各社がハイエンドモデルに投入するオープンバック(開放型)のヘッドフォン。そのメリットにテクニカルな視点から切り込みます。音漏れがひどい(そもそも遮蔽されていませんが)というイメージをお持ちの方もいるかもしれませんが、実はオープンバックは理想的な環境にドライバーを設置した形式なんです。
スピーカーについて勉強をしたことがある方はご存知かと思いますが、スピーカーを収めるエンクロージャーには密閉型、バスレフ型などが有ります。この中で理想の環境としてバッフルという形式が語られることがあります。これはスピーカーユニットの正面側の出力だけを利用して、背面側の出力が正面に回り込まないようにした形式。具体的には無限に広い板にスピーカーユニットを取り付けた形になります。
スピーカーが駆動した際に必要な出力は正面側だけ、裏面からは完全に逆位相の出力が出ています。この逆位相の出力を完全に遮蔽するのがバッフルタイプ。この逆位相の出力をエンクロージャー内で反転させて出力しようというのがバスレフタイプ等のエンクロージャーに穴が開いたタイプです。勘の良い方ならばお気づきかと思いますが、オープンバックのヘッドフォンとは、まさにバッフルタイプの構造を持っているのです。
もちろん、全く弱点が無いわけではなく、同じ入力信号であれば、裏側の出力を利用するものに比べて小さなパワーしか出せません。しかし音漏れや低出力等のデメリットを補っても余りあるほど、位相干渉のない高い解像度を持ったサウンドという大きなメリットを持つことになります。
自宅スタジオなど、音漏れの気にならない環境であればこのAudio-technica ATH-R70xの持つ性能を十分に楽しむことが出来るでしょう。これまでも高性能と言われたヘッドフォンのほぼすべてがこのオープンバックを採用しています。その代表はSTAXでしょう。このメーカーはコンデンサータイプのドライバを採用しているという特徴と共に、全てのモデルにオープンバックを採用しています。ゼンハイザーもシューアーもAKGもハイエンドのモデルにはオープンバックの製品を見ることができることからも、その構造の評価は揺るぎないものであることがわかります。
電車での移動中等、汎用のヘッドフォンとしては使用する環境が限定されますが、じっくりと音と向き合って作業をおこなう環境であれば音漏れは問題にならないはずです。各種、新機軸を搭載した意欲作。是非とも、Made in JAPANの高い技術に裏付けられたaudio-technica渾身のフラッグシップをお試し下さい。
記事内に掲載されている価格は 2015年8月10日 時点での価格となります。
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