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ユーザーの音楽リスニング環境は、かつて主流だったCD音源(16bit/44.1kHz PCM)はとうに過ぎ去り、こ存じの通り現在では、ストリーミングサービスやYouTubeといったソースが、主にスマホのイヤフォン、パソコンスピーカー、Bluetoothスピーカーで聞かれ、低価格、かつ多様化が進み、音楽を作る側から見たリファレンスのあり方が、なかなか掴みにくい状況になっているのではないでしょうか?「どんな再生環境でも可能な限り同じように聞こえる音作り。」こういった命題が、ミックスダウンに以前より増して求められる状況になっているような気がします。
Rock oNでは、ミッスダウンセミナー講師としてもお世話になっているサウンドエンジニアの杉山勇司さんが、上記のように多様化するユーザー環境を想定したモニターシステム作りに、ハイエンドオーディオ製品で知られる英国 Chord Electronicsの製品を活用されているとお聞きし、リモートでインタビューさせていただきました。
CHORD製品との出会い
Rock oN:杉山さんは、従来からCHORD Hugoをお使いということで、CHORD製品の音質にどんな印象を持っていらっしゃいますか?
杉山勇司 氏:以前からオーディオショップに足を運ぶのが好きで、何かにつけて、見たことない製品や、かっこいいと思う製品の音をお店で試聴させてもらっていました。もちろんCHORD社の製品が出た時も注目していて、「さすが、値段が高い製品はそれに見合ったいい音がするんだな」と感じてました。すごく忠実な音だし、「こうすればいい音がするでしょ」みたいな作為的な作りを前面に押し出さない感じがすごく好きでした。最初からいいイメージを持ってたブランドですね。それで、Hugoを使うようになったんですが、抱いてた通りのいい音で、現在も愛用しています。昨今では、こういったポータブルなDAコンバータがハイエンドオーディオのマーケットに出てくるようになりましたが、エンジニアという仕事柄、これまでに色んなタイプのDAコンバータに接する機会があった中でも、CHORD社の登場はインパクトがありました。
Rock oN:DAコンバータは、なかなか分かりにくい分野ではありますよね?
杉山勇司 氏:確かに。実際に使って、他の製品の音と比較しないと、その良さや個性が掴みにくい製品ではありますね。もちろん御茶ノ水などのオーディオショップに行って店員さんに丁寧に試聴を頼めば色々聞かせてくれると思うんだけど、なかなかね……。不慣れだと、少しハードルが高い(笑)。
Rock oN:Hugoに続いて登場したHugo2が現行モデルですけど、こちらも使われているとのことですが、違いはありましたか?
杉山勇司 氏:Hugoもかなりいい音だと思っていたんですが、Hugo2になってさらに良くなりましたよ。比較試聴するとすぐわかるんだけど、さらにクリアになり、「こんなにも音の鮮度が変わるんだ」というのが最初聞いた時の印象です。Hugo2は、当初、ライブ収録などの現場へ持ち出し、小さいモニターで聞くためのDAコンバータとして使っていました。コロナの状況になってライブの機会が少なくなり、Hugo2を使うことが減ったんですが、ある日、「Hugo2が遊んでるよな」と思って、試しに自宅スタジオに設置していた初代Hugoと切り替えて使ってみたんです。すると「使わないのは、もったいない。」と思うくらいのクオリティがあって、スタジオに常設して使うようにしたんです。あと、専用リモコンで操作できる便利さも加わりました。
ミキシング環境におけるHugo2の役割は?
Rock oN:このインタビューに先立って、杉山さんがProToolsを中心としたミキシング作業において、Hugo/Hugo2をどういう形でお使いなのか、スタジオの機器構成図を書いてもらいました(構成図参照)。一般のオーディオファンと違って、サウンドエンジニアならではの使い方をされているという感じですよね? この構成で肝になる部分について、色々、お伺いできればと思います。
杉山勇司 氏:この構成図の中心となるのはAVID ProTools | MTRXですが、MTRXのアナログ入出力は外部アウトボードやエフェクターへの接続に、優先して使いたいという前提があります。もちろん、都度、切り替えることも可能ですが、作業効率を考えたらそれは避けたい。それで、MTRXにDante モジュールを挿し、Audionate Dante AVID AES3/EBUを経由させ、Hugo2の3.5mm Coaxial InputにProToolsの音を送っています。これで、MTRXのDAアウトのポートを犠牲にすることなく、Hugo2をサブモニターのDAとして組み込むことができています。クロックのマスターはMTRXになり、Hugo2はスレーブとして動作することになります。
Rock oN:ProToolsのメインモニターとしてYAMAHA MSP5 STUDIOをお使いですが、それに加えて、サブモニターとしてYAMAHA NX-A01をお使いですね。サブモニター系でも、ProToolsの音を可能な限り高音質で再生するためにHugo2を活用されているというわけですね?
杉山勇司 氏:そうです。ヘッドフォン(YAMAHA HPH-MT8)はHugo2に繋げていますが、やはり音がいいのが最大の利点ですが、Hugo2には6.35mmのヘッドフォンジャックもついているので、変換ジャックを使って3.5mmに変換することなく、大方のモニターヘッドフォンを挿せます。Hugo2のヘッドフォンアウトはS/Nも素晴らしく、例えば、MacBookProのヘッドフォンアウトにヘッドフォンを挿して聞こえていた機器ノイズがHugo2だと大幅に減少します。
Rock oN:DANTE経由でHugo2に送っているということは、イーサケーブルを使用しているということですね?
杉山勇司 氏:はい、ちょうど自宅のネットワーク環境を整備し、10GbEネットワークにしたこともあり、改めてシステム構成を考えていたタイミングでもあったんですが、イーサケーブルの取り扱いやすさの利点も大きいです。
エンジニア目線で見たHugo2のアドバンテージは?
Rock oN:杉山さんがHugo/Hugo2を組み込みシステム構築を行い、サウンドエンジニア/音楽クリエーターという目線で得られた利益はどんなことがありましたか?
杉山勇司 氏:ミックスをするにあたり、「コンシューマと同じリスニング状況で確認する」という作業がありますが、それはなかなか難しいことなんです。そもそも「コンシューマのどの部分に合わせるのか?」という疑問があります。例えば、MacBookProのスピーカーで聞くことを想定した場合でも、じゃあ、「MacBookProはどの位置に?」、「蓋の開き方はどの位置で?」といった色んなことを気にしなきゃいけない。一概にコンシューマという言葉は難しいんだけど、僕の場合は、MacOS Xのクイックルックでオーディオファイルを聞く機会が多いので、その状態を、僕個人として「コンシューマ環境」と位置づけてみました。その前提を一旦決め、MacBookProからYAMAHA NX-A01へと繋ぐために、最初はMacBookProのヘッドフォンアウトから3.5mmのアナログケーブルを長く伸ばして接続してみたんですが、当然、音質が劣化するわけで、さらにノイズも気になってくる。また、ボリューム操作に関してですが、MacBookProでは最大音量を出した上で、ボリュームコントロールする箇所をMacBookPro内にしない状態で聞きたいと思ったんです。そう考えると、MacBookPro~NX-A01の接続は、デジタル化するのが一番いいと思いました。そこで、Hugo2が一番の解決策になったんです。MacBookProの音をいかに劣化させることなく、かつ、手元でボリュームコントロールして聞けることになり、僕にとって、ものすごく役に立っている製品です。Hugo2のボリュームコントロールは本体上の球体部分で行うんですが、ミックスではモニターするボリュームを一定に揃えることが重要なので、僕の場合はこの球体が黄緑色のところに決めています。
Rock oN:なるほど……例えば10年前では、今みたいにコンシューマのリスニング環境が、スマホやパソコン、さらにはサブスクサービスやYouTubeなど多様化していなかったので、「コンシューマのどの部分に合わせるのか?」といった問題はここまでシビアな捉え方をされてなかったと思いますが……
杉山勇司 氏:そうですね。とはいえ、CDプレイヤーやラジカセといった機材の選択など当時から頭を悩ませていたとも言えるので、常々考えておく必要があることだと思っています。
Rock oN:今、杉山さんがミックスされる上で、このシステムでNX-A01を鳴らして確認した結果をフィードバックさせて、元のProTools上のバランスを修正/調整することは頻繁にあるんですか?
杉山勇司 氏:ミキシングの場面でもこういった比較はもちろん重要ではありますが、特に今年配信開始したNav Katzeのリマスタリングにおいてとても重宝しました。コンシューマのリスニング環境における元の音源との比較や他の音源との比較がとてもやりやすかったです。
2go、2yu導入で完成されたモニターシステム
Rock oN:この構成図を見ると、2goと2yuもお使いなんですね?
杉山勇司 氏:まずは2goをHugo2と接続して使っていました。2goは、Wi-Fiとイーサネットに対応したストリーマー/プレーヤーで、さらに合計最大4TBのストレージ容量があり、Hugo2に接続してデジタルミュージックサーバーとして使うことができるんですが、さっき言ったように、自宅のネットワーク環境を整備した時に、ネットワークプレイヤーとして使ってみたら、やっぱり音が良かったんです。さらにその後、2yuが発売になったんですが、2yuは2goに接続することで、TOSLINK(光デジタルS/PDIF)、同軸及びBNC(共に75Ω)デジタル出力、USB-A出力を追加することができるんですが、 ぱっと見、「こんな製品を単体で出して誰が使うんだ?」 と思うかもしれませんが(笑)、「僕が使ってます!」と言うくらい、かなり便利になったんです。Hugo2に接続していた2goを切り離し、現在の構成のようにHugo2をMacBookProにつなげ、かつ、2yuは2goと組み合わせたわけですが、2yuのTOSLINK出力をHugo2に入れました。そうすることで、MTRXからHugo2の3.5mm Coaxial Inputに入力されたProToolsの音と、2yuからHugo2のOptical Inputに入力されるオーディオファイルの音を、リモコンで切り替えながら聞くことができる環境を構築することができたんです。Hugo2の音の良さを最大限生かしたモニター環境システムになっていると思います。さらに、 JBLプレイリスト150に2yu~(初代)Hugo経由で接続しています。プレイリスト150はNX-A01に比べて少し離れた場所に置き、シビアすぎないイメージで聞きたい場合を想定しています。
Rock oN:なるほど、2yuが加わったことで、ProToolsの音と、Wi-Fi経由のストリーミングサービスの音、さらにはMacBookPro上で再生するYouTubeの音も、音質を最大限に担保した環境で、手元のリモコンで切り替えながら聞ける環境ができたということですね。
杉山勇司 氏:はい、CHORD製品の組み合わせでこのシステム組めたのはとてもプラスだと思っています。
Rock oN:同じ様なことを考えてるサウンドエンジニアや音楽クリエーターがこの記事を見て、「ああ、俺もやってみよう」ってなればいいですよね。Hugo2に3.5mmのアナログアウトがついてるわけですが、このポートがプロ機器と民生機器を繋ぐ重要な役割を担っているとも言えますよね。プロ機器には、3.5mmアウトはなかなかついていないですし。
杉山勇司 氏:これはヘッドフォンアウトなんだけど、DA単体機ならではの音質は素晴らしいです。サウンドエンジニアのような音の作り手側の方が、こういったハイエンドポータブルDACを使うことによって、リスナー側で流行っている「ポータブルハイレゾオーディオ」の世界がどんなものなのかを実感できるわけです。あと、最近ではADを必要としないクリエイターも増えてきているので、2chステレオのDAだけに特化してクオリティを上げたいと考える人たちにぴったりではないでしょうか。そういう意味では、コストパフォーマンスもそんなに悪くないんじゃないか、と思っています。
記事内に掲載されている価格は 2021年11月19日 時点での価格となります。
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