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02
Apr.2020
Rock oN

ピノキオピー氏 インタビュー:ボカロと人間をつなぐ VocalSynth 2

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ピノキオピー氏 プロフィール

2009年より動画共有サイトにボーカロイドを用いた楽曲の発表し、ピノキオピーとして活動開始。以降も精力的にオリジナル楽曲を発表しつつ、アーティストへの楽曲提供などを行っている。ライヴに於いては、電子と肉体の共演、融合を基軸に、ドラムとスクラッチ&サンプラーをサポートメンバーとして従えたバンドセットとワンマイク&バックDJスタイルと柔軟なパフォーマンスを提供している。


http://pinocchiop.com/
https://www.youtube.com/user/pinocchiopchannel

R:Rock oN(以下、R):実際に演奏したり、作曲しようと思ったのはいつ頃からなのでしょうか。

ピノキオピー氏(以下、ピ):高校二年生の時にアコースティックギターを購入し、そこで初めてコードの概念を覚え、コードの組み合わせで曲を作れることを知りました。当時は、4トラックしか録音出来ないTASCAMのカセットMTRを使っていました。打ち込みとは程遠いですが、GM音源が鳴らせるフリーソフトのCherryを使ってリズムパートを作り、ベースはギターの6弦で弾き、ギターでコードを重ねていきました。

R:最初はギターからだったんですね!

ピ:はい、当時はパンク、メロコアが好きだったので、バンドっぽい音楽を作っては身近な友人に聞かせてましたね。PCを使った音楽の作り方が良くわからなかったんですよ。有料のDAWも持ってなくて、無料で何ができるかを試行錯誤していました。CherryのMIDIシーケンサーをルーティングして、VSTプラグインが鳴らせるフリーソフトウェアにMIDIを受信させて、無理やり鳴らしたり。今思うと、めんどくさいですが…。

R:鳴らして、それをMTRに録音して、バンドのような形にしていたんですね。ボカロを使った楽曲制作を始める前のことですよね。

ピ:はい、ボカロを始めるまで、ずっと試行錯誤していましたね。PCを使った楽曲制作の知識を、遠回りしながら少しずつ身につけていき、朧げにMIDIを学びました。その後、MIDIをボカロに読み込ませることで歌わせることができることを知り、2009年頃からボカロを始めたという流れなので、最初から知識があったわけではないです。

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R:なるほど、その頃ギターやボカロで曲を作りたいと思った原動力、影響を受けたアーティストは誰でしょうか。

ピ:はじめて好きになったアーティストはスピッツで、美しい歌メロとひねくれた歌詞が大好きでした。僕が影響を受けたアーティストは沢山いますが、強いて挙げるならスピッツ、電気グルーヴ、筋肉少女帯、真心ブラザーズですね。中でも電気グルーヴには大きく価値観を揺さぶられました。最初は彼らのスタンスに痺れ、音に関しては後から影響を受けました。今まで歌メロと歌詞にしか興味なかった自分が、音そのものの面白さに興味を持ったのは、電気グルーヴが最初でした。

R:2012年頃の曲は、当時DJがやるようなStutterエフェクトが多くみられましたね。

ピ:はい、当時、Aphex TwinやSquarepusherをきっかけに、ドリルンベース、ブレイクコアに興味を持っていたので、その影響ですね。やり方がいまいちわからなかったので、Glitchサウンドをランダム生成するプラグインでズタズタにしたループサンプルをオーディオ化して、一つ一つ切り貼りしていました。今はMIDIやオートメーションでコントロールする方法もわかるんですが。歌モノに、Stutterエフェクトを使うのも面白いと思って、素直に好きなものを打ち込んでましたね。

R:それが斬新で当時とても格好良かったです。そういえば最近はあまりやらないですね。

ピ:パターンがずっと同じになってしまうのと、僕自身が少し飽きたって事もありますね。

R:そんな音楽の変化に伴って、制作環境の変化はどうだったのでしょう。

ピ:はい、ちょうどその頃制作環境も含めたアップデートをしました。2012年のアルバムはSONAR(DAW)を使って作りましたが、SONARは安定性にクセがありました。Cherryのようにマウスベースの操作性がフィットするDAWを探したところ、Studio Oneが良かったので変更しました。オーディオインターフェースをRME社製に変え、モニタリング用ヘッドフォンも買い替えたところ、高域から低域までバランス良く聴こえるようになり、音の解像度の変化に驚きました。段々と学んでいった感じです。

もう一人の自分が欲しいです


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R:環境もアップデートし、お仕事も多忙になる中で、イラストも描かれてますよね。「どうしてちゃん」や「アイマイナ」といったオリジナルキャラクターとか。

ピ:ああ、あのキャラは成り行きで誕生したんです(笑)。人間をイラストで描くと造形が複雑で大変じゃないですか。複雑じゃないキャラクターを大量に描けばMVの間が持つなーと思って最初に描いたのが「アイマイナ」でした。「どうしてちゃん」はニコニコ生放送で落書きをしていたら、勝手に生まれました。最初は軽い気持ちで始めたんですけど、何故かそこから10年近く使い続けていますね。

R:絵も描いて、曲も作って、歌詞も作って、何でもやりますね。

ピ:意見の衝突もないし、一人で完結できるのは気が楽だなと思います。でも、クオリティコントロールと制作スピードの兼ね合いを考えると、一人だけで制作するのもしんどくなって来ています。今はもっと誰かに手助けしてもらうか、もう一人の自分が欲しいです。

R:今はチームで作業をされているのですか?

ピ:基本的に楽曲は一人で制作しています。ずっとギターも自力で弾いていたんですが、最近は、演奏が上手い人に弾いてもらったほうが良いギターが録れるという当たり前のことに気づいてしまったので、お願いしはじめました。(笑)自分だと考えつかないボイシングや進行の提案が出てくるので、最近はそれが楽しくなってます。自分の出来ない範囲をおまかせすると可能性が広がりますね。

R:新しいフレーズに刺激を受けたりする中で、楽曲構築はメロディーと歌詞、どちらから作られるのでしょうか。

ピ:両方です。まずテーマを決め、メモにアイデアを大量に羅列して、作曲と同時にメモから言葉を選んでメロに当てはめていくというやり方です。どうしても歌詞が合わない時はメロを変えたり、歌詞を削ったりします。

R:当時の『ポンコツ天使』は深いビジョンが浮かぶ印象でしたね。

ピ:ありがとうございます。でも、今改めて聞くと楽曲は本当に荒い印象ですね。パッションのみでやっていました。当時はまだ、シーンが成熟していなかったので、アマチュア感が許容されていたと思います。最初期はハモリも理解できていなかった。「ハモリ=そのまま全体を三度下げる」みたいにやっていたので、不協和音になっている事もよくありました。今では作曲の知識もついたし、流石に10年活動しているので、だいぶマシになってます。(笑)

R:でもその斬新さが新鮮でした。

iZotope製品にしかない魅力


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ピ:あの当時は、音楽の知識は無かったけど、「こういう音が作りたい!」という熱意だけはありました。とにかく音を面白く刻んでくれるソフトウェアを探していた時に、iZotope社のStutter Editと出会いました。それが、iZotope社製品との初めての出会いでしたね。僕の周りの作家さんも使っていて、デジタルな近未来感があるVSTプラグインという印象を覚えています。

R:当時のOzoneは緑色でした?

ピ:そう、緑色でした。 映画マトリックスって感じ(笑)他社製品も多く使っていましたが、iZotope製品にしかない魅力がありました。僕はある時期から、ボカロと僕自身の声を混ぜ始めたんですけど、その橋渡しにVocal Synth 2が役立ったりしましたね。

R:Vocal Synth 2が声を融合させる橋渡しになったんですね。

ピ:表現の幅の一つとして使っていました。Vocal Synth 2は音の印象を大きく変えたり、ノイズを混ぜたり出来るのがとにかく楽しい。直感的に変えていけるのが僕は好きです。基本は声に使いますが、ループサンプルを通しても、珍しい音になって面白いと思います。


R:Vocal Synth 2の中で、特にお気に入りのプリセットなどはありますか?

ピ:基本、Auto Modeは使わずにMIDI Modeで使っています。MIDI Mode Presetsの中のClassicタブの一番頭にあるAfter the Rainが一聴してテンションがあがる厚みのある音なので、そこから引き算しつつパラメータをいじる形で使っています。

R:その際はどんなパラメーター設定をされていますか?

ピ:Biovox、Vocoderいずれかの、OSC Square寄りの艶のある音を軸に、Sawsのギザギザした質感を混ぜた設定に調整します。場合によってはギザギザ成分をCompuvoxの方でBitsの値を調整しつつ補填します。PolyvoxのFormantを上げてオクターブ上の声を重ねるのも好きです。

R:なるほど、そのような設定を一番使うのは主にどんなシーンでしょう。

ピ:ライブだと、歌モノの楽曲が浮いてしまうケースがあるので、歌メロ部分をすべてボコーダーに差し替えて、ライブ甩にアレンジをすることがあります。VOCALOIDと人の声を混ぜる際、生声だと浮きすぎてしまうので、繋ぎに使う時もあります。最近は、歌だけでなく声ネタ用の素材作りに使うのも幅が広がって面白いかな、と考えています。

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R:声にダブラーなども使いますか?

ピ:使いますね。Nectar 3もダブリングの選択肢の一つとして使っています。Nectar 3はダブリングのかかり方に品があって、繊細なコントロールができる印象です。

R:確かに楽曲を聞いてもダブラーを深くかけている印象ないですね。

ピ:ボカロは、歌詞を聴き取りやすくするための加工はしますが、基本的にあまりエフェクティブな声にはしないですね。『良い意味で気の抜ける声』をしているのが元々好きなので。メッセージのこもった歌詞を気の抜けた声に歌わせた時のギャップが良い。

R:その点でNectar 3の上品さがハマったわけですね。

ピ:そうですね。そして、プロジェクトファイルの最終段にはOzoneをリミッター的にインサートすることもあります。Ozoneは良い意味でデジタルライクなサウンドに仕上げてくれるので楽曲との相性が良い時に使います。iZotopeのプラグインは自分の中になかった選択肢を与えてくれる印象です。実際にEDITしていると、イメージが音と共にパーっと浮かんで来る、想像力を与えてくれるプラグインだなって思います。Ozoneは個別のモジュールはそんなに使い込んでいませんが、ステレオイメージャーのかかり具合が良くて気に入ってますね。

R:今はOzone Stereo Imager V2が無償提供されてますね。

ピ:あれは皆欲しがると思います。無償なので使ってみてほしいです。

R:当時ピノキオピーさんが試行錯誤されていた環境を思うと今始める方は恵まれていますよね。

ピ:そうですね、フリープラグインやサポートしてもらえる環境は増えましたよね。それ自体は良いことだと思いますが、当時フリーソフトウェアも少ない状況で、自力で探していく行程も面白かったです。英語もわからず、効果もよくわからないプラグインで試行錯誤したり。

R:その点ではiZotopeプラグインが搭載するAIアシスタント機能や、自動処理の部分に関してはどんな印象ですか。


ピ:クリエイターがストレスを感じない要素として、とても大事だと思います。AIアシスタントによって自分自身のテンションが上がる所へ近づけるなら絶対そのほうが良い。AIを参考にプラスアルファで自分の発想を加えられたら一番良いですね。アウトプットされるものが均一化し、オリジナリティが無くなってしまったらダメですが、オリジナリティを表現するためのサポートになるなら良いことだと思います。面白いものを作りたい、けど、その敷居を超えられない人の助けになるはずです。勿論、先ほど言った通り試行錯誤することで新たな方向性も生まれることもあるので、モチベーションが続くなら遠回りするのもありだと思います。

自分が好きなもの


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R:オリジナリティの手助けになることを私たちも願っています。最後にこれからボカロを始める若い方にメッセージをいただけますか。

ピ:物作りは、自分が面白いと思うものを真っ直ぐに作れるならそれが幸せですよね。今、SNSが台頭してきて、流行りを気にせざるを得ない状況ですが、『好きではないけど、こうするとウケる』になってしまうと誠実ではないので、はじめに『自分が好きなもの』があって、次に『こうすると皆に喜んでもらえるんじゃないか』という発想でいて欲しいです。是非、あなたが面白いと思うものを作ってください。互いに面白いものを作れたらいいですね。

R:未来のクリエイターを応援したいですね。今日はありがとうございました!

記事内に掲載されている価格は 2020年4月2日 時点での価格となります。

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