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パソコンのCPUパワーが足りないと感じている方へ
DAWで楽曲制作をしている時、作り始めはソフト音源の数が少ないので快適に制作が進んで行きますが、トラック数が増えて、そろそろ楽曲の完成が見えて来たぞ!という頃に音源の音切れやノイズ、最悪の場合DAWの強制終了に悩まされた経験はありませんか? そんな時、自分のパソコン性能の限界だと諦めてしまう方も多いと思いますが、まだ諦めるのは早いです!
ソフト音源の再生をDAW内で全て行うのではなく、DAWとは別のソフトに再生を分散させる事によってDAWの負担を減らし、再生するソフト音源数を増やすという方法があるのです。それを実現するために今回、クリエイターから絶大な支持を得ているホストツール VIENNA ENSEMBLE PROの実力を試してみました。
ソフト音源やエフェクトをサーバーとして立ち上げる VIENNA ENSEMBLE PRO
VIENNA ENSEMBLE PRO (以下VEP)は、サードパーティ製のVST/AU ソフト音源やエフェクトプラグインが立ち上げられて、それをDAWから演奏したりオーディオ信号を送ってエフェクト処理する事が出来ます。ここまでは既存のホスティングソフトと一緒なのですがVEPは「サーバー」として起動する事ができ、VEPサーバーとの接続はDAW上に起動したプラグインを介して行われます。サーバーとの接続後はDAW上にVEPインプットチャンネルが現れますので、MIDIの出力先をそこにアサインすればOKです。
サーバーを起動する2種類の方法
DAWを使用しているパソコンにサーバーを起動する方法と、全く別のパソコンに起動してLAN接続によりデータの送受信を行う方法があります。DAWと同じパソコンに起動するとDAWとCPUリソースをシェアする訳ですから、当然別のパソコンに起動した方がパフォーマンスは上がります。複数台のパソコンと接続して同時に使用する事も可能で、OSはMacとWindows両方対応!パソコンを買い換えて前のパソコンが遊んでいる方は、VEPを使えばプラグイン音源やエフェクター処理用として制作に復活させる事が可能なのです。
サーバーを起動するには1つのサーバーに対して「ViennaKey」1個とライセンスのセットが必要になります。DAWと同じパソコンに起動する場合は1セット、更に別のパソコンで起動する場合には台数分のセットが必要で、使用したいサーバー数に応じて追加購入します。
サウンドライブラリー EPIC ORCHESTRA 2.0 を付属
ミキシング&ホストツールでありながら、高品位なオーケストラ音源が付属しています。ライブラリ総容量は約73GB!新しくなったプレイバックエンジン SYNCHRON PLAYERも付属し、ショート・ノートや様々なアタック・タイム、ロング・ノート、レガート、ヴィブラートを自在にコントロールすることができます。今回VEPの実力を検証するにあたり、このEPIC ORCHESTRA 2.0を活用しましたのでそのサウンドを是非お聞き下さい。(EPIC ORCHESTRA 2.0は単体で購入する事も可能です)
その他の魅力的な機能:VIENNA MIR PROとの統合画面
『VIENNA MIR PRO』はコンサートホールなどの “空間全体” をモデリングするソフトでVEPとは別売ですが、MIR PROを導入するとVEP画面で一緒にエディットが可能になります。ソフト音源やオーディオ信号をオブジェクトとして仮想環境内に配置し、楽器の位置、ステレオ幅、音量などを直感的にコントロール出来ます。仮想環境プロファイル(ルームパック)も別売で用意されていて、それぞれその空間で弾いているかのような正確な響き、共鳴を得ることができ、サラウンド(最大7.1ch)にも対応!
これまで楽器の配置はDAWのパンニングやボリューム、リバーブを駆使してイメージした音像を作り上げますが、MIR PROを使えばステージ画像を見ながら簡単に配置して、よりリアルな音像を得られるというまさにオーケストラ・ソリューションです。下位版の MIR PRO 24は、仮想ステージ上で扱えるチャンネル数が最大24チャンネルまでという制限が設けられています。
メーカーサイト:https://sonicwire.com/product/34990
いよいよ検証!その前に
今回検証に使用した機材環境をご紹介します。ご自身のパソコンとのスペック比較にご参考下さい。
●DAWを起動するメインのパソコン
機種ID: MacBookPro11,1
プロセッサ名: Intel Core i5
プロセッサ速度: 2.6 GHz
プロセッサの個数: 1
コアの総数: 2
二次キャッシュ(コア単位): 256 KB
三次キャッシュ: 3 MB
メモリ: 8 GB
Apple SSD Controller:
製造元: Apple
製品: SSD Controller
物理的相互接続: PCI
リンク幅: x2
リンク速度: 5.0 GT/s
MacOS / High Sierra 10.13.6
●サーバーを起動するサブのパソコン
機種ID: MacBookAir6,2
プロセッサ名: Intel Core i5
プロセッサ速度: 1.4 GHz
プロセッサの個数: 1
コアの総数: 2
二次キャッシュ(コア単位):256 KB
三次キャッシュ: 3 MB
メモリ: 4 GB
Apple SSD Controller:
製造元: Apple
製品: SSD Controller
物理的相互接続: PCI
リンク幅: x2
リンク速度: 5.0 GT/s
MacOS / Sierra 10.12.6
DAW (Steinberg Cubase Pro10) の設定
Steinberg Cubase Pro10 設定
プロジェクト設定:24bit 48KHz
使用オーディオIF:iConnectivity / iConnectAUDIO2+
バッファーサイズ:128 Samples
プロセッシング精度:32bit
マルチプロセッシング:有効
ASIO-Guard:なし
オーディオ優先度:標準
入力レイテンシー:5.917ms
出力レイテンシー:4.688ms
レイテンシー合計:10.605ms
今回の検証は楽曲制作中を想定し、鍵盤を弾く事を考えバッファーサイズを128に設定。DAWはCubase以外のソフトを使用する事を考慮してASIO-Guardなし、オーディオ優先度:標準としました。ヨハン・シュトラウス2世の名曲:Geschichten aus dem Wienerwald (邦題:ウィーンの森の物語) を再生。音源は主に EPIC ORCHESTRA 2.0 で、ハープとシンバルのみ Vienna Instruments Pro 2音源を使用。
検証1:DAWだけで全ての音源を再生した場合のパフォーマンス
Cubase Pro 10に、17個のEPIC ORCHESTRA 2.0音源と2個のVienna Instruments Pro 2音源、合計19音源を立ち上げてオーケストラを演奏!画面右下のオーディオパフォーマンスメーターをご確認ください。下段で真っ赤に振れているのがリアルタイム・ピークメーターで、上段がアベレージ・ロード・メーターです。ピークメーターを見るだけで限界を超えている事が判断出来ますが、実際にノイズが出ていてこれでは制作出来ない状況です。後でバッファーサイズを1024まで上げて大丈夫になりましたが、リアルタイム演奏をしながらメロディーを考えたりアレンジをする事は出来なくなります。
検証2:DAWと同じパソコンでVEPサーバーを起動して再生したパフォーマンス
Cubaseを使用しているパソコンにVEPサーバーを起動し、先ほどの19音源を同じ設定でVEPに立ち上げて演奏。画面右側のウィンドウでレベルメーターが上下しているのがVEPです。なんと、Cubaseのバッファーサイズを変更していない事が信じられないくらい先ほどのノイズが無くなりました。ピークメーターが一瞬点灯しましたが、ノイズにはならず最後まで無事に演奏する事が出来ました。これだけのパフォーマンスUPが実現するなら、導入の価値は充分にあると思います。しかもEPIC ORCHESTRA 2.0のサウンドクオリティがとても高くて、単体で約15,000円のライブラリが無料で付属するというのはかなり魅力的です。
検証3:DAWとは別のパソコンでVEPサーバーを起動して再生したパフォーマンス
外部パソコンにサーバー起動した場合は更にパフォーマンスが向上し、メーターの振れが60〜70%くらいで安定しました。外部パソコン(MacbookAir)のプロセッサ速度は1.4GHzと決して高速ではないスペックですが、SSDドライブ内臓という事もあり制作に充分使えるのではないでしょうか。
LANケーブルを挿せる環境さえあれば別部屋のパソコンでもVEPサーバーに出来るので、スタジオと別部屋でVEPサーバーマシンを起動するというスタジオの静音化も実現します。ソフト音源だけでなく、CPUパワーを大量に消費するIRリバーブを多数VEPに立ち上げて、DAWからセンド&リターンでリバーブを使い分けるのも便利です。
検証4:DAWとは別のパソコンでVEPサーバーを起動し画面共有した時のパフォーマンス
先ほどの外部パソコンでサーバーを起動した状態で画面共有しました。動画の右半分に現れた画面は、外部サブマシンであるMacBookAirのデスクトップ画面です。画面共有はMacOS標準機能で使えます。画面を共有して見られるだけでも便利ではありますが、何と、サブマシンの操作をこの画面内で出来てしまうのです!これはつまり、サブマシンのマウスとキーボードが不要になるという事です。しかも、VEP7書類をドラッグ&ドロップでサブマシンにコピーも出来ますので、通常はメインマシンのサーバーで作業して、音源再生に限界を感じてきたらサブ機に切り替えるという事もスムースに出来ます。
ものすごく便利な使い方ではありますが画面共有はLANケーブルを介して行われますので、DAWのオーディオパフォーマンスが 検証3に比べ低下している事が動画で確認出来ます。以上の検証結果から、DAWとは別のパソコンでVEPサーバーを起動して、画面共有は必要になった時だけ使うというのがベストという事が分かりました。
パソコンを買い換える前にぜひVIENNA ENSEMBLE PRO 7ご検討を!
劇伴などオーケストラ音源の需要が高い制作現場でほぼ導入されているVEP。紹介出来なかった便利な機能がまだまだありますが、先ずはDAWの限界が大幅にアップするという事を知って頂けましたら幸いです。ソフト音源の数十ギガバイトに及ぶ大容量化により、音が超リアルになった分パソコンへの負担が大きくなりました。パソコンを買い換える前に是非一度、VIENNA ENSEMBLE PRO7 導入検討をお勧めします。最後に、ベスト・パフォーマンスを叩き出した「検証3:DAWとは別のパソコンでVEPサーバーを起動して再生したパフォーマンス」の動画をもう一度お楽しみ下さい!
Writer:SCFED IBE
記事内に掲載されている価格は 2019年6月18日 時点での価格となります。
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