第一線で活躍するクリエーターのインタビューやコラムなど、音楽と真摯に向き合う作り手の姿があなたの創作意欲を刺激します!
森元さんにとっての「正確なモニター環境」の定義をお聞かせください。
森元浩二氏(以下敬称略):周波数特性はもちろん、部屋の残響音も含んだものがモニターの音です。周波数特性を良くするには、壁の吸音を増やして、部屋のモード(定在波)と呼ばれる、壁の距離で生まれる音波の増減を減らせばいいのですが、それでは無響室で聞いているような、味気ない音、聞いていると苦しくなる様な音になってしまいます。吸音を増やしてモードを調整するのではなく、部屋のサイズを計算して、モードを分散することにより基本的周波数特性を良くして、吸音は残響感を含めた周波数特性の調整に使います。また壁表面には、木材などで高域の反射を取り付けて、音の前後感やリバーブ感を掴みやすい音に調整します。モニターの状況をチェックするには、日頃からリファレンスとなる曲を決めて、曲の隅々まで把握する事が重要です。私は仕事を始めて35年になりますが、サウンドチェックの曲は10曲もありません。聴き込んだリファレンスを聞けば1分かからず、モニタースピーカーと部屋の状況は把握できるようになります。頭の中でなっている音と、聞こえている音が近いのが、正確なモニター環境だと思います。
正確なモニター環境がない場合、ミックスにどんな影響がでますか?
森元:その環境のモニターに慣れれば仕上がりを予想してミックス出来るようになるかも知れませんが、あくまで予想なので思ったようになっていない可能性があります。音楽制作はリスナーがどんな環境で聞いても同じ感じになる様にしないといけないので、全てを把握できる正確なモニター環境が必要です。環境がない場合は他で聞いた場合はどうなっているかは神頼みと言うことになります。
自宅スタジオの場合、(できるだけ)正確なモニター環境を構築する場合の注意点を教えてください。
森元:自宅の場合、部屋のサイズは決まっているので、部屋のモードの影響の少ない場所にスピーカーを置きます。また吸音もスタジオの様に何十センチも出来ないので、5〜10センチぐらいの吸音材を壁に貼ることになると思いますが、多少の吸音ではモードの問題は解決されませんので、部屋鳴りを少なくするのを重視して吸音材を設置するのがいいと思います。またスピーカーは机に置くなどせずに、スタンドを使って設置することをおすすめします。部屋のモードについてはロックオンカンパニーが発行するプロシードマガジンに音響学を連載しているソナ中原氏の記事を参考にしてください。専門知識が無くても解りやすい内容になっています。中原氏のAESの記事のリンクはこちらです。専門知識の必要な高度な内容になっています。
http://www.aes-japan.org/special/aes2009/tutorial/AESTC09_TS2_RoomAcoustics.pdf
いわゆる「音響補正システム」に対する森元さんの印象をお聞かせください。
森元:音響補正システムは自宅制作環境では必須ですね。部屋の調整を最大限にした後に、音響補正システムを使うのがコツです。理由は部屋のモードの影響で、音の凹むディップと言われる現象は音響補正システムでは解決出来ません。理由は部屋の反射音が問題で、ディップがあるからとその部分をブーストしても、ブーストされた反射音で打ち消され相殺されるからです。最先端の音響設計技術では、設計時に周波数特性を予測出来ます。特性を見ながら特性の整った部屋を作れるので、音響補正システムのないモニターでも正確なモニターをすることが出来ますが、自宅はもちろん、高度な設計をしていないスタジオでは、音響補正システムによる補正をすることにより、使えるモニターに近づけることが出来ます。正直にいうと高度な設計とエンジニアの耳による音響調整が出来ているスタジオは少ないので、音響補正システムは今やスタジオでも必須ですね。
Neumann MA 1 を使ってみた印象をお聞かせください。
森元:これまで数社の音響補正システムを使用してきました。Neumann MA 1は複数のポイントで測定することにより、リスニングポイントのスイートスポットが広く、実際の作業時に頭の位置を気にすること無く作業に没頭出来ていいです。測定はマイクの位置を指示通りに移動しなくては行けないので、床にテープを貼って、測りながらの作業になるので、ワンポイントで測る製品と比べると少し時間と労力はかかりますが、補正後の出てきた音を聞けば納得すると思います。2chの測定ではリスニングポイントを中心に、中央、左右、前後、上下に7箇所で測定します。
専用ソフトウェアを使ってみた印象をお聞かせください。
森元:最初は少し難しく感じますが、マイクの移動の前準備が出来ていれば2度目からは、スムースに出来ると思います。
この製品をどんなユーザーにお勧めしますか?
森元:自宅スタジオで作曲やアレンジをするクリエーターはもちろん。スタジオで作業する際のモニターとしてお勧めします。私はスタジオミックスの際のセカンドモニターとして使っていますが、実はメインモニターよりも鳴らしている時間が長いという状況になっていっています。
モニタリング新時代の幕開け NEUMANN MA 1
プロフェッショナルなモニタリングクオリティを実現する為の専用ツール
ノイマンのオートマチック・モニター・アライメントMA 1は、ホームスタジオからプロのコントロールルームまで、最高の音質を保証します。1本ずつ校正された測定用マイクを使用して、音響環境をガイド付きのプロセスで分析します。世界有数の音響処理研究機関であるフラウンホーファーIISと共同で開発された高度な音響調整アルゴリズムは、正確で信頼性の高いモニタリングのための最適な振幅と位相の補正を保証します。
特徴
どこでも信頼性の高いモニタリング
ノイマンのオートマチック・アライメントは、KH 750 DSPサブウーファーのアナログ出力に接続されたKH 80 DSPモニターや、DSPベースではないKH-Lineモニターのための統合ソリューションです。プラグインや特別なオーディオドライバーは必要ありません。アライメント・データは、DSPを搭載したモニター自体に保存され処理されます。独自の利点として、ソフトウェアは振幅応答を最適化するだけでなく、位相も最適化します。これにより、トーナリティとインパルスの再生において最高の精度を実現しています。
動作原理
最初のステップでは、ガイド付きのプロセスでリスニング環境の音響データを収集します。特別な音響知識は必要ありません。お手持ちのノイマンモニターをオーディオ・インターフェースに接続するだけです。尚、DSPベースのKHモニタースピーカーをコンピュータのイーサネットポートに接続する必要があります。接続には、標準的なイーサネットスイッチをご準備下さい。
次に、測定用マイクをオーディオインターフェースのマイク入力に接続します。このマイクは、このソフトウェアのために特別に開発されたもので、個別に校正されています。ソフトウェアは測定プロセスを案内し、測定されたデータから部屋の音響特性を測定します。ソフトウェアによって計算された部屋固有の音響特性に従って、個々の補正パラメータが生成されます。このプロセスには、スタジオコントロールルームでのモニタリングシステムの校正におけるノイマンの数十年の経験が組み込まれています。もちろん、ユーザーのニーズに合わせてターゲットカーブを変更することも可能です。
サブウーファーを使用している場合は、アライメントプロセスにより低域が最適な状態に補正されます。結果として得られたすべての補正パラメータは、DSPを搭載したモニターに保存され処理されるため、プラグインやドライバーの問題を心配する必要はなく、アライメント処理完了後はイーサネット接続は不要です。
サブウーファーKH 750 DSPを使用することで、アナログKHモニタースピーカーのステレオセットも、モニター自動調整ソフトウェアを使用して使用することができます。KH 750 DSP は、その出力に接続された 2 台のアナログスピーカを含むシステム全体のアライメントを行うのに十分な処理能力を持っています。さらに、KH 120、KH 310、KH 420モニタースピーカーは、内蔵クロスオーバーフィルターの位相リニアライズの恩恵を受けることができます。その結果、明瞭度が向上し、ドライな低音、リバーブや音響空間の時間的に正確で正確な描写が可能になりました。
今後について
MA 1 オートマチック・モニター・アライメントは、モニタリングの新時代の幕開けです。ステレオのセットアップで優れた音響効果を発揮する現行バージョンをはじめ、ソフトウェアの機能はアップデートにより段階的に拡張されていきます。
必要なハードウェア
以下のスピーカーとサブウーファーはネットワークに対応しており、ソフトウェアで直接制御することができます。
以下のモニタースピーカーはネットワークに対応していないため、KH 750 DSPを経由して接続する必要があります。
記事内に掲載されている価格は 2021年3月30日 時点での価格となります。
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