第回:アナログをシミュレートしたコンプレッサー(後編)
多くのDTMプラグインは伝統的なアナログ機器の特徴をシミュレートしていますので、アナログ・コンプレッサーの効果的な使用方法を知っておくとミックスに役立ちます。後編ではダイオードブリッジ、Optical、真空管方式についてご紹介します。
ダイオードブリッジ コンプレッサー
前回ご紹介したPWM方式を採用した「Pyeコンプレッサー」に変わる方式として、Rupert Neve氏がダイオードブリッジコンプレッサー 2252を開発。(とても参考になる開発秘話映像はこちら) 元々はテレビ局用に開発されたダイオードコンプですが、さまざまな楽器に倍音豊かなトーンと幅広いカラーを生み出し、ミックスバスにパンチと一体感をもたらすことで高く評価されてきました。現代でもダイオードブリッジ方式のコンプレッサーは人気があり、NEVE 2254にインスパイアされたアウトボードが各社からリリースされています。
効果が出やすい用途
効果が出にくい用途
V-Comp
歴史上最も有名なダイオードコンプ
このV-CompプラグインはNEVE 2252の後継モデルとなる、ディエッサーを搭載したコンプレッサー/リミッター NEVE 2254マスターバス・コンプレッサーを正確にモデル化しています。非常に説得力のあるヴィンテージ・ダイナミクスを実現し、ウォームでファットなサウンドと素晴らしいミッドレンジのディテールを提供するようデザインされています。
驚くほど反応の早いダイナミクス・プロセッシングで、数え切れないヒットレコードで聴く事のできる、音楽的なパンチ感を備えています。柔らかなコンプレッションでは素材をミックスに馴染ませ、強力にまとめ上げることも可能です。
TG Mastering Chain
コンプレッサーモジュールでオリジナルのダイオード方式と、モダンなVCA方式を切り替え可能
Abbey Roadのマスタリングスタジオ Room5に鎮座する、ソリッドステート構成のモジュール式システム EMI TG12410 を精巧にプラグイン化した製品です。モデリング元となったEMI TG12410は70年代初頭から現在もなお使われていて、Wavesの発表では以下のようなビッグタイトルのマスタリングで使用されてきました。
・Pink Floyd / The Dark Side of the Moon
・Nirvana / In Utero
・Radiohead / OK Computer
・Ed Sheeran / +
etc…
そのサウンドをそのままプラグイン化したAbbey Road TG Mastering Chainは以下の5つのモジュールで構成されています。
・TG12411 Input Module
・TG12412 Tone Module (EQ)
・TG12413 Compressor/Limiter Module
・TG12414 Filter Module
・TG12416 V.A.L (Spread) Module (stereo component only) incorporated into the Output Module.
これらモジュールは Input ModuleとOutput Module以外は自由に入れ替えができ、ドラムバスやミックスバスなど状況に適したルーティングを楽しめます。Compressor/Limiter Moduleは Original/Modern のモード切り替えができます。Originalは実機のダイオードコンプの挙動を再現し、ModernはWavesとAbbey Roadの共同サウンドデザインで、ハイスピードなVCAコンプの特徴を持ち、高いコンプレッションでも原音が損なわれにくい現代的な音楽に求められるテイストになります。
Optical(オプティカル=光学式)コンプレッサー
コンプレッサーは入力信号を2つに分割し、1つはコンプレッサーが動作する検出回路に送られ、もう1つは実際にコンプレッションされます。オプトコンプは検出回路がユニークで、検出回路に送られるオーディオ信号は光に変換され、電気光学センサーがトリガーとなり、ゲインリダクションの量を制御します。このセットアップのレスポンスは滑らかで透明感があります。他のタイプのコンプレッサーとは異なり、ハードウェアのオプトコンプは固定比率で、通常は3:1です。
おそらく最も有名なオプトコンプは、Teletronix LA-2Aでしょう。技術的には “レベリングアンプ “と呼ばれていました(名前の “LA “が由来)。電気光学回路と真空管アンプの両方を組み合わせ、滑らかで気持ちの良いコンプレッションを実現しまし、LA-2Aは商業用スタジオではどこにでもあり、数え切れないほどのレコーディングで使用されています。LA-3Aモデルも同様の機能を持っていますが、真空管回路を搭載していないため、よりクリーンなサウンドを実現しています。
効果が出やすい用途
効果が出にくい用途
CLA-2A
スムースなオプト式コンプレッサー
伝説的なエレクトロ・オプティカル(電気光学式)チューブコンプレッサーをモデリングしたCLA-2Aは、世界中のエンジニアのお気に入りとなった、オリジナルのスムースで周波数追従型の動作を再現しています。60年代中期に製作されたクラシック・モデルと同様、CLA-2Aはギターやベースに適しておりボーカルを輝かせてくれます。クリス・ロード・アルジ自身の手によるプリセット、制限のないインスタンス化はオリジナルを完全に上回り、インスピレーションを凌駕するサウンドを提供します。
温故知新
CLA-2Aは、1960年代初頭にTeletronix社が製造していたハンドワイヤードのチューブ式コンプレッサーをモデルにしています。当初、放送局での使用を目的としていたオリジナルは、ゲインリダクションに「T4」と呼ばれる電気発光式の光学アッテネーターを使用していました。蓄光式の回路は、他の多くの設計と異なり、音を変調する際に歪みを加えません。また、CLA-2Aのアタックとレスポンスのスピードが周波数に依存していることに着想を得たことで、オーディオエンジニアにもすぐに受け入れられました。CLA-2Aの最大の特徴は、2段の光電セルで実現したプログラム依存のマルチステージ・リリースです。周波数特性は30Hz〜15kHz(±1dB)、THDは0.5%以下で、オリジナルは最大40dBのゲイン制限が可能でした。
CLA-3A
繊細な倍音歪み
ユニークで非常に透明感のあるコンプレッションカーブを持つことで知られる70年代初期のソリッドステートユニットをベースに開発されたCLA-3Aは、実機同様に素早いレスポンスと繊細な倍音歪みを提供します。オリジナルと同様にベース、ギター、ボーカルに豊かな彩りを加え、ミックスにさらなる深みを与えてくれることでしょう。
CLA-3Aは、1969年に発売されたソリッドステート式のコンプレッサーをベースに開発されました。真空管式コンプと同様にシンプルなコントロール、ゲインリダクションのためのT4オプティカルアッテネータ、そして強力なコンプサウンドがCLA-3A開発のインスピレーション源となっています。間違いのないコンプの挙動とユニークなサウンドにより、オリジナルのハードウェアは今でも世界中で使用されています。クリス・ロード・アルジは全てのヴィンテージコンプレッサーの中で、この製品が最もお気に入りだそうです。パンチの効いたサウンドとハードなコンプレッションテクニックで知られるクリスですが、Wavesは彼が所有する最も貴重なこのヴィンテージコンプレッサーを独占的にモデリングする許諾を得て、また開発のあらゆる段階でクリス自身の協力を得てプラグイン化することができました。精密にモデリングされたこのCLA-3Aにはクリス作成による多数のプリセットとともに、クラシックコンプレッサーの特徴的なサウンドを提供します。
真空管コンプレッサー
真空管回路をベースにしたコンプレッサーは、滑らかなコンプレッションと心地よい音色キャラクターを加えます。 超高速で動作するコンプレッサーではなく真空管のリバイアスにより減衰を実現するため、トランジェント・コントロールには向いていませんが、どんな音源にも温かみと深みを与えます。真空管コンプレッサーの最も伝説的なモデルは Fairchild 670 Tube Limiter(モノラルバージョンのFairchild 660もあります)で、アナログレコード時代を通じて、オリジナルのFairchild 670コンプレッサーは非常にポピュラーなプロセッサーでした。ほぼすべてのコンポーネントが真空管で構成され、当時のコンプレッション・テクノロジーが凝縮されたFairchildは、レコーディング・スタジオからレコードカッティング・スタジオまで、比類無きサウンドでその名を馳せています。
効果が出やすい用途
効果が出にくい用途
PuigChild Compressor
稀少なビンテージFairchild 670をデスクトップに甦らせる
PuigChild Compressorは、エンジニア ジャック・ジョセフ・プイグ氏(JJP)が所有するFairchild 670独特のニュアンスを余すところなく、その芳醇な倍音が奏でる複雑なディテールまで、プラグインにキャプチャーしました。自分の生まれる前の時代にまでさかのぼり、現代に至るまでのあらゆる機材を試し、自身のサウンドに取り入れてきたといいます。LAにあるトップクラスのスタジオ、オーシャンウェイ・スタジオの1ルームをハードウェアで埋め尽くし、何年にもわたって自分専用としてロックアウトするほどでした。その一聴してはっきりと特徴のわかるサウンドは、彼が手がけたグラミー受賞作品の数々で聞くことができます。PuigChild Compressorは、JJPが目指す普遍と独創のサウンドを、アナログプロセッシングの伝説を具現化するプラグインです。
オリジナルのフェアチャイルドは信じられないほど希少でとても高価ですが、PuigChild 660はモノ・コンポーネント、PuigChild 670はステレオ・コンポーネント仕様で、フェアチャイルドユニットのリアルなエミュレーションを提供してくれます。
Abbey Road RS124 Compressor
シルクのように滑らかなコンプレッション
まさにアビー・ロード・スタジオで行われた、ビートルズの全てのレコーディングで聴けるトーンを。2つの異なる「フレーバー」を選択できるこのクラシックな真空管コンプレッサープラグインは、アビー・ロード・スタジオが承認した貴重なRS124をエミュレートしています。 RS124ほど、音楽の歴史を定義してきた機材はありません。特注のRS124コンプレッサーは60年代アビー・ロード・スタジオのエンジニアの奥義でした。Geoff Emerickはパンチの効いたベースサウンドを、Ken Scottは豊かなギターサウンドを、Norman Smithはリズムバス全体を軽くなじませるために使用。 またRS124はアビー・ロード・スタジオのカッティング・ルームでのマスタリングにもよく使われていました。 RS124のサウンドは「Rain」や 「Come Together 」などのビートルズの名曲から生み出された、厚みのあるクリーミーな低音が特徴的。アビー・ロード・スタジオのエンジニアはRS124の入力を15-20dBのゲインリダクションに深く押し込み、多くの音源で驚くほど豊かな結果を生み出しています。 そして現在、グラミー賞を受賞したポップ/R&Bやヒップホップのエンジニア、トニー・マセラティ氏は、ビヨンセやアリシア・キーズなどのボーカル・トラックに一貫してRS124のトーンを使用し、素晴らしいボーカルトーンを作り上げています。
記事内に掲載されている価格は 2022年7月15日 時点での価格となります。
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