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仮想現実空間を自由に動き回ったり、定位置で視点を回転して映像や音声を擬似的に体験できるツールとして最近すっかり市民権を得たVR技術。
こうしたVRによる360°VR動画や音声を収録してみたいと思っている方も多いのではないでしょうか。特に2020年はコロナ禍で外出制限や海外渡航など個人の行動が多く制限され、なかなか行きたい場所にも行くことのできない時期が長く続く中、動画配信の需要が大きく増加した年でもありました。
そこには制限のある不自由な生活から、日常の風景や音にもう一度疑似体験してみたいという欲求が、VR技術によって叶えてくれるからかもしれません。
サウンドデザイナー菅原宏之氏は、SENNHEISERが誇るVRマイクAMBEO VR MICを駆使して、地元である宮城県仙台市位を中心に、様々な場所で自然音を収録し、坂本龍一氏がラジオパーソナリティーを務める、「radio sakamoto」でその作品が紹介されたりと精力的な活動をしている自然録音家でもあります。
今回は日頃愛用しているAMBEO VR MICの魅力や効果的な使用方法を、菅原氏が実際に収録した自然音を通して語って頂きました。
はじめに by HIROYUKI SUGAWARA
皆さんはホロフォニクスというサウンドをご存知でしょうか?アルゼンチンのウーゴ・スカレーリという技術者が開発したとされる立体音響ですが、そのベールは未だ謎に包まれたままで、技術があまりにも凄すぎるため、アメリカ軍が人体実験の研究に使用しているとかいないとか。
私がその音を初めて聴いたのは、1980年代中頃の、小学4年生だったと記憶していますが、一本のカセットテープ にその音は収録されていました。それまで私は、兄の影響でYMOやスイッチトオンバッハなどのシンセサウンドばかり聴いていましたが、楽器でもなく、もはや音楽ですらないただの紙袋の立体感に強烈な衝撃を覚え、30年以上経った今でも忘れられない音の一つになりました。
その後そのような音を追求するべく、音楽制作の道に進むこととなり、作曲の他に、フィールドレコーディングを行うようになりましたが、子供の頃に聴いた強烈な音の再現はなかなか難しいものがありました。
しかしこのAMBEO VR MICに出会い、すべてが解決したかのような感動を覚えたのです。
今回はこのAMBEO VR MICを使用し、フィールドレコーディング作品とともに使用方法や他の機材との組み合わせなどご紹介したいと思います。
AMBEO VR MICについて
AMBEO VR MICの特徴は、ambisonicsという360度立体的に録音できるシステムで、前後左右だけでなく、上下の音も収録が可能です。
これまで私がフィールドレコーディングをする場合は、Earthworks QTC40を2本使用したステレオ録音や、Neumann U87などの双指向性マイクとSONY ECM-100Uなどの単一指向性マイクを組み合わせたMS録音、またSONY D-100などのハンディーレコーダといったものをメインに使用していました。
ハンディーレコーダーは別として、複数のマイクをセッティングするのは、コストも時間も掛かりますし、今この瞬間を録音したい!という時の瞬発力に欠けます。またAMBEO VR MICと同じセッティングにする場合は最低でも4本のマイクが必要ですが、このマイクはカラオケ用とほぼ同じ大きさで、これ1本で事足ります。
前後左右の音だけでなく、上下の音も録音し、立体的な音像に仕上げるambisonics方式のマイクです。本来はYouTubeなどと連動するのがベストなマイクですが、個人的にステレオで聴いてもとても立体感を感じるので、もはやこのマイクの虜になっています。不満に思うところが一切ありません。
AMBEO VR MIC オフィシャルページ
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その他の使用機材
レコーダー:ZOOM F6
レコーダーはZOOM F6を使用していますが、これを選んだ理由は32bit float録音ができるということが一番の要因です。録音対象に合わせてボリュームを調整せずとも、ほぼ音割れを気にする必要がなくなったので、とっさの大音量なども気にせず瞬時に録音できますし、リミッターなどかける必要も無くなりました。録音物の紹介にもありますが、雷の音は録音も難しいですが、このレコーダーはダイナミクスレンジなどほとんど気にする必要はありません。
価格も6万円台とかなりお手頃で、AMBEO VR MICとの相性も良く、ほぼこの組み合わせで録音しています。録音時にボリュームの調整などは必要なくなったので、今すぐ録音したい!という時にすぐにRECボタンを押せます。同メーカーのF4と比較すると、大きさ重さともに約半分なのも重宝している理由です。
また、外部バッテリーなどもつけられるので電池切れの心配もなく、数十時間の録音も可能となり、ANKER(20100mAh)をマジックテープで固定して使用しました。
ヘッドホン:SONY MDR-1A
とても素直な音がする使いやすいヘッドホンです。(欲を言えば配線がもう少し長いと嬉しいな…と思います)
ウィンドジャマー:RODE Blimp
マイクがSENNHEISER MKH416などと比べると少し重いので、仕方がないかもしれませんが、多少ぐらつきを感じます。
録音物の紹介
・全てambiXモードで録音:88,2kHz:32bit float
・ヘッドホン推奨
今回ご紹介する内容は現在の私の作風でもあり、誰でも気軽に聴くことのできるステレオメイン(4chのambiXで録音した音声を、DAWソフトCUBASEに取り込んで2chのステレオ変換)になっておりますが、立体感は満載です!
1:雷
突然30分程度雷と通り雨があった様子を収録したものです。地面に落ちる雨の位置とワイド感に加え、上部でなっている雷鳴が確認できると思います。
2:渓流と小動物
目の前の森ではウシガエルが鳴いていて、後ろに渓流が流れています。音源はすべてambiXモードで収録しており、ambisonics対応のシーケンスソフトをお持ちの方は、こちらの音源を貼り付けていただければ、6トラックの音源で再生可能で、様々な角度の音が確認できると思います。
3:銀河鉄道と南部風鈴
岩手県奥州市水沢駅構内に毎年6月から8月の間、南部風鈴が飾られています。駅構内のホームでこの音は収録されました。天井に飾られた南部風鈴がそよ風に揺れ、星空のような音を奏でる中、貨物列車が左から右へと通過していきます。臨場感が感じられる音になっていると思います。
あまりにも幻想的な音なので、「銀河鉄道と南部風鈴」というタイトルを付け、こちらは坂本龍一氏がラジオパーソナリティーを務める、「radio sakamoto」でもオンエアされました。
4:猫島
波の音ですが、砂浜ではなく、小石の浜です。波に打ち寄せられた小石がコロコロと転がる音は、ヘッドホンで聴くとまるで脳みそをマッサージされているかのような音に聴こえると思います。また、左右の音はもちろん、波の音は真ん中から上に、小石は真ん中から下の方で聴こえてきませんか?
総評:AMBEO VR MICの効果的な使用方法
360度立体的に録音できるこのAMBEO VR MICの用途としては、ジャイロセンサーが使えるスマホのYouTubeアプリなどで、音と同時に撮影した360度の映像もあって初めて効果を発揮します。
映像を見ながらスマホの向きを変えると、360度全方向の音を映像とともに確認できるという内容で、斬新でとても面白いのですが、そのシステムは私にとって音楽作品を作るというより、動き回れるスペースでの音を多用したアトラクションやYouTubeなどでの映像作品を作る場合に向いていると感じました。
例えばイメージの例を挙げますと、4人で行う麻雀などで麻雀卓の中央に、カメラとこのマイクを設置すれば4人それぞれの視点で映像と音を楽しむことができると思います。後は相撲やプロレスのようなリングを囲んだスポーツや、対戦型のEスポーツなんかでも効果が発揮できると思います。
私の現在の作品はあくまで音のみのもので、最終的にステレオで楽しむ音に仕上げていますので、ジャイロセンサーも必要ありませんし、映像がなくても問題ありません。しかしながらこのマイクが優れているのは、ステレオ仕様にしているからといって、左右だけの音になっているかと言うとそうではなく、ホロフォニクスのように立体的な音が認識できる録音になっているのです。
昨年このマイクにひと耳惚れしてからというもの、このマイクは私にとってのマストアイテムになり、それからはこのマイクと予備のSONY PCM D-100以外はほぼ使用していません。
AMBEO VR MICは、私にとって一生使えるマイクの一つになりました。
今回AMBEO VR MICで収録した立体感のある雨の音や風鈴、カエルの鳴く声や波音に、どこか懐かしさや温かみが感じられました。
我々の生活様式が大きく変わった2020年。動画配信やリモートによるコミュニケーションが飛躍的に増加している今、VR技術というのも再度注目されています。
また自然音でなくてもアイディア次第で様々な使い方ができるのがAMBEO VR MICのメリットです。カプセルを4つ備えたマイクで機動性や可搬性に優れていますので、YouTubeなどの動画配信用に様々な場所に持ち運んで気軽に録音を実現したい方には、ぜひ試してみてはいかがでしょうか。
記事内に掲載されている価格は 2020年10月15日 時点での価格となります。
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