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お疲れ様です!トラックメイカーのミツビシテツロウです。
普段は広告などの楽曲制作をしたり、”カタカナ”、“GEEKS”といったバンドで活動しています。
この連載では、全4回にわたってAbleton Liveの解説をしていきます。
前回はLiveを使った作曲について書きました!
「トラックメイカー ミツビシテツロウのLove Live! 〜努力しないで作曲編〜」
前回の記事はこちら
第3回の今回は、”Liveを使ったライブマニピュレーション”を解説していきます。
1.マニピュレーターってどんな職業?
みなさんはライブを見に行ったことがありますか?
大きいステージでバンドやアイドルが歌って演奏している姿を目にする事はありますが、よくよく音を聴いてみると演奏している人より鳴っている楽器の方が多くなっている気がしませんか?
それは気のせいではなく、実際に電子楽器や打ち込みの音、録音されたサイドギターやコーラスの再生もマニピュレーターが行っています。
アイドルのライブではステージ上に楽器を演奏する人が居ない事も多く、曲を再生するのはPAチームのマニピュレーターだったり、PAが兼任する事もあります。
バンドライブでメンバー以外の音を追加するには、マニピュレーターを入れる必要があります。ドラマーやキーボーディストが兼任する事もあります。
マニピュレーターは現代のライブステージには必須になっているのですが、マニピュレーター入門!のような本やコンテンツも少ないのが現状です。方法論も確立されておらず、各々のマニピュレーターが独自に考えてシステムを組んでいます。
マニピュレーターはどんな職業か、その答えは
”ライブステージ上で鳴らせないが楽曲に必要な音を再生する職業”です。
実際にはコンピューターのスペースキーを押すだけですが、そのスペースキーを押すまでの作業に全てが詰まっています!
外出自粛でライブは中止、そんな時期ですが準備するにはチャンスです。しっかり準備して、いつでも本番が来てもいいようにしましょう!
2.マニピュレーターが実際にする作業
マニピュレーターが行う作業で代表的なものは
・クリックを用意する
・曲の再生を行う
・コミュニケーションを取る
の3つです。完璧にできれば最強のマニピュレーターです。
では1つずつ解説していきましょう!
●クリック(メトロノーム)を用意する。
現代のマニピュレーターは基本的にコンピューターとDAWを使ってマニピュレーションを行います。すでに録音されたり打ち込まれているものを再生するので、そのまま再生するだけだとメンバーは再生された同期に合わせて演奏する事になってしまい、パフォーマンスどころではありませんね!
そこでクリックを使って再生されている楽曲のテンポをメンバーに常時伝え続け再生される音と同期して演奏してもらいます。
何度もこの作業を行っていく内に楽曲を理解します。マニピュレーターの事前準備の中でも重要な作業です。
Liveでクリックをオンにするにはこのボタンを点灯させます。右クリックで音色も変更できます!
●曲の再生を行う
マニピュレーターが現場で行う作業の中でも一番重要な作業です。
リハーサルではメンバーが円滑に進行できるよう、楽曲をすぐに再生できるように。
本番では滞りなくベストなタイミングで全てのトラックが円滑に再生されるように細心の注意を払って再生を行います。
絶対にマニピュレーターは失敗できません。
●コミュニケーションを取る
マニピュレーターのコミュニケーション能力は重要です。
会場のPAエンジニアと音作りの話をし、舞台監督と進行の段取りを話し、メンバーとクリックや楽曲の展開の話をします。突然Aメロが8小節から16小節になってもすぐに対応できるよう常に全体の会話を意識して聞く必要があります。場の雰囲気を読み、楽器隊だけで話をした内容にも耳をすませ、先に終わらせられる事は終わらせます。
それでは実際にライブ本番を迎えるまでに行う事を確認していきましょう!
自分のバンドに同期を入れたい方から、今日からライブマニピュレーターになった人まで自分の立場に置き換えながら読んでみてください!
3.回線図を考えよう!
まずはハードウェアから考えていきましょう。
最小構成はノートパソコン1台とオーディオインターフェース1台です。
アナログ4アウト以上のインターフェースを使えば同期音源とクリックを別に出せます。
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想定されるアウトプット構成
Out1-> 同期音源L
Out2-> 同期音源R
Out3-> クリック
Out4-> 別音色のクリック、ベースなど
しかしこの構成にはいくつか問題があります。
・家で同期音源を作り込んできても会場では思ったような音像になっていない
・PAで同期音源のリズムトラックだけにコンプをかけたくても、リズムトラックもシンセもコーラスも同じアウトプットから出てくるので対処できない
・クリックを1〜2人しか出せない
・本番中コンピューターがフリーズすると対処法がない
これら全てを解決するにはシステムをバージョンアップしていく必要があります。
最初の3つの問題はインターフェースの出力数を増やす事で対応できます。
増えれば増える程コーラス、シンセ、ギター、エフェクト音、ギター、ストリングスなどを別々にPAに送る事ができるので幅広い対応が可能となります。
また会場に入ってから音像が思ったように鳴らなかったのなら出力チャンネルごとにEQをすれば当日のセットリスト全てに反映させる事ができます。
さて一番大変なのは本番中にコンピュータがフリーズしてしまった時の対応です。日々様々なマニピュレーターの方々が色々なシステムを考えて実践しております!
紹介します!僕のシステムはこちらです!
1)メインのMacBookProに接続されているRME DigifaceからサブのMacBookProに接続されているRME UFX+にADATを使って音声を入力します。
メインのMacBookProから出力されている音はサブのMacBookProに接続されているRME Fireface UFX+を通ってPAに出力されます。
2)メインのMacBookProのLiveからは常にサイン波が出力されるようにしています。
これはどのように作っても大丈夫です。僕はMaxForLiveのパッチを使って再生状態に関わらず常にサイン波が出力されるプラグインを使っています。
Live付属のAnalogを使って音を出力させ続けても大丈夫です。
3)サブのMacBookProのLiveからは音が出ないように全ての出力にGateをかけています。
Live付属のGateプラグインにはサイドチェイン機能が付いており、キーとなる信号が入力され続ける限り音が出力されない設定にする事ができます。
メインのMacBookProがフリーズし音が止まってしまった場合にゲートが開きサブのMacBookProから音が出力されるようになっています。
4)サブのMacBookProに音声出力が切り替わったら急いでメインを再起動してMC中などにメインに切り替えます。
5)2つのマシンの同期はKORG NanoKontrol2を使っており、iConnectivity MIDI4で分割しています。
KORG Nanokontrol2の再生ボタンを押すとメイン、サブどちらのMacBookProも再生が始まります。
このように多出力のオーディオインターフェースを使いつつ、サブのコンピューターも用意する事によって柔軟かつ本番を安全に迎える事ができます!
もちろん予算の幅という前提はありますが、可能な限り安心かつ出力数の多いシステムが組めるように考えてみましょう!
(ちなみに小さめのライブハウスなどで12回線持ち込むとすごい顔をされますので、事前に会場が受けられる回線数は確認しておくべきです。DIが足りなかったり、ミキサーのチャンネルが空いてない事もあります)
4.Liveでライブ同期を作ろう!
やっとLiveの話です!!!すみません!!
コミュニケーションをとる覚悟とクリック、マニピュレートする機材が全て揃いました。
データもなんとか揃ったのでリハーサルが始まる前の日には全てのトラックをLiveに入れておきましょう。
こちらは僕が自分のバンドで実際にライブで使っているLiveの画面です。
見辛くてすみません!
一番上にはクリックトラックがあり、クリップにテンポを書き込んでいます。
動作に影響はありませんが、もし操作を間違えてテンポのオートメーションを全部消してしまっても復旧できるように書き込んでいます。
その下にあるVoice countは楽曲の構成上煩雑な部分に1,2,3,4と人の声が鳴るようになっており、曲の入りや落ちサビ開けなどがわかりやすいようにしています。
構成のトラックにはその名の通り構成が書き込んであります。自分のバンドでも構成を間違える事ってありますよね。ライブ中に「次なんだっけ!?」とド忘れしても大丈夫です。ここを見れば全て書いてあります。
2mixのトラックには原曲の2Mixが入っています。上述した構成を書き込む時にも使えますし、リハーサル中に原曲を再生して全員で確認する時にも便利です。
その下にあるタイワ式は曲名です。その曲ごとにグループを組んでおけば、すぐにその曲にアクセスできます。
構成はマーカーで打ってもOKですが、僕はライブ中に目につきやすい色を使えるMIDIトラックで作っています。本当に覚えられない場合には構成ごとに色分けしたりもしています。
マーカーは曲の先頭にだけつけています。
こうすることにより、曲の頭出しがとてもスムーズです。
1つ前の曲が終わってからスペースキーを押して次の曲に行くためにもう一度スペースキーを押すよりも、再生し続けたまま次のマーカーに飛んだ方が早いですし、フロアの拍手終わりの間もつかみやすいです。
僕は次のマーカーに飛ぶのをNanoKontorol2にアサインして、ボタン1つで飛べるようにしています。
このセクションです。
曲ごとに纏めているグループを開くとこのようになっています。
FXや、RtyhemなどはまとめてコンプレッサーやEQをする事も多いので更にグループに纏めています。
グループの中にグループが作れるようになったのはLive10から。本当に待ち望んだ機能でした。
このようにパラデータの機能(シンセやFX、Ryhtem等)ごとにトラックを整理し、何を言われてもすぐにアクセスできるようにしておきます。
エフェクトを掛ける際にも便利です。
この曲ごとのグループをセットリスト通りに並べるとこのようになります!
これはおおよそ40~50分くらいのライブの同期データですが、2時間ステージになると
このような途方もない感じになりますが、おおよそやることは同じです。
さて、これでパラデータと曲の整理も終わりました。
あとは出力チャンネルを設定しましょう!
グループをマスターにアサインしてもいいのですが、出力数に余裕があれば楽器ごとに別で出力したいですよね。
なので僕はReturnトラックをインターフェースの出力数分作って整理しています。
もちろん各曲のリズムセクションを7/8のステレオ出力に、シンセを1/2に、と1つずつ設定してもいいのですが手間もかかりますし、全体でシンセを2db落とす。コーラストラックを1db上げる。などの作業が一瞬で終わります。Returnトラックのボリュームを上げ下げするだけです。もちろんリターントラックにEQやコンプレッサーを掛けることもできますのでとても便利です。おすすめです。
このReturnトラックに間違えないようにSENDを設定していきます。
この場合声物は全てReturnトラック Cにアサインしているので全てCに送っていきます。
出力はSends Onlyにして、余計な所から音が出ないようにします。
E MonitorトラックはReturnトラックを全て送っており、インターフェースのヘッドフォンアウトから音が聴けるようにしています。
リハーサル中や本番中にさっと音が確認できて便利です。
クリックトラックは別の出力にアサインしておきましょう。外に絶対に出さないトラックなので直接出力を指定しても大丈夫です。
ここまで終わったら、もう一回すべてをチェックしましょう。
リハーサルで使う機材全ての電源は正しく入るか、クリックの音色は選べるようになっているか、ケーブルは足りるか、出力の設定は間違ってないかを確認したら曲を覚えるまで聞き込みます。
ドラムトラック、ベーストラックがある場合はミュートしておきましょう。実際に演奏する場合がほとんどですが、消してはいけません。いつ必要になるかわかりません。ドラムだけ聴かせてほしいと言われるかもしれません。
ギターが複数トラックあったらギターソロや楽曲構成上ギターのみになる部分はミュートしておきましょう。こちらも実際に弾く場合がほとんどです。
どのギタートラックを鳴らすか想像がつかなかったらメモしておいて、リハーサル前に確認しましょう。マニピュレーターにはコミュニケーション力が大切です。
あとはひたすら再生を行います。曲の途中で無理やり次の曲を再生したり、考えられる限りの動作が不安定になるような操作をしましょう。
一度でもLiveが落ちるような事があればバッファサイズを上げ、フリーズできる部分はフリーズしましょう。
必要のない出力チャンネルがONになっているのならOFFにしましょう。クリックトラックを持って行く音色の数だけオーディオに書き出しましょう。
可能な限り動作を軽くする努力が必要です。絶対に落ちない安心感はこのタイミングでのみ作られます!
ここまでがマニピュレーターの行う準備です!本当はもっとありますが、基本的にな部分のみ紹介しました!
後編にあたる次回はリハーサル、本番編とAbletonLiveならではのマニピュレーターTipsをご紹介します!
お楽しみに!してください!
Writer. ミツビシテツロウ
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