第一線で活躍するクリエーターのインタビューやコラムなど、音楽と真摯に向き合う作り手の姿があなたの創作意欲を刺激します!
楽器レンタル・ドット・コム/音響レンタル・ドット・コム/楽器リペア・ドット・コム/楽器ソムリエ/クリエイターゼロ/カスタムケース・ドット・ジェーピー。これら6つのブランドを運営する有限会社クリエーターゼロは、シンセサイザー・プログラマーの川添穰氏が個人で行っていた業務を1984年に法人化したのを始まりに、これまでシンセサイザー・プログラミングの先駆者として35年以上にわたり活躍しています。そのクリエーターゼロには、何と非公開の「シンセサイザー博物館」があるという情報を入手。ワタクシ SCFED イベはその存在を確かめるため、渋谷・代官山にあるゼロスタジオを訪ねました!
黎明期からシンセを知り尽くすシンセマスター
スタジオに到着するとシンセの音が鳴り響き、クリエーターゼロ代表の川添穰さんがWaldorf THE WAVEを演奏していました。川添さんは音響、通信関係の大学卒業後にシンセ・マニピュレーターの会社に入り、スタジオで作曲家やアレンジャーのリクエストに応えてProphet-5やDX7などで音色を作成していたそうです。大野雄二氏のルパン三世や、宮川泰氏の宇宙戦艦ヤマトなどビッグネームのシンセオペレートや、冨田勲氏がコスモシンセサイザーを演奏する現場にも参加していたりと、川添さんは数々の伝説的な現場に立ち会ったマニピュレーターなのでした!ちなみに、独立するきっかけとなったのは、YAMAHA DX7が出た時に「こんなに音作りが大変なシンセでは誰も音を作れないだろう、シンセで音を作るのが仕事として成り立つだろう」と感じたからだそうです。うーむ、恐るべしFM音源…今でも根強い人気があるのは一筋縄では行かないその奥深さなのですね。
数々のヒットソングを録音したゼロスタジオ
ソフトシンセが当たり前の現代では考えられない話ですが、当時はスタジオにたくさんのシンセを運んでセッティングするのが大変だったので、マルチテープを自分のスタジオに持って来てシンセダビングをした方が良いのではないか、という考えから1986年に開設されたのがこのゼロスタジオ。当時はE-MUII、Kurzweil 250、Sequential CircuitsPROPHET-5、PPG 2.3などの珠玉のお宝シンセたちが盛大に並んでいたそうですが、外部マニピュレーターがシンセを持ち込む機会が多くなり撤去。しかし取材したこの日はお宝シンセが3台、Waldorf / THE WAVE、Modal Electronics / 002、ALESIS / A6 ANDROMEDA がセッティングされ、ゴージャスなサウンドを聴かせてくれました。
スタジオ機材の変遷は時代を反映していて、ミキサーはQuad Eight Electronics / Coronado ConsoleからSSLに変わり、レコーダーはSTUDER24チャンネルから SONY / PCM-3348に、そして2001年にはProtoolsを導入。当時はレコーディングブースでの歌入れやギター録り、シンセのダビングがメインで、ドラゴンボールZの「CHA-LA HEAD-CHA-LA」は、ここで歌入れが行われたそうです。そしてワタクシが憧れる坂本龍一教授のアルバム「BEAUTY」でも使用されたほか、avexも自社スタジオが完成する前はよくこちらを利用していたそうです。Folder、SPEED、hitomi などなど、数々のメジャーアーティストの歴史がこのスタジオに刻まれているのです。
現在はボーカル・ナレーション録りの利用が多く、ブースにグリーンカーテンを引いて動画配信のクロマキーにも対応。ゼロスタジオのマイクは Neumann U47tube(オリジナルモデル)、Neumann U67tube(オリジナルモデル)をはじめ、U87はU87AiではなくNeumann U87 Made In Western Germanyというヴィンテージモデル。U47tubeオリジナルモデルは現在150万円程度で取引されるという超レアモデルで、さらにビンテージのU87も滅多にお目にかかれないレアなマイク、ということでマイクをお目当てに利用する方も多いのだそう。渋谷駅と代官山駅から徒歩約10分という好立地ながら、貴重なマイクが使用できて低価格な設定は “灯台もと暗し” 的な穴場なのではないでしょうか。
いよいよ秘密の博物館へ!
スタジオで早速お宝シンセ3台を目の前にしてテンションが上がるワタクシ。秘密の博物館はどこかとキョロキョロしていると川添さんが「この3台はほんの前菜です。それでは博物館へ移動しましょう」とアイマスクとヘッドホンを差し出し、ワタクシはアイマスク&ヘッドホン爆音状態で手を引かれワゴン車の中へ。秘密基地は無人島にあったのかぁ、と覚悟を決めたその時!…すいませんウソです。普通に川添さんの車に乗せて頂き、シンセサイザー博物館へと向うのでした。
そして到着した巨大な建物。そこには楽器や機材がぎっしりと詰まっていて、早々にシンセの台数を数えるのは断念。一体いくつシンセがあるというのでしょうか?ワタクシは川添さんの回答に愕然。は、ひゃ、800台???この建物に保管されているほか静岡にもシンセ修理拠点があって、完全には数を把握できていないのだとか。つい最近までそうでしたが、マニピュレーターはシンセをたくさん持っている必要があって、川添さんは昔から「あのシンセない?」と言われると持っていることが多いので、その筋からはドラえもんと呼ばれていたそうです。納得!
大量のシンセやアンプなどがギュウギュウに詰まった巨大な建物
巨大建物の一角に隠された秘密基地
ついに案内されたドアを開けると大量のシンセがずらり!1970年代のアナログシンセ黎明期から、全盛期を迎えた80年代、PCMシンセが台頭した90年代、アナログモデリングシンセが人気を博した2000年代、そしてアナログに原点回帰した2010年代と、シンセサイザー史を彩る名機を集めた博物館がありました。ここは今から4〜5年前、川添さんがシンセで遊ぶことを目的として作られ、効果音を作ったりして1日遊ぶのが理想的な使い方という、男の隠れ家とも言える最高の秘密基地です。川添さんにとってシンセとは、ずっといじり続けられるおもちゃとのこと。特にツマミが好きだそうで、「酒が好きじゃないからツマミ好きみたいな(笑)」と少年の笑顔で語る川添さんはまるで秘密基地の司令官です。
もちろん、大人の秘密基地となると半端なくお金もかかってます!日本に数台しかないというレアシンセや、中古相場で100万円はくだらないであろうシンセがざっくざく!秘密基地には800台すべてのシンセは入り切らないので、そのつど必要なシンセを巨大建物の中からピックアップして基地に運び入れるわけです。「言ってくれれば何でも出すよ」と司令官が四次元ポケットに手を入れているので、ワタクシはこの時期に名前が不謹慎と思いつつも ACCESS Virus B をリクエスト。ACCESS Virusシリーズは Bが一番荒々しい音とマニアの評価が高く、実に18年越しにそのサウンドが聴けて大感動したのでした!
No.1よりOnly-1
シンセ試聴に満足して我に返ったところで、さて、これだけシンセを所有する川添さんにとって一番のシンセは何なのか質問をしてみました。するとまず「電子回路にピュアな信号は存在しなくて、その不完全さがシンセのキャラクターになる」という格言をいただきました。電子回路はソフトウェアプログラムとは違って物質なので、部品ごとにノイズや歪みが少しずつ発生していて、その積み重ねがシンセの個性になっていると。そしてアナログシンセの音の太さにはVCAの使用数が関係しているそうで、使用されるVCAの段数が多いほど音痩する傾向にある。この情報、ワタクシ初耳でした!最終アンプ部以外にあるVCAの数なんてマニュアルにも書いていないので、シンセの修理ができる川添さんならではのお宝情報。ちなみにProphet-5 にはVCOから音が出るまでに VCA が3段重ねで使われているそうです。
どんなシンセにも一長一短があって一番は決められないけれど、アナログシンセであれば Oberheim が作った最高傑作シンセサイザーXpander。カーチス製CEMチップの使い方が上手くて、中域が良く出る荒々しい音。しかしXpanderは8ビットコンピューターで16ビットを疑似的に作っているため、エンベロープが不完全でリリースの終わり際が不自然に消えてしまうのが難点とのこと。次に、音の魅力や触っていて一番楽しいのはmoog Grand Mother。パッチ式でありながらパッチしなくても音が出て、本格的にやりたいことはパッチできるという設計も良い、しかし音色保存が不可能。そして最後に仕事で使うシンセであればKORG KRONOS。なるほど「不完全さがシンセのキャラクター」とは、川添さんの長年に渡るマニピュレーター経験で培われた深みがあります。
Minoru Kawazoe Synthesizer Museum : http://www.soundbank.co.jp/synth-museum/
この記事は Proceed Magazine 2020-2021 NO.23号に掲載された内容より抜粋しました。
記事内に掲載されている価格は 2021年2月4日 時点での価格となります。
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