Evolution Series というメーカーをご存知でしょうか? 作曲家やプロデューサー向けに優れたサンプルライブラリを開発しているオーストラリアのデベロッパーで、同社初のバーチャルインストゥルメント World Percussion は開発に4年以上が費やされ、その傑出した最高級のワールド・ドラム音源が彼らの存在を世界に知らしめました。クリエイティブで楽しいもの、創造性を刺激するユニークでエキサイティングな楽器を作るという目標を掲げ、こだわりの光るライブラリを制作するEvolution Series。
SONICWIREランキングで急上昇↑
2021年は音源リリースラッシュとなり、9月にブラス&ウッド音源 CHRONICLES BRASS & WOOD、10月に馬頭琴を収録した CHRONICLES BUKHU、11月に和楽器音源 CHRONICLES MIYABI が発売されました。
2021年11月24日時点で CHRONICLES MIYABI はSONICWIREランキングエスニック部門第1位を獲得。CHRONICLES BUKHU は9位ランクイン、WORLD STRINGS OUDは2019年のリリースながらも16位をマークし、民族音楽ジャンルにおいてEvolution Series製品が高く評価されていることが分かります。また、競合製品が多いブラス/ウッドウィンズ部門の中でも CHRONICLES BRASS & WOOD が19位と健闘しています。
いまなぜEvolution Seriesが人気なのか 3つの新製品「CHRONICLES シリーズ」を試して、動画でそのサウンドをレビューしたいと思います!
CHRONICLESシリーズ
EVOLUTION SERIESが CHRONICLES シリーズで目指したのは2つ、まず生々しい人間味のある演奏をライブラリに収めること、そしてそれらの音を直感的な演奏ベースの体験と結びつけること。楽器が奏でるモーションとテクスチャを通して、別世界にいざなう表現を実現します。
主な特徴
シンプルで直感的なインターフェースを備えたCHRONICLESシリーズ
バーチャル・スコアリング・ステージ(VR Stage)でマルチ・マイク・セットアップをコントロールします。ステージは四角形を45度回転させた配置になっており、その中に楽器を配置するとステージ上で演奏しているかのような音場が得られます。楽器がステージ中央から奥側に行くとアンビエンスマイクに切り替わり、実際に複数のマイクポジションで録音されたサンプルがミックスされるため、リバーブとは違った空間演出が可能です。ステージ手前側に楽器を配置するとオンマイクで輪郭がくっきりした音になり、バンドサウンドや電子音楽などと合わせる際には一番手前に配置するのが良いでしょう。視覚的に簡単に配置できるのがとても便利です。
実践:バーチャル・スコアリング・ステージへ楽器を配置
詳細設定を行うAdvanced ページ
キーボードの演奏スタイルに合わせたベロシティ・カーブの調整や、ダイナミックレンジ、発音時のアタックタイム / リリースタイムを調整します。
CHRONICLES シリーズ製品は KONTAKT のtime machine pro 機能をベースにしているため、コンピュータリソースへ大きめの負荷がかかります。そのため、Divisi Limiter / Divisi Settings で楽器ごとに最小発音数 / 最大発音数を設定することで、コンピュータへの負荷を軽減します。
6つのアーティキュレーション
各楽器ごとに最大6種類のアーティキュレーションを選択し、アーティキュレーションごとにキースイッチへの割り当て、ベロシティレンジを調整します。複数のアーティキュレーションを重ねて、ベロシティ値による使い分けも可能です。また全てのアーティキュレーションを1つのキースイッチに割り当て、シンプルにアンサンブル全体をコントロールすることもできます。CHRONICLESシリーズは楽器の細かな演奏表現を切り替えるテクスチャ・アーティキュレーションのほか、譜割りを選択して自動演奏をしてくれるモーション・アーティキュレーションを備えています。全音符から16分音符、そして1拍3連までをDAWテンポに合わせて演奏してくれ、リトリガーしないのが特徴です。押さえた鍵盤それぞれが独立して自動演奏されるため、鍵盤を8分音符ずらして演奏したりするとアルペジエイターのような面白い演奏パターンも得られます。テクスチャとモーションの組み合わせによる演奏はアレンジを助けてくれるだけでなく、感情的で生き生きとしたパッセージを作り出すことができます。
CHRONICLES MIYABI
CHRONICLES MIYABIは、音楽的なストーリーテリングに重点を置いた和楽器音源です。美しく豊かな日本の伝統に焦点を当て、琴、三味線、尺八、そして女性の声による刺激的なパフォーマンスの数々を収録しています。製品の品質はミュージシャンから始まるとの考えから、本製品はオーストラリア在住の尺八奏者Bronwyn Kirkpatrick 氏と箏曲家 Satsuki Odamura(小田村さつき)氏とのコラボレーションにより制作され、一般的なサンプリング手法では実現が難しい伝統的であり象徴的な卓越したレベルのリアリズムをライブラリに収めることができました。
実践:MIYABIの楽器マッピングを確認
MIYABiには琴(13弦)をはじめ、17本の弦を張った琴(17弦)、尺八、三味線、女性の唄が収録されています。これらの楽器を合奏すれば日本独特の音色をリッチに表現できるものの、それぞれの楽器で鳴らせる音域の限界や重複する音域などを知らなくてはいけません。CHRONICLESシリーズが画期的なのは、そういった知識がなくても1つの鍵盤で全ての楽器を同時に演奏できてしまうことです。上の動画では17弦から始まり、琴、三味線、尺八、と繋がっていくマッピングが確認でき、まるでピアノを弾くように和楽器を同時に演奏できてしまうのです。
CHRONICLES MIYABI 収録アーティキュレーション
■koto
Motion
Textural
■bass koto
Motion
Textural
■shamisen
Motion
Textural
■female voice
(装飾的なショートフレーズ)
Textural
■shakuhachi
Motion
Textural
実践:MIYABIのアーティキュレーションを試聴
楽器の細かな演奏表現を切り替えるテクスチャ・アーティキュレーションの種類が豊富で、演奏の強さごとにアーティキュレーションを分けたり、ベンドとビブラートが充実しているのがポイントです。いざ音を作り込みたい時には、その期待に十分応えてくれるでしょう。
実践:モーション・アーティキュレーションで和楽器伴奏を作成
DAWに全音符でコード進行を打ち込んでピアノ音源を鳴らしつつ、MIYABI にも同じMIDIデータを送りっぱなしの状態です。低音部の17弦は2分音符、その上には琴の4分音符、三味線の8分音符、さらに尺八も全音符で加え、あっという間に和風テイストに仕上がりました。MIYABIはアーティキュレーションの多さから、ソロ演奏でもプロフェッショナルを満足させる能力を備えていますが、いま時代が求めているのはハイクオリティをシンプルで簡単に扱える事。そんなメッセージがこのCHRONICLESシリーズから感じ取れます。いま一番売れている理由はそこなのではないでしょうか。
CHRONICLES BUKHU
CHRONICLES BUKHUは、唯一無二の才能を持つモンゴルの作曲家であり民族音楽の演奏家Bukhu Ganburged 氏とのコラボレーションにより生まれました。Bukhu氏の美しい喉歌(ホーミー)と馬頭琴の響きがマッチして、13世紀初頭への扉が開かれます。最新鋭の機材と世界水準のスコアリング・ステージでBukhu 氏の喉歌と馬頭琴の演奏をレコーディング。EVOLUTION SERIESが『CHRONICLES』シリーズで目指す目標である、生々しい人間味のある演奏をライブラリに収めるべく、標準的なサンプリング手法では実現が難しいリアリズムを備えたサウンドをライブラリ化しました。動きや質感を重視したモーション(サステイン / スタッカート)や、テクスチャ(ウェーブ / ベンドアップ / マルカート / フォール、など)といったアーティキュレーションを収録。ループベースの演奏やテクスチャーを通して、感情的で生き生きとしたパッセージを作り出すことができます。
CHRONICLES BUKHU 収録アーティキュレーション
■horse fiddle(馬頭琴)
Motion
Textural
■voice(喉歌)
Textural
実践:BUKHUのアーティキュレーションを試聴
私は昔に馬頭琴を演奏した事がありまして、その音色は非常に素朴で郷愁を誘うものでした。BUKHU氏の馬頭琴は低音から高音までよく伸びる音で、西洋楽器に近い精密さと現代的な力強さがあります。ひと昔まえの牧歌的なイメージで使用するならば、中域中心のローファイ加工をすると面白いかもしれません。そしてモンゴルの音楽といえばホーミーは重要ですので、馬頭琴と一緒に手に入るのは嬉しいですね。
実践:BUKHUのモーション・アーティキュレーション
動画ではDAWに全音符でコード進行を打ち込んで CHRONICLES BUKHU を演奏しています。キースイッチを選ぶだけで多くの演奏パターンが得られ、同音連打しても自然な演奏を実現しています。キースイッチは複数のアーティキュレーションを同時に演奏する事もできるので、一番下の2つのスロットを同時に鳴らしたらエモーショナルになりました。
実践:ゴビ砂漠の遊牧民をイメージしたオートメーション
馬頭琴とホーミーを使用し、それぞれ音場をオートメーションで動かしました。動画の途中にDAWピアノロール画面を入れてみましたが、実際にベタ打ち状態でも馬頭琴とホーミーが熱く歌ってくれています。ユーラシア大陸の北東部から日本も含めた、アジアのフレーバーを感じたい場面で一役買ってくれる音源です。CHRONICLES BUKHUは特に映像音楽に携わる作家さんが注目すると思いますので、モンゴルの強い個性が光る要チェック音源といえるでしょう。
CHRONICLES BRASS & WOOD
世界的な演奏者Dane LaboyrieとMark Taylorとのコラボレーションにより制作され、最新鋭の機材と世界水準のスコアリング・ステージでサックス(バリトン / テナー)、クラリネット、フリューゲルホルン、トランペットをレコーディング。標準的なサンプリング手法では実現が難しい、彼らの何十年にもわたる経験で培われた卓越したリアリズムを備えたサウンドをライブラリ化しました。各楽器はモーション(サステイン / スタッカート)、テクスチャ(ウェーブ / ベンドアップ / マルカート / フォール)といったアーティキュレーションを収録しています。
CHRONICLES BRASS & WOOD 収録アーティキュレーション
実践:BRASS & WOODのアーティキュレーションを試聴
BRASS & WOOD の WOODを担当するクラリネットがとても良い味を出しています。キラキラとしたブラスサウンドに豊潤な中域フレーバーを添え、とても紳士的なサウンドに仕上がっています。ブラスが少し控えめなサウンドになっており、それがアンサンブルになった時に美しく調和します。
実践:1トラッックで4つの楽器アンサンブル
CHRONICLES MIYABI と同様に、一つの鍵盤上にマッピングされた4つの楽器を一度に演奏しています。クラリネット、フリューゲルホルン、トランペット、サックスの順にミュートを解除し、最後は低音から高音まで分厚いアンサンブルになりました。コード演奏した時の人数感と空間のリアリティがこの音源の強みです。
実践:スローテンポのアンサンブル
スローテンポで音価の長いフレーズ、これは持続音が出せる楽器の能力をジャッジするのに有用です。こちらの動画もこれまでと同様に、マルチトラックではなく1トラックで演奏しています。各楽器をステージの中央から最前面まで順番にオートメーションしてフィーチャリングしています。CHRONICLESシリーズはAdvanced画面で音のアタックとリリースを微調整できますが、デフォルト設定でも音の鳴り始めと、特に消え方が絶妙です。演奏者のブレスが伝わってきそうな雰囲気を持っています。
複数の音源を混ぜて使うのが王道となったいま、この音源はマイクが近く輪郭がはっきりした製品や、逆にオフマイク気味の製品などの中間を狙うのに良いのではないでしょうか。既に音源をお持ちであれば、中域のリアリティを補強するのに適していると思います。
CHRONICLES BRASS & WOOD は管楽器を熟知したアレンジャーだけでなく、全く知らずにピアノのように演奏してもサマになる懐の深さを持っています。演奏していて心地良くなれることは作曲やアレンジに大きく影響するので、そういった面でも一歩先を行っている感があります。弾いていると曲が作りたくなる、そんな音源です。
Writer:SCFED IBE
記事内に掲載されている価格は 2021年11月30日 時点での価格となります。
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