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Dec.2017
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小松”KMD”久明のSound Design ~全てはいい音のために~ 総集編

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2018年10月12日より Rock oNメールマガジンで、コンサートミキシングエンジニア 小松”KMD”久明のコラムを連載中です。ここでは第11回までのコラムを全て読むことができます。数々の大物アーティストのパフォーマンスを引き出し会場を熱狂の渦に巻き込む小松氏のアイディアと手腕のノウハウから、こだわりの機材、そしてPAエンジニアを目指す若者への進路のアドバイスなど、興味深い内容が満載です。

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小松 “K.M.D” 久明 プロフィール

1984年(財)ヤマハ音楽振興会入社。
LINE UP、久松史奈、西村由紀江、谷口崇、Sound Scheduleのハウスミキシングエンジニアを担当。

1997年(有)Oasis Sound Design Inc 設立。
石野真子、大黒摩季、昆 夏美、河村隆一、手蔦葵、吉澤嘉代子、良知 真次、AUTRIBE、BAROQUE、INORAN、DIAURA,Muddy Apes、LUNA SEA、Sound Schedule、Tourbillon、SHAZNA、彩冷える、オーロラタクト、石井一孝のコンサートミキシングを手がける。

HP : https://www.kmd2017.com


【第1回】自己紹介

今日からこのコラムを担当することになった小松久明です。よろしくお願いします。

まず簡単な自己紹介をさせてください。「FOH(Front of House)として客席の真ん中にいる人になりたい」という思いで20歳からPAエンジニアをスタートし、今年で35年になります。

この35年で本当に多くのアーティストを担当してきましたが、一番大きなアーティストはLUNA SEAで、2011年秋から担当させてもらってます。LUNA SEAに関連し、河村隆一やINORANといったソロ、また、彼らの後に続くバンドとしてDIAURAやBAROQUEも担当しています。また、シンガー系では吉澤嘉代子、手嶌葵、石野真子といったアーティストも携わっています。コンサート数は年間120本くらい。全国各地や海外を駆け巡っています。

それに加え、月火の週2回は洗足学園音楽大学で授業を担当してるので、週のほとんどは本番、リハ、移動日、あるいは授業になり、休みはだいたい週1日といった感じで、慌ただしく生活しています。

私は、普通のPAエンジニアではなく肩書きに「サウンドデザイナー」という表現を使っているのですが、どういう思いを込めているのかといか、ということを説明しますと…。

コンサートでいい音を出すためには、ボーカリストや楽器に単純にマイクを立てるだけでは決して成立しません。アーティストごとにこのマイクがいい、こういうデバイスを使った方がかっこよくなるといったことを頭の中で組み立てて、サウンドデザインしていく必要があります。私は常にこの事をポリシーにしていてるので、あえて「サウンドデザイナー」という言葉を使っています。

この連載では私の哲学を実現するために実践してきた事や考えていることなどをお伝えしたいと思ってます。特にこれから業界を目指す若いみなさんに届けば嬉しいです。

今、大学の授業を通し若い人が育っていく様を見ていますが、夢を掴むために「何が必要なのか」また「自分にセンスがあるかないかわからず悩んでいる」そういった方にもこの連載で自信を持ってもらいたいというか、一つの道しるべを作ってあげられたらいいなって思います。では、よろしくお願いします。


【第2回】若い世代に感じること

こんにちは、小松です。前回の自己紹介で、僕は週2回 洗足学園音楽大学で授業を担当してると書きましたが、今回は若い世代のみなさんと接していて感じたことを書いてみようと思います。

あえて言いますがPAエンジニアを目指す若い世代に対し、少し危機感みたいなことを感じているんです。これは日本の住宅事情に大きく関係してることもありますが…

みなさんイヤホンに依存しすぎていると思うんです。

コンサート会場ではメインスピーカーとオーディエンスの間には確実に空気が存在しています。音は空気の振動で伝わるわけなんだけど、この空気の揺らし方を認識してなくて、自分の耳の近いところで音楽を聞いてないと不安になる生徒を見かけるんです。レッスンしている学生の中で、ある時から急に音が硬くなる生徒がいます。よくよく彼らと話してみると、「最近イヤモニを買った」んだと。「嗚呼、これが原因か」と(笑)。

そこで、レッスンではスピーカーで聴くことの重要性を教えます。そうすると、学生は家ではスピーカーで聴かなきゃダメだということに気付いてくれ、どういうシステムを買わなきゃいけないか、ということも考えてくれるようになるんです。一番の問題は環境なんですよ。「俺がお金を出すからリスニングルームを作ろう!」なんて話もするんです(笑)

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学生の話ついでに、僕の学生の頃の話をしますね。

「これからどの道に進もうか」と悩んでいた頃、ふと見た専門学校の広告にミキシングコンソールの前に座っているエンジニアの写真があったんです。「ああ俺がやりたいことはこれなんじゃないか」と直感的に思い、音響技術専門学校に行くことにしました。

専門学校でみんなが悩むのが、レコーディングエンジニアとライブエンジニアのどちらになるかということです。僕は高校時代からウェザーリポートが好きでLIVE UNDER THE SKYにも行ってたんで、大空間で大きな音を出してみたいと思ってたんです。

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地元のPA会社でアルバイトをしていた頃、ある日「PAオペレートをやっていいよ」と上司が任せてくれたのが高校のミュージカルで「ウエストサイドストーリー」でした。

SHURE SM58を5本立てて、学生さんが音出ししているカセットテープの出力とミックスするような簡単なものだったのですが、学生さんたちが最後に涙しているのを見て「ああこれだ!感動を一つの空間で味わえるこの仕事しか自分にはないな」って確信したんです。

その時から55歳の今でもそれは変わらないです。だから、業界を目指す学生のみなさんにもそういう体験をしてもらいたいな、と思っています。


【第3回】クビの美学

こんにちは、小松です。

一番初めのエンジニア仕事は千葉のマザースというライブハウスのPAエンジニアでした。面接に行ったんですが3時間後に電話が来て「キミ採用。明日から来て」って言われ、その2日後にはメインエンジニアに指名されてました(笑)

毎日3〜4バンドが出演するんですが、それぞれのバンドに対して手書きでメンバー編成やPAプランを書くんです。日給が2,000円で、月30日間働いて月給60,000円でした(笑)
僕と同じ年くらいのドリンク担当のお姉さんに「あんた、ドラムの音を勉強したほうがいいよ!」とか言われたりして。僕も悔しいから色々勉強するんですよ。そうしてると「ドラムだいぶ良くなってきたじゃない!」とか言われて認めてくれるようになったり。

そうこうしてるうちに3ヵ月くらいで転機がやって来ました。コンサート中に店長がPA席の僕のところにやって来て「表の音が歪んでるぞ!」って言うんです。PA用じゃなくただのオーディアンプとオーディオスピーカーを使って大音量でライブやってるんだから「そりゃ歪むよ」ってこっちは思ってました。店長は「モニタースピーカーを全部切れ」って言ってきたんですが、僕が「いや、表の音を下げればいいんですよ。」と口ごたえするものだからPA席で押し問答になっちゃって…。なんとかそのライブは終わったんですが、その後呼び出されて店長からは「もうクビだ!」と。

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なぜ最初にライブハウスの仕事を選んだか。当時の僕には考えがあったんです。その頃の僕の夢はライブハウスでいい音を出してバンドに認められて「一緒にツアーいこう!」って誘われることだったんです。今そのことを振り返るんですが、それはPAエンジニアとして大成しないなって思います。

その理由はライブハウスをキャリアの出発とするとエンジニアとしてのフィールドが狭くなるから。ライブハウスだと卓のインプットにマイクを立てて、回線チェックをやって、本番やったらそれで終わり。だから今、自分の学生には必ず「PAカンパニーに行きなよ」って言うようにしています。PAカンパニーだとプランニングをして機材を用意し、セットアップしてバラして、もう一回倉庫に戻して、と言う長い過程の色んな仕事があって、身につくことが多いんです。

まあそんなこと言ってますが自分はスタート時点でクビになったんだけど(笑)でもクビにはクビの美学があると思うんですよ。この業界は厳しいですからね。学生には「クビになったからこそ次がある」ということをよく言います。最近多くの学生がすぐ会社を辞めてしまうということを聞きますが、諦めないタフさを若いうちに身に付けて欲しいと思っています。


【第4回】オールドマイクとの出会い

今回はオールドマイクについて話します。 なぜ僕がオールドマイクにこだわるのか。それはある出会いがきっかけなんです。

その昔弾き語りのアーティストを多く担当してた頃、SHURE Beta57Aを指向性がスーパーカーディオイドでかぶりが少なくハウリングに強かったということでよく使っていました。ある時、Beta57Aの中にアンプを組み込みファンタム電源を送ってプラヨン(+4dBm)で出力させる改造があることを知ったのですが、 最近のマイクよりオールドマイクにそういう改造を施したらどんな音になるんだろう?という好奇心が湧いたんです。そしていろいろ探し、徳島県にある SMITTY RECORD ( https://twitter.com/smittyrecord) にたどり着いたんです。

10年くらい前の話です。SMITTY RECORDさんは、いわゆる”いちげんさん”にはレアな隠れ在庫は売らないんですが、自分の仕事の事情を話して相談したところたくさんの在庫マイクの写真を送ってくれました。

そこでUnidyneカプセルのSM57とSM58を買ったんですが、現行製品とは全く音が違っていてびっくりしました(現行製品はUnidyne III)。その後1965年製 SM57 USAも買いましたが、値段では測れない魅力を手に入れた感じでそこから一気にオールドマイクの虜になりました。

「今のマイクと何が違うの? 」という話ですが、これは自分の感性の話になります。私は音に「憂い」があると感じます。まず当時と現在では構造/物理的にマグネットが違うことがありますし、年月を経て磁力が減衰しそれが「枯れ」や「味」に関わっているのかもしれません。心に沁みる「この音だ!」という感じがあるんですよ。

その後さまざまなオールドマイクを購入し、次号以降でも紹介しますがSENNHEISER MD421白クジラ、Beyer、GEFELL等々…。いつも自分の武器になるマイクセットを現場に持ち込んでいます。 SMITTY RECORDからはじまり現在ではeBayやセカイモンといったサイトを日々チェックするのが日課になってます(笑)。

オールドマイクを購入するアドバイス

僕もいろんな失敗を経験してきたのですが、その中からアドバイスをします。

まず第一に「安いから買う」というのはやめた方がいいです。安いには安いなりの理由が背後にある場合があります。ある時、やけに安いJosephsonの測定用マイクを買ったら外側だけで中身が入ってなかったということがありました。

それからオークションや中古サイトに掲載されている写真の数が極端に少ないのもダメです。最低でも6枚くらい欲しいですね。例えばロゴがシールで貼られていた時期のものは、もしかしたらオールドを装うために張り替えている可能性もあるので、事前にしっかりチェックしたいです。

最終的には選ぶ眼を養うことが大事なんですが、でも、そこにたどり着くまでにはお金と時間がそこそこかかる訳で…。


【第5回】SHUREのオールドマイク

前回はオールドマイクの話でしたが今回はその中でもSHURE製のオールドマイクについてお話しします。画像は私が実際に所有しているものです。

Model 330
SHUREはダイナミックマイクの他にも色んなタイプのマイクを出してますが、その中でもすごいなと思ったのがリボンマイクです。単一指向性のリボンマイクは、僕が知る限りSHURE330とColes4038しかないので「どんな音がするんだろう?」と考えるだけでワクワクしました。そして実際に買って出した音がイメージと一致した時の嬉しさといったら!「次はドラムのオーバーヘッドに使ったらどうなるんだろう?」などあれこれ想像が広がっていく面白さがあるんです。

Model 51
バスドラのインマイクに使うバウンダリーマイクというと選択肢が少なく、SHURE BETA91A、SENNHEISER E901、beyerdynamic TG D71cの3本くらいでしょうか。

バスドラをさらに迫力ある音にしたいなと思いながら、いつもの通りセカイモンをチェックしてた訳ですが(笑)、通称エルビス・マイクで有名なSHURE 51を買って試してみたんです。

51の音はハイもなければローもなくミッドレンジしか存在しない。でも、バスドラで使ってみると、これが面白い音がするんですよ!

SM7
ある日、多くの海外コンサートを手掛けてるチームが「グリーン・デイはSM7を使ってるらしい」と話をしてるのを聞いて興味を持ちました。前回紹介したSMITTY RECORD (@smitty_records)に連絡すると当然ながら在庫があって(笑)。メイドイン・USAとメイドイン・メキシコのリストが送られてきました。

USAの方が値が張りましたが初期モデルなのでそちらを購入。そしてINORANさんのツアーでギターに使ったら、もう誰もが「かっこいい!」と唸ってしまう音が出たんです。

以上、今回は私のお気に入りのSHUREマイクをご紹介しました。ここに挙げたのは一例なんですが、本当に個性あるマイクは面白いんですよ。

SM58(番外編)
現行製品の話になりますが、SHUREといえば忘れてはいけないSM58について。マイクの信頼性という点ではSHURE SM57とSM58さえあればコンサートができるんです。ご存知の通り街のリハーサルスタジオからプロのアーティストまで幅広い層の人が使ってますよね。

SHUREブランドのマイクには絶対的な信頼性があります。PA業界では卓のフェーダー位置をユニティーゲインにした時、どれくらいの音量で外に聞こえるかについて基準にしているマイクがSHURE SM58なんです。そんな理由で僕は現場のトークバック用マイクとしてSHURE58を常に持ち歩いています。


【第6回】SENNHEISERのビンテージマイク前半

前回のSHUREに続き、今回はSENNHEISERのビンテージマイクについて話します。

僕がなぜ「白クジラ」と呼ばれるSENNHEISER MD421を多くのステージで使うにことになったのか。それはLUNA SEAのコンサートを担当することになったのがきっかけです。

メンバーが使っているマイクを事前リサーチするとSUGIZOさんがMD421を愛用されていました。僕も以前からMD421は音にガッツがあっていいなと思ってたので「白クジラ」を試すいい機会だと思いました。

僕はマイクの状態を管理したいので、SUGIZOさんに使うMD421は他のアーティストと共有したくなかった。それで状態のいいMD421をSUGIZOさん専用として購入しました。さっそく音をチェックするとこれがなかなかいい音!

次にギターキャビネットにMD421と組み合わせるコンデンサーマイクはどうしよう?ということになり、レコーディングを担当しているエンジニアさんやテックの人にリサーチしたところ、JOSEPHSON e22Sを勧められたんです。少々高めだったのですがMD421とJOSEPHSON e22Sの組み合わせにしたら本当にワンランク上がったサウンドを作ることができました。

こんな面白いエピソードもありました。BAROQUEというバンドのギターの圭さんはある日、LUNA SEAのライブを観ていたら会場の音が良いので「いつかこのPAエンジニアと仕事がしたい」と思ってくれてたそうなんです。その後、縁があって僕がBAROQUEを担当するようになりかれこれ2〜3年になります。

それまで圭さんのギターにはSHURE SM57 USAをずっと使ってたんです。ある日圭さんに「SUGIZOさんってギターのマイクは何を使っているんですか?」と聞かれ、「MD421白クジラだよ。」と答えました。「ぜひ試してみたいです!」ということになり、彼のギターにも立ててみました。結果はやはり良好。ギターリフから始まる曲など明らかにお客のノリまで良くなりました。

ただこの話には注意が必要で、やみくもにMD421を立てればいいという訳ではありません。

僕の中で棲み分けがあるんです。MD421はバンドのアンサンブル内でボーカルと同列の位置に音像を置くことができるのでバンド・サウンドが確立できます。

一方、SM57 USAはいい意味でボーカルよりちょっと後ろの位置に下がり良い音を出してくれるマイクです。

両方とも良いマイクなんですがこの特徴を理解しないでMD421を使うと、ボーカルの歌詞が聞こえないといった大変なことこにつながりかねないので、それぞれのマイクのキャラクターとバンドとの相性を考えて使うことが必要です。

SENNHEISERマイク 前編はここまで。次回、後編に続きます。


【第7回】SENNHEISERのビンテージマイク後半

今回はSENNHEISER ビンテージマイクの後半になります。

前回は通称「白クジラ」と呼ばれるSENNHEISER MD421を中心に色々話しました。もしかしたら読者の中にはビンテージマイクに興味を持ってオークションサイトをチェックしてくれた人がいるかもしれませんね。そこで今回は「TELEFUNKENロゴが入ったMD421が存在するのか?」という話題を紹介します。

歴史をさかのぼって調べてみたんですが、当時SENNHISERはTELEFUNKENにOEMとして製品を供給しておりTELEFUNKENのロゴを入れて売ってたんです。でもTELEFUNKENロゴのMD421はなかなか中古市場に出ていなくてちょっと高いんですよ。また、たまにですがロゴにわざと傷などを付けてオールド感を出しているものも見かけます。そういうのは見抜かないと危険です!

そこで「ロゴの違いで音に違いはあるのか?」ということなんですが、僕はほぼ同じだと思っています。ただしギターにステレオで2本のMD421を立てる場合は左右を可能な限り同じ音で揃えたいので、片方がSENNHISERロゴならもう一方もSENNHISERロゴで。同じく、片方がTELEFUNKENロゴならもう一方もTELEFUNKENロゴで揃えるように気を使っています。まあ僕としては、音が変わらないならいい状態のSENNHEISERロゴのMD421を買おうと思いますけどね。

あと注意してるのが「S」と「M」のロールオフスイッチの存在。信号がスイッチ分の回路を余計に通ることになるので、僕はスイッチがない製品を買うようにしています。

今、白クジラは全部で7本持ってます。アーティストごとにマイクを用意することを考えると10本くらい必要になってきそうなので、今日もオークションサイトのチェックに余念がありません(笑)。

ここで余談。以前ギターキャビネットはオンステージに置いてました。ある時、アーティストさんから見栄えの演出として「ステージ上の機材は全部黒にして欲しい。」と依頼を受けたんです。そこで僕は、せっかく買った白クジラを黒のテープで巻き、黒クジラに変身させました(笑)。ありがたいことに、最近はキャビネットはステージわきに置くので、現在は白クジラに戻っています。

さて、次回はビンテージの世界を離れ、イマドキのデジタル機材について触れようと思います。お楽しみに。


【第8回】Apolloをエフェクターとして使う

これまでビンテージマイクの話が続いたので今回からは方向性を変えて、デジタル方面の話をしましょう。

2015年にLUNA SEAが幕張メッセで「LUNATIC FEST.」をスタートさせました。そこでLUNA SEAは結成当初のバンド表記である「LUNACY」で出演することになったんです。結成当時の曲を演ることになり、僕は音もその頃の少し古い感じにするのが面白いんじゃないかというアイデアを思いつきました。

それで久々にアナログ卓のMIDAS Heritageを使うことに決定。「ロックのサウンドならMIDAS Heritageだろう」という僕の考えもありました。

加えて周辺機器も古い製品をいくつか用意したのですがそれだけだとちょっと面白くないなと思い、試しに新しいエフェクターを混ぜてみたら面白くなるんじゃないかと色々探しました。その結果、UNIVERSAL AUDIO Apolloを知ったんです。そう、僕はApolloをオーディオインターフェースとしてではなく、UAD-2プラットフォームであるエフェクターとして目をつけたんです。

代理店のフックアップさんに問い合わせたらApollo 8の銀パネルに加え、ちょうど新しく出るタイミングの黒パネルも持ってきてくださって、実機をテストすることができたんですが、UAD-2には昔憧れていたLexiconやAMSのリバーブがあった(笑)! 昔の外タレがよくライブPAにAMSを持ってきていたのがすごくいい音で、僕は当時欲しかったんです。

AMSをボーカルやドラムに使うと当時の音を再現できるし、何より操作性が良く音作りのアクセスが早い。それまでにDAW上でプラグインリバーブは使っていたのですが、とにかく使いにくいのとイメージしていたリバーブの音にならないので嫌悪感があったんですよ。でもApolloは使い勝手が良くイメージする音と一致したのでそれからApollo派になりました。

さらにApolloに惚れた理由は「歪み」です。LUNACY当時の音源はボーカルを歪まさせていたのでこの部分も再現したいなと思ったんです。PAで歪みを作ろうと思うとYAMAHA SPX2000やチューブアウトボードを使う感じなのですが、これがハウリングとの戦いなんです。でもUAD-2のTape Studer A800だとハウリングしない。この部分は大きかったですね。見た目もテープが回ってるのでいいですよね。

ボーカルにはUAD-2の1176を使ってますが、簡単にシリーズ挿しできるのがいいです。まず前段で近接効果を取るパラメトリックイコライザーを使います。そうすると後段のコンプを綺麗に歌詞に引っかけることができるんです。近接効果がある状態でコンプをあててしまうとそれだけでリダクションが2~3dBも変わってしまいます。コンプが正常な動作をすると歌詞がパシッと前に出ますよ!!

最後に、少し地味なプラグインですが、Little Labs IBP をバスドラに使ってます。多分このプラグインをバスドラに使う人はほとんどいないと思いますが…。僕は位相補正として使ってます。 apolloとパソコンだけで簡単にクオリティー管理ができるので、UAD-2は本当に素晴らしいデバイスだと思いますね。


【第9回】コンサートのメインスピーカー

今月はコンサート用のメインスピーカーについて話していきます。


今から35年くらい前、僕がエンジニアを始めた頃のメインスピーカーは選択肢がほぼJBLでした。Loは4560、Hiは2441の2Way。ステージのフロントに山積みし「いかに音量を出すか、音を遠くへ飛ばすか」ということだけを考えていました。単なる「足し算」的な考え方しかなかった時代です。まあ位相がぐちゃぐちゃになっても、聞こえてくる音が逆に荒々しくてカッコよかったという評価もあったかもしれません。ユニットはJBLかGAUSSの2種類だったと思います。スピーカーの見た目はみんな一緒でしたから、今でも古いライブハウスに行ってこのスピーカーキャビネットを見つけると萌えてしまいます(笑)。

大変だったのはやはり出音。バスドラが「ドスッ」という感じの体を震わせるような低音が鳴らない。本当にただの木の箱と紙で作られたスピーカーの音でした。どうやって低音を鳴らすかというと、バスドラのチャンネルに1/3 Octグラフィックイコライザーをインサートして20~40Hzをぐーっと上げていくんです。イマドキのスピーカーに慣れている若いエンジニアは、当時のスピーカーを使うとドラムの音を作れないかもしれない。それぐらい大変でした。

バスドラに立てるマイクですが、最近はShure Beta52やElectro-Voice N/D868といったマイクがありますが、周波数特性を見ると低音が持ち上がっているのでバスドラに使うと確実にいい音が出る仕様になっています。でも僕からすると少し苦言があって、それだとみんな同じ音になってしまう。優れたドラマーはバスドラを踏む時、表現として強弱のニュアンスをつけますが、それがマイクの特性で隠れてしまうのが一番良くないと思うんです。僕は周波数特性をチェックして、できるだけフラットで色のないマイクを使うようにしています。

加えて知っておかなければならないのは、スピーカーにどれくらい過大入力しても大丈夫かということ。さらにその出力を出せるパワーアンプの存在です。

当時、パワーアンプはYAMAHA PC2002が主流でした。メーター付きはPC2002Mですね。今でも中古市場でオーディオ的な音色は評価が高いと思います。定格出力は240Wst/8Ωだったと思いますが、バスドラを鳴らすとメーターに赤くクリップが点いてしまい、パワーアンプの出力ワッテージの上限と、逆にその入力に耐えられないメインスピーカーとの間の限界を探る葛藤の中、ドラムの音をどうかっこ良く作るかというテクニックを、当時相当養いました。この後Mayer Soundの時代が来る訳ですが、それは次回以降で!


【第10回】コンサートのメインスピーカーその2 〜Mayer Soundの時代〜

今週もコンサート用のメインスピーカーについて話します。

前回の話に続き、メインスピーカーにMayer Soundの時代が訪れました。MSL-3という製品ですが、縦長の形状で人間の背丈くらいあります。複数の水平スピーカーアレイでも定指向性により点音源の音像を作り出すことができます。客席の内側、外側、真ん中のいずれにも音のピークやディップが無く均一な音質をしっかり届けることができ、画期的な製品だったと思います。

専用のプロセッサーにより各帯域のユニット間のダイヤフラムの距離を正確に合わせることができたので、ボーカルの透明感やバスドラの音が遠くまで飛んでいく感じは、タイムアライメント処理をしっかり行い、位相の問題を解決できたゆえの結果でした。この製品以降、「点音源」という考え方が広まっていきました。加えて、Mayer Soundがすごかったのはリミッティングシステムを搭載していたことで、絶対にスピーカーを飛ばさないということ。これは本当に助かりました(笑)。

画期的だった点音源ですが、必ずしも全能だった訳でなく弱点がありました。どういうことかというと、2階席、3階席があるホール会場では縦方向に向けて音を飛ばす必要があるので、もう一段スピーカーを積み上げます。そうすると下と上のスピーカー間の位相干渉により音の濁りが生じてしまいました。

そこでその問題を解消するために生まれたのが「ラインアレイ」です。ラインアレイで先行しのはL-ACOUSTICS社のV-DOSCです。国内では、布袋寅泰さんの横浜アリーナのライブで使われたのが最初だったと記憶にありますが、V-DOSCは左右同じユニットで構成するので抜群に位相がいいんです。でも初期のラインアレイは重量が重たかった為、天井から釣れる本数が制限されてしまいます。

じゃあ「軽くすればいいんじゃない?」ということで、より軽量な製品を登場させたのがJBL VerTecでした。

こういった感じで特に大きな会場において、どのようにスピーカーを構成/設計するかということはとても大切で、かつ難しい問題です。それでMayer Sound以降、専任するシステムエンジニアが登場しました。システムエンジニアは、システム構成をプランすることはもちろん、本番中の会場の音場変化に対し補正処理もやります。客席内の数カ所にマイクを置いて測定し、卓の中のラインミックスとの差をチェックして補正するというのが基本的な考え方です。

現在ではスピーカー測定のPCアプリケーションがあり、rational acoustics SMAARTが有名です。これを使えば、システムエンジニアでなくても周波数特性や位相をチェックできるのですが、¥98,000(税抜)するので安くはないですね。

僕も古くはスペクトラムアナライザーからいくつかの測定機器を使ってきましたが、現在は使うのをやめています。それは何故かというと、やっぱり音楽の良さは測定するものじゃないと思ったんです。本番中、ずっと測定画面を見ているエンジニアもいますが、別に悪く言うつもりはないですけど、画面を見てる間にコンサートはどんどん進んで行く訳で、僕はそちらに気を取られるのが嫌なんです。


【第11回】ステージモニターの構築について

今回はステージモニターの構築について話します。 まずは、対象をアマチュアのみなさんにしましょう。

ギターやベースは電気楽器なので、出そうと思えばどんどん大きな音を出せますよね。一方、ドラムは生の楽器なので音量に限りがあります。
一番音量を出すのが難しいのはボーカルです。マイクに向けて声を出しながらモニタースピーカーで自分の声を聞くわけですが、調整が悪いとハウリングが起きてしまいます。エンジニアはハウリングとの戦いになりますが、これは今も昔も変わらない課題です。

そこでアドバイス。一番大事なことは、まず、ボーカリストが歌いやすい音量を設定し、それに合わせて他の楽器の音量を揃えること。

僕は、特に若いバンドとライブハウスツアーを回る時、モニタースピーカーから音を返すのはまずはボーカルの声だけしか返してあげません。その状態で演奏をしてもらい、まずステージ中のバランスを確認します。ボーカルの声が聞き取れない時はギターやベースのアンプの音量を奏者側で下げてもらいます。それで全員が気持ちよく演奏できるならバランス良く聞こえてるということなので、それが大前提です。そこから微調整を開始し、ドラマーにベースの音を返してみて演奏が良くなれば返す。そういう調整を経ていきます。

初めからトゥーマッチの音量を返すと、ステージ中の音量がひどいことになり、さらには表にも被った音が入ってきて最悪(笑)。最小限のところから足していく方法から始めるのがオススメです。

次はメジャー3年目くらいの現場の場合。まず、メンバーのみなさんと会話します。
「普段、どういう風にモニターをしていますか?」という質問をすると、最近は「イヤモニを使っています。」と返ってくることが多い。「えっ、ライブハウスでイヤモニ!?」と僕なんかは思うんです(笑)。決してイヤモニ自体が悪いことではないんですが、「今の状況で本当に必要?」と聞き返します。

僕はZeppクラスの会場まではイヤモニは必要ないと思っています。FOHのエンジニアとしてフェーダーを握っていれば、いかにバンドが熱く演奏しているか、いかに歌を歌えているかというのは一目瞭然なんですが、ライブハウスで必要なのはパフォーマンスの熱量。その熱量が感じられない場合は、「あなたのボーカルは伝わってこないんですけど」とハッキリ伝え、「次のツアーではイヤモニなしでやりませんか?」と提案したりもします。

そしてイヤモニなしでやってみたら、演奏がすごくよくなったことが多々あります。ボーカリスト本人からも「歌っている時に自分を見る客の目線が、イヤモニを付けていた時と全然違います!」と感謝されたこともあるくらい。そうなると「僕が言いたかったことがやっと伝わったなぁ」と思うんです。

ギタリストは最近ステージ上でよく動くので、必要上イヤモニをつけることが多いんですが、一度イヤモニなしで演奏して、メンバーのグルーブをちゃんとメインスピーカーから出せているのを確認してから段階を経てイヤモニを選ぶべきだと思います。

最後に大御所クラスの場合。さすがに、会場もホールだったりアリーナだったりするし、その人のキャリアもあるので、簡単に「イヤモニ外しませんか?」とは言えません(笑)。とりあえず、イヤモニありでやってみて、何か不都合があった場合は考えるというスタンスです。

ここで少し突っ込んだ話を。レイテンシーの問題です。
コンソールがデジタルの場合、必ずレイテンシーが生じます。今だと、最低限でも3ms。これを良しと思うのかどうかの話ですが、僕の場合はドラマーにはレイテンシー0でドラムの音を返す工夫をしています。最近はシーケンスが回っていることが多いので、ドラマーの多くはクリックを聴く為にイヤモニを使うんですが、ドラムのIEM卓がデジタル卓だとモニター卓のレイテンシーが加わってしまうことになり、3ms + 3msで6msも遅れるわけでこれは無視できない問題です。

そういう場合、ドラムのインプット回線をIEMアナログ卓にパラレルにドラムの音を立ち上げます。ドラムIEM卓、モニター卓、FOH卓と3パラレルになりますが大丈夫です。(4パラレルはNG)これだと自分の出した音が0レイテンシーで聞こえるから、ドラマーにとって気持ちいいのでみんな喜んでくれます。ドラムが良くないとコンサートは良くならないので、非常に大切なことです。

    記事内に掲載されている価格は 2017年12月25日 時点での価格となります。

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