
2025年11月13日に渋谷で開催されたセミナー「なんとなくから卒業!コード進行のトリセツ ダイアトニックコード編」のレポートをお送りします。
講師:SD村上
コード(和音)の定義
セミナーは、まずコードの基本的な定義から始まりました。厳密には、3つ以上の音が重なったものをコードと定義します。2つの音が鳴っているもの(インターバル)は、定義上はコードとは言えませんが、実際には「パワーコード」のように、コードから音を1つ抜いたものとして捉えられるため、コードとも言えます。
音の積み方
コードを構成する音の積み方にはいくつかの種類がありますが、主に「コード」と呼ばれるものは3度積みで説明されます。3度積みとは、ドレミファソラシドのスケール上で「1つ飛ばし」で音を重ねていく積み方です。例えば、ドを起点とすると、ド・ミ・ソのように積み重ねた状態を指します。
ダイアトニックコードと度数の重要性
コード進行の基礎を理解するために、スケールの音に番号を振る「度数」の考え方を導入します。
度数(Degree)
ドレミファソラシの音階(Cメジャースケール)において、ドを「1度」とし、そこから順に数えて、2度、3度、4度、5度、6度、7度と呼びます。つまり通常はスケール上に7つの度数があります。

7種類のダイアトニック・セブンスコード
※ここでは理論を考える上で最も分かりやすい基本として、Cメジャースケール(ピアノの白鍵のみ)で説明されました。
Cメジャースケール上で3度積み(4音まで)を行うと、以下の7種類のコードが生成されます。これらがダイアトニックコードであり、そのキーの音(Cメジャーではドレミファソラシド)のみで構成されています。

相対的な度数表記の利点: この度数(1, 2, 3…)による表記は、キーが変わっても同じ機能を持つコードに適用されます。例えば、Dのキーであっても、1番目のコードはD Major 7、2番目はE Minor 7となります。また、この場合一般的に相対的な度数でコードを表記する場合、コードの度数は1~7のアラビア数字ではなく、I~VIIのローマ数字で表記します。(Imaj7, IIm7,V7等)
コードの機能(役割)とドミナントモーション
7つのダイアトニックコードは、それぞれが持つ響きと、コード進行における役割によって3つの主要な機能に分類されます。

トニック (Tonic)
安定的。曲の「ホーム」となる、落ち着いた印象を与える。Ⅰ、Ⅲ、Ⅵ
サブドミナント (Subdominant)
やや不安定。進行感があり、「少し進んだ」感じを与える。 Ⅱ、Ⅳ
ドミナント (Dominant)
最も不安定。緊張感が強く、トニックへの解決を強く求める。Ⅴ、Ⅶ(VIIも構成音としてはドミナントに属するが特殊なため、基本的にはVのG7が重要)
ドミナントモーションと解決
ドミナントのコード(特にV7/G7)がトニック(Imaj/Cmaj)へ進行することをドミナントモーションと呼びます。これは、不安定なドミナントコードから安定的なトニックコードへ移行し、曲が落ち着いた印象を与える「解決」と呼ばれる現象です。
不安定さの原因
V7のコード(G7)が不安定なのは、その構成音の中にトライトーン(増4度や減5度と呼ばれる、単体で聞くとキツめの響き)が含まれているためです。この不安定な音が、特定の方向(例えば7度が1度に、4度が3度に)動くことで解消され、心理的な安定感をもたらします。

定番のコード進行パターン
これらの機能を組み合わせることで、さまざまなコード進行が生まれます。
トニック ➡ サブドミナント ➡ トニック (I-IV-I)
Cmaj7 ➡ Fmaj7 ➡ Cmaj7 の進行。少し曲が進んだ感じがした後、また落ち着く動きです。
トニック ➡ サブドミナント ➡ ドミナント ➡ トニック (I-IV-V-I)
Cmaj7 ➡ Fmaj7 ➡ G7 ➡ Cmaj7 の進行。ドミナントを経由することで、より前に進んだ強い進行感があり、最終的に解決して曲が終わったと感じさせます。
ツーファイブワン (II-V-I)
Dm7 ➡ G7 ➡ Cmaj7 の進行。サブドミナント機能を持つ2とドミナント機能を持つ5の組み合わせであり、強い進行感がある基本中の基本のコード進行パターンです。
循環コード (I-VI-II-V)
Cmaj7 ➡ Am7 ➡ Dm7 ➡ G7 の進行。これは様々な曲で聞き覚えがある定番の進行であり、トニック機能を持つVI(Am7)を挟むことで、機能を変えずにバリエーションを作っています。
偽終止(ぎしゅうし)
ドミナント(V7)からトニックのIではなく、VIm(Aマイナー)やIIIm(Eマイナー)等同じトニックの機能を持つコードへ解決する進行です。解決した感じは残るものの、聴衆の期待を裏切るような、ちょっと違った印象や「色気」を与えます。
他にも多数の定番的なコード進行があります。
マイナーキーとモーダルインターチェンジ
曲にはメジャーキー(長調)だけでなく、マイナーキー(短調)も存在します。マイナーキーは、Cメジャーから見て6番目の音(ラ/A)を起点としたエオリアンスケール(ナチュラルマイナー)が基本となります。
マイナーキーの問題点と3種類のスケール
ナチュラルマイナーのダイアトニックコードでは、5番目のコードがマイナーコードとなり、トライトーンを持たないため、強いドミナントモーションが機能しないという問題があります。このドミナントモーションの進行感を作るため、マイナーキーでは以下の3種類のスケールが存在します。
1. ナチュラルマイナー (Natural Minor/エオリアン)
3度、6度、7度が半音下がる(Cメジャー比)。5番目のコードがドミナントとして機能しない。
2. ハーモニックマイナー (Harmonic Minor)
7度を半音上げることで、強引にドミナント(V7)を構成するトライトーンを作り出す。メロディとしては6度と7度の間に不自然な音程のギャップが生じる。
3. メロディックマイナー (Melodic Minor)
7度に加えて6度も半音上げることで、メロディの不自然なギャップを解消する。結果的にスケールの後半はメジャースケールと同じでメジャースケールの3度のみがフラットになった構成となる。

モーダルインターチェンジ(借用和音)
マイナーキーで生まれたこれらのコードは、実はメジャーキーの曲の中でも利用することができます。これをモーダルインターチェンジ(Modal Interchange)、または「借りてくるコード」と呼びます。 これは一時的な借用であり、転調とは厳密には区別されます。 例として、Cメジャーキーでマイナーキーのサブドミナント(IVm/Fm7など)を借用することで、曲に深みや色を加えることができます。 有名な曲でも多用されており、スティービー・ワンダーの「Lately」やマライア・キャリーのクリスマスソングなどにもこのテクニックが見られます。
まとめ:初心者へのアドバイス
セミナーの最後にSD村上より初心者へのアドバイスが共有されました。
楽器の推奨
コード理論を理解する上で、鍵盤楽器(ピアノなど)は最も構造が分かりやすくお勧めです。
コードサジェスチョン機能の活用
現代のDAWにはコードサジェスチョン機能が多くありますが、それらを賢く使うためにも、コードの役割(トニック、サブドミナント、ドミナント)を意識すると、さらに幅が広がります。例えば、ドミナントで曲を終えると中途半端に感じますが、この理論を理解していれば、意図的に解決させないのか、それとも無自覚に終わってしまったのかを認識し、曲の感情的な流れをコントロールできるようになります。また、スケールとコードは常に表裏一体であり、そのコードが持つ役割を知ることが、音楽制作におけるバリエーションを増やし、曲作りの質を高める鍵となります。
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