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第一線で活躍するクリエーターのインタビューやコラムなど、音楽と真摯に向き合う作り手の姿があなたの創作意欲を刺激します!

25
Mar.2016
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【Build Up Your Studio番外編】『電源&音響設計』から見たスタジオ事例


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3月、4週連続で実際のスタジオ事例をクリエイターとデザイナーの両目線からご紹介してきたBuild Up Your Studio。あなたのスタジオを作るということを改めて考える機会になっていただけているかと思います。
今回は番外編として、更にディティールに踏み込み、実際にスタジオを作る際にどのようなことを考え、工夫を凝らさなければならないかということをターゲットに、ROCK ON PRO Product Specialist 洋介が電源設計と音響設計の両面を考えていきたいと思います。

Yousuke Maeda

レコーディングエンジニア、PAエンジニアの現場経験を活かしプロダクトスペシャリストとして様々な商品のデモンストレーションを行っている。映画音楽などの現場経験から、映像と音声を繋ぐワークフロー運用改善、現場で培った音の感性、実体験に基づく商品説明、技術解説、システム構築を行っている。

ROCK ON PRO : 前田 洋介

1:音質に直結!スタジオ電源の設計を考える!

自宅での作業環境と大手スタジオの環境での違いは数多く有りますがその中でも大きいのが空間音響の設計と電源。先ずはその電源から掘り下げてみたいと思います。

普通に一般家庭であれば100Vの商用電源が各部屋に引かれ、コンセントに機器を繋げば普通に動くと思います。音響用に配慮された電源とは一体何なのでしょうか?高級な電源ケーブルを使うとかではなく、もっと根本的なところから見ていきたいと思います。

先ずはノイズの存在。発電所で作られた電気は長い距離を旅して各世帯へ配られています。そして、分岐を繰り返し、各家庭に入った後でも他のコンセントにはエアコンがつながり、冷蔵庫がつながりといった状況が普通だと思います。マンションであれば、引きこまれた電源でエレベーターが動いていると思います。今挙げた、エアコン、冷蔵庫はインバーターという高周波のノイズを発生し、それがコンセントから逆流しています。エレベーターであれば巨大なモーターを動かします。

モーターというのは構造的には発電機と同じもの。自身が動くことにより発電した電力が逆流しています。他にも蛍光灯などいろいろとありますがこのような外部から逆流してきたノイズが音質に影響を与えます。機器に対しては、動作が不安定になったりということはまずありませんが、微細な電源のノイズは音声信号として、アンプによりそのまま増幅されスピーカーから飛び出すこととなります。これは、アンプ(増幅器)は電源から得た電力を音声信号に足すことによりその動作を行なっているからです。A級動作だから、D級動作ということに関係なくこれらの電源に含まれるノイズはアンプにより顕在化することとなります。それでは電源に乗ってくるノイズをどのように取り除くか?ということがその課題となります。よくオーディオの世界では電池駆動が理想電源と言われますが、まさにその通り。アンプが必要とする電源は直流電源。それを起電することが出来るのは電池ということになります。

しかし、スタジオの機器を考えるとこれは現実的ではありません。作業を行なっていて盛り上がったところでバッテリー切れ、、、、そんな悲劇が用意に想像できませんか?それを解決するのがインバータータイプのUPSと呼ばれる機器です。これはコンセントの交流電源を一旦電池に蓄えるために直流にし、充電をしながら電池からの直流出力を利用。もう一度交流に直して出力を行うという機器。完璧に思えますが、弱点もあります。それは常に充放電を繰り返しているために電池の寿命が短いということ。原理的には理想的な環境を作ることが出来ますが、そのためのランニングコストはかなりの額となります。また、鉛電池(車のバッテリーと同じタイプの電池)を利用するものが多く、重量も体積も大きいのがなかなか厄介です。

『DaisukeSuzuki Studioでは家電関連と音楽用途で配電盤から完全にスプリットされた構造を採用。ノイズカットトランスも備えている』

実際の大規模スタジオではどのような対策が行われているかというと、大型の絶縁トランスが採用されるていることがほとんどです。絶縁トランスとは、外部からのノイズを通さない特別な設計がなされたトランスのことで、外部のノイズを100%除去することは難しいですが、問題となる可聴帯域のノイズはほぼシャットアウトすることが可能です。これを分電盤(家庭にあるブレーカー盤のこと)の手前に入れることにより、外からのノイズから遮断しようという作戦です。トランスの利点は、導入してしまえば、ほぼ壊れることもなく半永久的にノイズを除去し続けてくれるという点で、弱点はやはり大きく、重く、自身が震えるために物理的なノイズ源となる可能性を秘めているという事です。自社ビルのスタジオなどでは、大型のトランスを屋上に設置したりといったことが行われています。ホームスタジオの場合には、振動の気にならない前室など、スタジオ外に設置をすることがほとんどです。

インバーターは理想の電源を供給してくれますが、ランニングコストを考えれば絶縁トランスです。そして両方共、高価な機器です。つなげる機器の電源容量を考え、将来的に追加される予定の機器の電源容量を足しあわせて、少し大きめの物を選択することになるかと思います。後からの追加は大変な部分ですので、予めしっかりと予算を立てて作っておくことが、スタジオ設計のキーポイントです。電源容量計算のお手伝いから、どれくらいの規模で設置するのがいいのかといった相談まで、是非ともお問い合わせいただければと思います。

2:音響設計のポイント 〜物理的な設計と電気的な補正〜

音響設計というのが、やはりスタジオ設計にとっては花形。部屋の形状から吸音、反射のバランスなど考えなければならないポイントは非常に多岐にわたります。ここは経験と知識、そして入念な事前のシミュレーションが活きる部分です。餅は餅屋ということでこれまでのスタジオ施工でご紹介したSONA様、日本音響様、アコースティックエンジニアリング様、環境スペース様等の専門業者におまかせをするのがいいと思います。もちろん内装の目に見える材料などはデザイン、意匠となりますので是非とも理想を伝えて詰めていってほしい部分ですが。

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大島su-kei氏のshimokitazawa Studioでは一人DIYならではのデザインへのこだわりが光る

自分で設計検討をしてみたいという方は、是非ともProceed MagazineにSONAさんが連載している音響学のコーナーをじっくりと読み込んでいただければと思います。(普通は挫折すると思いますが。。。)スタジオの難しいところは、2次元ではなく3次元の空間であるということ。平面であれば、ある程度予測がしやすいものが3次元の空間になると一気に考えなければならないポイントが増えてしまいます。

と言っても、物理的な音響内装の工事だけで理想の音環境が出来上がるということはまずありません。どのような材料を組み合わせて行ったとしても完全にフラットな環境にすることは非常に難しい(不可能と言ってもいいかと思います)からです。スタジオの音響として適度な残響も必要です。完全にデッドな無響室のような空間では息がつまって作業にならないと思います。かと言って過度に反射が多ければ位相の崩れにつながりますし、定位も崩れてしまいます。そこでおすすめしたいのが、電気的な音響調整の行える機器で、基本は音響施工として物理的に仕上げ、細かい調整は電気的に行なってしまおうと言う考え方です。これはサラウンドなどスピーカーセッティングの難しいスタジオでは当たり前のように導入されている手法で、古くはYAMAHA DME64Nのようなプロセッサーでグライコ、ディレイを駆使して調整を詰めるというやり方です。最近のトレンドはTrinnovのような自動補正プロセッサーにより詳細に渡り補正を行うということが行われています。今回の特注の事例では、松竹映像センター様はreal sound labのCONEQ APEQ-8DIOという補正プロセッサーが挿入されています。残念ながらこちらは製造完了となってしまっています。

MitomoStudioShibuyaではGenelec SAMシステムにより2室のモニター環境を均一化
MitomoStudioShibuyaではGenelec SAMシステムにより2室のモニター環境を均一化
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今回の特注の事例では松竹映像センター様はreal sound labのCONEQ APEQ-8DIOという補正プロセッサーが挿入されています。

スタジオを作るに当たり、重要と思われる2つのポイントを掘り下げてみました。この2点は写真などには写ってこない隠れた部分の話です。この『見えない部分』に如何にコストをかけるかがそのスタジオがよりよいものになるか、見た目だけスタジオっぽく仕上がるのかという大きな境目になっていると思います。実際にマイスタジオを作りたいと思い立った時はこれらのことを思い出し、是非ともより良いスタジオを作っていただきたいと思います。

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    記事内に掲載されている価格は 2016年3月25日 時点での価格となります。

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