音楽を創る情熱の塊。ミュージック・ワークステーションKORG NAUTILUS特集第1回:ピアノ音源
ミュージック・ワークステーションの歴史
ミュージック・ワークステーションとは 作曲・編曲を1台で完結できるハードウェアで、その起源は今から約40年前の1970年代後半まで遡り、シンクラヴィアやフェアライトCMIのお値段は1千万円から1億円を突破するシステムも存在しました。そんな夢のシステムを手に入れられるのは一部の音楽家に限られていましたが、80年代後半には電子部品の低価格化により、これらのシステムには及ばないながらも一般市民に手の届く製品が驚異的な価格で発売されました。
1988年 ミュージック・ワークステーション KORG M1 (24万8千円) 発売
現在一般的となったDTM (Desk Top Music) の元祖といえるミュージック・ワークステーションKORG M1には、楽器の音をサンプリングして鍵盤にマッピングするPCM音源方式が採用され、そのリアルなサウンドを8トラックシーケンサーで多重録音できて、エフェクターも2系統搭載。それまで主流であったアナログシンセサイザーやFM音源の存在感が薄れ、Prophet-5 (発売当時170万円) がゴミ捨て場に捨てられていたという逸話も多数残されています。
世界が熱狂したM1の感動とは何っだのでしょうか?30年後の現代においても全く見劣りしない、むしろ新しいシンプルなデザインのほか、ハード面では、世界のあらゆる音色を網羅したサンプリング音源、8つのシンセパートを多重録音できるシーケンサー、8つのシンセパートをミックスするミキサー、そして2系統のエフェクターがたった1台のキーボードに収まり、デジタル技術の恩恵を受けたそれら設定の全てが保存可能になりました。ソフト面では、音楽に興味を持った誰もが簡単に作曲できるようになった事が一番大きいでしょう!さらに、それをスタジオやライブに持ち運べるという事もミュージシャンにとって画期的でした。
M1の登場からミュージック・ワークステーションは各社から多数発売され、電子デバイスの発展と共に進化の歴史を歩んでいますが、2000年台半ばからパソコンの処理能力がソフトシンセの実用レベルに達し、DAWはミュージック・ワークステーションに置き換わる制作スタイルとして定着しました。2021年現在は鍵盤すら使わずパソコン1台だけで制作を完結するアーティストも脚光を浴びていますが、このままミュージック・ワークステーションは消え去ってしまう運命なのでしょうか?
音楽を創る情熱の塊。
ミュージック・ワークステーションKORG NAUTILUS →M1の感動と音楽制作への原点回帰
初めてシンセを手に入れた時の感動を覚えていますか?
1988年当時のワタクシSCFED IBEは、M1に憧れて毎週楽器屋さんでM1に触れ、キーボードマガジン付録の分厚いM1解説書を毎日眺め、ついに憧れのシンセを手にした時の感動を今でも覚えています。多くのミュージシャンが揃って言うように、ハードウェア音源を購入した時は強い満足感や達成感があり、それは所有欲と言ってしまえば簡単ですが、ハードシンセを手に入れた時は自分自身への決意表明みたいな覚悟が生まれ、これで良い曲を作ろうとか、お金を稼ごうとか、有名になろうとか、音楽を創るための精神的な原動力、情熱の塊を手に入れた感動があります。
NAUTILUS 88
DAW全盛となった今、ミュージック・ワークステーションの良さは作曲専用ハードウェアとしての「作曲脳への全集中」ではないでしょうか。
KORG史上最強にして唯一無二のミュージック・ワークステーション NAUTILUSは、あなたにとって音楽を創るための情熱の塊となり得るのでしょうか?
これから複数回にわたって KORG NAUTILUS についてSCFED IBEが深く掘り下げます。
NAUTILUS に搭載された9つのサウンド・エンジン
ミュージック・ワークステーションにはシンセ音源、シーケンサー、エフェクトほか、様々な機能が搭載されていますが、シンセを選ぶ際の決め手はやっぱり音色!NAUTILUSにはピアノ、エレピ、オルガンなど、それぞれの音色をリアルに再現するための9つの専用エンジンを搭載しています。
12段階のベロシティ・スイッチや、ストリング・レゾナンスなど、アコースティック・ピアノのあらゆるニュアンスを逃さない繊細な表現力を備えたSGX-2ピアノ音源。7種類のエレクトリック・ピアノの名機をリアルに再現したEP-1 エレクトリック・ピアノ音源。トーンホイール・オルガン音源CX-3、VPM/FMシンセシス音源MOD-7、アナログ・モデリング音源PolysixEX、MS-20EX、物理モデル音源STR-1など、それぞれが1つの製品として成り立つクオリティを持つサウンド・エンジンを網羅し、どんなジャンルにも対応できる柔軟性と懐の深さと備えています。
3つのテーマに沿った新しい音色
NAUTILUSは、これまでのミュージック・ワークステーションに対する音色の概念をリセットし、NAUTILUSのために3つのテーマに沿って膨大なプログラム・リストを新たに構築しました。
ユニーク:
フレーズ・ループ、プリペアド・ピアノ、ファウンド・パーカッションなど、これまでにない個性的なサウンドを搭載しました。あまり耳にしたことがない世界の様々な地域の楽器の多くは使い方が難しいものですが、NAUTILUSでは特徴的なフレーズも一緒に組み込まれており、アイデア次第でそのまま曲に取り込むことができます。ピアノの弦に色々なものを挟み込んでサンプリングした「プリペアド・ピアノ」や、日常のあらゆるものを叩くことで楽器にしてしまう「ファウンド・パーカッション」は、このNAUTILUSのために初めてサンプリングを行った音色で、斬新かつ不思議な響きが楽曲や演奏に意外性を加えるだけでなく、劇伴向けのSEとしての可能性も広がります。
カレント:
シンセ、ドラム・キット、SFXなど、最新の音楽シーンに対応するサウンドを揃えました。シンセはEDM、エレクトロ、チップ・チューンなどに注目。また最も時代の流行が反映されるドラムは50以上の新しいキットを搭載しました。またSFXサウンドは、例えばダンス・ミュージックでドラムに加えることでビートを増強するものなど、即戦力として便利な素材を集めました。
スタンダード:
ピアノ、エレピ、ギター、ベースなど全てのジャンルで使える、ワークステーションとして重要なサウンドを揃えました。新しくサンプリングされたピアノには、美しい響きを持つスタジオの残響音も一緒にサンプリングし、ミックス量を好みに応じて自由に変えられる本物のアンビエンス・サウンドを加えました。エレクトリック・ピアノにも肉厚なサウンドが特徴でファンキーな演奏に最適な新たなモデルを搭載。ギターやベースにはキーボーディストの助けとなる、実際の演奏を元にしたフレーズを再生するプログラムも多数搭載しています。
NAUTILUS特集 第1回:ピアノ音源 SGX-2 / Premium Piano
第1回は、鍵盤楽器を代表するピアノにフォーカスし、そのサウンドと音作りの可能性をご紹介します。
SGX-2 / Premium Pianoはアンビエンス・サウンドを自由に加えられる新しいジャーマン・ピアノや、近年急激に注目度の上がってきているイタリアン・グランドなど、グランド・ピアノの名機を演奏することができます。これらには12段階のベロシティ・スイッチや、ストリング・レゾナンスなど、アコースティック・ピアノのあらゆるニュアンスを逃さない繊細な表現力を備えています。最高峰のアコースティック・ピアノ・サウンドのあらゆるニュアンスを逃さず表現でき、分かりやすいユーザー・インターフェイスで使用できるピアノに特化したインストゥルメントです。
主な特長
- 全鍵ステレオ・サンプリング、最大 12 段階のベロシティ・ スイッチ等による極めてナチュラルでスムーズな弾き心地を実現
- 数段階のベロシティ・レイヤーで全鍵ステレオ・サンプリングした真のダンパー・レゾナンス
- サウンド再現サンプル波形のループ処理を排した自然な減衰
- 400 モノ・ボイスに相当する最大 100 デュアル・ステレオ・ボイスの同時発音数
- リリース・ベロシティによるメカニカル・ノイズの再現や、ペダル・ベロシティによるペダル・ノイズやリリース・タイムの変化の再現など、ピアノ演奏に関するあらゆるニュアンスも隅々まで表現可能
4種類のピアノを収録
FやD、アップライトU、Japaneseスモールコンサートといえばあのモデル!リッチでゴージャスな4台のモデルが搭載されています。
Italian F
音色バリエーション
ItalianFDark1
ItalianFDark2
ItalianFDark3
Italian F Soft
Italian F
Italian F Hard
Italian F Bright 1
Italian F Bright 2
ItalianFDark1s
Italian F Dark 2 s
Italian F Dark 3 s
Italian F Soft s
Italian F s
Italian F Hard s
Italian F Bright 1 s
Italian F Bright 2 s
German2 D
音色バリエーション
German2 D Deep
German2 D Full
German2 D Light
German2 D Zip
German2 D Deep Far
German2 D Full Far
German2 D Light Far
German2 D Zip Far
German2 D Deep s
German2 D Full s
German2 D Light s
German2 D Zip s
German2 D Deep Far s
German2 D Full Far s
German2 D Light Fars
German2 D Zip Far s
Japanese UprU
音色バリエーション
Japanese UprU Dark 1
Japanese UprU Dark 2
Japanese UprU Dark 3
Japanese UprU Basic 1
Japanese UprU Basic 2
Japanese UprU Bright 1
Japanese UprU Bright 2
Japanese UprU Bright 3
Japanese UprU Dark 1 s
Japanese UprU Dark 2 s
Japanese UprU Dark 3 s
Japanese UprU Basic 1 s
Japanese UprU Basic 2 s
Japanese UprU Bright 1 s
Japanese UprU Bright 2 s
Japanese UprU Bright 3
Japanese SmallC
音色バリエーション
Japanese SmallC Dark
Japanese SmallC Basic
Japanese SmallC Bright
Japanese SmallC Reso
Japanese SmallC Dark s
Japanese SmallC Basic s
Japanese SmallC Bright s
Japanese SmallC Reso s
Japanese SmallC Rubber
Japanese SmallC Screw
Japanese SmallC Bolt
Japanese SmallC Eraser
Japanese SmallC Coin
Japanese SmallC PaperPla
Japanese SmallC Felt
Japanese SmallC Wood
現在は4モデルですが、将来的には下記オプション音源がリリースされる予定です。Japanese Cと、オーストリア、ベルリンがとても気になります!
●German D ●GermanD1 ●Ferrante German D ●Mays German D ●Japanese C ●Japanese C 1 ●Japanese C 2 ●Japanese C 3 ●Rudess Japanese C ●Austrian I ●Berlin D
超リアルなサウンドを生み出す各種設定
リアルを超えた各種機能が豊富に搭載されています。ピアノが発するノイズも重要なリアリティとして、自分好みのピアノにカスタマイズする事が可能です。
SETUPパラメーター
- Volume:ピアノ全体の音量を調整
- Pan:ピアノの左右の定位をコントロール。Random では発音するたびに定位がランダムに変化
- Stereo Perspective:ピアノ・サウンドの左右の位置関係をこのパラメーターで演奏者側またはリスナー側のどちらかに切り替え可能。(Player: 低音が左側、 Audience: 低音が右側)
- Octave:ピアノ・サウンドのピッチをオクターブ単位で設定
- Transpose:ピッチを半音単位、±1 オクターブの範囲で調整
- Lid Position:グランドピアノの蓋(大屋根)の開度によってピアノ・サウン ド全体の明るさを調整。0 で完全に閉じた状態、50 で通 常の状態、100 で完全に開いた状態。値の変更に伴って画面のグラフィックも変化。タッチスクリーンで蓋をスライドして調節する事が可能
- Release Time:鍵盤から指を離した後から音が消えるまでの時間を調整
- Velocity Bias:ベロシティ・レスポンスを圧縮したり伸長したりすることで ppp から fff のベロシティ・レンジをキープしつつ、サウンド全体の明るさを調整可能
- Velocity Intensity:音量にのみ影響するベロシティ感度を調整
Componentsパラメーター
Damper Resonance:ダンパー・レゾナンス・サンプルの On/Off を設定
(※Youtube動画音声が圧縮されているため、音がフェイザーのようにうねって聞こえますが、実際にはうねっていません。)
Damper Noise:実際のピアノでは ダンパー・ペダルを踏んだときに発生するノイズにより、すべての弦がわずかに共鳴します。
このパラメーターは、そのダンパー・ノイズ・サンプルのオン / オフを設定します
Mechanical Noise:鍵盤から手を離した時に発生する、メカニカル・ノイズ・サン プルのオン / オフを設定
Note Release:ダンパーが弦に当たるサンプルのオン / オフを設定
String Resonance
アコースティック・ピアノの鍵盤を弾くと、実際に弾いた音程以外のダンパーが外れている音程の弦も、演奏した音程の倍音にわずかに共鳴します。極端な例では、ダンパー・ペダルを踏み込んだときにすべての弦が同時に共鳴することもありますが、それ以外にも演奏した音程の倍音に近い音程の弦が共鳴します。例えば、C2の鍵盤を押さえたまま、C3の鍵盤をスタッカートで弾くと、C2 の弦がわずかに共鳴してうっすらとリバーブがかかったかのように聴こえます。
SGX-2 / Premium Piano では上記のようなそれぞれの現象をモデリングにより再現しています(ダンパー・ペダルを踏み込んだときの共鳴音は ”Damper Resonance” により再現しています)。共鳴している弦と、共鳴音の強さがグラフィカルに表示されるのも分かりやすいですね。
Una Corda
グランド・ピアノのペダルは通常3本で、左から順にウナ・コルダ(ソフト・ペダルとも呼ばれます)、ソステヌート・ペダル、 サステインまたはダンバー・ペダルがあります。ソフト / ウナ・ コルダ・ペダルを踏むと、アクション部分(鍵盤やハンマー)が わずかに右へシフトします。これによりハンマーが弦を叩くポジションが変わり、音色がソフトになると同時に一般的には音量も少し下がります。アクション部分がシフトする幅は、この時の音色変化をごくわずかなものにしたいか、あるいは明瞭な差を出したいかで変わり、調律師の手により調整されます。
いくつかのピアノ・タイプはウナ・コルダ専用のサンプルを内蔵し、画面をタッチ、またはCC#67 を受信するとベロシティ値を変更する代わりにウナ・コルダ専用サンプルを発音します。動画ではボリュームや音色の変化ではなく、特徴的なプリペアドピアノのサンプルが切り替わっているのがわかります。
アンビエンスをミックス
HOMEエディット画面では、2つの音源を立ち上げてミックスバランスを取る事が可能です。動画ではメインのピアノにアンビエンスのピアノバリエーションを加え、ミックスバランスを調整しています。動画には残せませんでしたが、アンビエンスのピアノだけ1オクターブ上げると連弾ぽい面白い効果が得られました。今回作成した全ての動画ではリバーブエフェクトを使用していませんので、今後ご紹介する予定の内蔵エフェクトを活用すれば更に磨きがかかる事でしょう!
ピアノ弾きの理想を追求した技術の塊
もはや生なのか打ち込みなのか判別が難しい領域で、さらなる高みを目指した楽曲制作を可能にしてくれるNAUTILUS。ソロピアノではノイズを多めに入れたり、バンドのバッキングではNote Releaseを短く歯切れの良いサウンドに仕上げたりと、ピアノ弾きをうならせるリアルを超えた機能の数々が、新しいメロディやアレンジを導いてくれます。NAUTILUS号の旅はまだ始まったばかり!シンセエンジンもたくさん搭載していますので、次回をどうぞお楽しみに! (SCFED IBE)
KORG NAUTILUS 61鍵、73鍵、88鍵 ラインナップ
記事内に掲載されている価格は 2021年6月30日 時点での価格となります。
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