第一線で活躍するクリエーターのインタビューやコラムなど、音楽と真摯に向き合う作り手の姿があなたの創作意欲を刺激します!
ーーー 簡単な自己紹介をお願い致します。
作編曲家、ギタリストの小木岳司と申します。J-POPアーティストへの楽曲提供をメインに活動しています。この度は素敵なオファーをありがとうございます。よろしくお願いいたします!
ーーー スタジオのこだわっているポイントを教えてください。
好きなものだけ置く事、日常生活もちゃんとする事、この空間の良さを活かす事を大事にしています。
我々はみんな日々何かしらの〆切に追われていて、限られた時間の中で常にスピードが求められるので、選択肢を絞れる部分は絞って極力迷ったり判断を遅らせる要因を減らすように心掛けています。
楽器、スピーカー、マイク、プリアンプ、プラグイン等々、どれが良いか迷ったものは出来る限り全部試して良いと思ったものだけ残し、(時に決めきれずいくつか残し、)すぐに自分の選んだ好きな音が出せるようにしています。
自分の耳で試して納得して取捨選択しているので、自分の機材を信頼しているし、言い訳の余地無く真っ直ぐクリエイティブな制作に取り組めて良いかなと。機材と健全な関係でいられる事も大事ですよね。
ホームスタジオなのであまりかさばらない様にしたいという気持ちもあります。何かをどかさないと通れないとか、ぶつかって動かさないように気を遣わないといけないみたいな状況が嫌で。
手札の数と生活のバランスは永遠の課題ですが、日常生活にストレスが無く、すぐに好きな音に手を伸ばせる今のバランスは割と気に入っています。
僕はアーティストでなく作家なので、自分色一本でなくある程度の表現の幅も求められますが、うちで賄えないものは素直に外スタジオに行って作業するように割り切っています。
広さの限られるホームスタジオでは、空気感の演出が必要なレコーディングが出来なかったり、低音が溜まりやすかったり等といった難点がある反面、広い部屋に比べて響きが少ない分考慮しなければならない要素が少なく済んだり、自分の好きな音を低コストでフットワーク軽く追求できるという利点があります。
スタジオの大小に関わらず、一つの場所で出来る事は限られているので、行く先々のスタジオの様々な「良い音」と照らし合わせつつ、うちでやるべき事、やらないべき事の取捨選択を楽しみながら日々チューニングを積み重ねています。
キャッチーな工夫としては、スピーカーが大きく重い為、スピーカーとラック機材双方の振動対策でProStyle KWD-200の天板を外し、スピーカースタンドを独立させたり、音の立ち上がりを速くし、部屋に対して木の響きを追加する目的で、Zaor Croce Standはアイソレーションパッドを剥がし、天板の木の面にスピーカーを直置きしたり、その分床との間はコンクリートブロックを挟んで振動の伝搬を抑えたりということをしています。
ただ非正規の使い方ですし、こうすると音が良くなるというようなものではなくて、この部屋で求める響きを得るための試行錯誤の副産物程度に思ってもらえればと思います。お試しは自己責任で!
その他、電源は自宅に200Vを引き込み、そこからダウントランスで115V電源を確保して、Audio Prism Power Foundation Ⅲで機材に運んでいます。電源のとり方も長らく試行錯誤していましたが、今の組み合わせが気に入って落ち着いています。
ーーー 自分にとって欠かせない機材たちとその理由を教えてください。
Dynaudio Core 47
Dynaudio Core 47は3wayのスピーカーで、ホームスタジオに置きやすい少し小さめなサイズで且つ背面壁の影響が比較的小さく済むフロントバスレフのものを探していて辿り着きました。
Class-Dでそれぞれのアンプを150W(HF)/500W(MR)/500W(LF)で動かしていることからも想像がつく通り、全帯域に渡って非常にクリアで音の天井と解像度が高く、3wayに期待する音の見えやすさが抜群です。
各スピーカーユニットのクロスオーバー周波数が475Hz(LF/MF)/5250Hz(MF/HF)にあるのが特徴的で、僕は普段歌モノやギターが目立つ楽曲を作る事が多いので、歌や生楽器の情報が最も詰まった中域を避けてクロスオーバー帯域を切ってくれている所も嬉しいです。非常に信頼していて、不動のメインモニターです。
iLoud Micro Monitor
iLoud Micro Monitorはモニター環境のバリエーションとして、サイズが小さく2wayでメインのCore 47に対して大きくキャラクターが異なる事、現代のホームスタジオでの普及率が非常に高い定番機種である事からセカンドモニターとして使用しています。
オケに対するメインボーカルの強さを確認するのに特に役立っていて、これで聴いて歌が前に来なかったら必ず手順を巻き戻す様にしています。
OLLO AUDIO S4X
OLLO AUDIO S4Xはホームスタジオ最大の問題である大きい音出せない問題を解決してくれます。
スピーカーと並んでヘッドホンも作家仲間と一緒に何度も何度も聴き比べを行っていますが、僕が重視する歌と生楽器の質感、脚色の少ない低域と解像度の高い中高域、開放型ならではのナチュラルさが特に素晴らしくて長く使っています。
密閉型ヘッドホンやイヤホンでのリスニングに慣れていると低音が物足りなく感じるかもしれませんが、サブ帯域までしっかり出力されているのでS4Xで仕上げまで行う事も可能です。妻が寝ていても制作が進められるのは本当に素晴らしい事です。
GRACE DESIGN m905
GRACE DESIGN m905はうちのスタジオでのモニター環境の要になっています。他の定番機も素晴らしい上、とにかく高価だし決断の決め手に欠けてなかなか踏ん切れずにいましたが、タイミングよくお求めやすい出物に巡り合わせた事でm905に決めました。
スピーカー、ヘッドホンと併せてモニター機材の勧めが並びましたが、ここが僕が最優先でがんばって投資した部分でした。
僕のようなプロデューサータイプにとって、制作終盤でのミックスでの活躍はもちろんのこと、普段のリスニング時でも楽曲から自分が取り入れられる情報量が全て変わるし、楽器の音作りから機材やプラグインの良し悪しの判断まであらゆる事に影響するのが聴く部分だと思ったからです。
ご自身のスタイルによりけりですが、「迷ったら音の出入り口から投資」という作戦は色んな方にお勧めしたいです。
ーーー スタジオでの普段のワークフローを教えてください。
Ableton Live 12で作編曲、レコーディング、ミックスを行っています。レコーディング、ミックスに関してはPro Toolsを使用する場合もあります。
Vocal Rec
自宅にシンガーを呼んで歌を録る時は求めるキャラクターに合わせてNEUMANN U87AiをLA-610mk2 もしくは BAE1073MP → Black Lion Audio SEVENTEENのチェーンに接続しています。
Acoustic guitar Rec
アコギは KM184 → LA-610mk2 で録る事が多いですがマイク2本とプリアンプ2つのバリエーションで幅広くずっと楽しめます。
’74年製のMartin D-28の音がとても気に入っています。プリアンプはざっくり言うと暖かいローとジュワッとするハイが欲しい時はLA-610mk2を、ドシッとしたローとゴリッと感が欲しい時はBAE1073MPをチョイスするという感じです。
LA-610mk2は初めて購入したプリアンプですが、その後様々な機種を試してきたもののずっと生き残っています。我々ギター弾きにはやはり真空管の音色がしっくりきやすいのかもしれません。
Electric guitar Rec
エレキギター、エレキベースを録る時はKemperを使っています。宅録のフットワーク、リコールのしやすさ、プラグインで再現できないロー感と歪み感、現代のハイファイなオケに負けないワイドレンジさ、リリースから随分経つのにいまだに同じKemperが使えてアップデートで新しい要素が追加され続ける設計の拡張性の高さ、全てにおいてリスペクトです。
Rigは有料・無料問わずかなり時間をかけて吟味してお気に入りのAuthorを探しました。ベースはBAEのインスト入力からKemperに接続したり、Empress Effects Bass Compressor Blueを噛ませる事も多いです。
ギターは基本直挿しですが、リードソロを弾く時はTSを噛ませたり、クセの強いビンテージBIG MUFFを使う事もあります。
また、Macbook proを持ち出して外のスタジオに行って制作する機会も多いので、 CalDigit TS4にUSB類を集約して、 自宅に帰ってきたらThunderboltケーブルで接続するだけですぐ稼働出来るようにしています。
ーーー 創作意欲を高める工夫や煮詰まった時の対処法などを教えてください。
これは多くの方に同意してもらえると思うのですが、自分にとって、制作において一番辛いフェーズは腰を上げる時です。何もしていない状態から何かを始めるのがとにかく面倒くさい。
実際、やる気を出す信号を脳が発するには手を動かす必要があるとのことで、でも俺はいま指一本動かしたくないんだよなとか思うんですよね…。制作が行き詰まった時も同じく、一旦何もしていない状態に戻ってしまうのでそこからの再始動がとても辛い。でも永遠に手を動かし続けることは不可能なのでこれはもう必ず起こるものとして受け入れて、そうなった時に自分をうまくあやしたり釣ったりする仕掛けをたくさんストックしておくのがお勧めです。
僕のストックの一つは上記スタジオでこだわっている部分でもご紹介した「好きなものだけ置く」ことです。つい触りたくなるもの、もう一度音を聴きたくなるものを仕掛けておけば、それを手に取る事でまず何もしていない状態からは抜け出す事ができるし、そういう遊び気分の時にインスピレーションも湧きやすいです。
何年もずっと良い音を作り続けるためにモチベーションのコントロールも大事だと思っています。好きで音楽をやっているはずなのに音楽と向き合うのが辛い時や、なんでこれやってたんだっけと思ってしまう事も時にはあると思うのですが、そういう時にも自分が好きなものが救いになってくれたりします。長く活動してくれる仲間が増えると僕も嬉しいです。
ーーー スタジオの現在の課題、将来的にグレードアップしたい事や導入したい機材などがあれば教えてください。
Dynaudio Core47に合わせるサブウーファーとしてDynaudio 18sはとても気になっているのですが、生活スペースとのバランスや果たしてこのスタジオでサブまで鳴らす必要があるかどうか等、懸念事項もあって保留しています。
あとはiLoud MTM辺りでドルビーアトモス環境を作ったり、プリアンプの味違い&ステレオ用途でAPI 3122Vを導入したりしたい気持ちもあるのですが、機材の手札数のバランスは本当に難しいところで、逆にもう少し機材を絞って更に判断を迷わないことにフォーカスしたい気持ちもあります。
いや、正直に白状するとPrism Sound Dream ADA-128をオーダーしてしまったので、もうしばらくはもやし生活かもしれません。お仕事頑張ります!
ーーー 最後に、告知などあれば教えてください。
僕が作編曲やギター・ベース演奏、ミックスで携わった楽曲のリストを公開しているので、お時間ある時にでも聴いていただけたら嬉しいです。どれも思い入れのある好きな作品です。
また、下北沢でたびたびジャムセッションをやっているので、SNSなどで告知を見かけたらぜひお気軽に遊びに来てください。
新たなクリエイター仲間、セッション仲間、機材トーク仲間と出会えることを楽しみにしています。
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記事内に掲載されている価格は 2024年4月12日 時点での価格となります。
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