【1】私と劇伴(ゲキバン)
皆様、初めまして!この度、当コラムにて劇伴に関するアレコレを書かせて頂く事になりました、井内です。
連載開始にあたり、コラムのタイトルを考えて下さいと言われて散々悩んだ結果がこのタイトル。
いやはや、漢字5文字並べることが是程難しいとは。作曲よりも苦労した割にはIQ低め感が否めないですけれども。
さてさて、劇伴のお話です。そもそも劇伴、劇伴と言いますが、正式には「劇中伴奏音楽」の略語です。
稀に「ゲキハン」と発音される方にお会いする事がありますが、正しくは「ゲキバン」です。
仕事柄、映画やCM、ゲーム、アニメ等の音楽を依頼されることが多い訳ですが、似ている様で実は全く違う音楽の演出が要求されます。
当コラムでは基本的に、これらの映像音楽演出にスポットを当てていこうと考えています。
第1回目となる今回は、映画、TVアニメ(TVドラマ)、ゲームに絞ってそれぞれの演出の違いに関してお話してみます。
どれも脚本、美術、音楽で構成される作品に違いはないのですが、いざ音楽を書いてみると別物なんですね。
それぞれの特徴を分析がてら書き出してみましょう。
まず映画は、120分前後でストーリーは基本的に一本道。また視聴も大抵通して観ることが多いですよね。
音楽も汎用性を持たさず、その場その場に合った楽曲を使うことになるので、作曲を開始する際には予め完成に近い映像を頂くケースが多いです。
演者さんの演技はどのような感情曲線を描いているのか、美術さんはどんなロケーションを表現しているのか、カメラのパンスピード
などと様々な要素を汲み取って音楽による演出をしていく訳です。一般的にフィルムスコアリングと言われるものですね。
オーケストラの収録風景。中央で指揮を執る井内氏。
次にTVアニメですが、基本的には前半15分、後半15分の計30分、1クールアニメだと平均12話で構成される事が多いです。
(尺は違えどTVドラマも同じ構成ですよね。)
音楽の特徴としては何と言っても放映前に楽曲を納品し、放映前にはそれらの楽曲を後編集で演出にあてること。
つまりフィルムスコアリングのように、ある特定のシーン(Que)に合わせて音楽を書き過ぎると汎用性が失われ、当該場面以外での用途に欠けてしまう
ことになります。
強引な転調や無闇な楽器ソロなどはこの編集の妨げになることも多く、かと言って、それらの音楽的要素を削っていくと音楽としての面白味も失うことになり、非常に悩ましい事態となるわけです。これらの問題を解決すべく、音楽の書き方やデータの納品方法など細かなTipsもありますが、
これは長くなるので又の機会に。
余談ですが、アメリカのドラマやアニメは毎回新規楽曲を書き下ろしているそうで(もちろん全作品ではありませんが)、
この辺りも今後お話出来たら、と考えています。
最後にゲームのお話です。上記2例と違ってまだ歴史も浅いですが、その反面制作スタッフも若い方が多く、また技術やハード等の影響をダイレクトに受ける為、現在も尚演出論がどんどん変化しているジャンルです。
かつてのゲーム音楽は同時発音数も少なく、またAからBまでを延々ループするような音楽が主流だったこともあり、音楽による演出、というよりは
BGMと総称される事が多かったように思います。
また、映画やアニメ、ドラマと違って最大の特徴はプレイヤーの操作に依存する部分が多く、近年はよりインタラクティヴな音楽の演出が要求されるようになったように思えます。
井内氏を講師に迎え、先日Rock oNで開催されたViennaセミナーの風景。
このように、先ずは大きく3分割してそれぞれの演出をざっくりと見てきましたが、僕自身、フレームを自ら設定してモノを書くのが好きではないので、
結局は音楽を通して物語をより豊かに演出できれば良いと考えています。合えば勝ち、合わなければ負け、それだけですものね。
今後はクライアントさんの許可が頂ける限り、現場のルポなども交えて色々と皆様にお伝えできたら良いなと考えています。
それではまた来週!
井内 啓二 プロフィール
桐朋学園大学にてピアノを学ぶ傍ら、在学中よりヴァイオリニスト中西俊博氏の元で劇伴のいろはを学ぶ。その後は映画、アニメ、ゲーム、CMといった、数々の映像作品に携わり、楽曲を提供中。
■ 近年の代表作
映画
園子温監督作品「地獄でなぜ悪い」
アニメ
「アウトブレイク・カンパニー」
「BTOOOM!」
「史上最強の弟子ケンイチ」
ゲーム
「PS VITA OS&内蔵アプリ音楽」
「グランツーリスモ5&6」他