、プロデューサー、ディレクターに対して映画における音の重要性を理解して頂けるような活動を続けています。どうしても最近は予算が少なくなってきているんですが、そうなってくるとテクノロジーに依存してしまう比率が大きくなってしまいます。きちんとしたものを残して行きたいという思いがあるのですが、制作日数が削られるとどうしても難しくなってきますよね。毎回、かなりの重労働で大変なんですが、作業が終わって試写に行き、クレジットに自分の名前が出る時に全て報われて「あ〜、やってよかった!」と思いますよ。こうやって自分の名前が形として残るので、毎回全力で取り組んで行こうと思うんですね。
最後に勝俣さんにとって、音、あるいは音楽とはなんですか?
最近、音以外の仕事に携わっている人達と話す機会があって、やってることは違いますがみんな目指す所は一緒なんだなということが分かったんです。一人の人間としてどうあるべきかという考えは共通していていました。僕は、これまでに、人間として尊敬できる人と出会ってこの道に導かれてきたんじゃないかなと思うので、音楽は僕の人生を救ってくれたものという思いが強くあります。
記事内に掲載されている価格は 2016年10月7日 時点での価格となります。
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