国内外のあらゆるイベントをいち早くレポート! またブランドや製品誕生の秘話に迫るDEEPなインタビューを掲載!
はじめに
自作エフェクターの広がり
エフェクターや電子楽器を個人が自作するという文化はそれらが製品化されたのと同時に始まった。大手メーカーが作る製品を分解しコピーすることから始まり、その情報が同じ趣味を持つコミュニティの中で広がってきた。昨今ではスマホやSNSの普及により電気的知識がそれほどなくとも手軽に自作ができるくらいのノウハウや情報がネット上にでシェアされている。
大手メーカーも注目するブティックエフェクター
ブティックエフェクターとは、小規模な工房や個人ビルダーにより少数ロット生産されているエフェクターの総称。大量生産のための最大公約数的なマーケティングよりもニッチなユーザーのニーズに応える小回りの良さを持ち、作家の個性をそのまま反映されたものが多い。また生産性を度外視したパーツが使用できるなど、大手メーカーとは違う毛色の商品が数多く存在する。
90年代後半に登場したLandgraffやZvexなどの有名個人ビルダーが手がけたエフェクターが世界で爆発的な高評価を受けたことをきっかけに、今では世界で1点限りというような貴重なブティックエフェクトが日本のショーウィンドウにも並ぶようになった。拡大し続けるネット通信販売の力もあり、今では大手メーカーの3倍以上の価格もざらのブティックエフェクターが飛ぶように売れている。
このイベントでは一般ユーザー、プロのエフェクトビルダー、明日のプロを目指すアマチュアビルダーやホビービルダーが一堂に会し、お互いに情報を交換し新しいギターサウンドを夢見る。ここにはNAMM 2016のブティックシンセメーカーが集う通称『シンセ村』と同じ熱気がある。これは今日本で起きているムーブメントなのだ。その模様の一部を切り取ってご紹介したい。
東京エフェクターpresents 初場所2016
第3回自作エフェクターコンテストは日本国技館のお膝元、東京両国のライブハウスにて開催された『東京エフェクターpresents 初場所2016』の中のメインイベントとして行われた。
第1回 “TS系3ノブオーバードライブ”、第2回 “ディストーション”と続き3回目となる今回のテーマは「オーバードライブ」。日本全国の個人ビルダー達の元から13の作品が集まった。
ステージ審査
審査は事前の試奏での『ファーストインプレッション』と、プロギタリスト屋敷隆一 氏の演奏による『ステージ審査』の総合点を競う。
ステージ審査ではすべてのエフェクターがRoland JC-120で試された。Fenderアンプが使われたファーストインプレッションがJC-120でガラリと変わってしまうことや、ある作品のコンディションがステージ上で不調になってしまうなど、ライブならではのドラマも生まれた。
優勝作品 Monkey Drive
2時間半にも及ぶステージ審査を終え、主催者の東京エフェクター、屋敷隆一 氏、そして日本を代表するプロビルダー達が優勝に選んだのがこの『MONKEY DRIVE』(神奈川県 飯塚 氏 作)。
ワイドレンジで味のある出音、少ないパラメーターによる操作性の良さ、ロゴのイラストを含むデザインの魅力などが主な優勝理由だ。
優勝作品が東京エフェクター 池田 氏により高く掲げられた瞬間、会場は大きな拍手と賛辞の言葉で包まれた。
どの作品もクオリティとしては優劣がつけられない接戦だったが、このMonkey Driveだけは屋敷 氏が目の色を変えて夢中になって演奏していたことが印象的だった。プレイヤーをその気にさせる魅力、いや魔力にも似たものが秘められていたのだろう。屋敷 氏をはじめ多くの審査員が票を入れていたこともうなずける。
特に今回のコンテストでは “パラメーターの分かりやすさと効きの良さ” が重要視された印象を受けた。ユーザーの多様なニーズに合わせるための多機能性はもちろん魅力的であるが、ステージに上がってすぐに音決めがしたいというギタリストならではの即戦力性を求めると、シンプル機能でノブが少ないということは強みになる。
Monkey Driveは今後、東京エフェクターで販売できるチャンスが与えられるということだ。(※この記事を作成現在、商品化されるかは未定です。)
準優勝:VALKYRIE OVER DRIVE For TsutsumiAi
準優勝はこちらの『VALKYRIE OVER DRIVE For TsutsumiAi』(神奈川県 KAZONE 氏 作)。作者がノイズアーティスト Tsutsumi Ai 氏のために作成したオーバードライブで、なんとノブがひとつも無い。それどころかON/OFFスイッチやマスターボリュームすら存在しない。
通常アナログエフェクターのノブは可変抵抗と呼ばれる抵抗器につながっていて、これは例えばゲインであれば最大値からどれくらい歪みを弱くするか、トーンは高域をどれだけ削るか、マスターボリュームならどれくらい音量を下げるか、というように最大値からの減衰目的に使われている。本作ではこのような減衰を一切しない、常にフルテン状態のオーバードライブなのだ。
サウンドはまさしくノイズアーティストが好みそうな存在感のある爆音歪みで、熱故障寸前の真空管があげる悲鳴のような激烈トーン。DistortionともFuzzとも違う不思議な熱のあるサウンドが審査員のハートを射止めた。
総評
このコンテストの一部始終を体験して、改めてギターサウンドの奥深さとそれを作るビルダー達の熱意を感じた。エレキギターは本体からエフェクター、シールド、アンプまで繋がった全てが一つの楽器とされる。つまり自作エフェクターは自分の理想とする楽器を作ることに等しいと言えるだろう。そしてマスよりもコアなユーザーのニーズに応えることができるブティックエフェクターは、ユーザーの願いを叶える理想的な音作りの方法とも考えられる。
NAMM2016で大手メーカーが発表した新製品もブティックブランドの影響を受けたものが多数見られるように、これからもさらに影響力が大きくなるであろうブティックエフェクターとそれを生み出す自作エフェクタームーブメントのパワーに期待したい。
では最後に “東京エフェクターpresents 初場所2016″で自作エフェクターコンテスト以外に催された紙相撲大会とケーブル早巻きコンテスト、フードのちゃんこ鍋や、プロビルダーによる即売ブースの様子をお届けして筆を置こう。
これからもRock oNは国内外問わず、すべての音楽制作者にとって楽しめる、有益でマニアックなレポートを続けていきます。どうぞご期待ください。
Writer . IH 富田 (皆様からの情報提供もお待ちしています!)
記事内に掲載されている価格は 2016年2月7日 時点での価格となります。
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