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6月3日に発売されたMoogの新作シンセ「Messenger」。
近年、Moogのシンセは高価格帯のモデルが多く“高嶺の花”という印象が強まりつつありますが、そんな中、Moogが良心的な価格のアナログシンセを投入してきました。
果たしてその実力は? 実機をお借りすることができましたので、さっそくレビューしていきます。
完全なモノフォニック・シンセサイザー
最近のMoogでは、パラフォニックやポリフォニックなど和音を奏でられるモデルも登場していますが、このMessengerは、MiniMoogのように完全なモノフォニック・シンセサイザーです。
モノフォニックなのでコードは弾けませんが、単音ならではの魅力もあります。それはレガート(音をつなげる)とノンレガート(音を切る)による挙動の違いです。音の出方そのものが変化するため、これを使い分けることでフレーズに豊かな表情を加えることができます。特にリードやベースのような単音で弾くフレーズにはこのモノフォニックの挙動は好都合なわけです。実際、ポリフォニックシンセでも単音時にはわざわざ「モノモード」に切り替える機能があるほどです。
Messengerの構成
Messengerの構成は、オーソドックスな2オシレーター仕様。基本的な音作りのパラメーターはすべてパネル上に配置されており、レイアウトも非常にわかりやすくなっています。各モジュールのルーティングもよく整理されていて、複雑さはなく、操作位置も直感的に把握できます。
ツマミもMoogらしく大きめで回しやすく、リアルタイムな音色変化に最適です。
●オシレーター(OSCILLATORS)
まず、パネル左側にはオシレーター(OSCILLATORS)と波形のミキサー(MIXER)が配置されています。オシレーターの波形は固定の切り替え式ではなく、WAVESHAPEノブにより連続可変します。いわゆるPWM(Pulse Width Modulation)では矩形波とパルス波の間を変化させますが、このMessengerでは三角波やノコギリ波を含む全波形が連続可変可能です。LFOやエンベロープに割り当てて周期的な音色変化を加えることもできます。
ちなみに、三角波の左端にある“富士山”のような波形……これは一体なんという名称なのでしょうね?
メインオシレーターのOSC 1、OSC 2に加え、サブオシレーター(SUB OSC)とノイズジェネレーター(NOISE)も搭載。たとえば、楽曲の盛り上がりに合わせてミキサーのSUB OSCのツマミをあげてオクターブユニゾンさせたり、NOISEを加えて音色を崩したりと、幅広い演出が可能です。
●フィルター(FILTER)
パネル右側にはフィルター(FILTER)とエンベロープ(ENVELOPES)が用意されています。
FILTERは、4poleと2poleのローパス(4P LOW PASS、2P LOW PASS)、バンドパス(BAND PASS)、ハイパス(HIGH PASS)の4種類。
RES BASSボタンを押すと、RESONANCEを上げた際に失われがちな低音を補強してくれます。
FB/EXT INのノブは、EXT INの入力に何も繋がっていない時も自己完結的に動作し、音を歪ませられます。
OSC 2 > CUTOFFはフィルターカットオフにかけるLFOみたいなものですが、LFO(Low Frequency Oscillator)と異なるのはLow Frequencyではない普通のオシレーターなので、要は周期が速いということです。イメージとしては超高速でWahペダルを踏んでる感じでしょうか。
ENVELOPEはオーソドックスなADSR(Attack/Decay/Sustain/Release)でFILTER ENVELOPE (F ENV)とAMPLIFIER ENVELOPE (A ENV)の2系統を搭載。それぞれ、F ENV VEL、A ENV VELボタンでベロシティに反応させることができ、F ENV LOOP、A ENV LOOPを押せばエンベロープをループさせ、LFOのような動作も可能です。自分でツマミで形を作る“自由度の高いLFO”と捉えることもできます。
FILTER ENVELOPEはオシレーターセクションにアサインすることも可能です。
(F ENV>OSC 2 FREQ、F ENV>OSC 2 WAVE、F ENV>SUB WAVE)
MULTI-TRIGボタンを押すと、レガートで弾いた場合でもノンレガートのようなトリガー挙動になります。速弾き中にもアタック感をキープしたい場合に重宝します。
●LFO
LFOは2基搭載。LFO 1はLFO 1 DEPTHノブで深さを調整する音作り用、LFO 2はモジュレーションホイールにアサインされており、ビブラートのような用途に最適です。
ある程度のルーティングが固定されているため、パネルを見ただけで機能が直感的に理解でき、実演中も“ノールック”で操作できます。(でも実はKB RESETのボタンを長押しするとLFO 1 ASSIGNとして機能するので、他のパラメーターにも自由にアサインできちゃうみたいですけどね。)
●アルペジエーター(ARP)やシーケンサー(SEQ)機能
鍵盤の真上には16個のプリセットボタンを搭載。作った音色をPATCHモードで呼び出したり、SAVEで保存ができます。このセクションはアルペジエーター(ARP)やシーケンサー(SEQ)の機能も兼ねており、16個のボタンはステップシーケンサーとしても機能。
アルペジエーターやシーケンスを鳴らしっぱなしにして音色をリアルタイムに変える、という使い方も楽しいです。
背面端子
背面端子はUSB Type-Cを採用。現行のPC環境にフィットした現代的な仕様です。出力は潔くモノラル仕様。エフェクト機能は内蔵されておらず、ステレオ要素もないため当然といえば当然ですが、モノラル出力なのでギター用エフェクターとの相性は抜群です。外部エフェクターは特にリバーブはあると良いです。個人的には、内部エフェクトが一切ない方が、外部のギターエフェクターとの組み合わせがしやすく好みです。
CV/GATEのミニ端子による入出力もあり、モジュラーシンセとの接続も可能。ペダル入力はサステインだけでなく、このサイズでは省かれがちなエクスプレッションペダルにも対応しています。
鍵盤
鍵盤は32鍵(2オクターブ半)。モノフォニックシンセであれば片手分の音域があれば十分なので、これくらいがちょうどいいサイズ感です。歌や管楽器もこの程度の音域が多いため、むしろ限られた音域の中でメロディーを工夫するほうが“歌心”を育てられる気がします。もちろんオクターブシフト機能もあるため、実際の演奏音域はもっと広くなります。
セミウェイテッド鍵盤で弾き心地も良好。アフタータッチにも対応しています。
個人的に気に入ったのは・・
個人的に特に気に入ったのはピッチベンドホイール。クラシカルな細めのホイールで、かなり重めの抵抗がありますが、この重さが絶妙です。
ベンド幅を広く設定していても、1音や半音を狙いやすく、演奏に安心感があります。逆に、ベンドを上に振り切って演奏していると、重さで少しずつ戻ってしまい音程が不安定になることも……。でもこの“ピッチの不安定さ”が、まるで無理して高音を頑張って歌っているようなニュアンスを生み出し、それがまた味になっていると感じます。
さらに、モジュレーションホイールのビブラートと組み合わせることで、まるで“叫んでいる”ような音色表現も可能になります。鍵盤楽器は構造上狙った音を正確な音を出せる反面、どこか機械的になりがちですが、こういった“ハズし”の要素があると一気に有機的な表現が可能になりますね。
トータルの印象
★気になるMessengerのサウンドが聴ける動画はこちら!
全体として、表に出ているツマミだけでかなり多彩な音作りができる一方、ルーティングはある程度固定されていて直感的。ツマミやボタンも含めて、非常に“楽器的”でバランスの良いアナログシンセだと感じました。
コンパクトなサイズなので、ピアノやエレピの上に置くのにも最適ですが、両手でホイールやツマミを駆使しながら、1音1音を大切に奏でる楽しさもあります。レイアウトもオーソドックスで分かりやすいため、初心者にもおすすめできますが、裏機能的な要素もあるので、実はかなりディープに掘り下げられる玄人好みの一面も感じました。
気になる価格ですが¥119,800 (税込)。冒頭でも書きましたがMoogのシンセは本当に高くなったので、こういう手が届きやすい価格設定のラインナップが新たに発売されたのはとても嬉しいですね。しかもアナログシンセとしての必要な機能はしっかりと網羅されているのでエントリーモデルと侮るなかれですね。
そんな、幅広い層におすすめできるアナログシンセ「Moog Messenger」のレビューでした。
ご興味を持たれた方は、ぜひ以下のRock oN店頭窓口までお問い合わせください。
それでは、また!
参考動画
記事内に掲載されている価格は 2025年6月4日 時点での価格となります。
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