音をクリエートし、活躍している人をご紹介するコーナー「People of Sound」。第5回目は、サンレコ連載でもお馴染み、CMを中心とする作曲家として活躍されている瀬川英史さんです。瀬川さんの都内スタジオにお邪魔してお話を伺ってきました。

年間100本以上(!!)のCM音楽制作を手がけられており、毎日、氏の曲がTVで流れない日はないというくらい最前線でご活躍の瀬川さん。また、サウンド&レコーディングマガジン連載「CM音楽の作り方」で、外にはなかなか伝わらない、業界内のお話やスタジオ現場の様子、またはPro Toolsを中心としたテクニカルなお話を披露され、同業界の方のみならず、これから業界を目指す若い人たちにも指針となるような内容満載。恐らく今このページを熱心に読んでいる若い方も多くいるでしょう!

2007年5月16日取材

音楽との出会いから業界への入り口へ

Rock oN:この業界に入られたのはおいくつの頃ですか?

瀬川英史氏(以下 瀬川):ボーヤで入ったのは、19歳の時です。タイトロープという会社で、シンセサイザー・マニュピレーターの梅原篤さんについていました。ギターを始めたのは、小学校5、6年生の時で、出身は岩手県なんですが、まわりに比べたらちょっと早かったかな。。従兄弟がビートルズのレコードをたくさん持っていて、従兄弟の家に遊びに行ったら「ヘッドフォンしたことある?」と聞かれて「ない」と答えたら、生まれて初めてヘッドフォンを付けさせてもらって、最初に聞いたのが「リボルバー」なんですよ。

それで(1曲目タックスマンの)「ワン、ツー、スリー、フォー」が始まったら、「ウォー、なんじゃこりゃ!」と思って(笑)、その時点で、人生決まったかなという感じでした。それから、ヘッドフォンで聞く必要もないのに関わらず、ヘッドフォンで聞いてましたね。さすがに最近は耳を大事にしてるから、必要なければヘッドフォンはしないことにしてますが。このスタジオでヘッドフォンする時は、ブースでレコーディングする時のモニター用としての時だけです。

Rock oN:地方の子供にしては早いですね~。ビートルズ以降は?

瀬川:キッス、クイーン、エアロ・スミスの3点セットという感じで聞いていて、ベイ・シティー・ローラーズを聞いている奴をバカにして、「本物かどうか判るのはそこだ!」という感じでね(笑)、まあ、僕の世代はこんな感じじゃないですか。

Rock oN:お好きだったのは、ギター中心のロックということですね? それでギターを始めたということですか?

瀬川:そうです。当時はビデオもないし、土地柄もあってか、エレキギターを弾いている映像を目にする機会がなくて、人気だったゴダイゴやチャーとか、ヤングミュージックショーなどの歌番組に出ているバンドをテレビにかぶりついて見ていました。

「海外のバンド情報をインターネットで一発検索」なんてありえない数十年前のお話。「音楽のことならなんでも知りたい、見たい!」と情報に飢え、数少ないテレビや雑誌の情報を血眼になって凝視していた若者が全国に点在してました。(筆者もその1人)「でも、かえって練習に打ち込めたから良かったんだよね。」と言う瀬川さん。プロに憧れ、ストイックに練習に打ち込む地方の青年像。ちょっと悲しくもあり、美しくもあるような。別に、「昔は良かった~。」なんて言うつもりはありませんが...。

Rock oN:作曲家の今に繋がる、作曲を初めた瞬間はいつだったのですか?

瀬川:それは、高校生の時にポプコンに出るために曲を書いたのが初めてかな。2つバンドをやっていて、自分が書いた曲の方のバンドでは県大会で入賞して、もう一方のバンドでは仙台で行われた東北大会まで出ました。それには確か、小比類巻かおるさんも出ていて、彼女は入賞をきっかけにデビューされたという、そういう経験をしてます。

中学に入ると、音楽好きな同級生はロックを聞き始めるんだけど、僕としてはそれが嫌で、「やっぱり、これはジャズだな!」と思って、といっても、土地柄、テレビや雑誌からの情報しかないんだけど(笑)。当時、渡辺香津美さんが日立ローディのCMに出ているのを見て、高校の時はもっぱらジャズ/フュージョンにハマりました。渡辺香津美さんの「トチカ」を毎日聞いてコピーしてました。

Rock oN:じゃあ、ロックだけにとどまらなかった当時の趣向が、今の作曲家活動に繋がっている部分もあるんですね?

瀬川:そうですね。ロックの種類にもよるけど、3コードのロックしかやってないのに、職業作曲家になるのは難しいでしょうね。当時、ジャズ/フュージョンをたくさん聞いてたから、現在、作家をやれているというのはあるでしょうね。去年、某ビール会社のCMでロサンゼルスに行った時に、ハービー・メーソン、ドン・グルーシン、ディーン・パークス、エイブラハム・ラボリエルのメンバーでレコーディングして、実はものすごく興奮してたけど、一応、僕は作家として来てる立場なので、表向きはクールに装ってね(笑)。

それで、高校卒業後は、スタジオミュージシャンになりたかったんです。でも、コネもツテもないので、上京して音楽専門学校に入ったんです。でも、入る前までは、漠然ですが、東京の人って武道館のコンサートや、六本木のピットインに毎日行けて生の演奏を見てるから、「すごいんだろうな」と思ってたけど、入学金を払えば入れるわけだし、自分の想像とくい違いがあり、「どうしよう?」と思ってた時に、たまたまシンセサーザーのオペレーターの会社がローディーを募集していると知って、申し込み、面接を通過して入社できたんです。

キャリアスタート~ ローディー時代

Rock oN:その時、シンセサイザーの経験はあったのですか?

瀬川:スタジオで仕事がしたいという意思を持っていたことと、機械が得意だったこともあって、学校で教えられる訳でもなく、自分からYAMAHA MSXを買っていじってたんです。NEC PC-88/カモンミュージックも持ってました。コンピューターを使った作曲も、今と比較すればしょうもない曲ですが作ってましたよ。ローディーなので機材の搬入という仕事ですが、入社した時点からサウンド・インやサウンド・シティ、ソニーといった大きなスタジオに出入り出来るようになって、スタジオ作業を実際に見れる環境にいきなりなっちゃって。

Prophet-5、PPG Wave 2.3、Fairlight、Roland MC4、LINN LM2、SIMMONS、Oberheim OB8等、当時の最先端機種がなんでもあったんです。作曲家 林哲司さんのFairlightをタイトロープが預かっていたので、搬入/セッティングした後は、シンセのダビングを朝までやっているのが当時、普通だったこともあり、Fairlightのマニュアルを読む時間がたくさんあったんです。

師事していた梅原さんは、Fairlightの操作を覚える暇もないくらい、とても忙しすぎたので、分からないことがあると、僕がナニワ楽器(現カメオ・インタラクティブ)に問い合わせて結果を梅原さんに伝えに行くということもやってました。なので、シンセサイザーの当時の機種の操作は今でも体で覚えてますねぇ。梅原さんはプリセットを使わないで、ゼロから音を作っていく人だったんですよ。梅原さんは「こういう音」と言われると、その場でば~っと操作して音を作っちゃう。

最初に入った会社で初めて見る現場だったので、僕は、「プロってそうやるもんだ。」と思ってました。僕も出来るように練習してました。梅原さんに「じゃあ、マリンバ」と言われると、それまでシンセブラスの音だったシンセのつまみをいじって、マリンバにする。そんな練習をよくやってたので、今でも自分の中に残ってますね。

ハードウェア シンセからソフトシンセにまつわるお話

Rock oN:今、ソフトシンセを沢山お使いだと思いますが、それもゼロから作っちゃう?

瀬川:さすがにそれは(笑)、、。Digidesign I-CON D-Command(写真 左)を買う前までは、プリセットを選んでエディットして、みたいな感じで使ってたんですが、D-Commandがある今は、つまみをいくらでも好きなように、コントローラーにアサイン出来るので、かなり細かくエディットできるようになりました。以前はMACKIE HUIも持ってたけど、D-Commandの方が断然使いやすい。作曲中、例えばストリングスのノートを書いてる時と同時に、フェーダーのカーブも書かないと雰囲気が出ないので、MIDIのデータを作る時にもD-Commandをよく使ってます。

特に映像との同期が大前提の瀬川さんにとって、ICONシステムは必須にも思えるところですが、ICONの最大の特徴とも言えるカスタム・フェーダー機能を最大限活用されているようです。具体的にはプラグインに限らず、様々なパラメーターを物理フェーダーに割り当てて自由自在なエディット/オートメーションを操っているのです。まだまだコントローラーとしての認識が強いD-Commandですが、これをご覧になって目から鱗の方も多いのではないでしょうか?

Rock oN:そういう使い方をされている方は少ないかもしれませんね?

瀬川:そうかもしれませんね。まだ、I-CONはミキサーだと思ってる人も多いようだし。「どう、これ音いいの??」なんて聞かれるし(笑)。「いやー、まぁ、いいっすよ。」と答えたり(笑)。

Rock oN:ソフトシンセから入った若い世代の人たちは、プリセットを選んで使うというのが多いので、ゼロから音を作るという概念があまりないと思いますよ。

瀬川:そうですね。でも、あれだけ優秀なプリセットが入ってると、ちょっとやそっとじゃ、その音を超えられないでしょう。自分も、ゼロから作れないようなプリセットは沢山あるし。なので、基本的にはプリセットから選んで、エディットしますよ。全部イニシャライズしてスタートするのは年に1回あるくらいかな(笑)。

本当はシンセを手で触れると、もっと楽しいんだけど。3万円くらいのソフトシンセを買ってきて、フィルター、レゾナンス程度をエディットして使ってるような世代は自分の世代から見ると、もっと楽しい部分があるので、ちょっと可哀想かなという気がします。それで、自分が作家を始めるきっかけになったのが、YAMAHA DX7 IIが出た頃で値段が25、6万円だったかな。それまで、数百万円していたシンセサーザーが一気に10分の1くらいの値段になって、作家も自分で買うようになり、数台のシンセを使いながらで自宅で仕事を出来るようになってきたんです。

自宅で曲を書く時から使っていたシンセの音色を、そのままスタジオでも使うようになるので、オペレーターが登場する機会が、徐々に少なくなってきたんです。1度大変な事件があって、DX7のカートリッジに自分で作ったパッチを入れて持ち運んでいたんだけど、あるスタジオ作業の日、大事なカートリッジを車に積むのを忘れて現場に行ったんです。スタジオで「あっ、カートリッジがない!」と気が付いて(笑)。当時、吉祥寺に住んでたんだけど、スタジオが新宿だったので、戻って取りに行く時間はなくて。でも、梅原さんは一番近いプリセットを選んで、そこからパーッとエディットして音を作ったんですよ。それを目の当たりにして、「DX7のエディットをあそこまで出来るなんて、やっぱり違うなー!」と思いました。

Rock oN:作家としての仕事を開始された当時は、いわゆる上下関係のある徒弟制度みたいなノリはあったんですか?

瀬川:いやー、それは自分の2世代くらい前の話かな。もう、当時はそんなことはほとんどなかったですよ。自分は最初、オペレーターをやっていたから、いろんな作家さんの仕事を目の前で見てたので、それで結構勉強させてもらったということもあります。誰かについたということはなかったですね。21歳くらいの頃、知り合いのプロデューサーが、「予算がないんだけどやってみない?」ということで、初めてやったのがエールフランスのCMでした。

その頃はバブルに入り始めの頃で、DCブランドブームがあって、どこのブランドもすごい儲かっていたので、フィルムを使ってプロモーションビデオを作っていて、その音楽制作の仕事が沢山ありました。予算がそれほど大きい仕事ではないので縛りもゆるく、ジャンルにとらわれず色んなことが出来たので、新人として自分の仕事初めにはいい機会でした。

Macintoshとの出会い

Rock oN:その頃はもう、Macintoshを使っていたんですよね?

瀬川:そうですね。カモンミュージックをスタジオで使っていて、自分で書く仕事はMac PLUSを使ってました。最初に自分で買ったMacです。

高かったですね。メモリが2M、ハードディスクが40MB程度で50万程度だったかな。当時、Performerしかなかったんだけど、今と違い、当時はMIDIのタイミングが良くなかったんです。カモンミュージックの方が、全然タイミングが良かったです。現場のみなさんには黙ってたけど(笑)、リズムが悪くてね。フレーズサンプリングした音を1小節のあたまでトリガーして鳴らしても、次の音のあたまでラグが取れちゃうくらい、タイミングが良くなかった。

当時のPerformerはグラフィックが重かったので、そのせいもあるのかな?わからないですけど。1台壊れたら次の仕事に支障が出るので、Mac PLUSは自宅用とスタジオ用に2台買って、自分にとって、ものすごい出費だったですね。その次が、SE30を2台買って、その次がII Ciかな。シーケンサーは、VISIONも使ってましたけど、VISIONの方がタイミングが良かったので、クラブ系の仕事の時は、VISIONで打ち込みしてました。

それから、VISIONは次第に使わなくなって、Logicが出たらすぐ買ったんだけど、あんまりうまく飲み込めなくて。Pro Toolsは知り合いが、Sound Designerを使っていて、当時はレコーディングに使うんじゃなくて、2トラックのオーディオを編集、再生するだけだったんだけど、「音がいいなー」と思っていて、個人的にはMIX PLUSが出たときに買いました。98、99年頃かな。

Rock oN:お伺いしていると、新しいもの好きですよね?

瀬川:そうですね。最近は、ちょっと落ち着いてきましたが。昔は新しいソフトが出ると、とりあえず買っとくみたいなことがあったけど。当時は進歩の度合いが大きくて、楽しかったからねー。ある時から、音質よりも便利さを優先した製品が出来てたからだと思うんですけど。その辺りからちょっとひいてきて、明らかに自分で使わないので買わなくなっちゃいましたね。自分はオリジナルのシンセの音を知っているので、例えばProphet-5のシミュレーションが出た時も、すごい似ているんだけど「全然こんなもんじゃないよ」という気持ちもありつつ、便利だから使っていましたけど。

最近の製品では、FIXED NOISE OTTOは面白かったかな。普段よく使うのは、安定しているので、Access Virus Indigoです。音が太くて気に入ったのは、ULTIMATE SOUND BANK ULTRA FOCUSですね。生音系だと、VIENNAはGIGA SAMPLERと同じく、よく使ってます。

Rock oN:弦などは、VIENNA等使って自宅で作って、スタジオで生に差し替えるパターンだと思いますが、かなり自宅で音色等も含めて作り込んで行かれるのですか?

瀬川:いや、いくら作り込んでもやっぱり生にはかなわないから(笑)。アタックしてからの、例えば2秒くらいまではいいんだけど、生の弦だと、そこから先の抑揚があるからね。スタジオで生に差し替えるデータはそこそこ程度にしか作り込みしません。バンバン、クオンタイズして先に進みます。

最初の頃は、とんでもないアレンジしていくと1stヴァイオリンの人が帰りがけに、「キミ、もうちょっと勉強しなさい。」と言われる訳ですよ(笑)。そうすると、ものすごく恐ろしい訳なんですよ(笑)。もしかしたら、その人があちこちの現場で、「瀬川、全然書けないよ。」って話をすると、もう、僕に仕事来なくなるかもしれないし。その緊張感といったら、半端じゃないですよ。

Rock oN:じゃあ、現場で鍛えてきたという感じなんですね?

瀬川:そうですね。それでも本は読んだり等々してきたけど、スタジオでアレンジの仕事をやるのに何が難しいかというと、本に書いてあるものって、例えばビッグバンドの編成って4-4-5で説明されているんだけど、ブラスを4-4-5入れられる仕事ってそんなにないから、「今回、ビッグバンドみたいなサウンドにしたいんだけど、まあ、生8人かな。」と言われたら、それでなんとかしなきゃいけないんです。その4人をどこに、どう割り振るかというのを考えなきゃいけない。

サックス、トランペット、トロンボーンをそれぞれ何人呼ぶのか、そういう割り振りの方が、実は難しいんです。教科書通りには、なかなか人数集められない。人数がある程度揃わないと鳴らないのがバイオリンなんです。「今回ハリウッドっぽい弦が欲しい」という仕事で14人程度ミュージシャンを呼べる予算があるとします。その場合は4-4-2-2-1の13人呼ぶよりも、バイオリンだけ8-6と呼んで人数感を出した方が結果的に良い場合もあるんです。逆にしっとりとした空気感を全体で出したい時は4-4-2-2-1で組んだ方が良いんですけどね。

Rock oN:自宅で、そういう編成の部分まで見据えてアレンジされる訳ですね?

瀬川:そうです。後で生になるものは、そこそこのプログラミングしかしないし。本番までの残るパートは、最近はVIENNAをよく使ってます。VIENNA同士でアレンジを組んでると、混ざりのことを気にしなくて済むんですよ。弦だけのすごい急ぎの仕事の場合は、Sonic Implants使った方が手っ取り早いんですけど、VIENNAとは、また空気感が違う仕上がりになりますね。

Rock oN:ソフトシンセに関していうと、今後もさらにいろんな優れた製品が登場すると思いますけど、生に追いつくような製品は出てくると思いますか?

瀬川:先日、雑誌レビューで、GARRITAN STRADIVARI SOLO VIOLINを使ってみたんだけど、ものすごくマニアックで色んな奏法がスイッチで切り換えできるんだけど、もうそこまで行くと、バイオリンの奏法の知識が十分でないと使いこなせない。それから言えることは、ソフトウェアのレベルがある程度まで上がっても、作曲する側のレベルが専門職以上の力量がないと、使えない状態になりますよね。

だから、ライブラリの音源のクオリティがあがるのと、シンセのレベルが上がるのはちょっと違う話だと思います。ある程度から先は、奏法、アレンジメントのノウハウがないと使いこなせなくなっちゃうでしょう。実際に生の楽器を触ってない人に、それがはたして出来るかというと難しいですね。全く別の発想で使うという可能性はもちろんありますが。

スタジオのハードウェアについて

Rock oN:話は変わりますが、ハードウェアのこだわりはありますか?

瀬川:モニターは一回りして、YAMAHA NS-10M PROに戻りましたね。前はGENELEC 1029を使っていたんだけど、作曲しながらバランスを取っていかないと、次に進めない感じがあるんですよ。NS-10Mの場合は、自分にとってある程度塊ある音になるので、作曲してる時はその方がやりやすいんです。あまり細かいところまで音が見えない方が、作曲には使いやすい。TDの時は、また別ですけど。あとは、テレビの仕事が多いので、ラジカセ SONY ZS-M5をよく使います。

今、テレビは、再生装置的には微妙な時期で、今売ってる液晶テレビはOKだけど、3、4年前の液晶テレビは、薄いスピーカーが入ってる感じがすごいして、低域が入らないし歪んじゃうし、ボコボコ鳴っちゃうんです。今、お茶の間レベルだと、ブラウン管テレビ使ってる人もいるし、液晶テレビの初期型もいるし、新しい液晶に買い替えた人もいるから、これぐらいのラジカセでバランスを確認する必要があるんです。僕の音楽人生のなかで、普通の人が聞いてる音楽再生環境は、今が一番悪いんじゃないかな。明らかに進化していない。僕が子供の頃って、ラジカセ以上になると、システムコンポを買わなきゃいけなかったから、家庭でもいい音で聞いてたんですよね。

Rock oN:壁に入ったラージモニターは?

瀬川:UREI 811が入っているんですけど、仕事の時はほとんど使わないですね。もともと、このスタジオに入居する時からあったんですよ。リスニング用としてJAZZや、70年代のロック聞くにはいいんですよ。

Rock oN:アーティストと職業作曲家も含め、プロフェッショナルとして音楽を作る時に気をつけていることはありますか?

瀬川:コマーシャルなので、一応、お茶の間レベルのことも考えなければいけないんですけど、消費者の想像できる範囲は飛び越えてあげたいと常に思ってます。でも、それが離れすぎるとお茶の間レベルに理解してもらえず、普段の生活の中で楽しめない音楽になってしまうので、そうならない範囲になるよう気を付けてはいます。そう言っても、ベタな仕事もあるので、その場合はあまり冒険的な事はできません。クライアントの守るべきコーポレート・カラーがある場合もありますから。

床屋と同じようなところがあって、「ショートカットにしてくれ」と言われて、「いや、絶対似合うからパンチパーマにします。」という訳にはいかないですからね(笑)。職業作曲家にはそういう部分がどうしてもありますね。でも、たまにアフロにして世の中にパーンと出したらすごいだろうと思う時もあるんです。そういう時は、“ショートカット的なもの”をやった上で、こういうものも考えついたんですがと言って、“アフロ的なもの”も自分で勝手に作って、「どっちがいいでしょう?」とプレゼンテーションすることはありますよ。昔はもう少し緩かったんですけど、最近は企画の段階で「こういう物になります。」とがっちり決まってる場合が多いので、僕のところに来た段階でそれをひっくり返すなんてことは出来ません。

お話を伺うまでは、分からないものです! Pro Toolsを先進的に使うというイメージがあった瀬川さんですが、その原点が、ロックギター少年だったこと、ジャズ好き青年だったこと。業界のキャリアスタートが、ローディーからだったこと! 今となってはビンテージと呼ばれるアナログシンセサイザーやFairlightにも精通されていること。取材スタッフに同世代の人間がいたこともあり、コンピューターミュージック黎明期にまつわる当時の思い出話にも花が咲きました。

瀬川さんは、まさに、当時から現在まで、音楽制作環境の発展を現場で体験されてきているわけで、実体験を混ぜながら話される内容に説得力があり、とても興味深いお話をお伺いできました。さらに、ソフトシンセの未来に関しても、あくまでもミュージシャン、作曲家といった使う人間の側にその鍵があるといった洞察は、日々、新製品が次々に出てくるのを目にしている私たち取材陣にとって、印象的なお話でした。

このコーナーでは、音を作り出す活動をされている方の出演を募集しています。ミュージシャン、サウンドエンジニア、作曲家、アレンジャー、はたまた音効さんや声優さんなどなど。音楽機材に興味を持っているかたなら、なおOKです。お気軽に、下アドレスまでご連絡下さい。また、ご感想、ご希望等もお待ちしております。連絡先アドレス : store-support@miroc.co.jp

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