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Rock oNスタッフ・バウンス清水が講師となり、「Dolby Atmos 実践で体感! Neumannで学ぶイマーシブMIXスタートアップ講座」と題したセミナーが、日本工学院蒲田校にて開催。
今回はその後編をお届けします!
★前編はこちら
バウンス清水が日本工学院にて「Neumannで学ぶイマーシブMIXスタートアップ講座」開催!【前編】
イマーシブオーディオの解説をどこよりもわかりやすく
【前編のあらすじ】
空間オーディオとは「立体的な音場を自由に使って、音楽制作ができるようになった」ということだと説くバウンス清水。だが今のイマーシブ・オーディオの(Dolby Atmosや360 Reality Audioといった)フォーマットには色々な特徴や制限がある。そんな清水が行き着いた答えは「フォーマットに捉われない音楽制作がしたい」ということ。そこで見つけた様々なフォーマットに変換できる柔軟性のあるソフトウェアとは・・・?!
おすすめのパンナーとは・・・?!
バウンス清水:様々なフォーマットに変換できる柔軟性のあるソフトウェアということで、僕の中でいまこのパンナーが良いなというのは2つあります。
1つはfiedler Audioの「Spacelab Interstellar」というパンナーです。製品としては、リバーブという位置付けがちょっと強いんですけれども、もちろんパンナーとしても使えるというものです。
もう1つは、我らがメディア・インテグレーションで扱っております「Spat Revolution」というパンナーです。これも自由度が高くて、おすすめなんですけれども価格が30万円を超えます。お金のないサラリーマン・ミキサーのバウンス清水は買えません(笑)。なので頑張って買った「Spacelab Interstellar」をいま使っています。
この2つのソフトウェアの特徴は、「OUTPUTスピーカーを自由に設定できる」っていうにところになります。
どういうことかというと、7.1.4や9.1.6、NHK22.2といった、元々デフォルトで入っているフォーマットがいっぱいあって、それをボタン1つでフォーマットを変えられるようになっています。チャンネルがいくつあるとかどこにどのスピーカーがあるというのを自由に決められるので、このプラグイン上でパンニングしているものは、どのフォーマットにも変換ができるという優れものになっています。
この2ついずれかのプラグインを使って制作をすることによって、フォーマットに捉われない音楽制作というのができるのではないか、というのが僕のいまの結論ですね。
★関連製品
Spacelab Interstellar(fidler Audio)
https://fiedler-audio.com/spacelab-interstellar-immersive-3d-reverb/
IRCAM Spat Revolution(FLUX::)
https://www.minet.jp/brand/flux/ircam-spat-revolution/
フォーマットに捉われない音楽制作ができる場所・・?!
●MIL Studio
フォーマットに捉われない音楽制作ができる場所も2つあります。
また手前みそなんですけど(笑)、我らがメディア・インテグレーションのMIL Studioというスタジオになります。
写真を見ていただくと丸がいっぱいあると思いますけど、これは全部スピーカーでして、43.2chというチャンネル数を誇っています。これは球体をできるだけ再現したいというものでして、床が緑になっている部分にもスピーカーが埋まっていて、球体状にスピーカーがあるよという状態です。
このスタジオもSpat Revolutionを使ってまして、画面にあるオレンジ色の四角がスピーカーになります。このMIL Studioのコンセプトは「どのフォーマットの素材が来ても鳴らせる」ということを売りにしています。左側に360 Reality AudioとDolby Atmos、22.2と書いてあるんですけど、それをこの部屋の中にポンと投げ込むことによって、スピーカーに適切にレンダリングしてくれるよっていう役割で、Spat Revolutionを使っている状態ですね。
僕がやりたいこととは逆になっているんですけど、何を放り込んでも鳴らせるスタジオっていうことがコンセプト。それを逆手に取れば、どんなフォーマットでも作ることができるスタジオという状態ですね。
画面左側に映っているのがスピーカーレイアウトを編集している画面で、XYZでスピーカーの距離を手入力していくような感じです。
例えば「2m離れたところにLchがあります」みたいなのを入力していくと、ソフトウェアが「こういう部屋なんですね」と理解して、それに対して音を送ってくれるというものです。
●8ch CUBE
もう一つ、フォーマットに捉われない音楽制作ができる8ch CUBEというスピーカーレイアウトがあります。
参考にAcoustic fieldさんのブログを拝見すると、Ritto Baseさんの写真がありました。その写真を見ると、中央に椅子があって、椅子の下にサブウーファーがある8ch CUBE+LFEという作りです。
どういうスピーカーかというと、自分を取り巻く四方に赤いポイントがスピーカーになっているんですけど、あのポイントにスピーカーが配置されて8chスピーカーであると。
これだ!と思いまして、僕の家のStudioにも8ch CUBEを導入しました。元々は5.1.4chを組んでいましたが、L、C、R、リアのサラウンドの上に4発置いてやっていたんですけど、今もう8ch CUBE+LFEにしています。
8ch CUBEの特徴として、目線のところにスピーカーがないんですよ。なのでいい意味で、スピーカーの存在があまり感じられない。逆に悪い意味でもあるかもしれないんですけど、LRもDolby Atmosも耳の高さにスピーカーがあるじゃないですか。スピーカーと見つめあってミックスするというのがなくなります。上と足元にスピーカーがあって目線にはスピーカーがないので最初は違和感がありますけれど、慣れてくるとスピーカーを感じずにミックスができる。これが非常に良いポイントだと僕は思っています。
これはDolby Atmosと8ch CUBEが、どのようにスピーカーから音が出ているかを表した図になります。左がトップビューで部屋を上から見ている状態、右がサイドビューで横から見ている状態です。これだとDolby Atmos 7.1.4チャンネルは上しか音が出ていなくて、しかもものすごくバランスが悪いなというのが見て取れると思います。それに対して8ch CUBEは、四角形の4つ角にスピーカーを置いてあるので、どこから見ても同じだけのエネルギーになっている。これが非常に特長です。
だからスピーカーを感じずに仕事ができるっていうのもあるんですけど、どこにおいても非常にバランスがいいスピーカーレイアウトで、フォーマットに捉われない制作をする上では、非常に理にかなったスピーカーレイアウトだと思います。
★参考サイト
VAR8
https://www.acousticfield.jp/var8
よくある質問で、「Dolby Atmosをやりたいんだけど、センタースピーカーいるかな?」っていうのがありますが、僕の意見としては、なくてもいいんじゃないかな。と思ってます。センタースピーカーがなんであるかというと、映像ではセリフを出すスピーカーだからですね。「映画のフォーマットなんでね」ということなんです。皆さんでステレオでミキシングしていて、センタースピーカー欲しいなと思った人います?いないですよね(笑)。例えば自宅にDolby Atmosのスピーカー配置を組みたいんだという時に、絶対に7.1.4を組まなければいけないかと言われたら、僕はそんなことはないんじゃないですかと思います。
Dolby Atmosをやるんだったら前後感と上が必要なので、そこは絶対必要なんですけれど。制作する場所として自宅を使いたい、非常にコンパクトにまとめたいんだったらセンターを省いて、リアとサイドを一緒にして、サラウンドスピーカーは4ch、上も4ch。そうすると、8ch CUBEに近付いてくるんですけれど(笑)。
空間オーディオの制作を始めるには・・・?!
これだけ熱弁したので、皆さんこう思っていただいていると思います。
「空間オーディオの制作を始めたいな」と。どうですか?「始めたいな」と思った方は?いや、「もう始めてるよ」という人もいっぱいあると思うんですけれど、ここまで熱く語ったら始めたいなと思って頂いたと思うんです。
そんな方におすすめなものを挙げて行きます。まず3DXというパンナーです。フォーマットに捉われない音楽制作を始めたいなって思っていただいたのであれば、まずこのパンナーを買って頂くと非常にいいと思います。「ああ、こういうことか」というのがわかってくると思います。
★参考サイト
3DX
https://novo-notes.com/ja/3dx
本当はフォーマットに捉われない音楽制作おすすめパンナーというか、ゴール地点として伝えたいパンナーだったんですけれど、アウトプット・スピーカー・レイアウトを自由に設定ができないんですよ。決まった中で選択するような格好になりますので、そこがちょっと柔軟性という点を考えたときに最強としては残念ながら認められない。
ただ立体音響的な空間オーディオのミキシングをやる上で必要なものが揃っているし、一番思うのはこうやっておいたら、そこで鳴るのが一番分かりやすいパンナーだと思うのでおススメです。例えば3DXでパンニングをやって、7.1.4レンダリングしたものを、Dolby Atmosの作品としてリリースするというやり方もあり、というところですね。
これからテストに出るワードを言います(笑)伝えたいことが登場するのでぜひ見てください!
そうです、「Dolby Atmosの制作は、何も買い足さなくてもできるよ」っていうことです。
Dolby Atmosの何が良いかというと、こういうことなんですよ。非常に勢力のあるフォーマットなので、何も買い足さなくてもできるようになっているんです。
皆さんがお使いのDAWなんですか?そのDAWも対応していますよと。いまメジャーどころは、ほとんどDolby Atmosのレンダラーが内蔵されています。Appleがローンチしたその年の12月にlogicにレンダラーが付きました。Steinbergは、CubaseとNuendoがあってNuendoには元々入っていたんですけれど、CubaseでもVer.12か13ぐらいから、ちょっと遅れてできるようになりました。Pro ToolsよりもStudio Oneの方が早かったかもしれないですね。Studio Oneが対応して、その後にProToolsにも内部レンダラーを搭載したという状況です。
「いや僕はAbleton Liveです!」と言う人がいたんですけど、そういう人のためにFidler Audioの「Dolby Atmos Composer Essential」がありますね。
スピーカーを7.1.4chも揃えるのが大変・・そんな方もご安心
そして皆さんの中には 「スピーカーを7.1.4とか、たくさん用意するのは大変だなあと」「センタースピーカー置けないし嫌だな」という声が出ると思うんですけれど、最近はヘッドホン・モニターの種類も豊富になってまして、Dolby Atmosレンダラーではバイノーラル・レンダリングするので、ヘッドホンでも作業ができるという状況になっています。
この赤で囲んだのが注目プラグインなんですけども、その中でNeumannのRIME。これもすごく良かった。NeumannのヘッドホンNDH 30で試しましたが、NeumannスピーカーのDolby Atmosを聴いているみたいな音でちゃんと聴こえる。今日のこの環境に非常に近い状態でモニターができる、結構優れたプラグインですね。
もう1個赤印で示している左下の360VMEというアプリがあります。ちょっとこれの話をしたいと思います。360VME、VMEは「Virtual Mixing Environment」の略でソニーさんが作った技術です。よく勘違いされるんですけれど「360」と付けてしまったが故に、360 Reality Audio以外は使えないと思われがちなんですが、そんなことはないんです。
どういうものかというと耳の中にマイクを入れます。そして先ほどご紹介したMIL STUDIOのリスニングポイントに座っていただきます。その状態でこのスピーカーをまず測定します。インパルス信号が出て例えばDolby AtomosフォーマットでVMEとりたいよっという場合は、9.1.6のプロファイルを作ってもらうんです。MIL Studioだったら9.1.6chで選ばれたスピーカーが鳴ります。そこからインパルス信号を出してマイクで収音することで9.1.6chのデータを取ります。そして座った状態でマイクを付けた状態のままご自身のヘッドホンを装着していただく。それでまた音が出てヘッドホンの測定をします。
その結果何が起きるかっていうと、このヘッドホンを使ってそのスピーカー環境を再現するというアプリになります。真野さんはこれやりましたよね?
ゼンハイザージャパン 真野氏:はい。すごいですよね。
バウンス清水:笑っちゃうくらいクオリティが高くて「いまスピーカーが鳴っていますよね?」っていうリアクションに皆さんなるんですよ。「あれ鳴っていない。すげぇ!」って。それぐらいクオリティが高いです。なのでそのスタジオをご自身のヘッドホンで、自宅に持って帰られる技術というアプリになります。
★参考記事
SONY 360VMEを体験!驚きで笑いが止まらない、超現実的な音場をレポート!
元々これはウチのMIL STUDIOが国内唯一の測定スタジオだったんですけれど、今は解放されましてサウンドシティ・スタジオのtutumuでもできるようになりました。
これは空間オーディオの音楽制作をする上で、非常に僕は良いニュースだなという印象です。Dolby Atmosだったり360 Reality Audioだったりができる商業スタジオのtutumuは国内ではとてもクオリティの高い環境ですし、それをヘッドホン環境でご自宅に持って帰られるってなると、それでまず仕込みレベルまでだいぶいけますし、最終みんなで集まってチェックしようみたいな事ができるのです。tutumuがVMEを始めたことによって、空間オーディオの音楽制作が発展していってくれないかなぁっていう希望が持てるニュースでした。
僕が今日言いたかったこととしては「空間オーディオの制作をスタートしようよ!」ということです。伝わったかわからないですけれど、始めたらわかるというか、まずはDolby Atmosの制作をしてみるのが良いのではないかなと思っております。
とかく概念やイメージを理解することが難しい印象の空間オーディオを、スライドを交えながらわかりやすく丁寧に解説していたバウンス清水。軽妙な口調で時には冗談を交えながらの説明に、セミナーに参加した多くの参加者は終始和やかなムードで(時にはメモをとりながら)熱心に聞き入っていたのが印象的でした。
「何も買い足さなくてもDolby Atmos(空間オーディオ)の制作はできる」「空間オーディオの制作をスタートしようよ」というメッセージに背中を押された方も多かったのではないでしょうか。これを機に空間オーディオの音楽制作にチャレンジしてみたいと感じた方が、1人でも多く出てくることを願ってやみません。
会場ではセミナーの後もKHスピーカーのモニターでDolby Atmosを試聴したり、ローンチされたばかりのRIMEプラグインをNDHシリーズのヘッドホンで試聴できるとあって、どんなものか試しに聴いてみようと長い列が出来ていました。講義だけでなく実際に会場で空間オーディオを体験できることもこうしたセミナーの大きな魅力。
今後またこうしたセミナーを日本工学院のNeumannパートナースタジオで定期的に開催されるとのことですので、ぜひ足を運んで情報を得たり最新技術を体験してみてはいかがでしょうか。
★【2025.8/7】早くも第2回開催が決定!
好評につき、バウンス清水の空間オーディオ制作スタートアップセミナー第2回開催が、8月7日(木)に決定しました!
今回の記事を読んで実際に会場でセミナーを聞いてみたいという方、モニタースピーカーKHシリーズのイマーシブモニター環境での実機試聴や、新プラグインRIMEやNDHヘッドホンシリーズといった最先端の空間オーディオ技術を体験してみたい方、ぜひ参加してみてはいかがでしょうか!?
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