DaVinci Resolveが一番カラー・グレーディングを追い込める
——— 現在ビデオグラファーとして活躍されているうえでぃーさんですが、以前は音楽活動がメインだったそうですね。
うえでぃー :そうです。音楽活動を完全にやめたわけではないのですが、今は完全にカメラの方がメインになっていますね。
こういうことをやり始めたのは、コロナ禍でライブ・ツアーが全部中止になってしまったのがきっかけで、このままだとヤバいなと思い、とりあえずYouTubeでも始めてみるかと(笑)。
最初はもっとエンタメ系の内容を考えていたのですが、映像は良くしたいなと思って、初めてミラーレス一眼を買ってみたんですよ。そうしたらカメラの奥深さにどっぷりハマってしまい、今のような内容になってしまった感じです。
——— YouTubeのチャンネル名に付いている“millioneon”というのは?
うえでぃー :“millioneon”は自分を中心としたチームの名前で、それでお仕事を貰えたら嬉しいなと思って付けたんですが、結局ほぼ個人でやっているので、あまり意味が無かったですね(笑)。
——— うえでぃーさんのようなカメラをフィーチャーしたYouTuberやレビュアーはたくさんいますが、他の人と比較した自分の強みはどのあたりにあると思っていますか?
うえでぃー :ぼくは“喋り”を大事にしているんです。“え、喋り?”と思われるかもしれませんけど(笑)、今は機材やソフトが進化しているので、カッコいい映像って誰でも作れてしまうと思っているんですよね。
こういう言い方をすると語弊があるかもしれませんが、ちょっと練習すれば誰でも作れてしまうというか。でも、“これ、笑うてしまうな”という映像は誰でも作れるものではないと思っていて。ぼくはそういう映像を作るのが得意なので、それは自分のウリにしていますね。
——— 同じレビュー動画でも、単に見て役に立つだけではなく、見ておもしろいものを目指していると。
うえでぃー :そうです。やっぱり出演している人間のパーソナリティーって、とても大事だと思っているんですよ。それと、ちゃんとエンタメになっているかということは凄く考えていますね。
——— 現在、ツールとしてはどのようなものを使用されていますか?
うえでぃー :カメラは、ソニーのCinema LineのFX3をメインに使っています。
編集ソフトはBlackmagic Design DaVinci Resolveで、パソコンはM2 Maxの16インチMacBook Proですね。MacBook Proは、内蔵SSDは2TBですが、それ以外はフル盛りで、これくらいのスペックがあれば4K動画の編集も大丈夫です。
カラー・グレーディングをめちゃくちゃ細かくやり始めたりすると、少しカクつくことはありますけど、基本問題ないですね。ただ、SSDは最低でも2TBはあった方がいいと思います。動画のファイルって、びっくりするくらい大きかったりするので、容量がギリギリだったりすると、パフォーマンスに影響するんですよ。ですので、予算が許す範囲で、できるだけ大容量のものを積んだ方がいいと思います。
他には、たまにオーディオ・インターフェースとしてUniversal Audio Apollo Twinを使うくらいです。あまりゴチャゴチャと繋げたくない派なので(笑)、基本MacBook Proの中だけで済ませていますね。
——— 動画編集はすべてDaVinci Resolveで行っているのですか?
うえでぃー :以前、テロップ入れだけAdobe Premiere Proでやっていたこともあるんですけど、今は完全にDaVinci Resolveだけですね。
最初DaVinci Resolveのテキスト機能は、そんなに強くないと思っていたのですが、サード・パーティー製のMotionVFXというプラグインを使えば、DaVinci Resolveだけで全然いけてしまうことが分かって。
複数の動画編集ソフトを併用すると、どうしても画質が劣化してしまいますし、ファイルを移すフローが好きではないというのもあります。撮影したものをできるだけきれいな状態で仕上げたいので、今はもうDaVinci Resolveだけで作っていますね。
——— 動画編集ソフトは他にもありますが、DaVinci Resolveの魅力というと?
うえでぃー :何と言ってもカラー・グレーディング、これに尽きます。他にも動画編集ソフトはありますけど、DaVinci Resolveが一番カラー・グレーディングを追い込めるというか、できることの幅がめちゃくちゃ広い。ハリウッド映画やNetflixの作品でも使われていますし、現時点でDaVinci Resolveのカラー・グレーディングに優るプラットフォームは無いのではないかと思います。
——— 映像作品において、色味というのはやはり重要なんですね。
うえでぃー :そうですね。映像の世界には、色付けだけを専門に行うカラリストという人たちがいて、DaVinci Resolveでカラー・グレーディングだけを行うチームがあるくらいですから。それくらい映像においては色が大切なんです。
なのでぼくの場合、Log撮影といってあとで色を自分で好きに入れられるように撮るんですよ。RAWで撮った動画は、そのままだと眠たい色なんですけど、それをDaVinci Resolveを使って色付けしていくんです。時間をかけて、自分がイメージする色味に仕上げていくというか。
——— カラー・グレーディング以外にDaVinci Resolveで気に入っている機能はありますか?
うえでぃー :オーディオ機能のFairlightページですね。DaVinci ResolveはVSTプラグインに対応しているので、iZotope VEAやSonnox Claroを使っているのですが、どの動作もめちゃくちゃ軽いんですよ。
他にもVSTプラグインに対応している動画ソフトはありますが、動作が不安定だったり重かったりして、使いものにならなかったりするじゃないですか。なのでDaVinci Resolveも同じような感じなのかなと思っていたのですが、実際に使ってみたらまったく問題なくて、“何これ、全然いけるやん”って(笑)。DAWソフトと同じようにVSTプラグインを使用できるというのは、DaVinci Resolveの大きな特徴だと思います。
——— 動画編集だけでなく音編集までDaVinci Resolveの中で完結してしまうというのは大きいですね。
うえでぃー :今手がけているドラマにはMA担当のスタッフがいるので、音編集はその子に投げているんですけど、最終的な調整は結局ぼくのところでやることが多いんですよ。そういった場合も、DAWソフトを立ち上げずにDaVinci Resolveだけで済んでしまうというのは最高です。
うえでぃーさんに訊く、“カッコいいMVの作り方”
——— うえでぃーさんは、ミュージック・ビデオも多く手がけられていますが、カッコいいMVを作るコツがあればおしえてください。
うえでぃー :ひとくちに“カッコいい”と言っても、映像を作る側の人間が思うカッコ良さと、主役であるアーティストが思うカッコ良さって、けっこう乖離しているものなんです。ですから映像制作に入る前に、アーティスト・サイドとしっかり話をすることが重要だと思っています。
たとえば歌詞にも書いた人にしか分からないニュアンスがあったりするので、アーティストさんから話を訊くと、“なるほど、そういう意味だったのか”と思うことがけっこうありますしね。去年、ぼくが作ったMVの中にめちゃくちゃポップな映像のものがあるんですけど、アーティストさんと話をせずに勝手に作っていたら、きっとそんな映像にはなっていなかったと思います(笑)。
——— 他に何か気を付けた方がいいポイントはありますか?
うえでぃー :あとはやっぱりリズム感ですね。映像で一番大切なのはリズム感だと思っているくらいです。リズム感と言っても、楽曲のビートに合わせてカット割をすればいいかと言えば、そうでもないんですよ。あえてビートから少し外してカット割をする方がカッコ良かったりする。そういうリズム感をどれだけ意識できるかで、仕上がる映像がまったく違ってきます。
——— 音楽もやられているうえでぃーさんならではのアドバイスのような気がします。
うえでぃー :確かに映像を専門にやっている人で裏拍を意識している人なんていないでしょうし、それは音楽をやっている人の強みかもしれませんね。でも、ぼくの周りの映像をやっている人って、音楽上がりの人が多いんですよ(笑)。
あとはやっぱり、被写体の表情をいかにしっかり捉えられるかというのが重要ですね。時と場合によっては、表情を陰にすることもあるんですけど、白飛び・黒潰れしないように撮影するというのは大前提。
これはYouTubeでもよく話すことなんですが、カメラって光を捕らえる機械なので、照明は絶対に持っていた方がいいですね。照明を使って明るさを作り、ノイズの無い映像を撮るところから始める。特にMVを作るのであれば、照明はマストだと思います。
——— FX3のレンズはどのようなものをお使いですか?
うえでぃー :基本的にはオールド・レンズ、Carl ZeissのJenaというレンズをずっと使っています。
Jenaで撮ると、フレアという太陽の輪っかみたいなのが出て、それが凄く良いんですよ。レンズに関してはいろいろ使ってJenaに行きついた感じです。最近、1周回ってエモい動画が流行っていたりするじゃないですか。ちょっと古めかしい、“写ルンです”みたいなテイスト。ああいうテイストが欲しければ、オールド・レンズを使った方が圧倒的に早いですよね。
もちろん、撮影する映像によっては、ソニーのG Masterという一番良いレンズを使った方がいい場合もあります。ただ、G Masterのようなレンズって、どこまでいってもスチルのレンズという感じなんですよね。人が動いたときの画が、動画というより、写真がパラパラ動いているようなイメージというか。
——— Blackmagic DesignのPocket Cinema Cameraを使用されたことはありますか?
うえでぃー :もちろんあります。オート・フォーカスの精度はソニーに軍配が上がりますが、DaVinci Resolveとの親和性の高さで言ったら、Pocket Cinema Cameraの方が断然上ですよね。
Blackmagic RAWは、DaVinci Resolveで扱うと明らかに軽いですし、後々の編集のことを考えたらPocket Cinema Cameraで撮った方がやりやすい。
あとは単純にBlackmagic Designの色が好きな人が多いですよね。Blackmagic Designにしか出せない色があって、それはぼくも凄く好きだったりするので、そういうニュアンスが欲しいときはPocket Cinema Cameraを使うこともあります。
——— 最後に、この記事を読んでDaVinci Resolveに興味を持った人に、何かアドバイスがあればおしえてください。
うえでぃー :DaVinci Resolveは無料で落とすことができるので、興味を持ったならとりあえずダウンロードしてみればいいと思います。
無償版でも8割くらいの機能が使えますし、有償版もサブスクではなく買い切りなので安心です(笑)。これから使い始める人にアドバイスするなら、プライマリー・ホイールは使えるようになった方がいいですね。DaVinci Resolveでは、プライマリー・ホイールで暗部、中間部、明るい部分を調整していくんですけど、それによってコントラスト感も決まってくる。なのでまずはプライマリー・ホイールで自分の好きなコントラスト感を作れるように頑張ってください。
あとはぼくのYouTubeをぜひ見てほしいですね(笑)。RAWで撮った動画のカラー・グレーディングのやり方とか、きっと参考になるのではないかと思います。
——— 本日はお忙しい中、ありがとうございました。
記事内に掲載されている価格は 2024年4月24日 時点での価格となります。
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