音楽をやっていた経験は、映像制作にも活きている
——— 渡邉さんは、さまざまな映像作品を手がけられていますね。
渡邉 そうですね。仕事の内容としては本当にいろいろで、ミュージック・ビデオはたくさん手がけていますし、来週はカメラマンとしてテレビCMの仕事が入っています。でも、比較的音楽系の仕事が多いかもしれません。あとはそこから派生して、ファッション系の仕事とか。
——— クライアント・ワークがほとんどですか?
渡邉 基本的にはそうです。ビデオグラファーと言われることもあるんですが、自分の作品をYouTubeで公開したりはしていなくて、ほぼクライアント・ワークですね。現在はROMという自分の会社を設立して仕事を受けているんですが、会社と言ってもフリーランスの集まりのようなもので、プロジェクトごとに合う仲間をアサインして、仕事をこなしているような感じです。
——— 撮影や映像編集のスキルはどこで学ばれたのですか?
渡邉 僕は映像系の学校の出身ではなく、それ系の制作会社に所属していたこともないんです。だからいわゆる師匠と言える人もいなくて、完全に独学ですね。この世界に入ったきっかけは、学生時代に趣味で映像を撮って遊んでいたのですが、それを見たある企業さんから広告の仕事をいただいたんです。僕は特に映像を作っているということを人に言っていなかったのですが、その案件をきっかけに周りに知られるようになって、そこからトントン始まっていった感じですね。
——— 活躍されている映像クリエイターの中には、若い頃はバンドやDJをやっていたという人もけっこういますが、渡邉さんは特には?
渡邉 いや、僕もやっていました(笑)。DJをやっていたので、AKAI MPCを使ってトラックメイクをしたり。でも本当に趣味というか、友だちとそういうことをして遊んでいたという感じです。音楽ではなく映像の方に行ったのは、キヤノンからEOS 5Dが発売になったのが大きかったですね。学生時代はソニー ハンディカムで撮っていたんですけど、EOS 5Dで一気に映像のクオリティが上がったじゃないですか。自分でもこれだけのクオリティの映像を撮影できるのであれば、もう一度本格的に取り組んでみようと思ったんです。
——— DJやトラックメイクをやられていた経験は、映像制作に活きていると思いますか?
渡邉 僕の場合は活きていると思いますね。先ほども言ったとおり、ミュージック・ビデオや音楽系の仕事を手がけることが多いのですが、自分で音楽をやっていたからこそ、アーティストさんが次のタイミングで何をするか、大体イメージがつくんです。次の拍で、こういう展開になるなとか、ドラムのフィルがくるなとか。また、昔遊んでいたアーティストさんが有名になって、その繋がりでミュージック・ビデオを依頼してくださることもあります。
——— ミュージック・ビデオを手がけられる際に、渡邉さんが気をつけていることというと?
渡邉 そうですね……。これはミュージック・ビデオに限った話ではないのですが、僕は仕事を依頼してくださったクライアントさんとじっくり話をして、それを元に映像を作るのが好きなんです。僕の方で先に映像を作ってしまって、“これが合うからこういう風にしましょう”という作り方はしません。やはり楽曲だったら、それを創作したアーティストさんの想いがあるでしょうし、そこからイメージしている彼らの画というのがあると思うんです。事前にじっくり話をすることで、その想いを上手く汲み取って作るというのが基本ですね。
Blackmagic Pocket Cinema Camera 6KとDaVinci Resolve Studioを活用
——— 現在使用しているカメラについておしえてください。
渡邉 最近はBlackmagic DesignのPocket Cinema Camera 6Kと、ソニーのFX3の2台をメインで使っています。自分で所有しているのはこの2台ですが、案件によっては別のカメラをレンタルすることもありますね。2台のカメラの使い分けに関しては、Pocket Cinema Camera 6K G2はRAWで撮影できるので、後でカラーグレーディングが必要になる案件のときに使用しています。それこそミュージック・ビデオだったり、Webサイト用のPR動画だったり……。しっかり腰を据えて撮影できる案件ではPocket Cinema Camera 6Kを使うことが多いですね。やっぱりRAWで撮ると、カラーグレーディングの“色のり”が良いというか、ふくよかな画になるんですよ。RAWと言っても、データ量はFX3で4K動画を撮るよりも小さかったりしますから。一方のFX3は、オート・フォーカスが使えたり、ワン・マン・オペレートに向いているカメラなので、1人で現場をこなさなければならないときに使っています。
——— Pocket Cinema Camera 6Kを使い始めたきっかけは?
渡邉 周りでBlackmagic Designのデジタル・シネマ・カメラを使っている人が結構いたので、ずっと気になっていたんですよ。最初の弁当箱の形のやつ(Blackmagic Cinema Camera)とか、Pocket Cinema Camera 4Kとか。だからずっと欲しいなと思っていて、Pocket Cinema Camera 6Kが発売になったタイミングで購入したんです。
——— 実際に使用されて、Blackmagic Designのデジタル・シネマ・カメラはいかがですか?
渡邉 すごく気に入ってますね。このサイズ感と軽さで、RAWで撮れるカメラって他に無いじゃないですか。それとBlackmagic Designの製品って、UIがめちゃくちゃ分かりやすい。初めて触る人でも感覚的に使えてしまうというか。その辺りもいいですよね。
——— どんなレンズを組み合わせてますか?
渡邉 個人的な印象ですが、Pocket Cinema Camera 6Kはかなり柔らかい画づくりのカメラだと思っているので、ZEISSのCompact PrimeやSIGMAのHigh Speed Primeなど、比較的硬めの画になるレンズを組み合わせています。そこで柔らかい画のセンサーとのバランスを取っているというか。もちろん、SIGMAの18-35mmといった普通のレンズを組み合わせることもありますけどね。SIGMAのレンズは、画がカリッとするイメージがあるので、プロミストやハイブラといったフィルターを入れて使うことが多いです。
——— オールド・レンズは使用しない?
渡邉 Pocket Cinema Camera 6Kにオールド・レンズを組み合わせると、ふわふわの画になってしまう(笑)。もちろん、そこもバランスなので、ふわふわの画にしたい場合はそういう組み合わせもいいと思いますし、最終的にどういうトーンにしたいかによると思います。
——— Pocket Cinema Camera 6Kで撮影するときは、基本RAWですか?
渡邉 クライアント側からの指定が特に無ければ、基本RAWで撮ります。ちなみにストレージはSSDで運用しているのですが、6Kで60fpsや59.94で撮影すると、たまにコマ落ちしてしまうんですよ。ぼくが使っているSamsungのSSDが古いからかもしれないですけど(笑)。なので僕は、6Kではなく5.7Kを基本にしています。5.7Kですと、割とどんな設定でも安定するんですよ。画質的にも十分ですしね。
——— 映像編集ソフトは何をお使いですか?
渡邉 基本オフライン編集はAdobe Premiere Pro、カラーグレーディングはBlackmagic Design DaVinci Resolve Studioでやることが多いですね。僕はカラーグレーディングを自分でやるのが好きで、カラリストとして呼ばれる案件もあったりするのですが、そういった作業ではもちろんDaVinci Resolve Studio一択です。案件によっては、DaVinci Resolve Studioでオフライン編集までやってしまうこともあります。カラーグレーディング用にBlackmagic Design Micro Color Panelも持ってますよ。
——— パソコンはどんなものを?
渡邉 M4 MaxのMacBook Proで、RAMは64GBです。でもM4 MacBook Proに買い替えたのは最近の話で、つい最近までIntelのMacBook Proだったんです(笑)。でも、Blackmagic RAWは軽いので、IntelのMacBook Proでも何とか作業できていました。H.264/H.265のMP4よりも、Blackmagic RAWの方が軽い印象でしたね。
『RADIO SAKAMOTO Uday』のアフター・ムービーのプロダクション
——— 2月10日に開催された坂本龍一さんのトリビュート・イベント、『RADIO SAKAMOTO Uday』のアフター・ムービーを制作されたそうですね(『RADIO SAKAMOTO Uday』の“Official After movie”は、J-WAVEのYouTubeチャンネルで公開されています)。
渡邉 はい。撮影から編集まですべて手がけました。とは言っても、今回のイベントは3つの会場での開催だったので、普段から一緒に仕事をしているカメラマンを3人入れさせてもらって、サポートも入れて合計5人のチームで手がけた感じです。3人のカメラマンを各会場に1人ずつ配置し、僕はデータを管理する場所にいながら指示を出すと。データ量が大きいので、定期的にバックアップしないと、すぐにいっぱいになってしまいますから。
——— カメラマンにはどのような指示を出されたのですか?
渡邉 引きの大きな画はもちろん欲しいんですけど、アーティストさんの表情をしっかり狙ってほしいということは伝えましたね。それと、お客さんも俯瞰で全体を撮るというよりは、会場の中で一番盛り上がっている人を狙ってほしいとか。そういうときに標準的なズーム・レンズで撮ると、お客さんの側も自分が撮られているということに気づいてしまうんですけど、長玉のレンズを使って、お客さんが楽しんでいる素の表情を撮ってほしいということはリクエストしましたね。
——— 会場のカメラマンとのやり取りはどのように?
渡邉 普通にインカムと、あとはLINEですね。こういうイベントですとハプニング待ちみたいなところがあるので、何かおもしろいことが起きたときに連絡して、“こっちに回ってきてくれ”と伝えたり。
——— タイムテーブルを拝見すると、出演者の数が多く、各アーティストの持ち時間もそれほど長くはないので、撮影はなかなか大変だったのではないですか?
渡邉 そうですね。最終的には2分ちょいくらいのムービーにまとめるわけですが、主催のJ-WAVEさんから、すべてのアーティストを入れ込みたいというリクエストがあったので、各アーティストの持ち時間の間にアングルを稼ぐだけ稼ぐという感じでした。演出が入りそうなタイミングを見計らい、カメラマンに“このアングルでスタンバっておいてください”と指示を出したりして、何とかやったという感じでしたね。
——— 当日の撮影機材についておしえてください。
渡邉 今回はPocket Cinema Camera 6Kの後継機、Pocket Cinema Camera 6K G2を3台用意しました。レンズは70-200mm、カメラはジンバルとハンディで手持ちです。ああいう会場では収録チーム以外が三脚を立てるのは難しいですし、今回はいろいろな場所を動き回ってアングルを稼がないといけませんでしたから。フォーマットは4Kの59.94fpsで、Blackmagic RAWの8:1で収録しました。収録したデータの容量は、トータルで4TBいっていないくらいだと思います。
——— 編集に関しては?
渡邉 今回はDaVinci Resolve Studioだけでやりましたね。音に関しては、J-WAVEさんから提供していただいたBGMがあったので、それを使いました。
——— 今回のアフター・ムービー制作で、Pocket Cinema Camera 6K G2について感じたことがあればおしえてください。
渡邉 やっぱりRAWで撮れるというのは大きいなと、あらためて感じました。今回の会場は暗かったので、ISOをギリギリに設定して、出演者にスポットがあたる瞬間を狙ったんですけど、RAWで収録しておけば、補正もラクなんですよ。僕の肌感覚かもしれないですけど、ProResよりもRAWの方が、露出を引っ張り上げても少し余裕があるというか。それと質感に関しても、Pocket Cinema Camera 6K G2で撮った方がリッチでふくよかな感じになりますね。リッチでふくよかな映像なので、派手な動きを付けなくても、十分見れる映像になってしまう。また、収録データの解像度が大きいので、デジタル・ズームができてしまうというのもPocket Cinema Camera 6K G2を使う利点だと思っています。6Kで撮っておけば、ほぼほぼ等倍までズームできてしまいますから。それは編集時にすごく助かりますよね。今回の“Official After movie”も、デジタル・ズームしている箇所がちょこちょこあります。
——— DaVinci Resolve Studioでのカラーグレーディング時に気を付けていることはありますか?
渡邉 何でしょうね……。僕はディレクターも撮影も両方やるんですけど、作品の中でベースになる画を一番最初に作ってしまうんです。そして作品全体を通じて、その画を基準にしてグレーディングするんです。
——— 自分でミュージック・ビデオを作ってみたいと思っている音楽クリエイターに、Pocket Cinema CameraやDaVinci Resolve Studioはおすすめできますか?
渡邉 おすすめできます。特にDaVinci Resolve Studioはおすすめですね。やっぱり、いくら良いカメラで撮影したとしても、グレーディングをちゃんとやらないと意味がないんですよ。逆に言えば、グレーディングをしっかりやれば、それだけで割とリッチな映像になってしまう。DaVinci Resolveには無償版も用意されているので、まずは使ってみるといいのではないかと思います。
——— 本日はお忙しい中、ありがとうございました。
記事内に掲載されている価格は 2025年6月13日 時点での価格となります。
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