スピーカーは壁や天井などからの音の反射や、スピーカースタンド、デスクの共振などにより、設置する環境によって特定の周波数が増幅されたり減衰してしまいます。正確な出音が求められるモニタースピーカーにとって、あってはならないそんな問題を解決するため各社からモニタースピーカー補正ソフトがリリースされています。Neumann MA 1も モニタースピーカー補正システムの一種で、スピーカー測定マイク MA 1 と専用ソフトウェアを使用して、同社のモニタースピーカーをフラットな音響特性へと自動補正してくれます。発表されて間も無いMA 1の実力を確かめるため、試聴会をゼンハイザージャパン:真野寛太氏と鈴木雅彦氏にご用意頂けましたので、その様子をお届けします!
NEUMANN MA 1 測定マイク
MA 1 は個別にキャリブレーションされた音響環境測定用マイクです(マイクにシリアルが入っています)。このマイクで測定したデータは、世界有数の音響処理研究機関であるフラウンホーファーIIS(集積回路研究所)と、ノイマン数十年の経験により開発された高度なアルゴリズムによって解析され、ホームスタジオからスタジオまで、どのような環境でもモニタースピーカーの正確さを保証します。
試聴会のセットアップ
MA 1 ネットワーク接続に対応している Neumann KH 80 DSP と サブウーファーの KH 750 DSP を使用して試聴会を行いました。この2機種のDSP対応スピーカー本体背面にはLAN端子が装備されています。
今回のセットアップは上の画像真ん中の例になります。
MA 1マイクをオーディオインターフェイスのマイクINに接続。今回RME Babyface Proを使用しましたが、マイクプリ機能が搭載されたオーディオインターフェイスであれば大丈夫です。Babyface Pro のオーディオアウトをサブウーファーのKH 750 DSPに入力し、KH 750 DSPのオーディオ出力をKH 80 DSPに入力します。ネットワークはLANのスイッチングハブに3つのスピーカーとパソコンが接続されています。
サブウーファーKH 750 DSPを持っていない場合は、オーディオインターフェイスのアウトからからKH 80 DSP直接の接続でも使用できます(上の画像左)。それはKH 80 DSP にDSPが搭載されLANポートが装備されているためです。DSPが搭載されていないKH 120や KH 310、KH 420 でMA 1を使用したい場合には、KH 750 DSPを使用すればMA 1が使えるようになります(上の画像右)。
マイク測定は6箇所
まずは通常のスピーカー設置方法と同じく、KH 80 DSPをスピーカースタンドに置いて、リスニングポイントとスピーカーがそれぞれ正三角形の頂点になるように配置します。今回はスピーカーの間隔が176センチあったので、その情報をMA 1ソフトに入力します。
つぎに、ソフトの指示に従ってMA 1マイクでの測定を行います。断続的に再生されるピンクノイズをMA1マイクが集音し、オーディオインターフェイスのマイク入力ゲイン調整を行います。ゲインが適量になったら部屋の環境ノイズを測定。部屋の残響が多い環境であれば、それも含めて測定・分析されます。
そしてここからがメインイベントです。ソフトの指示に従って、極低音から超高音までのスイープ信号を測定していきます。さきほど手入力したスピーカー間隔176センチの情報からはじき出された、計6箇所のポイントで測定していきます。今回はリスニングポイントから左右38cm、前22cm、後ろ26cm、上下13cm で測定せよとの指示が出ました。メジャーで距離を測りながら右スピーカー、左スピーカー、サブウーファーと、それぞれ3回計測 x 6 ポイント = 18回計測しました。
測定後の補正結果やいかに!?
測定が完了するとEQ補正された状態のグラフが表示されます。補正前と補正後の画像を比べますと一目瞭然、250ヘルツのピークがフラットになり、40ヘルツ周辺のディップが改善されました。この状態をスタート地点にEQ調整を行うこともできます。補正データはスピーカー本体に保存する事ができますので、スピーカーに設定を保存したらLANケーブルは片付けても構いません。保存後はパソコンにプラグインやオーディオドライバーを必要とせずに、「部屋の音響特性に最適化されたモニタースピーカー」として、通常のスピーカーと同じ様に使えるのが嬉しいですね。
いざ試聴!
まず驚いたのは補正なしの状態でもかなり良く、KH 80 DSPと KH 750 DSPそれぞれが主張しないで一体感のあるサウンドです。サブウーファーを追加すると、低音だけが分離して鳴っている感じになったり、ローエンドが主張しすぎてクラブのようなサウンドになってしまう事がありますが、KH 80 DSPと、KH 750 DSP で1つのサウンドにまとまっています。特に低音が自然で、これは密閉型サブウーファーのメリットによるものが大きいのではないでしょうか。
そして補正をONにすると、4インチのスピーカー + サブウーファー という固定概念が吹き飛びました。KH 80 DSPとサブウーファーKH 750 DSPの繋がりが良くて、まるでKH 80 DSPだけで再生しているかのように錯覚します。これはある意味異様な体験といいますか、KHシリーズ上位機種のKH 120 AGを1つ飛び越えて、さらに上位機種KH 310 Aが鳴っているかのような印象です。低域をサブウーファーに任せることでKH 80 DSPの低音負担が減った分、解像度が上がり、そこへさらにキャリブレーションの補正が入るという、MA 1はNeumannスピーカーのポテンシャルを最大限に引き上げてくれるソリューションといえるでしょう。KH 310 A と KH 750 DSP 、そしてMA 1の組み合わせもかなり良い結果が期待できますので、KH 310 Aを導入しているスタジオさんには是非試して頂きたいです。
モニタースピーカーは正確になるほどキャラクターがなくなり、音が地味に感じると言われます。確かにKH 80 DSP単体で聞くとエンジニア寄りの正確なスピーカーですが、今回 KH 750 DSP と MA 1の補正によって新しい顔を見せたKH 80 DSP。そしてメインスピーカーの潜在能力を最大に引き上げてくれる密閉型サブウーファーKH 750 DSPの威力。Neumann MA 1の新たなスピーカー補正システムは、ミックスエンジニアさんやマスタリングエンジニアさんにぜひチェックして頂きたい 次世代ノイマンサウンドです。
⬅️Rittor Music Sound & Recording Magazine 2021年3月号 Rock on Monthly Recommend記事で Neumann MA 1 を紹介していますので、こちらもチェックしてください!
Writer:SCFED IBE
記事内に掲載されている価格は 2021年2月18日 時点での価格となります。
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