第一線で活躍するクリエーターのインタビューやコラムなど、音楽と真摯に向き合う作り手の姿があなたの創作意欲を刺激します!
Porno Graffitti、Perfume などビッグネームのレコーディングやライブレコーディングに携わり、現在はアイドル、バンド、大編成オーケストラまで様々な音楽作品を手がけるサカタコスケ氏。bluesofa自社スタジオ HINATA STUDIO チーフエンジニアとして活躍中の氏を、Rock oNスタッフのSCFED伊部がインタビューしました! レコーディングエンジニアを目指す人に向けて色々とお話を伺いましたのでお楽しみ下さい。
エンジニアになろうと思ったきっかけは何ですか?
サカタ氏:高校生くらいの時に音楽を自分で作りたくなってきて、当時Roland SC-55などで打ち込みをする一環としてレコーディングをしていたという感じです。カセットMTRから始めたかも知れないですけどすぐにデジタルに移行して、ALESIS / ADAT、YAMAHA / CBX-D3 と Opcode / Studio Visionの組み合わせで、Apple LC630にハードディスクレコーディングしていました。
それから京都教育大学音楽科に入学して先輩から音楽業界の情報をもらったりして、自分はレコーディングエンジニアになりたいと思ったのがきっかけですね。大学を卒業してすぐに、自分が働きたいと思っていた東京のスタジオの裏に引っ越しました。大編成のオーケストラも録れる大きなスタジオで、スタジオのすぐ近くに住んでいれば雇ってくれると思っていたんです。そして引っ越した日にスタジオを見に行ったらスタジオが潰れて閉鎖されていました!それが東京に出て来た初日(笑)。 ただその数日後、大学時代に履歴書を送っていた都内のスタジオから電話がかかって来たんです。
そのスタジオの方はサカタさんが東京に引っ越して来た事を知っていたのですか?
サカタ氏:いえ、そのスタジオからは大学在学中に一度電話が来て、今すぐ働けます!と言ったんですけど京都在住の大学生という事もあって、卒業したらおいでみたいな感じで終わってしまいました。東京に引っ越して4日目くらいにまた電話が来て、早速アルバイトでスタジオに入れる事になったんです。まずはスタジオ掃除や電話番でしたけど、すごく運が良かったと思います。いまエンジニアを目指している人は求人に応募したり、憧れのスタジオにどんどん履歴書を送るべきだと思います。
その後、スタジオアシスタントとして働いた時の印象はどうでしたか?
サカタ氏:レコーデイングエンジニアはレコーディング現場を仕切る一番偉い人みたいなイメージを持っていたんですけど実際はアレンジャーが決定権を持っている事に驚きました。当時はアレンジャーという職業を知らなくて、アレンジして譜面を書いて終わりの仕事だと思っていましたが、アレンジャーが全責任を持って最後の録音までやっていました。制作現場によるとは思うんですけど初めて現場でそれを目の当たりにして、「レコーディングエンジニアはアレンジャーと一緒に仕事をするのが楽しいんじゃないか」と思いました。それで本間さんが所属しているbluesofaでアシスタントエンジニアを募集しているのを見つけて、ここだ!と
bluesofaアシスタント時代の思い出はありますか?
←アシスタント時代のサカタ氏:本間さんと朝まで飲んで翌日スタジオに吐きながら向かった事がありましたよ(笑) 仕事での思い出は全部が苦労と言えば苦労でしたし、全部が楽しい事でもあったので全然苦労とは思っていなかったですね。どの職業にも言える根本的な話ですけど、働くのが苦痛だったら続かないですね。昔は自分の納得の行く音を作るのにすごく時間がかかっていましたけど、今は欲しい音のイメージが早く形に出来るようになったので、あの時の経験が今とても生きていると思います。
HINATA STUDIO
Outboard
Monitor Speaker
Recorder
サカタさんのマネジメントをされている畠山さんに伺いますが、自社スタジオであるこの HINATA STUDIO はどういった目的で作られたのでしょうか?
畠山氏:多様化する音楽制作の中でクオリティを常に担保するには、自社スタジオを持っていた方が自分たちでコントロール出来る自由度を上げられるという事で2013年から稼働しています。最初はスタジオ固定費がかかるという懸念もありましたが、今では無くてはならないスタジオとして稼働しています。ここでは主に HINATA STUDIO チーフエンジニアとしてサカタに依頼されるレコーディングと、bluesofa案件のレコーディングを行っています。
どんなレコーディングが行われているのですか?
サカタ氏:ボーカル録りやギターのダビングが多くて、アレンジャーさんからトラックのバラデータを貰って歌入れとミックスをするというのも多いです。ドラム録音も可能で、分離の良いクリアーな音で録れると好評を頂いてます。あとは他のスタジオで録音した音やライブ録音データをここでミックスしたりエディットするというケースなどもあります。
アーティストにとっては、いつもと違う環境で歌ったり楽器を演奏する訳ですが、普段通りのパフォーマンスを発揮してもらうために気をつけている事はありますか?
サカタ氏:マイクセッティングの時はアーティストとエンジニアがコミュニケーションを取る良い機会なのでリラックスしてくれるような話をしています。Rec中はブースとコントロールルームとの窓口にもなりますので、エンジニアがピリピリしては絶対ダメだと思います(笑) アーティストが普段通りのパフォーマンスを出せるような雰囲気を作る事が大切です。
良い演奏をしてもらうために良い音を作る事がエンジニアの役割だと思っていますので、アーティストとディレクターに納得してもらえる音を作るよう心がけています。ボーカルRecではピッチにこだわって注意深く歌う事よりも、熱く伝わる表現力の方が重要だと思うのでそういう意味ではRec後のピッチ修正は肯定的に捉えています。
一応音楽科出身なので、音程がぶつかっている箇所とか見つけたら意図的にぶつけているのか確認しますけど、意見やアドバイスは相手との信頼関係があった上での事なので、先ずはお互いに本音を言える関係を築く事が大切だと思います。
これまでのレコーディングで印象に残っている事を教えてください。
サカタ氏:初めてレコーディング経験をする10代のボーカリストで、上手く歌えない事が本人にとって非常に悔しそうでした。その時色々とアドバイスをしたんですけど、久々にレコーディングをした時にすごく上手くなっていたんです!悔しい気持ちをバネに努力した姿が垣間見られてとても感動しました。レコーディングには毎回ドラマがあって印象に残る事はたくさんありますが、ほとんど楽しい事の方が多いです。取り返しの付かない失敗をした事がないというのは運が良かったと思いますけど、失敗したとしても、失敗として終わらせない事で失敗では無くなるんです。そういう意味では失敗した事はないです。
レコーディングエンジニアに求められる資質とは何でしょうか?
サカタ氏:レコーディングエンジニアは風邪をひいてはダメです!周りでも風邪でレコーディングを休んだという話を聞いた事がないです。あと寝坊しない、目覚まし時計をかけていなかったとしても起きられる事。エンジニアはたくさん居ますが自分の代わりは居ないので絶対に起きる事。多くの人に迷惑がかかるのと損害額も大きいです。すごく昭和的な話かもしれないですが気合いですかね、そのくらい気合い入れて暮らしていますよ。それとコミュニケーションツールとしてのお酒も大切です。引きこもらずに外に出て、アーティストと心を通わせたり周りのスタッフと飲む事も大事だと思います。
これからレコーディングエンジニアを目指す人へのアドバイスをお願いします。bluesofa案件ではエンジニアへ発注する立場となる畠山さんにも、是非ご意見を伺いたいです。
畠山氏:現在の制作費やスピード感に対して、これまでのスタジオの規模感では対応し切れなくなって来ていますので、エンジニアはそれに対応出来る自分の基地を作っておく事が必要だと思います。自分の基地で完結出来るスタイルにしておくとクライアントが仕事を頼みやすいです。
私はエンジニアに発注する立場でもあるので「この人に頼んだら、安心だし、やりとりがスムーズ」みたいな雰囲気を出すことは、結構大きいと思います。例えば、私は音楽を作る過程で、電話でお話しする機会が多いのですが、電話にすぐ出てくれるとか、話し方が柔らかい方には自然に気軽に連絡するようになっていくと思います。
サカタ氏:楽器はソフト音源が使われる事が増えて、特に打楽器系はソフトでも行けると思います。DAWだけで表現出来る天才的なクリエイターもたくさん居るので、これまで続いた分業制で音楽を作るというスタイルが変わって来たという気はします。ただ、スタジオでレコーディングをするという事は、人間が演奏する事にメリットがあるから生で録音するという事なんです。楽器が上手い人の情熱や躍動感を録音するという感動がスタジオにはあります。
レコーディングは最初から自分の目指す音で満足に録れるという人はなかなか居ません。トライ&エラーの積み重ねで色々なレコーディングを経験する事が何より重要です。音楽を聴く時に何の音が入っているのか考えながら注意深く聴くと、今まで聞こえなかった音に気づいたり、ノイズに関しても注意するクセが付くと意識していなくても気付くようになって来ます。
エンジニアは音楽を作る一員であって、与えられた仕事だけをやっていてはダメだと思います。プロフェッショナルのミュージシャンと一緒に仕事をして行くにはある程度、音楽的にも対等でなければいけなくて、コードの知識や絶対音感もあった方が良いです。彼らに自分の意見を言えないと仕事にならない事もあるので、エンジニアは「音を録る」だけでもなく「音を混ぜる」だけでもなく「音楽を作っている」という感覚が必要です。
最近はAIでミックスをする技術が出て来ましたけど、そのAIアルゴリズムと自分のアルゴリズムとは違っていて、他人は他人、自分は自分、という認識です。サカタ・アルゴリズムをプロファイル出来たら面白いですね!
多くの質問に快くお答え頂きまして有難うございました。笑顔の絶えない明るいムードの中、サカタさんの人柄が伝わってくる楽しいインタビューとなりました。サカタコスケさん有難うございました!
bluesofaオフィシャルサイト
https://bluesofa.futureartist.net/
記事内に掲載されている価格は 2019年7月17日 時点での価格となります。
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