Rock oNで定期的に展開している、WEB上で機材のサウンドを比較試聴できる人気企画「HEAR THE REAL TONE」。大変おまたせしました! 今回はリクエストの多い、ハイエンドマイクを特集します。対象に選んだマイクは、価格帯としては高めのハイエンドの中から、Rock oNのスタッフが「現在のトレンド等を鑑みて重要なプロダクトである」という観点で選びました。
今回は、big turtle STUDIOSのエンジニアyasu2000さんと、シンガーソングライターのさらささんの全面協力のもとレコーディング。さらささんの表現力豊かな歌唱力もあって、各マイクの特徴がわかりやすい好素材が準備できましたので、みなさんのマイク選びにとって大きな参考になる好企画になってます!
マイクをクリック/タップしてゲストのコメントやサウンドをチェック!
Rock oN Sound Radar
ヨコ軸 : 周波数特性を指針に評価
右方向(High) – 高域に特徴(一般的に、抜けがいい等)
左方向(Mid-Low) – 中低域に特徴(一般的に、温かみがある、太い等)
タテ軸 : 色付けを指針に評価
上方向(Colored) – 色付けあり(倍音等による音色変化あり)
下方向(Pure) – 一般的に原音忠実
1999年、DJとして単身渡米。N.Y.のライブハウス「CBGB」にて一流ジャズミュージシャン達とMPCで共演。NYであらゆるジャンルのカルチャーに感化されサウンドエンジニアに興味を持つ。レコーディング学校 I.A.R. (Institute of Audio Reserch) NY校に入学。卒業後、ブルックリンにある Bushwick Studio に2年間在籍。エンジニア Nic Hard (2016年Snarky Puppy『Culcha Vulcha』でグラミー賞を受賞)のアシスタント経験が財産となる。2005年に帰国後、origami PRODUCTIONS のハウスエンジニアを勤める。現在はorigami所属アーティストは勿論、あいみょん、JUJU、藤原さくら、向井太一、Anly、GLIM SPANKY、AmPm、Uru、WONK、TENDRE、Awesome City Club、U-zhaan × KAKATO、サイプレス上野とロベルト吉野などを手がける。
湘南出身のシンガーソングライター。音楽活動にだけに留まらず美術作家、アパレルブランドのバイヤー、フォトグラファー、フラダンサーとマルチに、そして自由に活動の場を広げている。悲しみや落ち込みから生まれた音楽のジャンル”ブルース”に影響を受けた自身の造語『ブルージーに生きろ』をテーマに、ネガティブな感情や物事を作品へと昇華する。
型番:ASTL 1001
価格:¥2,200(税込)
全く無名のシンガーが、たった一曲のリリースで一気にシーンに躍り出た!
楽曲のみの力で全国ラジオチャートTOP10に軒並みランクインしたデビューシングル「ネイルの島」でシーンに衝撃を与えたZ世代を代表する湘南生まれのシンガーソングライターさらさのEPが遂に発売!
Rock oN : 今日は12本ものマイクを繰り返し、収録していただきありがとうございました! いかがでしたか?
yasu2000さん : 大変楽しかったです。すごくいい機会をありがとうございます。
さらささん : 楽しかったです!
Rock oN : 今日、対象に選んだマイクは、価格帯としては高めのハイエンドの中から、Rock oNのスタッフが「現在のトレンド等を鑑みて重要なプロダクトである」という観点で選びました。ユーザーレンジはプロ寄りになると思いますが、これからさらに、上位のマイクを導入したいという意欲的なアマチュアの方にとっても有意義な企画になったと思います。印象に残った製品についてお話を聞かせていただいていいですか?
yasu2000さん : 僕が一番特徴的だと思ったのは、MANLEY Reference Cardioidですね。チューブマイクなんですが、倍音が強調され音が前に出てくる感じです。高域、特に20kHz辺りがすごくありますね。また、10kHz付近もしっかり出ていて、歌の息遣いがしっかり録れます。高域があっても痛くならない特性が上手く取り入れられてると感じました。
Rock oN : 「痛くない高域」というのは、やはり、チューブの特性でもありますか?
yasu2000さん : そうですね。チューブの歪みによって生成された「倍音による高域」という感じですね。
Rock oN : なるほど。作為的に作られた高域じゃなく、自然でメロウな感じの高域、といった感じですね。さらささんのような女性ボーカルには相性が良かったんじゃないでしょうか?
yasu2000さん : そうですね。さらささんの歌い上げる部分がよく録れていますね。もしかしたらR&Bなどのストロングなボイスの人に相性がいいかもしれません。さらに、出力が高いのでささやき声もよく捉えてくれますね。かなり万能な性能をもった製品です。これだけ性能がいいと、ミックス時にそんなに手間がかからないと思います。あと挙げるなら、やはりNuemann M149ですね。これもチューブマイクですが、スタジオの定番の1つでもあるし納得の音ですね。
Rock oN : そうですね。NEUMANNのマイクは歴史がある信頼された音ですね。一方、現在、いろんな新しいタイプのマイクが登場してきていて、今日はこのマイクも使ってもらったんですが、、、
yasu2000さん : LEWITT LCT1040ですね。これはびっくりしました! 今日のラインナップの中で、ダントツでレンジと奥行きが広かったです。手前と奥の音像が見え、奥行き方向の距離がわかるんですよ。
Rock oN : なるどほど。奥行きが見えるのは、位相やトランジェントといった性能の良さに関連してくるんでしょうか?
yasu2000さん : そうですね。すごく立体的で、現代的という言葉が合ってるかわかりませんが、打ち込み系のエレクトロなジャンルではオケに埋もれることなく、すごく映える音が録れると思います。
Rock oN : 通常だと、録った後にコンプ処理を行いダイナミックレンジが抑えられるじゃないですか。その後でも奥行き感は残りそうですか?
yasu2000さん : おそらく残るでしょうね。レコーディング時に軽くコンプは通したんですけど、全然ゆとりがある感じがしました。すごく広い場所で歌ってるような音像です。上から下の帯域まで解像度が高いので、録った後でも加工しやすいと思います。
Rock oN : さらささんはどうでしたか?
さらささん : MANLEY Reference Cardioidが一番歌いやすかったです。高音を張った時にガツンとくる感じがあるものの、一番のびのび歌えた感じがして、自分のパフォーマンスがマイクの制約を受けない感じがして好きでした。
Rock oN : 私はシンガーじゃないので分からないのですが、レコーディングで録られた音が、自分が表現したはずの声と違うと感じる時があるんですか ?
さらささん : そうですね。自分のイメージと違う音が聞こえることがあって、そういうマイクは、やはりシンガーとしては歌いにくいという印象になります。その中で、Nuemann M149はすごく細かい部分までコントロールしやすいというか、わずかな自分の声の変化が聞えてくると思いました。加えて、ちゃんと重さとや温かさもあり、高域に寄りすぎてない感じがしてすごく歌いやすいと思いました。「ずっしり重いんだけど抜ける」みたいな感じですね。
Rock oN : では、他の製品についてもお伺いします。Audio-Technicaはいかがでしたか?
yasu2000さん : audio techinica AT4050は、長年使ってるマイクなので馴染みがある音です。軽やかで高域の抜けがいいんですが、温かみもあって痛いところがない。「歯切れがいい」という印象ですね。それで、audio techinica AT5040は今日初めて使ったんですけど、馴染みあるaudio techinicaの音から、さらに解像度が良くなりリッチになってるのでびっくりしました。AT4050は、5kHzあたりが若干抑えられている感じはするんですが、それより上の帯域がよく出てるので抜けがちゃんとあるという感じです。そしてAT5040はAT4050の高解像度版といった感じで、6kHz付近が効いてました。そのおかげで空気感が増えている感じです。
Rock oN : あとAKGも定番のブランドですね。AKG C414XLIIは、もう、聞き慣れた音かと思います。
yasu2000さん : そうですね。僕はドラムのトップなどによく使いますが、このマイクで歌いたいと指定されるボーカリストさんも少なからずいます。マイクに口を近づけ、ラージダイアフラムで上から下の帯域までの全て映し出す感じですね。声を「点じゃなく面で映す」というイメージがしますね。
Rock oN : 先ほどNEUMANN M149の話が出ましたが、Neumann U87Aiの話をしていいですか? このマイクこそ、レコーディングスタジオのあらゆる現場で選ばれ続けているマイクだと思いますが、yasu2000さんの中で「今日はU87Aiを選ぶ」という時の判断基準はありますか?
yasu2000さん : ひとつの判断基準的なマイクですね。アコースティックな素材は87を使えば、だいたいみんな納得する音がしますよね。特に年代の古い音楽が好きなアーティストは「これ間違いないよ」みたいな感じになります。確かに高域の伸びが、最近の曲に比べてちょっと物足りないと感じる方はいらっしゃるんですが、そういう時はEQでハイを上げると満足してもらえることが多いです。加えて、87はEQでハイを上げても痛くならないので、そこがいいですよね。ですから、ミッドをよく捉えたい場合に87を使います。
Rock oN : そういえば、TELEFUNKEN TF51を録ってる時に「なんかいいなあ」とつぶやかれてましやよね? 笑
yasu2000さん : 普段、AKGのTHE TUBEをよく使ってるんですが、特徴に似てるところがあって「ありだな」と思ったんですよ。高域がちょっとヴィンテージぽい響きがして、懐かしい気持ちになるというか。そういうテイストが欲しいときに使いたい感じですね。
Rock oN : さらささん、他に何か印象に残ったマイクはありましたか?
さらささん : Brauner Phantheraですね。私は中低域が強いマイクだと、歌いにくさを感じて苦手なんですが、Phantheraは抜ける感じがあって、息の細かいニュアンスも拾ってくれるしよかったですね。
Rock oN : なるほど。シンガーさんからすると、中低域が膨らんだマイクだと、自分の声の高域が聞こえにくくなって、歌う時に邪魔になるんですかね?
yasu2000さん : そうですね。そのままの音でモニターを返すと、歌いにくいマイクという印象を持たれる場合もあります。そういう場合は、中低域をEQで削ってあげてモニターを返してあげると好きになってくれることもあります。モニター環境を演者さんの好みに合わせてあげると、好みのマイクも増えていくんじゃないかなと思います。
さらささん : 感覚的な話ですが、歌っていて高い音が聞こえてこないと削られてる感じがしちゃうんですよ。
Rock oN : モニターの音作りがパフォーマンスに影響を与えるというのは重要な話ですね。では最後に、今日の感想をいただいていいでしょうか?
さらささん : 今日、最初の頃はマイクの違いがよく分かんないなと思ったんですが、本数が増えていくごとに全体像が見えてきて、「このマイク、結構フラットなんだな」とか「中低域がすごい出てるな」、「すごく息が聞こえてくるな」といった感じで、マイクの違いがわかるようになりすごく楽しかったです。
Rock oN : そうですよね! やっぱりどうしても比較作業になるので、最初の一本目はなかなか捉えにくいですよね。今後、さらささんの作品作りにいい影響を与えれば僕はうれしいです!笑 yasu2000さんはいかがでした?
yasu2000さん : すごく楽しかったです! 今回のように、マイクの特徴を分析していく作業は、エンジニアという職業的な観点でも重要な機会でした。自分の趣味趣向もかなり入っているとは思うんですけども、、、笑。それぞれの製品の特徴が分かってすごく大きな収穫でした。
記事内に掲載されている価格は 2022年5月10日 時点での価格となります。
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