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M.I.DよりUTA MPEQ-1(モノラル・プリアンプ&EQ構成のチャンネルストリップ)のデモ機を提供していただきましたので、すぐに分解のうえ、試聴をしてみました。
昨今のアウトボードはICやパーツのクオリティを下げる事で製造コストを落としている事が多いためあまり期待はしていませんでしたが、実際開けてみたところ実直なディスクリートの製品でコンセプトもしっかりとあり素晴らしい作りでした。この後じっくりご紹介いたします。
UTA とは
Eric Valentine
Larry Jasper
米国カリフォルニア州に拠点を置くUTA (UnderToneAudio)は、創設者であり自身のエンジニアとしての経験に基づいてプロダクト・デザイナーを務める”Eric Valentine”と、GMLやQuad Eight製品の回路設計に携わってきた来歴をもつ”Larry Jasper”の両名が立ち上げたメーカーです。
「Musicality」と「Flexibility」、この二つのキーワードを柱に据えて製品開発を行うUTAは、ユーザー目線で必要とされる機能を詰め込み、多様化するニーズに応えるレコーディング・ギアを生み出し続けています。
※代理店M.I.D HPより
まるで丁寧に作られたコンソールのよう
ではMPEQ-1の中を覗いてみましょう。本製品の内部構成はINPUTトランスx1、OUTPUTトランス(Cinemag社製)x1のチャンネルストリップです。
EQに関しては各帯域で同じ回路が使用されており、旧世代の機器でいえばNeve10XXシリーズと同じ内容構成になっています。細かくIn/Bypassがかけられるように、IOのスイッチが豊富なのは特徴的で、バンド帯でその部分が不要であれば外す事ができ、回路図的な出力部の要所要所をスイッチでコントロールができるようにしているのはメンテナンスの技術者らしいつくりだと感じました。
また、何よりもボードごとの組み込みの仕方がメンテナンス時に問題を把握しやすいように作られており、Neve BA283やAPI2520のようにamp部分の入れ替えも、またボード自体の転用もできるようになっていて、理にかなっています。
また、この部分部分のブロックダイヤグラムとしての考え方が随所に見られるのが、今時の機材としては面白いと言えるところでしょう。Mic OutがMic Inの横にあり、傾向としては無色かつ綺麗な質感と別のMicpreとの組み合わせも可能となっています。ここは他のメーカーの製品と混ぜても破綻しないキャラの自信がうかがえるところでもあり、トランスに関しても最終の出力段でCinemagのOUTPUTトランスを通さない、という選択もできるようになっています。
Mic Inに関しても表・裏と両方にInがあり、D.IでのInputの他、別の機材をつないだ際にインピーダンスの切り替えができるのも、この機材単体以外の機器を考えた設計となっています。またインピーダンスを変更する事でMicPreとしても音色が変わるので、そこもとても考えられているな、という点です。
画像を見るとわかると思うのですが、想像以上に複数の回路が搭載されていながら1Uユニットを実現している理由は、チップ抵抗などの今の技術によってサイズダウンしているから。作りや回路構成、考え方はまるで丁寧につくられたアナログコンソールモジュールそのものであり、とても好感が持てました。電源に関してもスイッチングではなくトロイダルに3端子。ケース自体も堅牢でコストに関して妥協している点はありません。
コンデンサもラジアル型のNichicon。シリーズも統一されておりロータリーボリュームはgreyhill、VUメーターはSifam。全てのパーツができるだけ一般化された手に入りやすいものの中で、高価でも安価でもないところを選択しているのも、メンテナンス性から言っても最適な選択だと思います。
Sound
さて音の方ですが、無色なキャラでありつつオールディスクリートの性能のおかげで立ち上がりの早さやS/Nの良さを感じます。そしてトランスを通せばアナログ特有の中域のサチュレーション感も程よく付加されます。どちらにしてもマイク自体の個性を引き立たせる高い品質のMicPreです。
EQに関しても透明度の高いクリアな音質。効きもそこまで過度ではないものの使いやすい。Qのパラメーターの変更はスイッチですので、コントロール性能はそこまで高くないものの、音自体は使いやすい印象です。
下の動画はメーカー公式。MPEQ-1のEQのON/OFF聴き比べができます。
MPEQ-1は手放しで良いと言えるほどのチャンネルストリップです。冒頭でも書きましたが昨今稀に見る無駄なく実直で、かといって手を抜いている部分が全くない素晴らしい機材だと思います。問題にするとすれば値段。こちらはそれぞれがボードで組まれた回路構成となっているので、大量生産になるほど、低価格になり、複数台あれば、ユーザー側でボードの交換作業のみでNGの洗い出しも可能になるなど、利点が多いのですが、現在の価格は¥378,000。少し高めの設定であるとは思います。
MPEQ-1は往年のエンジニアの方々にぜひ中身と音質を確かめていただきたい、と言えるものです。派手なキャラクターが主流の現在ですが、真に音質を追求するのであればうってつけの1台になります。願わくば、販売数が伸びて、大量購入が可能な値段帯まで国内外で流通すればいいのですが。
記事内に掲載されている価格は 2018年5月14日 時点での価格となります。
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