Wavesのオフィシャル・トレーニング開発ディレクターであるMichael Pearson-Adams氏が、WAVESを体験するためのイベント「WAVES WORLD 2025」のセミナーに登壇するために来日。Rock oNではMichael氏に、イベントの合間を縫ってインタビュー取材することができました。
インタビューではWavesの人気プラグインについてのことや最近リリースした製品まで、貴重なお話を伺うことができましたので、その模様を紹介します。
★「WAVES WORLD 2025」に先駆けて公開された、Michael氏の挨拶動画
30年以上の歴史を持つ、Wavesのブランドポリシーとは
Rock oN : Wavesといえば30年以上世界中から愛されている長い歴史を持つ人気のブランドですが、ずっと一貫しているブランドとしてのポリシーというのはあるのでしょうか?
Michael Pearson-Adams 氏(以下、Michael 氏) : Wavesは自分たちのためにプラグインを作っているのではなく、ユーザーのクリエイティビティーを広げるためのツールを提供することをポリシーとしてやってきました。音に関わる全ての方にクリエイティビティーを届けたいという想いでこれまでやってきたと言えると思います。
Rock oN : たしかにこれまでWavesのSignature SeriesやAbbey Road Collectionといったバンドルに代表されるように、これで音楽制作を試してみたい!と思わせる刺激的な製品が多い印象で、それがアマチュアからプロフェッショナルまで多くのユーザーを獲得してきた要因であるように感じます。
Michael 氏 : ユーザーのクリエイティビティーを上げるという意味では、SSLやAPIといったアナログハードウェアの名機をモデリングした製品もWavesは多く手掛けてきました。そうした高価で簡単に使用できない製品を動作やキャラクターまでモデリングしたプラグインをリリースすることで、ハードウェアを買えない、あるいは全く使ったことがないというユーザーに対しても簡単に良い効果を得られることができます。
例えばAPIのようなブティックブランドは普通のユーザーが実機で導入するのは大変かと思います。それを5つのトラックで使用したいと思えばハードウェアの実機なら5台必要になりますよね。しかしプラグインであれば容易にDAWのトラックにいくつもインサートして使用することができます。そういう意味でソフトウェアのプラグインは非常に利便性の高い製品であると言えます。
Rock oN : たしかにSSLやAPIのサウンドを導入して音楽制作ができるというのはハードウェアの時代ではなかなか実現できない方も多く、ソフトウェア主流の時代になってプラグインとして導入できたことは大変画期的だと感じたユーザーも多いと思います。
Michael 氏 : 最近ではWavesもモデリングしたプラグインのリリースは落ち着いてきて、これまで作れなかったオリジナルのプラグインを手がけることが多いです。これらはとても自由度が高い製品でユーザーの使い方次第で様々な音も作ることができるというもので、これもまたユーザーのクリエイティビティーをより深くサポートしたいという想いから生まれてきています。
日本で人気のWavesプラグインは・・・??
Rock oN : ここで突然なのですが、以前Rock oNではWavesユーザーに好きなWavesプラグインのアンケートを取ったことがあるんです。日本では何のプラグインが人気だと思いますか?
Michael 氏 : 何でしょう・・・SSL関連のプラグインでしょうか?
「全日本Wavesプラグイン ランキング結果発表!音楽制作の歴史的瞬間」
Rock oN : アンケートによると日本での第1位は・・H-Delayでした!
Michael 氏 : H-Delayですか!これは驚きました。私も好きですね。たしかに私も色々なメーカーのディレイを使いますが、H-Delayのピンボンディレイよりも良いものはないですね。
Rock oN : 私もH-Delayをよく使いますが、DAWのテンポに同期させたりロングディレイをかけたりと、ボーカルやギターまで幅広い用途で使える印象です。
Michael 氏 : H-Delayはアナログモデリングの質感の研究以外に、プリセットを作るのに数ヶ月かかったんです。プロ向けのものからビギナーが使うものを想定したプリセットまで幅広く用意したので時間がかかりましたね。ちょっとしたヒントをお伝えするとH-Delayはフィードバックを12時の位置にするとリニアになるので、さらに欲しい場合はそこからちょっとずつ上げていくといいですよ。
Rock oN : H-Delayは2年くらい前アップデートがありましたが、それはどういった理由からでしょう?
Michael 氏 : ソフトウェアは常に未完で進化し続けることが魅力だと思っています。決して不具合があったりした訳でなくユーザーから様々なニーズや依頼を聞く中で改善するポイントがあったので、それらを実現するためにアップデートしました。
Rock oN : 参考までにマイケルさんが一番好きなWavesプラグインは何でしょう?
Michael 氏 : 私はScheps Omni Channel 2です。非常に多様性があるプラグインで、チャンネルストリップを活用するとMSのセパレートやマルチバンドのチャンネルストリップとしても使えます。ユーザーのクリエイティビティーに合わせて多くのことが実現できるという意味では無限の可能性があるプラグインだと思っています。
Rock oN : そうしたユーザーの可能性を広げるプラグインもありつつ、One Knobシリーズのようなシンプルな操作で使えるプラグインがあるのもWavesの魅力であると感じます。
Michael 氏 : おっしゃる通り、One Knobシリーズのようなシンプルな操作で使えるものはビギナーだけでなくプロにとってもいい製品であると考えてます。というのもスタジオでの作業は時間単位でコストがかかるものなので、短時間で作業ができることは重要なポイントです。プラグインを作り続けてきて今やWavesも300製品くらいのラインナップになっていますが、シンプルな誰でも使いやすいものから実機のモデリング、そしてより可能性を秘めた技術的な構成を重視したプラグインなど幅広くあるので、用途に合わせてぜひ活用してほしいです。
最近発売されたWaves製品について
Curves AQ
Rock oN : 最近リリースしたプラグインについてお伺いしたいのですが。まず私としてはCurves AQが「世界初の自律型EQ」として発売され、その性能にとても驚きました。
Michael 氏 : Curves AQはとても革新的なプラグインで、自分たちも画期的な製品だと自負しています。プロダクトマネージメントはしたのはShai Fishmanという人物で、Clarity Vxとかここ最近の画期的なプラグインを製品を出していて、彼がCurves AQのアイディアを持ってきてこれは面白いということで製品化したものです。
AI技術を使う面白いところは、AIが修正する箇所などを発見して比較・提案する仕組みが時としてユニークなものが生まれることがあるという点です。もしCurves AQを使ってうまくいかないという方がいるとしたら、それはLearn(学習)の時間が短すぎる方でしょうね。まずは十分学習の時間を取ってそのプロセスを繰り返すことで、提案として出てくるEQの精度が上がっていきます。
Rock oN : ユーザーのパーソナルデータをLearnした場合、それらはWavesに送られてしまうのでしょうか?
Michael 氏 : いえ、送られるようなことはありません。
Rock oN : 思えばQ10でスタートしたというWavesが、ついにAI技術を使うCurves AQまで到達したのかと思うと感慨深いものがありました。
Michael 氏 : おっしゃる通り、Q10を最初発売した時はフロッピーディスクでした(笑)。Wavesが製品を古いプラグインをディスコンにしないのは、今でも使い続けているユーザーを大事にしたいと考えているからです。
Rock oN : それはありがたいですね。Q10やL1、L2といった、長く使い慣れているプラグインを愛用しているユーザーも多いと思いますので。
Immersive Wrapper
Rock oN : Immersive Wrapperもモノ・プラグインをイマーシブ・マルチチャンネル・プロセッサーに変換するということで話題になったのですが、今後もこうしたイマーシブオーディオに対応したプラグインをWavesで取り組む予定はあるのでしょうか?
Michael 氏 : Wavesプラグインをイマーシブ化して欲しいという声は多くあり、こうしたプラグインもプロを中心にハイエンドのユーザーが求めていることは知っていましたので、Immersive Wrapperはそれを製品にしたという感じです。イマーシブに関連した製品のリリースは断言はできませんが、今後またあるかもしれませんね。
eMotion LV1 Classic
Rock oN : eMotion LV1 Classicも非常に画期的な製品です。どちらかというとプラグインのメーカーの印象が強いWavesがこうしたPAミキサーを手がけることが画期的なことと思いますが、LV1 Classicはどのようにして生まれたのでしょうか?
Michael 氏 : LV1 Classicの開発担当ではないので詳しい経緯まではわかりませんが、YAMAHAやAllen &HeathのようなPAコンソール開発として長い実績を持つメーカーが色々ある中で、前機種LV1がそれなりの成功を収めました。技術的にはまだまだこれからの部分もあるでしょうが、WavesのPAコンソールとしてポータブルでありながら多機能で信頼性がある製品が生まれたのは自然なことだと考えています。
日本のWavesユーザーへメッセージを
Rock oN : 今回Waves WORLDもありますが、最後に日本のユーザーに向けてメッセージをお願いします。
Michael 氏 : まずは今回、日本のユーザーとコミュニケーションを取れる機会をいただき誠にありがとうございます。とてもいい機会なのでWavesのお気に入りの点だけでなく改善して欲しいところなどを聞いたりすることでユーザーと交友を持ちたいと思っています。
Wavesのスタッフはコンポーザーだったりクリエイターだったりエンジニアだったりとユーザーと同じ立場の時もあるので、そういう意味でも交流できたら嬉しく思います。クリエイターは色々な周囲からの意見もあるにせよ、自分のいいと思ったものを恥ずかしがらずにクリエイトし続けてほしいです。Wavesがそのお役に立てたらとても嬉しいです。
Rock oN : 本日は貴重なお話の数々、ありがとうございました!
Michael氏とのインタビューを通じて感じたのは、音楽を作るユーザーのクリエイティビティーを広げたいという強い信念でした。
「プラグインは必ず必要なものではなくてユーザーさんのクリエイティブを支えるもの。最優先のものはあくまでも音楽。音楽をクリエイトするのに使いやすくて欲しい効果が得られる、または新しいインスピレーションを与える、Wavesはそういうブランドであり続けたい」こうした言葉にはWavesのスタッフもまた、ユーザーと同じ立場で音楽をクリエイトしていく喜びや楽しさを知っているからであると強く感じました。
1993年にQ10をリリースして30年以上、世界中に愛されるプラグインをはじめとするプロダクトをリリースし続けるWaves。これからもユーザーのクリエイティビティーを刺激する、画期的な製品をWavesが生み出してくれることを期待せずにはいられません。
Writer.サチュレート宮崎
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記事内に掲載されている価格は 2025年6月10日 時点での価格となります。
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