Music is Magic!音楽は魔法だ!
ホームスタジオでの音楽制作がポピュラーになった現在、商用スタジオの価値が見直されています。高価なビンテージ機材、大型スタジオ・コンソール、熟練のエンジニアによる最高のサウンド。そして何よりも、多くのミュージシャンが「スタジオでは特別なマジックが生まれる」と言います。
SCFEDイベのスタジオ探訪記 第4回:キング関口台スタジオ
アナログからデジタルに至るまで 最高・最新鋭の機材を投入し、伝統に培われた確かな技術力で全てのジャンルに対応するサポート力、音と映像を創りあげる快適な空間を提供するキング関口台スタジオ。天井高約10メートルのメインフロアを有する第1スタジオを訪ね、録音部長 増田 晋氏(写真中)、経営本部 渉外グループ長 井上 慎太郎氏(写真右)、経営本部 録音部 録音グループ 高橋 友一氏(写真左)にお話を伺いました!
キング関口台スタジオのお宝機材
ーーー今回は初めてレコード会社のスタジオを訪問させて頂いたのですが、御社のスタジオはキングレコード所属アーティストの拠点スタジオとして機能されているのでしょうか?
増田氏:例えば6型のストリングスセクション(6-4-2-2)をレコーディングする際にはまず弊社スタジオを選択される場合が多いと思います。アーティストによっては外のスタジオを使用することもありますので、ケースバイケースになりますね。
ーーーエントランスに展示されている機材を拝見しまして、テレフンケンの5613型カッティングアンプや、ノイマンのカッティングマシン、テレフンケンのロゴが刻印されたノイマンM-14型コンデンサーマイクなどなど、御社の歴史を物語るお宝機材の数々に圧倒されました。
井上氏:1931年に講談社がキングレコードを創立しまして、1935年にキングレコードがテレフンケンレコードと販売契約を結んだ関係で、テレフンケンから録音技師を招いて自社録音を開始した繋がりから、キングレコードのロゴにはテレフンケンのロゴの一部が採用されていると聞いております。エントランスに展示されている機材は、1936年のスタジオ開設時に使用されていた機材になります。
ーーーキングレコードのロゴはテレフンケンのロゴと合体して生まれていたのですね!展示されていたお宝機材は殿堂入りとしまして、現役活躍中のお宝機材をお教え頂けますでしょうか?
井上氏:Fairchild MODEL 670を現在3台所有しています。ビンテージのマイクですと NEUMANN U47(Tube)が5本、U67が10本、M149が5本、M49bが3本、U87iが30本近くあります。
ーーービンテージのお宝マイクが数十本!? そしてFairchild MODEL 670が3台も!670はどんな用途に使われているのですか?
井上氏:ドラムのアンビエンスに使ったり、ベースにかけ録りで使ったりします。レコーディング時はアウトボードをかけ録りで、完成形に近い音でモニターしてもらうというスタイルが多いです。
ーーーコンソールは第1スタジオに SSL SL-9072J、第2スタジオに AMS/Neve VR-The Legend(72input)が鎮座して、こちらはレコーディングでどんな使い分けをされるのですか?
増田氏:ロック、ポップスなどでガッツのあるサウンドが欲しい時にはNeveで、クリーンで煌びやかなサウンドに仕上げたい時にはSSLを選択することが多いです。同じエンジニアがオペレートしても、コンソールによって楽曲の仕上がりが全然変わってきます。
井上氏:Neveはヘッドアンプのゲインを上げ気味にして、歪むギリギリで得られるサウンドがエンジニアに好まれる要素かなと思います。「本当に歪みました」というノイズ的な歪みではなくて、音楽的な歪みを得られるのがとても魅力ですね。
ーーー皆さんが普段使っているスタジオコンソールや、アウトボードをモデリングしたプラグインについては、どう思われますか?
井上氏:実機を良く再現しているプラグインが多いですが、実機とは違う部分もあります。例えば670の場合だと、かけ録りした音をプラグインで再現しようとしても決して同じ音にはならないです。レベルはきちんと止まるけれど質感的な部分が、実機でインプットを少し上げ気味にした時に出るドライブ感や粘りのある感じが、なかなかプラグインだと再現しきれていない印象があります。プラグインは同じ機材を何個も使えたり、設定の完全再現といった利便性に優れていますので、適材適所かなとは思います。
高橋氏:リバーブに関してですが、プラグインのリバーブはSNが良くて綺麗にかかってくれるので、ミックスにとても重宝しています。ただ、サウンドの密度が薄くて、チャンネルをソロで聞くと存在感のあるリバーブでも、オケ全体だと透過して聞こえなくなってしまうという事がよくあります。
ーーーアウトボードラックに私の大好きな AMS Neve rmx16 がありますね! 独特のファット感と立体感、存在感が高密度にありながらも濁らない、とても音楽的なリバーブだと思います。
ブース内にある楽器は無料で使用可能!
ーーースタインウェイとベーゼンドルファーが常設されているというのも凄いですね。
井上氏:1スタのブースに Steinway D-274、2スタのブースに Bösendorfer Model 275 が常設されています。スタインウェイはクラシック系が多くて、ベーゼンドルファーはポップスやジャズにセレクトされることが多いです。2スタのベーゼンドルファーは弦がスタインウェイ製に張り替えられていまして、キラっとした音色になっていると言われることが多いですね。少し固めといいますか。
増田氏:2スタのベーゼンじゃないと嫌だという方もいますし、1スタのスタインウェイが好きだという方もいて、人によって好みは凄く分かれますね。ちなみに弊社ではピアノの使用料は発生しませんので、調律費だけの負担でお使い頂けます。
1スタのブースにはFender Rhodesをはじめ、マリンバ、ビブラフォン、グロッケン、ラテンパーカッション、ティンパニなど、普段は弊社のオケ録りに使用している楽器が置いてありますので、そちらも無料でお使い頂けます。
マジックを生み出すレコーディング方法
ーーー御社での大型コンソールの役割や、大型コンソールならではの録音方法をお聞かせください。
増田氏:1スタのSL 9000Jは、これが壊れてしまうとオケ録りが本当に立ち行かなくなるので、必要不可欠なコンソールです。大型コンソールならではと言えば、バンドの一発録りができる、それが一番ではないですかね。各楽器やアンプをブースでセパレートして、3リズムや4リズムを演者が向かい合って「せーの!」で一発録音すると、リズムのドライブ感や勢いの良さといった、楽器ごとにダビングで重ねて録音していくのとは違ったプレイヤーの躍動感、一体感が生まれます。
ーーー高度な緊張感が要求される一期一会の演奏ですね。今という瞬間に懸ける集中力、ミュージシャンを音楽に全集中させる環境が生み出すマジックといえそうですね!
増田氏:そういったマジックを私は何度も経験したことがありますよ。プレイヤーとエンジニアに、”次のテイクで絶対に最高のものを残す!” という強い想いが生まれて、録音本番では演奏の強弱や音色がガラッと良くなることがあります。
増田氏:生演奏をそのまま、レコードにダイレクトカッティングするサービスも行っていますので、一発録りをダイレクトカッティングすることも可能ですよ。コントロールルームのコンソールからアナログ信号のままダイレクトカッティングできるのは、世界でもロンドンのAbbey Road Studiosと弊社だけになります。
ーーーなんと、一発演奏カッティング!まさに究極のレコーディングですね。デジタル全盛の現代にフルアナログでレコードが作れるなんて、全く夢のようです。
高橋氏:先日、ダイレクトカッティングのセッションに立ち会ったばかりですが、レコーディングの緊張感たるや凄いものがありますよ。間違えたらレコード盤が無駄になってしまいますので、エンジニアも含めてこれ以上の緊張感はないですよね。
増田氏:ダイレクトカッティングは音源がリアルに目の前で鳴っているかのような、LRの2チャンネルなのに凄く立体感があって、本当に感動しますよ。
一般に開放されたレコーディングスタジオ
ーーー御社のホームページにはスタジオ料金が公開されています。キングレコード所属アーティストや関係者でなくても、日本全国のミュージシャンに門戸が開かれているということでしょうか?
増田氏:一般の方もご利用頂けます。以前、私がレコーディングを担当したこともありますよ。
ーーー例えばドラム、ベース、ギター、キーボード、ボーカル、という5人編成のバンドが、第2スタジオを3時間使って1曲一発録りするとします。料金を試算すると計¥81,000で、バンドメンバー1人あたり¥16,200で Neveコンソールとプロエンジニアによるレコーディングができてしまいますね!コンソール前に座って写真撮影もできたりしますか?
井上氏:もちろん大丈夫です。録りからミックス、マスタリング、レコード制作までご依頼頂く事も可能です。
ーーーこれを機に全国から利用希望者が殺到するかも知れませんね。駐車場は何台まで駐められますか?
増田氏:スタジオの地下駐車場に21台と、別の場所にも4台駐められますので、車に楽器や機材を乗せてお越し頂いても大丈夫です。
皆さんからのメッセージ
ーーー本日はお宝機材、お宝楽器のご紹介、そして一発録りが生み出すマジックについて教えて頂きました。有難うございます!最後に皆さんからメッセージをお願いします。
井上氏:設備、機材、それらを扱うプロのエンジニア、音楽から映像まで全てを完パケできる環境がありますので、弊社スタジオでライブレコーディングするといったことも可能です。作品のイメージに合った機材選びや音作りの方向性など、提案できる引き出しと環境が豊富に揃っていますので、ぜひ一緒に作品作りをさせて頂きたいです。
増田氏:DSD 11.2MHzで24トラック同録できる MERGING TECHNOLOGIES / Pyramix を可動式でセットアップしましたので、スタジオ内でも外部持ち出しでも、どこでもDSDマルチ録音をご提供可能です。原音に限りなく近い音で、特にオーケストラでは空気感の再現性が抜群に高いです。このシステムをホールに持ち込んでオーケストラのライブレコーディングや、セッションレコーディングをする機会が増えてきました。DSDで配信したいというお客様が多数いらっしゃいますので、ぜひご活用頂けたらと思います。
高橋氏:弊社は「キングレコードの社内スタジオ」というイメージが強いためか、これまであまり認知されてこなかったのですが、誰にでもお使い頂けるスタジオですので、ぜひご利用下さい!
記事内に掲載されている価格は 2023年8月9日 時点での価格となります。
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