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Dolby Atmosのモニタリングシステムを構築するために、Neumann KHシリーズのスピーカーを導入するメーカーについてこれまでいくつかご紹介してきました。その中でもゲームサウンドに携わっている方は導入に積極的な印象がありますが、今回は長年ゲームサウンド専門の制作会社として多くの制作に携わってきたノイジークロークさんのスタジオをお邪魔しました。
今年2024年9月に新スタジオに移設した際、Neumann KHシリーズを用いてDolby Atmosの7.1.4chのシステムを組んだということで、CEOで作曲家の坂本英城氏とレコーディング・ミキシングエンジニアの込山拓哉氏に、導入したきっかけやサウンドの感想を伺ってきました。取材にはDolby Atmos導入を推進しているRock oNスタッフ・バウンス清水も同行しました。
今年から新設スタジオに移転!
Rock oN : このスタジオは最近稼働を開始されたんですよね?
ノイジークローク 坂本英城 氏(以下、坂本氏) : そうです、ちょうど今年の9月2日にオープンしたばかりです。
ノイジークローク 込山拓哉 氏(以下、込山氏) : 普段こちらのスタジオではミックスやマスタリングのほかMA作業、あと収録用のブースも隣接しているので、ゲームのボイス収録や生楽器の収録も行っています。
Rock oN : スタジオでのモニタースピーカーは何をお使いですか?
込山 氏 : ステレオでのモニター作業ではNS-10M(YAMAHA)を使っています。NS-10Mについては私が以前、音響ハウスでエンジニアをやっていまして、そこで長年使っていたので耳が慣れているというのが使っている理由ですね。こういう音が鳴っていたら最後の仕上がりはこうなるという出来上がりまで見えて使いやすいというところが大きいです。
坂本 氏 : ちなみにこのNS-10Mは私の私物になります(笑)。
Rock oN : iLoud MTM(IK Multimedia)も設置されていますがこちらは、どういった目的で使われていますか?
込山 氏 : iLoud MTMはニアフィールド・モニターとして、ミックスをゲームの一般ユーザーに近い音の仕上がりをチェックするために使っています。
坂本氏:こちらのスタジオとは別に一般的なゲームユーザーに近い環境で試聴できるスタジオもあります。Danteで繋がっているので、そちらの部屋で試聴して気になるところがあったらまたスタジオに音源を戻して修正作業するということもあります。
Rock oN : スタジオにはNeumannのオーディオインターフェイスMT 48も設置されてますけど、これはどのような用途で使われてるんですか?
込山 氏 : MT 48はDolby Atmosのシステムとは別に2mixのヘッドホンアウトの端子として使わせて頂いてます。とにかく音が良くて気に入ってます。今後こちらのスタジオを外に貸すということになると持ってきたMacをMT 48に接続してDanteで送信するというやり方もできるかなと思っています。
購入したきっかけはDanteで再生できるオーディオインターフェイスを探していた時に、Rock oNさんに相談したら「MT 48ありますよ!」というアドバイスを受けたので。ヘッドホンで最終チェックをすることが多いので、信頼できるヘッドホンアウトがある製品を探していたんです。試聴したらとてもクリアーな音だったので、選んで正解でしたね。ゆくゆくはDolby Atmosのシステムにも組み込んでいけたらさらに便利に使えるかなとも思います。
Dolby Atmosシステムに、KHシリーズを導入した経緯
Rock oN : Neumann KHシリーズについて、興味を持った経緯を教えて頂ければと思います。
込山 氏 : KHシリーズを知ったのは2年くらい前にそれこそ音響ハウスでKH 310を聴かせてもらったのが初めてです。そこで使ってみて音も録音したのを聴いてみたら解像度も高くていい感じの圧を感じさせる印象でした。ただお値段を調べてみたら・・・って(笑)。
それからノイジークロークで新しくスタジオを作ることになってDolby Atmosシステムを組みたいってなってからRock oNさんに行って、KH 80 DSPを聴かせてもらったんです。そしたらとにかく定位がわかりやすくて。Dolby Atmosを導入するにあたってはとにかく定位がわかりやすいスピーカーがいいなって思っていたんです。
Rock oN : そうした経緯があって導入したDolby Atmosのシステムですが、設置したスピーカーは場所によってそれぞれ機種が違いますよね。
込山 氏 : そうですね、正面にKH 150が3本、上にKH 80 DSPが4本、サイドとリアにはKH120 Ⅱを4本置いてあります。
込山 氏 : アコースティックエンジニアリングさんにスタジオの施工もご相談したのですが、設置に際しては天井に窪みを作ってもらえるという話だったのでその大きさならKH 80 DSPが良いだろうということで決めました。この部屋の天井がちょっと低めなので、これでKH120 Ⅱがあるとちょっと圧迫感があるかなと思って。
坂本氏 : 個人的にNeumannのスピーカーはデザインが好きですね。このスタジオってわざと落ち着いた配色にしてるんです。それはここに来られる演奏家や声優さんをスターにしたいっていう考え方があって、着ている服や髪型が映えるように少し抑え目にしようと考えていたんです。それにぴったりKHシリーズのスピーカーのデザインがハマった感じで好きですね。
MA 1によるDSP補正、サブウーファーKH 750 DSPの印象
Rock oN : MA 1によるDSPモニター補正機能はご使用になりましたか?
込山 氏 : 使いました、最高でしたね!補正で部屋の特性を補正してくれるので全然変わりました。それまでもDSPの補正はやったことはありましたが、他のと比べても遜色ないかなと感じました。
このDolby Atmosのシステムを組むにあたって本当はスピーカーをもう少しリスニングポイントから円型になるように組みたかったんですが、お客さんが来た時にそれをよけながら出入りするというのはあまりよろしくないだろうということで、外側に配置しました。それもMA 1のおかげで助かりました。
坂本 氏 : 私も違いを聴かせてもらいましたが、こんなに違うのかと驚きました。帯域の問題の解消だったり音の輪郭や解像度がくっきりして全てのスピーカーから音がはっきり聴こえる印象でした。
込山 氏 : Dolby Atmosシステムのようにスピーカーが多くなるほどMA 1は必須かなと思いましたね。
坂本 氏 : 補正を行うアルゴリズムのアウトプットがシチュエーションによって差異が出ないというのも大きなポイントかなと思います。どういう環境でもNeumannが認めた音場設定になるというのは安心して作業できますね。
Rock oN バウンス清水 : こちらのシステムに色々と違うKHシリーズの機種が組まれていますが、それぞれの音の違いなどは気になりませんでしたか?
込山 氏 : 補正する前は音量の違いを若干感じましたが、MA 1を使ったら全く感じなくなりました。
Rock oN : サブウーファーもKH 750 DSPを導入されてますが、こちらの印象はいかがでしょうか?
込山 氏 : 最高ですね。迫力も思ったより十分出てましたし映画とかシネマティック系をやるならもう一本欲しいかなと感じましたがゲームで使う分には全く問題ないかなと。
今後のDolby Atmosシステムの可能性
Rock oN バウンス清水 : Dolby Atmosのシステムを組んでみてミックスでここが変わったというのはありましたか?
込山 氏 : ジャンルでいうと環境音などは2ミックスの時と全然臨場感が違いますね。本当にミックスしていて楽しいんですけど時間はどんどん溶けるという感じで(笑)
坂本 氏 : スタジオの中にDolby Atmosのシステムがあるというのが非常に価値があるかなと思うんですよ。 Dolby Atmosの世界はまだ専門的な方法論が確立している訳ではないので、スタッフがフラッと来て試してみたりできることが重要であると。スキルを身につける意味でもまずシステムを組んでしまおうという思いが最初にありました。
Rock oN : ゲームではDolby Atmos対応のタイトルは多く出ているのでしょうか?
込山 氏 : ゲームではまだそこまでという感じですね。Wwiseというゲーム制作の際に使用されるサウンドミドルウェアがDolby Atmosに本格的に対応するようになってきているので、そこからタイトルが加速度的に増えていくかなと思います。
Rock oN バウンス清水 : Wwiseが対応するってなったら、ゲームの音楽がより豊かになるってことですよね?
込山 氏 : より豊かにBGMなんかの音楽周りはおそらく劇的に変わるでしょうね。
坂本 氏 : あとは最近のゲームメーカーさんも比較的Dolby Atmosのスタジオを完備し始めてゲームに実装しているので、そこでまかないきれないものは弊社にも需要が発生するかな…とは考えています。Dolby Atmosはサウンドバーなどでも体感できるので普及のスピードは今までのどのドルビーのシステムより速いと思うんですよね。アメリカではゲームをプレイする時にTVの下にサウンドバーを置いて遊ばれる方も多いようです。Dolby Atmosがどれだけシェアがあるのかっていうのは常にアンテナを立てて、それに合わせて音を作っていくようにしたいですね。
Rock oN : 今度Dolby Atmosでどんな作品を手掛けてみたいですか?
込山 氏 : まずはいろんな楽曲のミックスに挑戦してみたいというのはありますが、効果音などで面白いことができるんじゃないかと思っているので、そういったことも試してみたいですね。Dolby Atmosでのミックスを色々試したあとステレオ作品をミックスすると、作り方が変わったんですよね。立体的に音を作ろうという感じになって、その発見はちょっと驚きました。
坂本 氏 : いまはまだステレオミックスが主流で、Dolby Atmosのようなイマーシブの需要はこれからだと思います。こういった新しい仕組みが普及するのって何が起爆剤になって増えていくかはわからないですが、僕らはまずスタジオを作って研究しながら制作をしていて、その結果として業界を牽引していく存在になれるように努力したいと思っています。
Rock oN : 最後に、今回導入したNeumann KHシリーズをどんなユーザーにおすすめしたいですか?
込山 氏 : 素直な音が出るので作曲家、エンジニア、ディレクターさんと色々なユーザーにおすすめできますね。ジャンル的にも苦手だなと感じる分野はないですし、歌やボイスも全然確認しやすいです。
実際にスタジオでノイジークロークさんのスタジオエントランス用に自然音をDolby Atmosミックスした音源を聴かせて頂きました。ステレオでレコーディングした素材を駆使してミックスを手掛けたそうですがスピーカーの機種の違いなどは一切わからないくらい、現実の自然音と遜色ない臨場感溢れるものでした。
Dolby Atmosに可能性を感じ、積極的に導入していくことで、ゲーム業界を牽引していきたいという熱い意気込みを感じました。今後のノイジークロークさんの作品にどういう影響を与えていくか、その動向と共に注目していきたいです。
Writer.サチュレート宮崎
撮影:八島 崇
メーカーHP
NEUMANN
https://www.neumann.com/ja-jp/products/monitors/kh-80-dsp-a-g/
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記事内に掲載されている価格は 2024年11月21日 時点での価格となります。
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